経済学・経済政策
最優先予算制約と消費者行動
予算制約線、所得効果、代替効果、価格変化を最厚で扱う。
この章で覚えておきたいこと
- 予算制約線は、所得と価格のもとで購入できる2財の組合せを表します。
- 基本式は です。横軸切片は 、縦軸切片は 、傾きは です。
- 所得だけが変わると予算制約線は平行移動し、一方の財の価格だけが変わると、その財の切片を中心に回転します。
- 最適消費点は、予算内で到達できる最も高い無差別曲線上の点です。通常は予算制約線と無差別曲線の接点で、限界代替率と価格比が一致します。
- 価格変化による需要量の変化は、代替効果と所得効果に分けて読みます。
- 所得が増えたときに需要が増える財は上級財、減る財は下級財です。必需財・奢侈財は、所得が増えたときの増え方の強さで区別します。
- ギッフェン財は、下級財のうち、負の所得効果が代替効果を上回る特殊な財です。
- 労働供給では、横軸の余暇と労働時間を逆向きに読みます。
- 現在消費と将来消費の問題では、利子率の変化が予算制約線の傾きを変えることを押さえます。
基本知識
予算制約線の式と切片
消費者がX財とY財を購入し、所得をすべて使うとき、予算制約線は次の式で表されます。
はX財価格、 はY財価格、 は所得です。横軸にX財、縦軸にY財を置くと、横軸切片は 、縦軸切片は になります。傾きは です。
予算制約線上の点は、所得をちょうど使い切る組合せです。線の内側の点は購入可能ですが、所得を使い残しています。線の外側の点は、現在の所得と価格では購入できません。試験では、まず「どの切片が動いたか」「傾きが変わったか」を確認します。
所得変化は平行移動、価格変化は回転
価格が変わらず所得だけが増えると、横軸切片と縦軸切片はどちらも大きくなります。このため、予算制約線は傾きを変えずに外側へ平行移動します。所得が減ると、内側へ平行移動します。
一方、X財価格だけが下がると、同じ所得で購入できるX財の最大量が増えるため、横軸切片だけが外側へ動きます。Y財価格と所得は変わらないので、縦軸切片は変わりません。X財価格が上がると、横軸切片は内側へ動きます。Y財価格だけが変わる場合は、縦軸切片だけが動きます。
したがって、平行移動なら所得変化、回転なら相対価格の変化です。図形問題で迷ったら、最初にこの区別を置きます。
最適消費点と接点条件
最適消費点は、予算制約の範囲内で効用が最大になる消費の組合せです。標準的な無差別曲線では、予算制約線と無差別曲線が接する点が最適消費点になります。
接点では、無差別曲線の傾きである限界代替率と、予算制約線の傾きである価格比が一致します。式で書くと、絶対値で見て次の関係です。
ただし、一次試験では式の導出よりも、図から「予算内で最も高い無差別曲線に届く点」を選べることが重要です。たとえば のような標準的な効用関数では、接点条件と予算制約式を組み合わせて最適消費量を計算します。
代替効果と所得効果
価格変化によって需要量が変わるとき、その変化は代替効果と所得効果に分けられます。
代替効果は、相対価格が変わったために、相対的に安くなった財へ消費を振り替える効果です。X財価格が下がった場合、代替効果はX財の消費を増やし、Y財の消費を減らす方向に働きます。
所得効果は、価格変化によって実質的な購買力が変わったために消費量が変わる効果です。X財価格が下がると、同じ所得でもより多く買えるため、実質所得が増えたのと同じ状態になります。このときX財が上級財なら所得効果もX財消費を増やし、下級財ならX財消費を減らす方向に働きます。
図では、元の最適点から補償予算線上の点までの移動が代替効果、補償予算線上の点から新しい最適点までの移動が所得効果です。補償予算線は、新しい価格比の傾きを持ち、元の効用水準に接する仮想的な予算線です。
上級財・下級財・ギッフェン財
所得が増えたときに需要が増える財を上級財、所得が増えたときに需要が減る財を下級財といいます。これは、価格変化ではなく所得変化に対する反応で判定します。
ギッフェン財は、下級財の特殊な場合です。価格が下がると、通常は代替効果によってその財の需要は増えます。しかし、その財が強い下級財で、実質所得の増加による所得効果が大きく需要を減らす方向に働くと、価格が下がったのに需要が減ることがあります。このような財がギッフェン財です。
上級財と奢侈財は同じ意味ではありません。上級財は、所得が増えると需要が増える財です。そのうち、所得の増加率より需要の増加率が大きいものを奢侈財、所得の増加率より需要の増加率が小さいものを必需財と呼びます。
エンゲル曲線と所得弾力性
エンゲル曲線は、所得とある財の需要量の関係を示す曲線です。所得が増えるほど需要量が増えるなら上級財、所得が増えるほど需要量が減るなら下級財です。
所得弾力性は、所得が1%変化したときに需要量が何%変化するかを表します。所得弾力性が正なら上級財、負なら下級財です。所得弾力性が0なら、所得が変わってもその財の需要量は変わりません。
上級財の中でも、所得弾力性が1より大きいなら奢侈財、0より大きく1より小さいなら必需財です。必需財は「下級財」ではありません。所得が増えたときに需要量は増えますが、その増え方が所得ほど大きくない財です。
労働供給と余暇の選択
労働供給の問題では、消費と余暇の組合せを予算制約線で表します。1日の利用可能時間を24時間、余暇を 、賃金率を 、消費額を とすると、単純な形では次のように表せます。
余暇を1時間増やすと、その時間に得られたはずの賃金を失います。したがって、賃金率は余暇の機会費用です。
賃金率が上がると、余暇の機会費用が上がるため、代替効果は余暇を減らし、労働時間を増やす方向に働きます。一方、余暇が上級財なら、所得効果は余暇を増やし、労働時間を減らす方向に働きます。賃金が高い領域で所得効果が代替効果を上回ると、賃金が上がっても労働供給が減る後方屈折的な労働供給曲線になります。
税や給付がある問題では、予算制約線が折れ曲がることがあります。比例税は実質的な賃金率を下げるため傾きを変えます。定額税や定額給付は、価格比を変えないため平行移動として読みます。所得が一定額を超えると給付が減る制度では、折れ点の前後で傾きが変わります。
現在消費・将来消費と貯蓄
現在消費と将来消費の問題では、2期間の予算制約線を読みます。第1期の所得を 、第2期の所得を 、第1期消費を 、第2期消費を 、利子率を とすると、代表的な式は次のとおりです。
縦軸切片は 、傾きは 、横軸切片は です。利子率が上がると傾きが急になり、現在消費と将来消費の相対価格が変わります。
利子率上昇の効果は、貯蓄者か借入者かで読み方が変わります。純粋な債権者なら、利子率上昇による所得効果は現在消費を増やす方向に働きますが、代替効果は現在消費を減らす方向に働きます。純粋な債務者なら、所得効果も代替効果も現在消費を減らす方向に働きます。将来不安が高まる場合は、予算制約線ではなく、現在消費より将来消費を重視する選好の変化として読みます。
顕示選好と到達可能集合
顕示選好の問題では、ある予算制約のもとで実際に選ばれた点に注目します。消費者が合理的であれば、選ばれた点は、その予算制約で到達可能な他の点以上に選好されていたと考えます。
たとえば、同じ予算制約線上に点A、点B、点Cがあり、点Cが選ばれたなら、点Aや点Bが点Cより高い効用を与えるとは判断できません。別の予算制約線でも同じように、選ばれた点と到達可能だった点を比べます。図で「外側にあるから高い効用」とだけ読むのではなく、その点が当時の予算で選べたかを確認します。
需要関数の符号と消費の外部性
予算制約の周辺論点として、需要関数の係数の符号を読ませる問題もあります。自財価格の係数が負なら、価格が上がると需要が減る通常の関係です。他財価格の係数が正なら、その財とは代替関係にあると読めます。広告費の係数が正なら、広告が需要を増やす関係です。所得やその他の変数は、係数の符号をそのまま読み、先入観で上級財と決めつけないことが大切です。
消費の外部性では、他人の消費が自分の効用に影響します。「多くの人が買っているから自分も買いたくなる」効果はバンドワゴン効果です。「他人が持っていないものを買いたい」効果はスノッブ効果です。期間限定品や希少性を強調する設定では、スノッブ効果が問われることがあります。
この章のまとめ
予算制約の問題は、式と図を対応させて読むと安定します。最初に を置き、横軸切片、縦軸切片、傾きを確認します。所得変化なら平行移動、価格変化なら切片の一方が動く回転です。
価格変化の問題では、いきなり最終的な需要変化だけを見ず、代替効果と所得効果に分けます。X財価格が下がった場合、X財への代替効果は必ずX財消費を増やす方向に働きます。その後の所得効果は、X財が上級財なら増加方向、下級財なら減少方向です。ギッフェン財では、下級財としての負の所得効果が代替効果を上回ります。
所得変化の問題では、最適点の移動から各財の消費量を読みます。所得が増えたときに増えれば上級財、減れば下級財です。上級財のうち、所得より大きく増えるなら奢侈財、所得ほどは増えないなら必需財です。必需財を下級財と混同しないようにします。
労働供給では、横軸が余暇なら、余暇が増えることは労働時間が減ることを意味します。賃金上昇の代替効果は余暇を減らして労働を増やし、余暇が上級財なら所得効果は余暇を増やして労働を減らします。最終的に労働供給が増えるか減るかは、どちらの効果が大きいかで決まります。
現在消費と将来消費では、利子率が予算制約線の傾きを変えます。貯蓄者か借入者かで所得効果の向きが変わるため、単純に「利子率が上がると貯蓄が必ず増える」とは判断できません。問題文の主体が純粋な債権者か、純粋な債務者か、現在所得と将来所得を持つ一般的な消費者かを確認します。
最後に、図の点が「予算内で選べた点」かどうかを確認します。最適点として選ばれた点は、その予算で到達可能だった他の点より低い効用とは考えにくい、という顕示選好の考え方が使われます。
一次試験過去問での出方
予算制約線の移動は、2020年度第13問、2021年度第16問、2024年度第14問、2025年度第14問で繰り返し問われています。所得増加なら平行移動、X財価格の低下なら横軸切片の外側への移動、Y財価格の変化なら縦軸切片の移動として読みます。2016年度第15問では、同じ所得でも傾きが異なる予算制約線から、相対価格が異なることを判断しました。
代替効果と所得効果は、2012年度第17問、2014年度第16問、2021年度第16問、2025年度第14問で中心論点になっています。元の最適点から補償予算線上の点までが代替効果、そこから新しい最適点までが所得効果です。2011年度第19問と2016年度第16問では、下級財とギッフェン財の違いが問われ、価格低下時でも所得効果が代替効果を上回ると需要が減ることを確認します。
上級財・下級財・エンゲル曲線は、2018年度第17問、2021年度第17問、2023年度第1回第16問、2023年度第2回第13問、2024年度第14問で出題されています。所得が増えて消費量が増えるか減るかで上級財と下級財を分け、増え方の強さで必需財と奢侈財を分けます。2024年度第14問のように、所得が増えても消費量が変わらない財は所得効果がゼロです。
労働供給と余暇の問題は、2008年度第18問、2013年度第14問、2015年度第13問、2017年度第16問、2020年度第15問、2023年度第2回第18問で出題されています。賃金上昇の代替効果は余暇を減らして労働を増やし、所得効果は余暇が上級財なら余暇を増やして労働を減らします。税や給付が入ると、予算制約線の傾きや折れ点を確認します。
現在消費・将来消費と貯蓄は、2007年度第16問、2010年度第2問設問2、2013年度第13問で問われています。利子率上昇は予算制約線の傾きを変え、債権者と債務者で所得効果の向きが異なります。将来不安による貯蓄増加は、予算制約線の変化ではなく選好の変化として整理します。
顕示選好と到達可能集合は、2009年度第20問と2014年度第15問で出題されています。選ばれた点と、その時点の予算制約で選べた点を比べることが重要です。消費の外部性は2010年度第19問で、バンドワゴン効果とスノッブ効果の区別が問われました。2008年度第19問では、需要関数の係数の符号から、自財価格、他財価格、広告、所得などの影響を読む力が問われています。