経済学・経済政策
重要効用理論
無差別曲線、限界代替率、効用最大化を扱う。
この章で覚えておきたいこと
効用理論では、消費者が財やサービスから得る満足度を、無差別曲線や効用関数で表します。一次試験では、難しい計算よりも、図の形から選好を読む力が問われます。
- 効用は、消費者が財・サービスから得る満足度です。
- 無差別曲線は、同じ効用水準を与える2財の組合せを結んだ線です。
- 標準的な無差別曲線は、右下がりで、原点に対して凸です。
- 限界代替率は、片方の財を1単位増やすために、もう片方の財をどれだけ手放してよいかを表します。
- 完全代替財は直線、完全補完財はL字型の無差別曲線で表します。
- 期待効用では、所得を平均してから効用を計算するのではなく、各状態の効用を先に計算して確率で重み付けします。
- リスク回避的な人の効用関数は凹型で、リスクプレミアムは正になります。
このトピックは、2011年、2012年、2014年、2015年、2017年、2019年、2020年、2021年に繰り返し出ています。特に、図を見て「直線か、L字型か、右下がりか、右上がりか、垂直か」を判定する問題は得点源にしやすい分野です。
基本知識
効用と無差別曲線
効用は、消費者が財・サービスから得る満足度です。効用理論では、消費者がどの組合せを好むかを、数式や図で表します。
無差別曲線は、消費者にとって同じ効用水準を与える2財の組合せを結んだ線です。同じ無差別曲線上の点は、財の組合せが違っても、得られる効用は同じです。
たとえば、X財を多く持つ点とY財を多く持つ点が同じ無差別曲線上にあれば、その消費者にとってはどちらも同じ満足度です。したがって、「右にある点だから効用が高い」とは判断しません。効用水準が高いかどうかは、どの無差別曲線上にあるかで見ます。
標準的には、より右上にある無差別曲線ほど高い効用を表します。どちらの財も望ましい財であれば、両方を多く持つ組合せの方が好まれるためです。
標準的な無差別曲線
どちらの財も望ましい財であれば、標準的な無差別曲線は右下がりになります。X財を増やしたままY財も同じ量だけ持ち続けると効用が上がってしまうため、同じ効用を保つにはY財を減らす必要があるからです。
また、標準的な無差別曲線は、原点に対して凸になります。これは、同じ財を多く持つほど、その財をさらに増やすために手放してもよい別の財の量が小さくなるためです。
一次試験では、標準的な形を次のように読みます。
- 右下がりなら、通常の2財の選好を疑います。
- 右に行くほど曲線が平らになるなら、限界代替率が逓減しています。
- 同じ無差別曲線上の点は、効用水準が同じです。
- より右上の無差別曲線ほど、効用水準が高いです。
「同じ曲線上のA点とB点では、どちらの効用が高いか」という選択肢が出たら、まず同じ無差別曲線上は同じ効用と判断します。
限界代替率
限界代替率は、X財を1単位増やすために、Y財をどれだけ手放してよいかを表す概念です。無差別曲線の傾きの絶対値として読みます。
たとえば、ビールを1杯増やすために焼酎を2杯減らしてもよいなら、その地点での限界代替率は2です。さらにビールを多く持つようになると、追加のビール1杯のために手放してよい焼酎の量は小さくなりやすくなります。これが限界代替率逓減です。
図形では、限界代替率逓減は、右へ行くほど無差別曲線の傾きが緩やかになる形として表れます。2019年の問題では、「ある財を余分に消費することと引き換えに減らしてもよい別の財の数量が徐々に減る」という文章を、原点に対して凸の無差別曲線へ置き換える必要がありました。
限界代替率の問題では、次の順で確認します。
- 無差別曲線が直線か曲線かを見ます。
- 直線なら限界代替率は一定です。
- 右に行くほど平らになる曲線なら、限界代替率は逓減しています。
- L字型なら、滑らかな代替関係ではなく完全補完を疑います。
完全代替財
完全代替財は、一定の比率で互いに置き換えられる財です。無差別曲線は直線になります。
たとえば、ある消費者にとって2つのブランドの飲料が完全に同じ満足度を与えるなら、どちらを選んでもよく、一定比率で置き換えられます。この場合、X財を減らしてもY財を一定量増やせば同じ効用を保てるため、無差別曲線は同じ傾きの直線になります。
直線の無差別曲線では、傾きが一定なので、限界代替率も一定です。2012年の問題では、複数の無差別曲線が直線で描かれており、完全代替財を判定することが求められました。
注意したいのは、直線の無差別曲線を「限界代替率逓減」と読まないことです。限界代替率逓減は、右に行くほど傾きの絶対値が小さくなる曲線で表れます。直線なら、どの地点でも置き換え比率は同じです。
完全補完財
完全補完財は、一定の固定比率で一緒に消費される財です。無差別曲線はL字型になります。
たとえば、ハンバーガー2個とワッフル1個を組み合わせて消費するような好みでは、ワッフル1個に対してハンバーガーを2個より多く増やしても、余分なハンバーガーは効用を高めません。逆に、ハンバーガーが十分あってもワッフルが不足していれば、効用は増えません。
このように、片方だけ増えても効用が上がらず、必要な比率を満たす折れ点で効用が上がるため、無差別曲線はL字型になります。2011年、2015年、2020年の問題で繰り返し問われています。
完全補完財を読むときは、折れ点の座標が必要な組合せを示すと考えます。折れ点から横方向や縦方向に片方だけ増えても、同じL字の線上では効用は変わりません。
効用に入らない財
ある財が効用に入らない場合、無差別曲線の形は通常とは異なります。たとえば、X財だけが効用を決め、Y財にはまったく興味がないなら、Y財が増えても効用は変わりません。
この場合、無差別曲線は垂直になります。X財の量が同じであれば、Y財がいくら増減しても同じ効用水準だからです。2017年の問題では、ゴルフには興味があるが野球には興味がない人の例から、垂直の無差別曲線を選ぶ必要がありました。
反対に、Y財だけが効用を決め、X財に興味がないなら、無差別曲線は水平になります。試験では、垂直・水平の形を見たら「片方の財が効用に入っていない」と考えると整理しやすくなります。
負の財を含む無差別曲線
通常の2財がどちらも望ましい財であれば、無差別曲線は右下がりになります。しかし、一方が望ましくない財、つまり負の財である場合は、無差別曲線が右上がりになることがあります。
たとえば、X財がお弁当、Y財が容器ゴミだとします。容器ゴミは増えるほど好ましくありません。Y財が増えて効用が下がるなら、同じ効用を保つには、良い財であるX財も増やして補償する必要があります。そのため、無差別曲線は右上がりになります。
2021年の問題では、右上がりの無差別曲線について、通常の代替財ではなく、通常財と負の財の関係として読むことが問われました。
右上がりの無差別曲線では、「X財を1単位増やすためにY財を減らす」とは読みません。むしろ、悪い財が増えるなら、良い財も増やして同じ効用を保つ、という関係です。
期待効用
期待効用では、不確実な状態ごとに効用を計算し、その効用を確率で重み付けします。ここで重要なのは、期待所得の効用ではないという点です。
たとえば、効用関数が で、25%の確率で所得が1万円、75%の確率で所得が100万円になるとします。このとき、期待効用は次のように計算します。
つまり、先に各状態の所得を効用に変換し、それを確率で平均します。所得を先に平均してから平方根を取るのではありません。
2011年の問題では、1万円の効用を100、100万円の効用を1000として、0.25 x 100 + 0.75 x 1000 = 775 と計算する必要がありました。期待所得を求めてしまうと、期待効用とは違う値になります。
リスク回避とリスクプレミアム
リスク回避的な消費者は、同じ期待所得なら、不確実な所得よりも確実な所得を好みます。効用関数の形は凹型です。所得が増えるほど効用は増えますが、追加的な所得から得られる効用はだんだん小さくなります。
凹型効用関数では、確率付きの所得から得る期待効用は、同じ平均所得を確実に得る場合の効用より小さくなります。そのため、リスク回避者は、保険料を払ってでも不確実性を避けようとします。
このとき、リスクを避けるために支払ってもよい金額がリスクプレミアムです。リスク回避者のリスクプレミアムは正になります。
一次試験では、次の対応を押さえます。
- 凹型効用関数は、リスク回避です。
- 線形効用関数は、リスク中立です。
- 凸型効用関数は、リスク愛好です。
- リスク回避者のリスクプレミアムは正です。
2009年と2014年の問題では、所得と効用のグラフからリスク回避とリスクプレミアムの符号を読むことが問われました。曲線が右上がりであることだけでなく、傾きが逓減しているかを見ます。
行動経済学の基礎用語
効用理論の周辺では、行動経済学の基礎用語も出題されています。2010年の問題では、双曲割引とプロスペクト理論の区別が問われました。
双曲割引は、近い将来の利得を重く見て、遠い将来の利得を過度に低く評価してしまう考え方です。目先の利益に引っ張られる時間選好のゆがみとして押さえます。
プロスペクト理論は、人が利得と損失を対称には評価せず、損失をより大きく感じやすいことや、確率を主観的にゆがめて評価することを説明する理論です。低い確率を高く見積もる、高い確率を低く見積もる、損失を利益より重く見る、といった特徴があります。
限定合理性は、人間の情報処理能力や計算能力には限界があるという考え方です。時間選好のゆがみそのものではありません。
用語問題では、次のように切り分けます。
- 目先の利得、現在バイアス、将来を過小評価する話なら、双曲割引です。
- 損失回避、確率の主観的評価、利得と損失の非対称性なら、プロスペクト理論です。
- 情報処理能力や計算能力の制約なら、限定合理性です。
この章のまとめ
効用理論は、図の形と用語の対応を先に固めると、選択肢をかなり速く切れます。最後に、次の順で確認します。
- 図が無差別曲線か、所得と効用の関係かを確認します。
- 無差別曲線なら、右下がり、直線、L字型、垂直・水平、右上がりのどれかを見ます。
- 直線なら完全代替財、L字型なら完全補完財です。
- 垂直・水平なら、片方の財が効用に入っていないと考えます。
- 右上がりなら、一方が負の財である可能性を考えます。
- 限界代替率は、無差別曲線の傾きの絶対値として読みます。
- 期待効用は、状態別の効用を先に計算してから確率で重み付けします。
- 所得と効用の曲線が凹なら、リスク回避で、リスクプレミアムは正です。
ひっかけとして多いのは、完全補完財を直線と誤ること、完全代替財をL字型と誤ること、同じ無差別曲線上の点に効用差をつけること、期待効用を期待所得の効用として計算することです。図形問題では、問題文の具体例よりも先に、曲線の形を落ち着いて分類します。
一次試験過去問での出方
2011年、2015年、2020年では、完全補完財のL字型無差別曲線が問われました。折れ点が必要な固定比率を示し、片方だけ増やしても効用は上がらないと読みます。
2012年では、直線の無差別曲線から完全代替財を判定しました。直線なら置き換え比率が一定で、限界代替率は逓減しません。
2017年では、片方の財が効用に入らない場合の垂直の無差別曲線、2021年では、負の財を含む右上がりの無差別曲線が問われました。
2011年と2014年では、期待効用、リスク回避、リスクプレミアムが問われました。期待所得を先に出すのではなく、状態別効用を確率で平均する点が核心です。
2010年では、双曲割引、プロスペクト理論、限定合理性の区別が問われました。時間選好、確率・損失評価、情報処理能力の制約を分けて覚えます。