経済学・経済政策
重要比較生産費と貿易理論
比較優位、機会費用、貿易利益を計算と図で扱う。
この章で覚えておきたいこと
比較生産費説では、どちらの国が「強いか」ではなく、どの財を作るときにあきらめるものが少ないかを見ます。絶対優位と比較優位を混同しないことが、ほぼすべての問題の出発点です。
- 絶対優位は、同じ投入量で多く作れる、または同じ生産量に必要な投入量が少ないことです。
- 比較優位は、ある財1単位を作るためにあきらめる他財の量、つまり機会費用が小さいことです。
- 生産量の表では、機会費用は「同じ時間で作れる相手財 ÷ 見たい財」で求めます。
- 必要労働量の表では、機会費用は「見たい財の必要労働量 ÷ 相手財の必要労働量」で求めます。
- 比較優位を持つ財に特化し、その財を輸出するのがリカード型貿易論の基本です。
- 完全特化後の生産量は、当初の総労働量を、特化する財1単位の必要労働量で割って求めます。
- 貿易が成立する交換比率や為替レートは、両国の国内機会費用の間に入ります。
- 自由貿易の余剰分析では、消費者・生産者の移転分と、社会全体の純増分を分けて読みます。
試験では、表の数値をそのまま比べるだけでは足りません。まず「生産量表か、必要労働量表か」を確認し、次に財1単位あたりの機会費用をそろえて、最後に輸出財、完全特化後の生産量、余剰変化へつなげます。
基本知識
絶対優位と比較優位は別の概念
絶対優位は、生産性の高さそのものです。生産量表なら多く作れる側、必要労働量表なら少ない労働で作れる側が絶対優位を持ちます。
比較優位は、生産性の高さそのものではなく、機会費用の小ささです。片方の国や人が両方の財で絶対優位を持っていても、比較優位は通常、財ごとに分かれます。
たとえば、Aさんが30分でおにぎり10個またはサンドイッチ6個を作れ、Bさんが30分でおにぎり6個またはサンドイッチ2個を作れるとします。Aさんは両方で絶対優位を持ちます。しかし、比較優位は次のように機会費用で判断します。
| 見たい財 | Aさんの機会費用 | Bさんの機会費用 | 比較優位 |
|---|---|---|---|
| おにぎり1個 | サンドイッチ 6 / 10 = 3 / 5 個 | サンドイッチ 2 / 6 = 1 / 3 個 | Bさん |
| サンドイッチ1個 | おにぎり 10 / 6 = 5 / 3 個 | おにぎり 6 / 2 = 3 個 | Aさん |
ここで「Aさんの方が両方多く作れるから、Aさんが両方に比較優位を持つ」と判断すると誤りです。比較優位は、各財1単位を増やすために何をどれだけあきらめるかで決まります。
生産量表から機会費用を出す
生産量表では、同じ時間や同じ労働量で作れる財の数量が与えられます。この場合、ある財1単位の機会費用は、同じ投入量で作れる相手財の数量を、見たい財の数量で割ります。
| 問われているもの | 計算式 |
|---|---|
| X財1単位の機会費用 | Y財の生産量 ÷ X財の生産量 |
| Y財1単位の機会費用 | X財の生産量 ÷ Y財の生産量 |
生産量表では、絶対優位は「数が大きい方」で読みます。一方、比較優位は、機会費用を計算したうえで小さい方を選びます。
この型では、問われている財を取り違えやすいです。おにぎりの比較優位を見たいなら「おにぎり1個を作るためにあきらめるサンドイッチ」を比べます。サンドイッチの比較優位を見たいなら「サンドイッチ1個を作るためにあきらめるおにぎり」を比べます。
必要労働量表から機会費用を出す
必要労働量表では、財1単位を作るのに必要な労働量が与えられます。この場合、絶対優位は、必要労働量が小さい側です。
比較優位を判定するときは、見たい財の必要労働量を、相手財の必要労働量で割ります。
たとえば、A国でカカオ1単位に5、大豆1単位に10の労働が必要なら、カカオ1単位の機会費用は大豆 5 / 10 = 0.5 単位です。カカオ1単位分の労働5を大豆に使えば、大豆は0.5単位しか作れないからです。
同じ例で、大豆1単位の機会費用はカカオ 10 / 5 = 2 単位です。分子と分母を逆にすると、2024年のような必要労働量問題で選択肢を取り違えます。
| 見たい財 | 必要労働量表での計算 |
|---|---|
| X財1単位の機会費用 | X財の必要労働量 ÷ Y財の必要労働量 |
| Y財1単位の機会費用 | Y財の必要労働量 ÷ X財の必要労働量 |
比較優位が輸出財を決める
リカード型の貿易論では、各国は比較優位を持つ財に特化し、その財を輸出します。輸出財を決めるのは、絶対優位ではなく比較優位です。
必要労働量の例で、B国が両方の財を少ない労働で作れるとしても、B国が両方を輸出するとは限りません。B国にも、相対的により得意な財と、相対的には手放してよい財があります。国際分業では、この相対的な有利さを使います。
設問が連動している場合は、前問で求めた比較優位をそのまま使います。比較優位を持つ財が輸出財になり、もう一方の財は輸入財になります。
完全特化後の生産量
完全特化後の生産量を問われたら、当初の各財の数量だけを見てはいけません。必要なのは、当初その国が使っていた総労働量です。
手順は次のとおりです。
- 当初の各財の生産量に、それぞれの必要労働量を掛けます。
- それらを合計して、当初の総労働量を出します。
- 比較優位を持つ財に完全特化するとして、総労働量をその財1単位の必要労働量で割ります。
たとえば、A国が当初カカオ40単位、大豆40単位を作り、必要労働量がカカオ5、大豆10なら、総労働量は 40 × 5 + 40 × 10 = 600 です。A国がカカオに完全特化すれば、カカオの生産量は 600 / 5 = 120 単位です。
試験では「当初どちらも40単位作っていた」という数字に引っ張られやすいです。完全特化後は、数量ではなく総労働量を配分し直すと考えます。
交易条件と為替レートの範囲
貿易が成立する交換比率は、両国の国内での機会費用の間に入ります。ある国の国内交換比率より不利であれば、その国は貿易する意味がありません。両国に利益があるためには、両国の機会費用の間に国際交換比率が決まる必要があります。
為替レート問題でも、考え方は同じです。2国2財で、日本のX財が500円、Y財が1,000円、アメリカのX財が10ドル、Y財が5ドルなら、1ドルを e 円として米国価格を円換算します。
- X財で日本が安くなる条件は
500 < 10eなので、50 < eです。 - Y財でアメリカが安くなる条件は
5e < 1000なので、e < 200です。 - したがって、比較優位に基づく貿易が成立する範囲は
50 < e < 200です。
為替レートの問題では、単に「円安なら輸出有利」と覚えるだけでは足りません。各財について相手国価格を自国通貨に直し、どちらの財でどちらの国が安くなるかを不等式で確認します。
比較優位は変わることがある
リカード型では、比較優位は単位労働投入係数、つまり相対的な生産性で決まります。そのため、教育、技術進歩、産業政策によって特定産業の生産性が上がれば、比較優位や貿易パターンが変わることがあります。
一方、モデルが労働だけを生産要素とする前提なら、労働の賦存量を増やすだけでは比較優位は変わりません。投入係数が変わらない限り、相対的な得意不得意は同じだからです。
この論点では、ヘクシャー=オリーン型の「要素賦存量」と、リカード型の「相対生産性」を混同しないことが重要です。問題文がどのモデルを前提にしているかを先に読みます。
要素賦存と労働集約財
ヘクシャー=オリーン型の考え方では、相対的に豊富な生産要素を多く使う財に比較優位を持ちます。資本が豊富な国は資本集約財、労働が豊富な国は労働集約財を輸出しやすいです。
少子化で労働が相対的に希少な国は、労働集約財を輸入しやすくなります。世界で労働供給が増え、労働集約財の供給が拡大すると、国内には賃金の下押し圧力がかかる、という形で問われることがあります。
ここでは、比較生産費説の「投入係数で決まる比較優位」と、H-O 型の「要素賦存で決まる比較優位」が別の説明であることを押さえます。どちらも貿易パターンを説明しますが、見ている原因が違います。
労働移動と世界全体の所得
国際経済の問題では、財の貿易だけでなく、労働移動の図が出ることがあります。賃金が低い国から高い国へ労働が移動すると、両国の賃金差は縮小し、世界全体の所得は増えます。
ただし、世界全体で所得が増えても、すべての主体が同じ方向に得をするわけではありません。労働が流出した国では、労働が希少になって賃金が上がりやすい一方、資本所得は小さくなりやすいです。労働が流入した国では、労働が増えて資本所得は大きくなりやすい一方、既存労働者の賃金には下押し圧力がかかります。
試験では、図の面積を読むときに、世界全体の増加分と各国・各主体への配分を分けて判断します。国籍が変わらない設定では、移住した労働者の所得をどちらの国民所得に入れるかも確認します。
自由貿易と余剰分析
自由貿易の余剰分析では、国際価格が国内価格より高いか低いかで、輸出財か輸入財かが決まります。
国際価格が国内均衡価格より高ければ、その財は輸出財になります。国内価格は国際価格まで上がり、国内消費量は減り、国内生産量は増えます。この差が輸出量です。
| 輸出財になった場合 | 変化 |
|---|---|
| 国内価格 | 上昇する |
| 国内消費量 | 減少する |
| 国内生産量 | 増加する |
| 消費者余剰 | 減少する |
| 生産者余剰 | 増加する |
| 社会的総余剰 | 移転分を除いた純増分だけ増える |
国際価格が国内均衡価格より低ければ、その財は輸入財になります。国内価格は下がり、国内消費量は増え、国内生産量は減ります。消費者余剰は増え、生産者余剰は減りますが、死荷重が解消されるため、社会全体では総余剰が増えます。
余剰図では、消費者から生産者へ移る部分と、社会全体の純増部分を分けて読みます。生産者余剰の増加を全部そのまま社会的総余剰の増加とみなすと誤ります。
この章のまとめ
比較生産費と貿易理論は、次の順番で処理すると安定します。
1. 表の種類を確認する
最初に、生産量表なのか、必要労働量表なのかを見ます。
- 生産量表なら、絶対優位は多く作れる側です。
- 必要労働量表なら、絶対優位は少ない労働で作れる側です。
- 比較優位は、どちらの表でも機会費用が小さい側です。
2. 財1単位あたりの機会費用をそろえる
比較優位は、必ず財1単位あたりで比べます。X財の比較優位を見たいのに、Y財1単位の機会費用を比べると、結論が逆になります。
- 生産量表では、相手財の生産量を見たい財の生産量で割ります。
- 必要労働量表では、見たい財の必要労働量を相手財の必要労働量で割ります。
- 機会費用が小さい財に比較優位があります。
3. 比較優位から輸出財と特化先を決める
各国は比較優位を持つ財に特化し、その財を輸出します。絶対優位がない国でも、比較優位があれば輸出できます。
完全特化後の生産量は、当初の総労働量から計算します。総労働量を出さずに、当初の生産数量だけで判断しないことが重要です。
4. 貿易条件と余剰図を分けて読む
交易条件や為替レートは、両国の機会費用の間にあるかを確認します。余剰図では、価格が上がる輸出財なのか、価格が下がる輸入財なのかを先に見ます。
- 輸出財では、価格上昇、消費減少、生産増加です。
- 輸入財では、価格低下、消費増加、生産減少です。
- 社会的総余剰の増加は、消費者と生産者の間の移転分ではなく、純増分です。
5. モデルの前提を確認する
リカード型では、比較優位は投入係数や相対生産性で決まります。H-O 型では、資本や労働などの要素賦存が貿易パターンを説明します。労働移動の図では、賃金、資本所得、世界全体の所得増加を分けて読みます。
問題文がどのモデルを使っているかを確認してから、比較優位、要素価格、余剰のどれを答える問題かを切り分けます。
一次試験過去問での出方
- 2007年 第14問: 単位労働投入係数から絶対優位・比較優位・輸出財を判定する連問。教育や産業政策で比較優位が変わるかも問われました。
- 2009年 第2問: 労働が相対的に希少な日本が、労働集約財の輸入拡大と賃金下押し圧力を受けるという H-O 型の見方が問われました。
- 2009年 第11問: 日本円とドルで示された2国2財の費用から、比較優位と貿易が成立する為替レート範囲を不等式で判定しました。
- 2011年 第10問: 労働移動の図から、賃金均等化、資本所得、世界全体の所得増加、各国への配分を読みました。
- 2016年 第19問、2022年 第18問: 生産量表から機会費用を計算し、絶対優位と比較優位を区別する問題です。生活例でも考え方は同じです。
- 2017年 第20問: 必要労働量から内部交換比率を読み、どちらの国がどの財に比較優位を持つかを判定しました。
- 2023年第1回 第21問: 輸出財化による価格上昇、消費量・生産量の変化、消費者余剰・生産者余剰・社会的総余剰の面積を読みました。
- 2024年 第22問: 必要労働量表から機会費用、相対価格、総労働量、完全特化後の生産量をまとめて判定しました。
近年は、単純な用語暗記よりも、表や図から機会費用、特化後の生産量、余剰変化を同時に処理する問題が中心です。まず表の種類を見て、機会費用を財1単位にそろえることが得点の入口になります。