経済学・経済政策
最優先生産物市場とGDP
45度線、均衡所得、乗数、消費関数、投資、貯蓄を最厚で扱う。
この章で覚えておきたいこと
生産物市場とGDPでは、45度線分析を使って「総需要が変わると均衡GDPがどう変わるか」を読みます。最初に覚えるべきことは、細かい線分名ではなく、次の判断軸です。
- 生産物市場の均衡は、総需要=総供給です。
- 45度線分析では、総供給を
Y、総需要をADとし、45度線と総需要線の交点で均衡GDPを読みます。 - 閉鎖経済の基本式は
Y = C + I + Gです。開放経済ではY = C + I + G + X - Mとなり、輸入は漏出として働きます。 - 消費関数は
C = C0 + cYまたはC = C0 + c(Y - T)で表します。cは限界消費性向です。 - 自律的需要が増えると、総需要線は上方へ平行移動します。限界消費性向や限界輸入性向が変わると、総需要線の傾きや乗数が変わります。
- 政府支出乗数と投資乗数は
1 / (1 - c)、租税乗数は-c / (1 - c)、均衡予算乗数は1です。 - デフレ・ギャップは、均衡GDPと完全雇用GDPの横軸上の差ではなく、完全雇用GDP水準での需要不足として読むのが基本です。
- 貯蓄・投資図では、生産物市場の均衡を
S = Iとして読みます。 - 投資理論では、利子率、投資の限界効率、加速度原理、トービンのqを方向で押さえます。
この論点は、経済学・経済政策の中でも最頻出級です。2023年度第1回、2023年度第2回、2024年度、2025年度でも続けて問われています。式だけ、図だけで覚えるのではなく、式と図を往復して判断できる状態にすることが重要です。
基本知識
45度線分析の基本
45度線分析では、横軸にGDPまたは所得 Y、縦軸に総需要 AD をとります。45度線は AD = Y を表す線です。生産された所得 Y と、それに対する需要 AD が一致する点が、生産物市場の均衡です。
総需要線が45度線より上にある所得水準では、総需要が生産を上回っています。企業は在庫減少を見て生産を増やしやすくなります。総需要線が45度線より下にある所得水準では、総需要が生産を下回っています。企業は在庫増加を見て生産を減らしやすくなります。
試験では、45度線上の点、総需要線上の点、横軸上のGDPを混同させます。総需要はAD線上、総供給は45度線上、GDPは横軸で読む、と分けてください。
総需要の構成
閉鎖経済の基本式は、次の形です。
Y = C + I + G
C は消費、I は投資、G は政府支出です。開放経済では、輸出 X と輸入 M を加えて、次の形になります。
Y = C + I + G + X - M
輸入は、国内の需要の一部が海外の生産物へ向かうことを意味します。そのため、輸入は国内所得循環からの漏出であり、乗数を小さくします。問題文に M = mY のような限界輸入性向が出てきたら、所得が増えるほど漏出も増えると読みます。
投資、政府支出、輸出、独立消費は、所得に依存しない自律的需要として扱われることが多いです。これらが増えると、総需要線は通常、上方へ平行移動します。
消費関数と限界消費性向
消費関数は、所得と消費の関係を表す式です。基本形は次の2つです。
C = C0 + cY
C = C0 + c(Y - T)
C0 は基礎消費です。所得がゼロでも発生する消費を表します。c は限界消費性向で、所得または可処分所得が1増えたとき、消費がどれだけ増えるかを表します。
たとえば c = 0.8 なら、所得が1増えると消費は0.8増えます。残りの0.2は貯蓄に回るため、限界貯蓄性向は 1 - c = 0.2 です。
直線の消費関数では、限界消費性向は一定です。一方、平均消費性向は C / Y です。基礎消費 C0 がある場合、所得が増えるほど C0 / Y の影響が小さくなるため、平均消費性向は低下しやすくなります。2024年度第5問では、この限界と平均の違いが問われました。
総需要線の傾きと切片
消費関数が C = C0 + cY のとき、総需要は次のように表せます。
AD = C0 + cY + I + G
このとき、総需要線の傾きは c です。縦軸切片は C0 + I + G です。ここで、切片をC0だけにしないことが重要です。投資や政府支出も所得に依存しない需要なので、総需要線の切片に含まれます。
試験では、総需要線の「傾きが変わる場合」と「平行移動する場合」をよく問います。
- 限界消費性向が上がると、総需要線は急になり、乗数は大きくなります。
- 限界消費性向が下がると、総需要線は緩やかになり、乗数は小さくなります。
- 限界輸入性向や比例税率が上がると、国内需要への波及が弱くなり、乗数は小さくなります。
- 投資、政府支出、輸出、独立消費が増えると、総需要線は上方へ平行移動します。
2019年度第5問では、政府支出の拡大は総需要線の上方への平行移動として読むこと、限界消費性向や限界輸入性向は乗数の大きさに効くことが問われました。
均衡GDPの計算
均衡GDPは、Y = AD を解いて求めます。たとえば、総需要が次のように与えられているとします。
AD = 50 + 0.8Y
均衡条件は Y = 50 + 0.8Y です。したがって、0.2Y = 50、Y = 250 となります。
消費関数、投資、政府支出、租税が与えられた場合も同じです。2010年度第5問のように、
Y = C + I + G
C = C0 + c(Y - T)
と与えられたら、消費関数を均衡条件へ代入して、Y について解きます。可処分所得 Y - T を落とすと、租税の効果を読み誤ります。
式の問題では、先に均衡式を立てます。数字だけを見て選択肢へ飛びつくと、租税、比例税、輸入、基礎消費の扱いを落としやすくなります。
乗数の基本
乗数は、自律的需要が1増えたとき、均衡GDPが何倍増えるかを表します。限界消費性向 c が大きいほど、所得増加が次の消費増加につながりやすいため、乗数は大きくなります。
基本式は次のとおりです。
- 政府支出乗数:
1 / (1 - c) - 投資乗数:
1 / (1 - c) - 租税乗数:
-c / (1 - c) - 均衡予算乗数:
1
政府支出と投資は、総需要を直接増やします。そのため、乗数は 1 / (1 - c) です。租税は、可処分所得を変え、そのうち c の分だけ消費を変えます。そのため、租税乗数には c が付き、符号はマイナスになります。
たとえば増税ならGDPを減らし、減税ならGDPを増やします。ただし、租税乗数そのものは負です。減税効果を計算するときは、ΔT がマイナスになるため、結果としてGDPが増えると整理します。
均衡予算乗数は、政府支出と租税を同額だけ増やした場合の効果です。政府支出乗数と租税乗数を足すと、次のように1になります。
1 / (1 - c) - c / (1 - c) = 1
2021年度第5問では、政府支出乗数、投資乗数、租税乗数、均衡予算乗数の取り違えが問われました。均衡予算乗数は1です。
漏出と比例税がある場合の乗数
閉鎖経済で定額税だけを考える場合、乗数は 1 / (1 - c) で整理できます。しかし、開放経済や比例税が入ると、波及の一部が漏れるため乗数は小さくなります。
輸入が M = mY のように所得に比例する場合、所得が増えるほど輸入も増えます。国内で生まれた所得の一部が海外の生産物への支出に流れるため、国内の次の需要につながりにくくなります。限界輸入性向 m が大きいほど、乗数は小さくなります。
比例税がある場合も同じ考え方です。所得が増えると税負担も増え、可処分所得の増加が抑えられます。可処分所得が伸びにくいほど、消費への波及も弱くなります。
乗数問題では、「何が増えたか」だけでなく、「所得循環からどこへ漏れるか」を見ます。限界貯蓄性向、限界輸入性向、比例税率は、いずれも乗数を小さくする方向に働きます。
デフレ・ギャップと完全雇用GDP
完全雇用GDPは、労働や設備が通常の意味で十分に使われているときの供給能力を表します。45度線分析では、現実の均衡GDPが完全雇用GDPを下回ると、需要不足があると考えます。
ここで注意すべき点は、デフレ・ギャップの読み方です。デフレ・ギャップは、単純に「完全雇用GDP - 均衡GDP」の横軸上の差として問われるとは限りません。多くの場合、完全雇用GDP水準で見たときの総需要不足額を読みます。
2013年度第3問では、D = 50 + 0.8Y、完全雇用GDPが300と与えられました。均衡GDPは250です。しかし、完全雇用GDP水準での総需要は 50 + 0.8 × 300 = 290 なので、完全雇用GDP300に対する需要不足は10です。したがって、デフレ・ギャップは50ではなく10です。
45度線図のギャップ問題では、横方向のGDP差と縦方向の需要不足を区別します。政策で直接動かすのは総需要線の位置なので、完全雇用水準での縦方向の不足を読む問題が多いです。
貯蓄・投資図
生産物市場の均衡は、貯蓄と投資の一致としても表せます。
S = I
貯蓄は S = Y - C です。消費関数が C = C0 + cY なら、貯蓄関数は次のようになります。
S = -C0 + (1 - c)Y
貯蓄線の傾きは限界貯蓄性向 1 - c です。投資が一定なら、貯蓄線と投資線の交点で均衡GDPが決まります。
均衡GDPより所得が低いところでは、貯蓄が投資を下回り、総需要が総供給を上回ります。均衡GDPより所得が高いところでは、貯蓄が投資を上回り、総需要が総供給を下回ります。2020年度第4問では、この左右の判定が問われました。
貯蓄意欲が高まると、短期のケインズ型モデルでは消費が減り、総需要が減少し、均衡GDPが低下しやすくなります。個々の家計にとって貯蓄を増やす行動でも、経済全体では所得が下がり、結果として貯蓄が思ったほど増えないことがあります。これを倹約のパラドックスといいます。
2022年度第5問では、貯蓄意欲の高まりにより限界消費性向が0.8から0.75へ低下したとき、政府支出乗数が5から4へ低下することが問われました。限界消費性向が下がると、乗数は小さくなります。
財政政策の読み方
45度線分析での財政政策は、総需要を動かす政策として読みます。
政府支出の増加は、総需要を直接増やします。したがって、総需要線は上方へ平行移動し、均衡GDPは増加します。政府支出乗数は 1 / (1 - c) です。
減税は、可処分所得を増やし、その一部が消費に回ることで総需要を増やします。減税の効果は、限界消費性向が高いほど大きくなります。2024年度第7問では、減税の乗数効果を大きくするものとして限界消費性向の上昇が問われました。
ただし、減税は政府支出のように総需要を直接1増やすわけではありません。減税による可処分所得増加のうち、消費に回るのは c の分です。そのため、同じ1単位の変化なら、租税乗数の絶対値は政府支出乗数より小さくなります。
完全雇用GDPを達成するための政策規模を問う問題では、GDPの不足額をそのまま政府支出増加額にしてはいけません。乗数があるため、必要な自律的需要の増加額は、GDP不足額より小さくなる場合があります。図では、横方向のGDP差ではなく、総需要線を上へ動かす縦方向の幅を確認します。
投資の決定要因
投資は、45度線分析では自律的需要として扱われることが多いですが、別の問題では投資そのものの決定要因も問われます。
利子率が低下すると、資金調達コストが下がるため、通常は投資が増えます。利子率が上昇すると、投資は減りやすくなります。投資が利子率に依存する形では、I = I0 - br のように表されます。
投資の限界効率は、投資から期待される収益率です。投資の限界効率が利子率を上回るなら、投資を行う誘因があります。逆に、利子率が高すぎると投資は採算に合いにくくなります。
トービンのqは、企業価値と資本の再取得費用の比率です。qが1を上回ると、市場で評価される企業価値が資本の取得費用を上回るため、新規投資が有利になりやすいと考えます。qが1を下回ると、新規投資は抑制されやすくなります。
加速度原理では、投資は生産量の水準そのものではなく、生産量の変化に反応します。単純には、望ましい資本ストックを K = vY と考え、純投資を生産量の増加分に比例させます。
I = v(Yt - Yt-1)
2025年度第8問では、生産量の増加幅が前期より大きくなると投資が増加し、増加幅が前期と同じなら投資の増加率はゼロになることが問われました。生産量が増えているかと、投資がさらに増えているかを分ける必要があります。
45度線図で迷ったときの読み順
45度線図の問題では、線分名を先に暗記するより、次の順で確認します。
- 45度線は
AD = Yです。総供給やGDPはここで読みます。 - 総需要はAD線上で読みます。
- 均衡GDPは45度線とAD線の交点で読みます。
- 自律的需要の増加はAD線の上方シフトです。
- 限界消費性向や限界輸入性向の変化は、傾きや乗数の変化です。
- デフレ・ギャップは、完全雇用GDP水準での需要不足として確認します。
- 乗数は、最終的なGDP増加分を最初の需要増加分で割って読みます。
2025年度第7問では、総供給、総需要、デフレ・ギャップ、限界消費性向、減税による総需要増加、GDP増加、租税乗数を、図の線分で読ませました。線分を丸暗記するのではなく、「その線分が何を測っているか」を対応づけることが必要です。
この章のまとめ
この章では、45度線分析を使って、短期の生産物市場でGDPがどう決まるかを学びました。最後に、試験での確認順をまとめます。
まず、均衡条件は総需要=総供給です。式では Y = C + I + G、図では45度線と総需要線の交点で読みます。開放経済では X - M が入り、輸入は国内所得循環からの漏出として乗数を小さくします。
次に、消費関数を確認します。限界消費性向は消費関数の傾きであり、限界貯蓄性向は 1 - c です。直線の消費関数では限界消費性向は一定ですが、基礎消費があると平均消費性向は所得が増えるほど低下しやすくなります。
乗数では、政府支出乗数と投資乗数は 1 / (1 - c)、租税乗数は -c / (1 - c)、均衡予算乗数は 1 です。租税乗数の符号と、均衡予算乗数を取り違えないようにします。
図の問題では、45度線、AD線、横軸を分けます。総需要はAD線、総供給は45度線、GDPは横軸です。デフレ・ギャップは、完全雇用GDP水準での需要不足として読む問題が多いです。
貯蓄・投資図では、S = I の交点が均衡GDPです。貯蓄意欲の上昇は、短期には消費を減らし、GDPを低下させやすくなります。倹約のパラドックスは、貯蓄を増やそうとする行動が経済全体では所得低下を通じて貯蓄増加を妨げるという考え方です。
投資理論では、利子率低下、投資の限界効率、加速度原理、トービンのqを方向で押さえます。特に加速度原理では、生産量の水準ではなく、生産量の変化に投資が反応する点を確認します。
一次試験過去問での出方
- 2010年 第5問:
Y = C + I + GとC = C0 + c(Y - T)から、均衡GDP、消費、貯蓄、均衡予算乗数、減税効果を判定しました。- 2013年 第3問: 総需要関数と完全雇用GDPから、均衡GDPとデフレ・ギャップを計算しました。デフレ・ギャップは完全雇用GDP水準での需要不足として読む点が重要でした。
- 2019年 第5問: 開放経済の45度線図で、限界消費性向と限界輸入性向が乗数に与える影響、総需要線の傾きと平行移動の違いが問われました。
- 2020年 第4問: 貯蓄・投資図で、
S = Iの交点、均衡GDPの左右、倹約のパラドックスが問われました。- 2021年 第5問: 政府支出乗数、投資乗数、租税乗数、均衡予算乗数の組み合わせが問われました。
- 2022年 第5問: 限界消費性向が低下すると、政府支出乗数が小さくなることが問われました。
- 2022年 第6問: 45度線図で、総需要線の傾き、切片、投資支出と政府支出の乗数、完全雇用GDPへ到達するための総需要シフトが問われました。
- 2023年第1回 第7問: 投資支出の増加は、総需要線を上方へ平行移動させるが、傾きは変えないことが問われました。
- 2023年第2回 第7問: 貯蓄・投資図で、平均貯蓄性向、限界貯蓄性向、超過需要、倹約のパラドックス、独立消費、利子率低下の影響が問われました。
- 2024年 第5問: ケインズ型消費関数で、限界消費性向と平均消費性向の違いが問われました。
- 2024年 第7問: 減税の乗数効果を大きくする条件として、限界消費性向の上昇が問われました。
- 2025年 第7問: 45度線図で、総供給、総需要、デフレ・ギャップ、限界消費性向、減税によるGDP増加、租税乗数を線分で読ませました。
- 2025年 第8問: 加速度原理で、生産量の増加幅と投資の増減を区別する問題が出ました。
近年は、45度線図の線分を単純に暗記させるより、「AD線上で読む量か」「45度線上で読む量か」「横方向のGDP差か」「縦方向の需要不足か」を判定させる出題が目立ちます。式、図、政策ショックの3つを対応づけて復習してください。