N
NARITAI

経済学・経済政策

補助

政府支出

政府支出単独ではなく、財政政策と乗数の中で扱う。

この章で覚えておきたいこと

政府支出が総需要、所得、消費へ波及する乗数効果をまとめる手書き風図解

政府支出は、政府が財貨・サービスを購入したり公共事業を行ったりする支出です。マクロ経済では、総需要を構成する項目のひとつとして扱います。

このトピック単独の出題は多くありません。試験では、45度線分析、財政政策、IS-LM分析、クラウディング・アウトの中で、政府支出がどのように総需要を動かすかを問われます。

まず押さえるべきことは次の4点です。

  • 政府支出は、総需要に直接入る支出です。
  • 単純な45度線分析では、政府支出乗数は 1/(1-c) です。
  • 政府支出が増えても、在庫取り崩しや民間供給の代替なら効果は弱まります。
  • 公債発行を伴う場合は、利子率上昇と民間投資減少によるクラウディング・アウトを確認します。

基本知識

政府支出は総需要を直接増やす

政府支出が総需要へ直接入り、新たな財貨・サービスの需要を生む流れ

マクロ経済の支出面では、総需要を次のように整理します。

Y = C + I + G

ここで、Y はGDP、C は消費、I は投資、G は政府支出です。政府支出が増えると、まず G が増えるため、総需要が直接増えます。

この点が、減税との大きな違いです。減税は可処分所得を増やし、その一部が消費に回ることで総需要を増やします。一方、政府支出は、政府自身が需要を追加するため、最初の1円がそのまま総需要に入ります。

政府支出の問題では、「支出が増えたか」だけでなく、それが新たな財貨・サービスへの需要になっているかを確認します。新しい需要として生産に結びつくほど、GDPや雇用を押し上げる力が強くなります。

政府支出乗数の考え方

政府支出増が所得増と消費増へ波及する政府支出乗数のイメージ

単純な45度線分析では、消費関数を次のように置きます。

C = C0 + cY

c は限界消費性向です。政府支出が増えると所得が増え、所得が増えると消費が増え、消費の増加がさらに所得を増やします。この波及をまとめたものが乗数効果です。

政府支出乗数は次の式で表されます。

政府支出乗数 = 1/(1-c)

限界消費性向 c が大きいほど、増えた所得の多くが消費に回るため、乗数は大きくなります。反対に、限界貯蓄性向が大きいほど、所得が貯蓄に漏れるため、波及は小さくなります。

試験では、政府支出乗数そのものだけでなく、租税乗数や均衡予算乗数と比較して問われます。同額で比べると、政府支出は総需要へ直接入るため、減税より効果が大きくなります。

有効需要創出効果が弱まる場合

在庫対応や民間供給の代替で有効需要創出効果が弱まる場面

政府支出の増加は、いつも同じ大きさでGDPや雇用を増やすわけではありません。重要なのは、支出増加が新たな生産を必要とするかどうかです。

代表的に、効果が弱まる場合は2つあります。

ケースなぜ効果が弱まるか
在庫の取り崩しで対応する需要増加に対して新たな生産ではなく、既にある在庫で対応するため
政府が民間供給を代替する政府支出が増えても、民間支出や民間供給が減り、総需要の純増が小さくなるため

在庫の取り崩しは、問題文では「財貨・サービスの供給を在庫で対応する」のように表現されます。この場合、販売は増えても、生産や雇用がすぐに増えるとは限りません。

民間供給の代替は、以前は民間が供給していた財貨・サービスを政府が代わりに供給する場合です。政府支出だけを見れば増えていますが、民間部門の支出や供給が減っていれば、経済全体の需要増加は小さくなります。

公債発行とクラウディング・アウト

公債発行から債券供給増、利子率上昇、民間投資減へ進むクラウディング・アウトの流れ

政府支出を公債発行でまかなう場合は、クラウディング・アウトを確認します。

クラウディング・アウトとは、財政拡張によって利子率が上昇し、民間投資が押し下げられる現象です。政府支出の増加でIS曲線が右方に動くと、通常は所得が増える一方で利子率も上昇します。利子率が上がると、企業の設備投資や家計の住宅投資が減りやすくなります。

ただし、債券市場の説明には注意が必要です。公債発行は、政府が債券を発行することなので、まず債券の供給増加として考えます。「公債発行で債券市場に超過需要が生じる」と書かれていれば、因果の起点が誤りです。

また、政府支出が増えて所得が増える局面では、取引のための貨幣需要は通常増える方向です。「政府支出の増加で貨幣の取引需要が減少する」という説明も疑います。

この章のまとめ

政府支出乗数、租税乗数、均衡GDP、限界消費性向、符号を確認する手書き風図解

政府支出の問題は、次の順で判断します。

  1. 政府支出が総需要に直接入る支出であることを確認します。
  2. 45度線分析なら、政府支出乗数 1/(1-c) を使います。
  3. 減税との比較なら、政府支出は直接効果、減税は消費経由の効果だと分けます。
  4. 効果が弱まるケースなら、新たな生産につながるか、民間支出を置き換えていないかを見ます。
  5. 公債発行が出たら、債券供給、利子率上昇、民間投資減少の流れを確認します。

ひっかけで多いのは、政府支出の増加を「必ずそのままGDP増加」として扱う選択肢です。在庫の取り崩しや民間供給の代替では、有効需要創出効果は弱まります。

もうひとつのひっかけは、クラウディング・アウトの因果です。公債発行による財源調達では、債券の供給増加から考えます。後半の「利子率が上がり、民間投資が抑えられる」という方向が正しくても、前半の債券市場の説明がずれていれば誤りです。

最後に、政府支出は独立して暗記するより、生産物市場とGDPの45度線分析、IS-LM曲線、租税と財政政策に接続して理解します。政府支出単独の細かい分類より、「総需要に直接入る」「効果が弱まる条件を見抜く」「クラウディング・アウトと混同しない」の3点が得点に直結します。

一次試験過去問での出方

2013年 第7問では、政府支出の増加が持つ有効需要創出効果がないケース、または効果が弱められるケースが問われました。在庫の取り崩しで対応するケースと、政府が民間供給を代替するケースを選ぶ問題です。公債発行による民間投資抑制はクラウディング・アウトとして重要ですが、選択肢では債券市場の説明が「超過需要」となっており、因果の起点が誤っていました。