経済学・経済政策
標準古典派と新古典派の理論
価格調整、完全雇用、セイの法則、貨幣数量説を整理する。
この章で覚えておきたいこと
古典派・新古典派は、ケインズ理論と対比して出ます。細かい学説名を追うより、まず「何が柔軟に調整される前提か」「GDPは需要側と供給側のどちらで決まるか」「貨幣は実質変数を動かすか」を整理します。
- 古典派では、価格と賃金は伸縮的に調整されると考えます。
- 労働市場では実質賃金が調整され、経済は完全雇用へ向かうと考えます。
- GDPは有効需要ではなく、労働・資本・技術などの供給サイドで決まると整理します。
- セイの法則は「供給はそれ自ら需要をつくる」という古典派の考え方です。
- 貨幣数量説では、名目貨幣供給の増加は主に物価水準へ反映されます。
- 新古典派成長論では、定常状態の1人当たり産出量を、貯蓄率、人口成長率、資本蓄積から読みます。
試験では、古典派を「需要不足を重視する理論」として読むと誤ります。価格・賃金の調整、完全雇用GDP、貨幣の中立性、ソロー型成長モデルの比較静学を、同じ供給側の発想としてつなげて押さえます。
基本知識
価格と賃金の伸縮性
古典派マクロ経済理論では、市場の価格調整メカニズムが十分に働くと考えます。財市場で需要が供給を上回れば価格が上がり、供給が需要を上回れば価格が下がります。この価格変化によって、需要量と供給量は均衡へ向かいます。
労働市場でも、名目賃金と物価が調整されることで実質賃金が労働需要と労働供給を調整します。実質賃金が高すぎると企業の労働需要は減り、労働供給は増えるため失業が生じます。実質賃金が下がれば、企業は雇用を増やし、労働供給は減るため、失業は解消へ向かうと考えます。
ここで重要なのは、古典派が「失業は絶対に観察されない」と考えるわけではないことです。価格や賃金が伸縮的なら、失業があっても調整過程を通じて完全雇用へ戻る、という整理です。
完全雇用GDPと供給サイド
古典派では、労働市場で完全雇用が実現し、その雇用量と資本・技術によって実質GDPが決まります。このときのGDPを完全雇用GDPと呼びます。
したがって、古典派ではGDPを「需要が足りるかどうか」よりも、「完全雇用のもとでどれだけ生産できるか」から考えます。試験で「古典派ではGDPが需要サイドから決まる」とあれば誤りです。正しくは、GDPは供給サイドから決まると読みます。
AD-AS図で表すと、古典派の総供給曲線は完全雇用GDPの位置で垂直になります。物価水準が変化しても、名目賃金率も同じ方向に調整されれば、実質賃金、雇用量、実質GDPは変わりません。
セイの法則と有効需要の原理
セイの法則は、「供給はそれ自ら需要をつくる」という古典派の考え方です。生産活動によって所得が生まれ、その所得が財・サービスへの需要になるため、経済全体で一般的な需要不足は長く続きにくいと考えます。
これに対して、ケインズ理論の有効需要の原理では、実際に支出される需要が不足すれば、生産と雇用は完全雇用水準を下回ると考えます。
一次試験では、空欄補充で「古典派では セイの法則 が成立し、供給 サイドからGDPが決定される」といった形で問われます。セイの法則を需要サイドの理論、有効需要の原理を供給サイドの理論と取り違えないことが最重要です。
古典派の二分法と貨幣の中立性
古典派の整理では、実質GDP、雇用量、実質賃金、実質利子率などの実質変数は、労働・資本・技術・選好などの実物面で決まります。一方、物価水準、名目賃金、名目貨幣供給のような名目変数は、貨幣面で決まります。
このように実物面と貨幣面を分ける考え方を古典派の二分法といいます。そこから、貨幣供給量の変化は長期的には実質GDPや雇用を変えず、物価など名目変数を変えるだけだとする貨幣の中立性が導かれます。
試験では「貨幣市場の均衡条件によって実質利子率が決まり、貨幣的側面が実物面に影響する」という形の選択肢に注意します。古典派では、実質GDPは労働市場の均衡から決まり、貨幣供給を増やしても実質GDPは拡大しません。
貨幣数量説
貨幣数量説は、貨幣量と物価水準の関係を説明する考え方です。代表的には次の数量方程式で整理します。
MV = PY
M は名目貨幣供給、V は貨幣の流通速度、P は物価水準、Y は実質GDPです。古典派的な整理で V と Y が一定なら、M が増えると P が比例的に上がります。
たとえば、名目貨幣供給が n 倍になり、貨幣の中立性が成り立つなら、実質GDPや雇用量ではなく、物価水準がn倍になります。実質貨幣供給 M/P は、物価が同じ割合で上がるため一定に保たれます。
ここで「貨幣供給が増えれば実質GDPが増える」と読むと誤りです。古典派では、貨幣供給の増加は主にインフレとして現れ、実質生産量には影響しないと考えます。
垂直な総供給曲線と政策効果
古典派モデルのAD-AS図では、総供給曲線 AS は完全雇用GDP Y_F の位置で垂直になります。これは、物価水準が変わっても雇用量と実質GDPが変わらない、という意味です。
この前提では、政府支出の増加や名目貨幣供給の増加で総需要曲線が動いても、実質GDPは完全雇用GDPにとどまりやすくなります。金融政策で名目貨幣供給を増やすと、物価と名目賃金率が同率で上がり、実質GDPには影響しないと整理します。
試験では、「物価上昇で実質賃金が下がり、労働需要が増え、総供給が増える」という選択肢が出ることがあります。古典派モデルでは、名目賃金も調整されるため実質賃金は変わらず、総供給は完全雇用水準で一定です。
新古典派成長論と定常状態
新古典派成長論では、労働1単位当たりの資本を k = K/N、労働1単位当たりの生産量を y = f(k) として、1人当たりの生産量がどの水準へ向かうかを考えます。一次試験では、ソロー型成長モデルの図を使い、実際投資 sf(k) と、資本を維持するために必要な投資 (n + δ)k の交点を読みます。
定常状態では、資本・労働比率が一定になります。
sf(k) = (n + δ)k
ここで s は貯蓄率、n は労働成長率、δ は資本減耗率です。貯蓄率 s が上がると sf(k) が上方へ動き、定常状態の k と y は上がります。逆に、貯蓄率が下がると、定常状態の k と y は下がります。
労働成長率 n が上がると、同じ1人当たり資本を維持するために必要な投資が増え、(n + δ)k が上方へ動きます。その結果、定常状態の k は低下し、y = f(k) も低下します。労働成長率が下がる場合は反対に、定常状態の k と y は上がります。
内生的成長論との違い
新古典派成長論では、資本の限界生産力逓減により、1人当たり産出量は定常状態へ収束しやすいと考えます。長期的な1人当たり成長を持続させるには、技術進歩のような要因が重要になります。
これに対して、内生的成長論は、教育、知識、人的資本、研究開発などをモデルの外から与えるだけでなく、経済の内部で成長を生み出す要因として扱います。AKモデルでは、資本に関する限界生産力逓減を置かず、資本蓄積による持続的成長を説明しようとします。
試験では、「新古典派は持続的な1人当たり成長を説明し、内生的成長論は長期的に一定水準へ収束する」といった逆の説明に注意します。標準的には、新古典派は定常収束、内生的成長論は持続的成長の説明と整理します。
この章のまとめ
古典派・新古典派の問題は、理論名だけでなく、前提から結論までを一列に並べると解きやすくなります。
まず、問題文に「価格」「賃金」「完全雇用」「供給サイド」「セイの法則」があれば、古典派の前提を疑います。価格と賃金が伸縮的に調整されるなら、労働市場は完全雇用へ向かい、GDPは完全雇用GDPで決まります。
次に、貨幣が出たら名目変数と実質変数を分けます。貨幣数量説では MV = PY を使い、貨幣供給の増加は、長期的には実質GDPではなく物価水準へ反映されると判断します。
AD-AS図では、古典派の AS は完全雇用GDPで垂直です。総需要が動いても、実質GDPではなく物価水準が変わる、という見方を優先します。
成長モデルでは、曲線のどちらが動くかを確認します。貯蓄率 s は sf(k)、労働成長率 n は (n + δ)k に効きます。s の低下は k と y を下げ、n の上昇も k と y を下げます。
最後に、ケインズ理論との対比を忘れないようにします。需要不足、非自発的失業、価格・賃金の硬直性、有効需要の原理はケインズ寄りです。古典派・新古典派では、価格調整、完全雇用、供給サイド、貨幣の中立性を中心に読んでください。
一次試験過去問での出方
2008年 第4問では、古典派マクロで成立する法則と、GDPがどちらの側から決まるかが問われました。正解の軸は、セイの法則と供給サイドです。
2009年 第7問と2014年 第10問では、貨幣数量説と貨幣の中立性が問われました。名目貨幣供給の増加は、実質GDPではなく物価水準に反映されます。
2013年 第11問と2015年 第11問では、新古典派成長モデルで、労働成長率や貯蓄率の変化が定常状態の資本・労働比率と1人当たり生産量へ与える影響が問われました。
2022年 第7問 設問1では、垂直な総供給曲線と完全雇用GDPが問われました。物価水準が変わっても、名目賃金率も調整されるため、雇用量と実質GDPは完全雇用水準に維持されます。
2007年 第10問では、内生的成長論と新古典派成長論の違いが問われました。人的資本や研究開発を成長要因として扱う点、AKモデルが限界生産力逓減を置かない点を確認します。