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経済学・経済政策

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ケインズ理論

A_02の45度線・有効需要の前提として扱う。

この章で覚えておきたいこと

ケインズ理論で有効需要、需要不足、非自発的失業、政策効果を最初に押さえる図解

ケインズ理論は、理論史を細かく暗記するためではなく、45度線分析、IS-LM、財政政策、金融政策を読む前提として使います。まず、次の点を押さえます。

  • ケインズ理論では、国民所得と雇用は有効需要に大きく左右されます。
  • 需要が不足すると、経済は完全雇用GDPより低い水準で均衡し、非自発的失業が残ることがあります。
  • 価格や賃金がすぐに調整されない短期では、市場の自動調整だけで不況が解消するとは限りません。
  • 政府支出の増加や減税は、総需要を増やし、乗数効果を通じてGDPを押し上げます。
  • 流動性のわなでは、金融政策は効きにくくなり、財政政策は相対的に効きやすくなります。
  • 古典派・新古典派の「価格・賃金が柔軟なら完全雇用へ戻る」という見方と対比して理解します。

このトピック自体は、カテゴリインデックス上では直接の出題参照がありません。ただし、45度線分析、財政政策、金融政策、AD-AS、古典派理論との対比で繰り返し前提になります。理論名の細部より、需要不足が所得と雇用を下げるという骨格を優先してください。

基本知識

有効需要の原理

有効需要が消費・投資・政府支出を通じて生産と雇用を左右することを示す図解

有効需要とは、実際に支出として現れる需要です。家計の消費、企業の投資、政府支出、純輸出が総需要をつくり、その大きさが企業の生産量と雇用量を左右します。

ケインズ理論では、生産量は「供給能力があるか」だけで決まりません。売れる見込みが弱ければ、企業は設備や労働力に余裕があっても生産を増やしにくくなります。したがって、総需要が不足すると、完全雇用GDPより低い所得水準で均衡することがあります。

試験では、有効需要の原理をセイの法則と対比します。セイの法則は「供給はそれ自ら需要をつくる」という古典派的な考え方です。これに対して、ケインズ理論では需要が生産を制約する局面を重視します。

価格・賃金の硬直性と非自発的失業

価格や賃金の硬直性と需要不足により非自発的失業が残ることを示す図解

非自発的失業とは、働く意思があり、現在の賃金でも働きたい人がいるのに、雇用されない状態です。ケインズ理論では、賃金が下がればすぐに労働市場が均衡するとは考えません。

名目賃金や価格が下がりにくいと、需要不足が続いたときに企業は雇用を増やしにくくなります。仮に賃金が下がっても、家計所得が減って消費が弱くなれば、企業の販売見込みは改善しないことがあります。

ここでの判断軸は、労働市場だけを見るのではなく、生産物市場の需要不足まで見ることです。古典派的な問題では実質賃金の調整で完全雇用へ向かうと読み、ケインズ的な問題では価格・賃金の硬直性と需要不足から失業が残ると読みます。

45度線分析とのつながり

45度線分析で均衡GDPと完全雇用GDPの差を需要不足として読む図解

45度線分析は、ケインズ型の考え方を図と式にしたものです。均衡条件は、総需要と総供給が一致することです。

Y = AD

閉鎖経済では、総需要を次のように置くことが多いです。

AD = C + I + G

消費関数が C = C0 + cY なら、限界消費性向 c が大きいほど、所得増加が次の消費増加につながりやすくなります。このため、投資や政府支出が増えたときのGDP増加幅も大きくなります。

45度線図では、需要不足があると均衡GDPは完全雇用GDPを下回ります。デフレ・ギャップは、単なる横軸上のGDP差ではなく、完全雇用GDP水準での需要不足として読ませる問題があるため、生産物市場とGDPの論点と接続して復習します。

乗数効果と財政政策

政府支出や減税が所得と消費を通じてGDPを増やす乗数効果の図解

乗数効果とは、自律的需要の増加が所得を増やし、その所得増加がさらに消費を増やすことで、最終的なGDP増加が最初の支出増加より大きくなる仕組みです。

単純なケインズ型モデルでは、政府支出乗数は次の式です。

1 / (1 - c)

租税乗数は次の式です。

-c / (1 - c)

政府支出は総需要を直接増やします。一方、減税は可処分所得を増やし、そのうち限界消費性向 c の分が消費として総需要に回ります。そのため、同じ1単位の変化なら、租税乗数の絶対値は政府支出乗数より小さくなります。

ただし、政府支出がいつでも同じ強さでGDPを増やすわけではありません。在庫の取り崩しで需要増に対応する場合や、政府支出が民間供給を代替するだけの場合は、有効需要創出効果が弱くなります。財政政策は、追加需要が追加生産につながるかまで確認します。

クラウディング・アウト

財政拡張が利子率上昇を通じて民間投資を抑えるクラウディング・アウトの図解

クラウディング・アウトとは、財政拡張によって利子率が上昇し、民間投資が抑えられることです。政府支出が増えると総需要は増えますが、同時に貨幣需要が増えたり、国債発行が増えたりすると、利子率が上がる方向に働くことがあります。

試験では、クラウディング・アウトを「財政政策が常に無効」という意味で読まないことが重要です。民間投資がどれだけ利子率に反応するか、LM曲線がどのような形かによって、財政政策の所得拡大効果は変わります。

典型的には、LM曲線が垂直に近いほどクラウディング・アウトは大きく、財政政策の効果は弱くなります。LM曲線が水平に近いほど利子率が上がりにくく、クラウディング・アウトは小さくなります。

流動性のわな

流動性のわなで金融政策が効きにくく財政政策が効きやすいことを示す図解

流動性のわなは、利子率が十分に低く、人々が追加的な貨幣を債券ではなく貨幣のまま保有しようとする状態です。このとき、貨幣供給を増やしても利子率が下がりにくく、投資やGDPへの波及が弱くなります。

IS-LMで読むと、流動性のわなではLM曲線が水平に近くなります。金融政策はLM曲線を動かす政策ですが、利子率がほとんど下がらなければ、投資が増えにくくなります。したがって、流動性のわなでは金融政策は効きにくいと整理します。

一方で、政府支出はIS曲線を右へ動かし、総需要を直接増やします。LM曲線が水平に近ければ利子率が上がりにくいため、クラウディング・アウトも小さくなります。したがって、財政政策は効きやすいと判断します。

ひっかけでは、「流動性のわなでは財政政策が完全なクラウディング・アウトを招く」「貨幣需要の利子弾力性がゼロになる」といった逆の記述が出ます。流動性のわなでは、貨幣需要の利子弾力性は極めて大きい、と押さえます。

ケインズ的な投資の見方

投資の限界効率と利子率を比較して投資判断を行うことを示す図解

投資は、ケインズ理論では総需要の重要な構成要素です。企業は、投資から期待される収益率と利子率を比較して投資を判断します。

ケインズの投資理論では、投資の限界効率 MEC が利子率 r を上回るとき、投資を実行する誘因があります。

MEC > r

利子率が下がれば、採算に合う投資案件が増えやすくなります。反対に、利子率が上がると投資は抑えられやすくなります。この考え方は、IS曲線や金融政策の波及経路で使います。

試験では、「投資の限界効率が利子率を下回るほど投資が有利になる」という逆の記述に注意します。投資は、期待収益率が資金調達コストを上回るかで判断します。

古典派・新古典派との対比

ケインズ理論と古典派・新古典派の前提の違いを比較する図解

ケインズ理論を理解するには、古典派・新古典派との違いを一文で言えることが重要です。

比較軸ケインズ理論古典派・新古典派
重視する市場生産物市場の需要不足価格・賃金による市場調整
雇用の見方非自発的失業が残りうる賃金調整で完全雇用へ向かう
需要不足起こりうる長期的には起こりにくい
財政政策不況期に有効になりやすい効果は限定的に見られやすい
貨幣の役割短期には利子率・投資を通じて実体経済へ影響長期では物価中心に影響

この表は、理論名を暗記するためではなく、選択肢を切るための比較表です。「有効需要」「非自発的失業」「価格・賃金の硬直性」「セイの法則」「貨幣数量説」が出たら、どちらの理論に近い記述かを判定します。

この章のまとめ

ケインズ理論の需要不足から政策効果までの流れをまとめた図解

ケインズ理論では、短期の国民所得と雇用は有効需要に左右されます。価格や賃金がすぐに調整されないと、需要不足によって完全雇用GDPより低い水準で均衡し、非自発的失業が残ることがあります。

45度線分析では、この考え方を Y = AD の均衡として読みます。政府支出、投資、消費が増えると総需要が増え、乗数効果を通じてGDPが増えます。政府支出乗数は 1 / (1 - c)、租税乗数は -c / (1 - c) です。

財政政策を読むときは、支出増が追加生産につながるか、クラウディング・アウトで民間投資が抑えられないかを確認します。流動性のわなでは利子率が上がりにくいため、クラウディング・アウトは小さく、財政政策は相対的に効きやすいです。

金融政策を読むときは、「貨幣供給増加 -> 利子率低下 -> 投資増加 -> GDP増加」の順に追います。流動性のわなでは、利子率低下の経路が弱くなり、金融政策は効きにくくなります。

最後に、古典派・新古典派との対比を確認します。古典派・新古典派は価格や賃金の柔軟な調整を重視し、完全雇用へ向かうと考えます。ケインズ理論は、需要不足と価格・賃金の硬直性により、完全雇用へ自動的に戻らない場合を重視します。

一次試験過去問での出方

  • 2008年 第4問: セイの法則と有効需要の原理が対比されました。セイの法則は古典派、有効需要の原理はケインズ派です。
  • 2010年 第5問、2021年 第5問: ケインズ型45度線モデルで、均衡GDP、政府支出乗数、租税乗数、均衡予算乗数が問われました。
  • 2010年 第6問、2011年 第5問、2012年 第8問、2019年 第8問: 流動性のわなでは金融政策が効きにくく、財政政策が相対的に効きやすいことが問われました。
  • 2010年 第20問、2025年 第8問: 投資理論で、ケインズの投資限界効率、加速度原理、トービンのqなどの比較が問われました。
  • 2013年 第7問: 政府支出の有効需要創出効果が弱まる場合として、在庫取り崩しや民間供給の代替が問われました。
  • 2023年第1回 第11問 設問2: 国債発行を伴う財政政策、流動性のわな、国債中立命題などが比較されました。

このトピックとしての直接参照はありませんが、マクロ経済理論と経済政策の頻出論点を解く土台です。近年は、理論名そのものより、財政政策・金融政策・投資・消費関数の因果を正しく追えるかが問われています。