経済学・経済政策
最優先市場の失敗
外部性、公共財、情報の非対称性、規制・課税・補助金を厚く扱う。
この章で覚えておきたいこと
市場の失敗では、「市場があるのになぜ効率的にならないのか」を原因別に見分けます。暗記する名前は多いですが、一次試験では次の判断軸に集約できます。
- 市場の失敗とは、市場取引に任せても効率的な資源配分が実現しない状態です。
- 負の外部性では、私的限界費用が社会的限界費用を下回り、取引量が過大になります。
- 正の外部性では、私的な便益または費用だけで判断するため、社会的に望ましい活動が過少になりやすいです。
- 外部性の図では、外部費用の総額と死荷重を同じ面積として読まないことが重要です。
- 公共財は、非競合性と非排除性で定義します。政府が供給する財という意味ではありません。
- 財の4分類は、競合性と排除可能性の2軸で、私的財、クラブ財、共有資源、公共財に分けます。
- 情報の非対称性では、契約前の逆選択と契約後のモラルハザードを分けます。
- 政策手段は、ピグー税、補助金、数量規制、排出権取引、情報開示、二部料金制などを、失敗の原因に合わせて選びます。
試験では、外部性の図形問題、公共財・共有資源・クラブ財の分類、自然独占の価格形成、コースの定理、費用便益分析が繰り返し問われます。用語の丸暗記より、どの曲線の差を、どの数量まで積み上げるかを確認することが得点に直結します。
基本知識
市場の失敗とは何か
完全競争市場では、多数の売り手と買い手が価格を受け入れ、財の性質や情報が整っていれば、需要曲線と供給曲線の交点で効率的な資源配分が実現しやすくなります。
しかし、現実には市場価格に反映されない費用や便益、排除しにくい財、情報格差、規模の経済などがあります。このような理由で、個人や企業の私的な意思決定と社会全体で望ましい結果がずれる状態を市場の失敗といいます。
一次試験では、原因を次のように分けると整理しやすいです。
| 原因 | 何がずれるか | 典型例 | 政策の方向 |
|---|---|---|---|
| 外部性 | 私的費用・便益と社会的費用・便益 | 公害、混雑、研究開発 | 課税、補助金、規制、交渉 |
| 公共財 | 料金を払わない人を排除しにくい | 治安、防衛、街灯 | 公的供給、負担ルール |
| 共有資源 | 排除しにくいが消費は競合する | 漁場、混雑道路 | 利用許可、課金、規制 |
| 情報の非対称性 | 取引相手の質や行動が見えにくい | 中古車、保険、金融 | 情報開示、審査、監視 |
| 自然独占 | 平均費用が長く低下する | 電力、ガス、鉄道 | 価格規制、二部料金制 |
負の外部性と社会的限界費用
外部性とは、ある経済主体の行動が、市場取引を通さずに第三者へ影響を与えることです。
負の外部性では、工場排水、騒音、交通渋滞、二酸化炭素排出のように、第三者へ費用が発生します。企業や消費者がその費用を負担しないと、私的な意思決定では取引量が社会的に望ましい水準より多くなります。
生産に負の外部性がある場合は、次の位置関係を押さえます。
- 私的限界費用曲線は、企業が自分で負担する費用です。
- 社会的限界費用曲線は、私的限界費用に外部費用を加えた費用です。
- したがって、社会的限界費用は私的限界費用より上にあります。
- 市場均衡は、需要曲線と私的限界費用曲線の交点で決まります。
- 社会的最適は、需要曲線と社会的限界費用曲線の交点で決まります。
このため、市場均衡量は社会的最適量より大きく、過剰生産による死荷重が生じます。
外部費用の総額と死荷重
外部性の面積問題では、外部費用の総額と死荷重を必ず分けます。
外部費用の総額は、社会的限界費用と私的限界費用の縦の差を、対象となる数量まで積み上げた面積です。市場均衡量まで発生している外部費用を問われたら、市場均衡量までの差分全体を見ます。
一方、死荷重は、社会的最適量を超えて生産・消費された部分で生じる純損失です。市場均衡量までの外部費用全体ではなく、社会的最適量から市場均衡量までの過剰な取引部分に注目します。
過去問では、2025年 第17問、2024年 第18問、2023年第2回 第20問、2012年 第21問で、この区別が問われています。特に、四角形で表される外部費用と、三角形で表される死荷重を取り違える選択肢がよく出ます。
ピグー税と補助金
外部性の内部化とは、外部費用や外部便益を意思決定者の費用・便益に反映させることです。
負の外部性には、ピグー税が代表的です。原因者に外部費用を負担させ、私的限界費用を社会的限界費用に近づけます。二酸化炭素排出量に応じた化石燃料への課税は、外部不経済の内部化として理解できます。
正の外部性には、補助金が代表的です。研究開発や基礎研究のように、社会全体には大きな便益があっても、企業が私的便益だけで判断すると過少になりやすい活動があります。この場合、補助金によって私的な採算を改善し、社会的に望ましい水準へ近づけます。
図形問題では、税額や補助金額を「曲線の縦の差」で読みます。総額を問われたら、1単位当たり額 × 対象数量で面積を取ります。市場均衡量を基準にするのか、社会的最適量を基準にするのかを確認してください。
コースの定理と取引費用
コースの定理は、権利関係が明確で、当事者間の交渉に取引費用がかからなければ、政府が直接介入しなくても外部性が内部化され、効率的な資源配分が実現しうるという考え方です。
試験では、次の条件がそろっているかを見ます。
- 外部性の被害者や加害者が特定できる。
- 権利関係が明確である。
- 当事者間の交渉が可能である。
- 交渉費用がゼロ、または十分に小さい。
2014年 第20問や2012年 第21問では、外部性の負担者が限られ、交渉費用がゼロであるという条件の下で、効率的な生産量へ調整されるかが問われました。
ただし、現実には関係者が多い、交渉費用が大きい、損害額を測りにくいといった理由で、コースの定理がそのまま機能しにくい場合があります。そのため、課税、規制、補助金などの政策手段も必要になります。
公共財の定義
公共財は、非競合性と非排除性を持つ財です。
非競合性とは、ある人が消費しても他の人の消費可能性が減りにくい性質です。非排除性とは、対価を支払わない人を利用から排除しにくい性質です。
ここで重要なのは、公共財は「政府が供給する財」という意味ではないことです。定義は供給主体ではなく、財の性質で決まります。
公共財では、料金を払わなくても便益を受けられるため、フリーライダーが生じやすくなります。その結果、市場に任せると供給が過少になりやすいです。
典型例は、治安、防衛、街灯などです。医療扶助や住民票発行のような政府サービスでも、排除可能性や競合性があるものは、経済学上の公共財とは限りません。
財の4分類
公共財の問題は、競合性と排除可能性の2軸で4分類すると安定して解けます。
| 分類 | 競合性 | 排除可能性 | 例 | 試験での注意 |
|---|---|---|---|---|
| 私的財 | あり | あり | 食料、衣服、通常の医療サービス | 公共財ではない |
| クラブ財 | なし | あり | 有料配信、有料ケーブルテレビ、混雑しない有料道路 | 料金で排除できる |
| 共有資源 | あり | なし | 公海の魚介類、混雑道路、漁場 | 過剰利用が起きやすい |
| 公共財 | なし | なし | 治安、防衛、街灯、日光 | フリーライダーが起きやすい |
2024年 第19問、2023年第2回 第21問、2021年 第21問、2019年 第17問、2017年 第19問では、この分類が繰り返し問われています。
共有資源は、排除しにくい一方で消費が競合します。公海の魚介類や混雑道路では、誰かが多く利用すると他者の利用可能性が減ります。無償利用のままでは過剰利用になりやすいため、有償許可、利用制限、漁獲枠などが政策手段になります。
クラブ財は、排除可能だが非競合です。有料配信サービスや有料ケーブルテレビは、料金を支払わない人を排除できますが、混雑がない範囲では加入者どうしの消費は競合しにくいです。
情報の非対称性
情報の非対称性は、取引の一方が他方より多くの情報を持っている状態です。市場取引では、相手の質や行動が十分に見えないと、効率的な取引が成立しにくくなります。
代表例は、逆選択とモラルハザードです。
- 逆選択は、契約前の情報格差によって、質の悪いものが市場に残りやすくなる問題です。
- モラルハザードは、契約後に相手の行動を十分に観察できないため、注意や努力が不足する問題です。
この論点は、組織と戦略の経済学の情報の不完全性でも詳しく扱いますが、市場の失敗の一種としては、「市場価格だけでは質や行動を十分に反映できない」と押さえます。対策には、情報開示、審査、保証、監視、シグナリング、スクリーニングなどがあります。
自然独占と価格規制
自然独占は、固定費が大きく、平均費用が広い範囲で低下するため、1社で供給した方が費用面で有利になりやすい市場です。電力、ガス、水道、鉄道などが例になります。
自然独占では、放置すると独占価格になり、取引量が過少になりやすいです。一方で、完全競争のように価格を限界費用に等しくすると、平均費用が限界費用を上回るため、企業が赤字になる場合があります。
よく出る価格形成は次の2つです。
- 限界費用価格形成原理は、価格を限界費用に合わせます。効率的ですが、自然独占では赤字になりやすいです。
- 平均費用価格形成原理は、価格を平均費用に合わせます。独立採算を実現しやすいですが、限界費用価格より数量が少なくなりやすいです。
2011年 第22問では、限界費用価格形成の赤字と平均費用価格形成の独立採算が問われました。2020年 第21問では、二部料金制によって、従量料金を限界費用に近づけ、固定費部分を基本料金で回収する考え方が問われています。
価値財、費用便益分析、フライペーパー効果
市場の失敗の周辺論点として、価値財、費用便益分析、補助金の使われ方も出ます。
価値財は、社会的に望ましいのに、本人の短期的判断だけに任せると消費が不足しやすい財です。通常の医療サービスは、非競合性や非排除性を持つ公共財ではありませんが、健康維持の観点から価値財として扱われることがあります。
費用便益分析では、公共事業や政策について、便益から費用を差し引いた純便益で比較します。渋滞解消のような外部便益や、既存施設を残すことによる外部費用を忘れずに含めます。
フライペーパー効果は、国から地方自治体への補助金が、住民への現金給付や減税ではなく、公共支出に張り付いて使われやすい現象です。補助金を得たことと、地方税が自動的に減ることは同じではありません。
この章のまとめ
市場の失敗では、最初に「どの条件が崩れているか」を特定します。外部性なら私的費用・便益と社会的費用・便益のずれ、公共財なら非競合性と非排除性、共有資源なら競合性と非排除性、情報の非対称性なら契約前後の情報格差を見ます。
外部性の図では、次の順番で確認します。
- 生産の外部性か、消費の外部性かを確認します。
- 負の外部性なら、社会的限界費用は私的限界費用より上、または社会的限界価値は私的限界価値より下になります。
- 市場均衡は私的な曲線、社会的最適は社会的な曲線で決まります。
- 外部費用の総額は、曲線の差を数量まで積み上げます。
- 死荷重は、社会的最適量と市場均衡量の間の純損失だけを見ます。
- 税収や補助金総額は、1単位当たり額と対象数量の積で読みます。
公共財・共有資源の問題では、名称ではなく性質で判定します。政府が供給していても公共財とは限りません。有料配信はクラブ財、公海の魚介類は共有資源、治安や防衛は公共財です。
政策手段は、原因と対応をそろえます。負の外部性には課税や規制、正の外部性には補助金、公共財には公的供給や負担ルール、共有資源には利用制限や有償許可、情報の非対称性には情報開示や監視が対応します。自然独占では、限界費用価格形成、平均費用価格形成、二部料金制の違いを確認します。
一次試験過去問での出方
2008年 第11問 設問1・設問2: 医療サービスを価値財として判定し、公共財を非競合性と非排除性で定義する問題。
2010年 第15問、2014年 第20問、2016年 第17問、2018年 第16問、2020年 第18問、2023年第2回 第20問、2024年 第18問、2025年 第17問: 外部不経済の図形問題。私的限界費用・社会的限界費用、外部費用、死荷重、税収、補償額を面積で読む。
2011年 第24問: 消費の外部不経済で、私的限界価値と社会的限界価値の差、課税後価格、税収を問う問題。
2012年 第21問、2014年 第20問: コースの定理、数量規制、外部不経済の総額と死荷重の区別。
2012年 第22問、2017年 第19問、2019年 第17問、2021年 第21問、2023年第2回 第21問、2024年 第19問: 公共財、共有資源、クラブ財、私的財を競合性と排除可能性で分類する問題。
2011年 第22問、2020年 第21問: 自然独占の価格形成。限界費用価格形成、平均費用価格形成、二部料金制が問われた。
2017年 第22問: アイデアや基礎研究の外部経済、研究開発補助、限界費用ゼロの知識財。
2019年 第21問: 費用便益分析で、渋滞解消の便益を含めて公共施設の新築とリフォームを比較する問題。
2013年 第19問: 補助金の使われ方とフライペーパー効果。補助金と地方税減税を混同しないことが問われた。近年は、外部性の図と財の4分類が特に頻出です。面積問題では、外部費用、税収、補助金、死荷重、社会的余剰の名前を先に固定してから選択肢を読むと、ひっかけを避けやすくなります。