経済学・経済政策
補助規模の経済性・範囲の経済性
平均費用低下、自然独占、範囲の経済を短く整理する。
この章で覚えておきたいこと
規模の経済性と範囲の経済性は、どちらも「費用が下がる」話ですが、見ている軸が違います。規模の経済性は同じ財の生産量を増やす話、範囲の経済性は複数の財や事業を同じ企業がまとめて扱う話です。
- 規模の経済性は、生産量が増えるほど平均費用が低下する性質です。
- 範囲の経済性は、複数の製品・サービスを別々に供給するより、同じ企業がまとめて供給する方が費用を抑えられる性質です。
- 収穫逓増は生産関数の見方、規模の経済性は平均費用の見方です。
- 費用逓減産業では、長期平均費用が生産量の拡大とともに低下し、大規模企業が有利になりやすいです。
- 固定費が大きく平均費用が低下し続ける市場では、自然独占が生じやすくなります。
試験では、用語の暗記だけではなく、「何を増やしたときに、どの費用が下がるのか」を問われます。2016年度第22問のように、収穫逓増、規模の経済、集積の経済、費用逓減産業を並べ、見る対象を取り違えさせる出題に注意します。
基本知識
規模の経済性は生産量と平均費用で見る
規模の経済性とは、生産量が増えるほど、1単位当たりの平均費用が低下する性質です。費用を 固定費 + 可変費 で考えると、固定費が大きいほど、生産量が増えたときに固定費が多くの単位へ分散されます。
たとえば、大きな設備、通信網、研究開発、ソフトウェア開発のように、最初に大きな費用がかかる産業では、生産量や利用者数が増えるほど平均費用が下がりやすくなります。このため、大規模な企業ほど費用面で有利になります。
ここで見るのは、売上高が増えることそのものではありません。試験では、平均費用が低下するかを確認します。
収穫逓増と規模の経済性を区別する
収穫逓増は、投入要素を同じ割合で増やしたときに、産出量がそれ以上の割合で増える状態です。これは生産関数の見方です。
規模の経済性は、生産量が増えたときに平均費用が下がる状態です。これは費用曲線の見方です。
両者は結びつきやすいですが、同じ言葉ではありません。2016年度第22問では、収穫逓増産業では生産規模の拡大を通じて規模の経済のメリットを享受しうる、という判断が問われました。試験では、収穫逓増を「平均費用の低下につながりやすい背景」として読むと整理しやすいです。
範囲の経済性は複数製品をまとめる費用節約で見る
範囲の経済性とは、複数の製品やサービスを別々の企業が供給するより、同じ企業がまとめて供給する方が費用を抑えられる性質です。
共通の販売網、ブランド、店舗、物流、研究開発、顧客データ、設備などを使える場合に生じやすいです。たとえば、同じ店舗で複数の商品を扱う、同じ配送網で複数サービスを提供する、同じ顧客基盤へ関連サービスを追加する、といった場面です。
規模の経済性は「同じ製品を多く作る」話です。範囲の経済性は「複数の種類をまとめる」話です。選択肢に複数財、共通資源、共同生産、販売網の共用が出てきたら、範囲の経済性を疑います。
費用逓減産業は参入が容易とは限らない
費用逓減産業は、生産量が増えるほど長期平均費用が低下する産業です。これは大規模生産に有利な産業であり、中小企業にとって参入しやすいという意味ではありません。
むしろ、既存の大企業が低い平均費用で供給できるため、新規参入企業は費用面で不利になりやすいです。2016年度第22問では、「費用逓減産業は長期平均費用が低くなるので、中小企業にとって参入が容易である」という選択肢が誤りとして問われました。
費用逓減、規模の経済性、自然独占はつながりやすい論点です。平均費用が下がり続けるなら、複数企業で設備や固定費を重複させるより、1社で供給した方が低費用になる場合があります。
集積の経済は立地の集中で見る
集積の経済は、企業や関連産業が地理的に集中することで費用削減や生産性向上が生じることです。規模の経済性が1企業の生産規模に注目するのに対し、集積の経済は地域内の企業の近接に注目します。
企業が近くに集まると、労働市場が厚くなり、専門人材を採用しやすくなります。部材調達、物流、取引先との接触、情報共有、技術波及も起こりやすくなります。
試験では、工業団地、産業集積、企業誘致、地域活性化の文脈で出やすいです。見る対象は、1社の生産量ではなく、企業の集中立地です。
自然独占は規模の経済性の延長で考える
自然独占は、規模の経済性が強く、市場需要の範囲で平均費用が低下し続ける場合に生じやすいです。電力、水道、鉄道、通信網のように、固定費やネットワーク整備費が大きい産業でイメージしやすいです。
自然独占では、1社が大規模に供給した方が平均費用を低くできます。しかし、独占企業には価格支配力があるため、放置すると価格が高く、数量が少なくなりやすいです。
そのため、独占の弊害と寡占化の協調行動で扱う平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理につながります。限界費用価格形成は効率性に近い一方、自然独占では価格が平均費用を下回って赤字が出やすいです。平均費用価格形成は採算を合わせやすい一方、効率性は完全には満たしにくいです。
この章のまとめ
規模の経済性・範囲の経済性は、似た用語を一気に並べて誤らせる形で出ます。まず、問題文がどの対象を見ているかを固定します。
- 同じ財の生産量が増え、平均費用が下がるなら、規模の経済性です。
- 複数の製品や事業を同じ企業がまとめ、共通資源を使って費用が下がるなら、範囲の経済性です。
- 投入量と産出量の関係を見ているなら、収穫逓増・収穫逓減です。
- 企業が地域に集中して立地する効果なら、集積の経済です。
- 長期平均費用が低下する産業は、大規模企業が有利になりやすく、中小企業の参入が容易とは限りません。
ひっかけを避けるには、「量」「種類」「投入と産出」「立地」の4語で切り分けます。自然独占まで出てきたら、固定費が大きい、平均費用が下がる、1社供給が低費用、価格規制が必要、という流れで独占の価格形成論点と接続します。
一次試験過去問での出方
2016年度第22問では、収穫逓減、収穫逓増、規模の経済、集積の経済、費用逓減産業の違いが問われました。規模の経済性は生産規模と平均費用、集積の経済は企業の集中立地、費用逓減産業は大規模生産の有利さとして整理します。
自然独占の価格形成は、独占の弊害と寡占化の協調行動で頻出です。2023年度第1回第19問のように、平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理を図で読む問題では、規模の経済性により平均費用が低下しやすい背景を理解しておくと判断しやすくなります。