経済学・経済政策
重要独占の弊害と寡占化の協調行動
独占、寡占、カルテル、クールノー、ベルトランの基本を扱う。
この章で覚えておきたいこと
独占と寡占では、完全競争と違って、企業が価格や数量に影響を与えます。一次試験では、細かい理論名を暗記するだけでなく、図のどこで数量を決め、どこで価格を読むか、また企業間の協調がなぜ崩れやすいかを判断できることが重要です。
- 独占企業の利潤最大化数量は、
MR=MCで決まります。 - 独占価格は、
MR=MCの交点の高さではなく、選んだ数量を需要曲線まで戻して読みます。 - 独占では、完全競争より価格が高く、生産量が少なくなりやすく、死荷重が生じます。
- 総収入最大化は
MR=0であり、利潤最大化のMR=MCと区別します。 - 自然独占では、限界費用価格形成と平均費用価格形成の違いを押さえます。
- 寡占では、相手企業の反応を読みながら価格や数量を決めます。
- カルテルは全体としては利益を高めても、各企業には破る誘因があります。
- クールノーは数量競争、ベルトランは価格競争です。
- 市場集中度は、HHI や累積生産集中度で測ります。
試験では、2025年・2024年・2023年第2回のように独占市場の図を読ませる問題が続いています。まず独占図の読み方を固め、そのうえで自然独占、価格差別、寡占モデル、カルテル、市場集中度の用語へ広げると得点に結びつきます。
基本知識
独占企業は市場需要曲線に直面する
独占企業は、その市場で唯一の供給者なので、市場全体の需要曲線に直面します。販売量を増やすには価格を下げる必要があり、価格を上げると販売量は減ります。
このため、独占企業の限界収入 MR は需要曲線より下に描かれます。追加で1単位売るには、その追加分だけでなく、既存販売分にも低い価格を適用する必要があるからです。
完全競争企業は市場価格を所与とするプライス・テイカーですが、独占企業は価格に影響を与えるプライス・メイカーです。ただし、好きな価格を自由に選べるわけではありません。需要曲線があるため、価格と数量の組み合わせには制約があります。
利潤最大化は数量を先に決める
独占企業の利潤最大化では、まず**MR=MC となる数量**を選びます。次に、その数量から上へたどり、需要曲線上で価格を読みます。
この順序を間違えると、独占図の問題はほぼ外します。
MRとMCの交点を探します。- その交点に対応する数量を横軸で読みます。
- その数量から垂直に上がり、需要曲線
D上の点を探します。 - その点の高さを独占価格として読みます。
MR=MC の交点の縦座標は価格ではありません。 交点は数量を決める場所です。価格は必ず需要曲線上で読みます。
独占の余剰と死荷重
完全競争なら、需要曲線と限界費用曲線 MC が交わる数量に近いところまで取引されます。そこでは、消費者の支払意思額と追加生産費用が一致します。
独占では、MR=MC で数量を少なくし、その数量に対応する高い価格を設定します。その結果、完全競争なら取引されたはずの数量が取引されなくなり、死荷重が発生します。
余剰は、次の境界で読みます。
| 項目 | 図で見る境界 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 需要曲線と価格線の間 |
| 生産者余剰 | 価格線と限界費用曲線の間 |
| 死荷重 | 独占数量から効率的数量までの、需要曲線と限界費用曲線の間 |
消費者余剰の上限は需要曲線です。MR と価格線の間ではありません。生産者余剰も、基本は価格線と MC の間で読みます。平均費用 AC は利潤の判定に使います。
利潤最大化と総収入最大化
総収入は、価格と数量の積です。総収入が最大になる数量は、MR=0 となる点です。
利潤最大化は MR=MC、総収入最大化は MR=0 なので、目的によって数量条件が違います。ただし、どちらも価格は最後に需要曲線上で読みます。
| 目的 | 数量条件 | 価格の読み方 |
|---|---|---|
| 利潤最大化 | MR=MC | その数量の需要曲線上 |
| 総収入最大化 | MR=0 | その数量の需要曲線上 |
2025年の問題では、この違いがそのまま問われました。MC 上の高さや MR 上の高さを価格にしてしまう選択肢は、典型的なひっかけです。
独占利潤は価格と平均費用で読む
独占企業が黒字かどうかは、独占価格と平均費用 AC を比べます。選んだ数量において、価格が平均費用を上回れば黒字、価格が平均費用を下回れば赤字です。
利潤の面積は、次のように読みます。
- 1単位あたり利潤 = 価格 - 平均費用
- 総利潤 =
(価格 - 平均費用) × 数量
ここでも、数量は MR=MC で決めます。価格は需要曲線、平均費用は AC 曲線で読みます。価格と限界費用の差ではなく、価格と平均費用の差で利潤を読む点に注意します。
自然独占と価格規制
自然独占は、固定費が大きく、平均費用が広い範囲で逓減するため、1社で供給した方が低費用になりやすい市場です。電力、水道、鉄道、通信網のようなインフラ産業でイメージすると理解しやすくなります。
自然独占では、単純に独占企業へ任せると高価格・低数量になりやすいため、政府による価格規制が問題になります。一次試験で特に重要なのは、次の2つです。
| 原理 | 価格の決め方 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 限界費用価格形成原理 | P=MC | 資源配分が効率的 | 自然独占では赤字が出やすい |
| 平均費用価格形成原理 | P=AC | 独立採算を実現しやすい | 効率的数量より少なくなりやすい |
自然独占では通常、AC が MC より上にあります。そのため、P=MC にすると価格が平均費用を下回り、企業に赤字が生じやすくなります。一方、P=AC にすると損益はゼロに近づきますが、効率的な数量より取引量が少なくなりがちです。
価格差別と需要の価格弾力性
独占企業が市場を分けて異なる価格を設定できる場合、価格差別が行われます。一次試験では、特に第三次価格差別が出ます。
第三次価格差別では、学生向け価格と一般向け価格、地域Aと地域Bの価格のように、市場を分けて別々の価格を付けます。基本判断は、需要の価格弾力性です。
- 需要が非弾力的な市場では、高い価格を付けやすいです。
- 需要が弾力的な市場では、値上げで需要が大きく減るため、低い価格になりやすいです。
2015年と2019年の問題では、弾力性が低い市場ほど高価格、弾力性が高い市場ほど低価格という関係が問われました。価格差別では、単に「別価格にできるか」だけでなく、どちらの市場が高くなるかまで判断します。
マークアップ価格形成と価格設定
不完全競争では、企業が費用に一定の上乗せをして価格を決める考え方も問われます。マークアップ価格形成では、価格は単位費用にマークアップ率を乗せて決まります。
2010年の問題では、次の式が出ました。
P=(1+m)\frac{WL}{Y}
ここで m はマークアップ率、WL/Y は単位労働費用です。Y/L は労働の平均生産物なので、平均生産物が低下すると WL/Y は上昇し、価格も上がります。
需要の価格弾力性との関係も重要です。需要が弾力的な財では、価格を上げると販売量が大きく減るため、高いマークアップを取りにくくなります。したがって、弾力性が大きいほどマークアップは低くなりやすいです。
寡占とカルテル
寡占は、少数の企業が市場を占め、各企業の行動が相手企業の利潤に影響する市場です。完全競争や独占と違い、自社だけでなく相手の反応を考える必要があります。
カルテルは、企業同士が価格や数量を協調して、競争を弱める取り決めです。全企業がカルテルを守れば高い利潤を得られることがあります。しかし、他社が守っているときに自社だけ価格を下げれば、自社の販売量を増やせます。
このため、カルテルには協調が望ましいが裏切りが有利という構造があります。ゲーム理論の囚人のジレンマと同じく、全体として望ましい協調解と、各企業が個別に選びやすい均衡がずれる点を押さえます。
クールノー、ベルトラン、屈折需要曲線
寡占モデルでは、名前と競争手段の対応がよく問われます。
| モデル | 競争手段 | 覚え方 |
|---|---|---|
| クールノー競争 | 数量 | 相手の数量を所与として自社の数量を選ぶ |
| ベルトラン競争 | 価格 | 相手の価格を所与として自社の価格を選ぶ |
| 屈折需要曲線 | 価格硬直性 | 限界収入曲線に不連続部分が生じる |
クールノーとベルトランは、価格と数量を入れ替えた選択肢が出やすいです。クールノーは数量、ベルトランは価格と機械的に対応させます。
屈折需要曲線は、寡占市場で価格が動きにくい理由を説明するモデルです。自社が価格を上げると他社は追随せず需要が大きく減り、自社が価格を下げると他社も追随して需要があまり増えない、と考えます。その結果、需要曲線が現在価格の点で屈折し、限界収入曲線に切れ目ができます。限界費用がその切れ目の範囲で動く限り、最適価格・数量が変わりにくいことがポイントです。
市場集中度、HHI、累積生産集中度
寡占化や独占化の程度は、市場集中度の指標で見ます。一次試験では、HHI と累積生産集中度を区別できれば十分です。
HHI は、各企業の市場占有率を2乗して合計する指標です。
HHI = s_1^2 + s_2^2 + ... + s_n^2
市場占有率を小数で表す場合、完全な独占なら 1^2=1 です。多数企業に分散するほど値は小さくなります。上位企業だけの合計ではなく、全企業の2乗和である点がひっかけです。
累積生産集中度 CR_k は、上位 k 社の市場占有率の合計です。たとえば CR4 なら上位4社のシェア合計です。HHI は2乗和、累積生産集中度は上位企業の単純合計、と分けます。
競争政策と規制手法
独占や寡占は、価格を高くし、数量を少なくし、消費者余剰を減らす可能性があります。そのため、競争政策や規制手法が問われます。
略奪的価格設定は、競争相手を市場から排除するために極端な低価格を付け、退出後に独占的地位を得ようとする戦略です。単なる安売りではなく、排除と独占化の意図がある点で判断します。
限界価格設定は、潜在的な参入企業が入ってこないように、参入後の利益が見込めない価格水準へ抑える考え方です。フルコスト・プライシングは費用に一定の上乗せをして価格を決める考え方です。ラムゼイ価格は、公共料金などで必要収入を確保しながら厚生損失を小さくする価格設定です。
ヤードスティック競争は、規制産業で効率的な事業者を基準に、他の事業者へ効率化を促す考え方です。直接の市場競争が弱い場合でも、同業他社を物差しにして費用削減を促します。
この章のまとめ
独占と寡占の問題では、まず市場構造を確認し、その後に数量、価格、余剰、企業間行動の順で見ます。図形問題でも用語問題でも、判断手順は共通しています。
独占図の確認手順
- 利潤最大化なら、最初に
MR=MCの交点を探します。 - 価格は、決めた数量から需要曲線へ戻って読みます。
- 消費者余剰は需要曲線と価格線の間で読みます。
- 死荷重は、独占数量から効率的数量までの未実現取引で読みます。
- 総収入最大化なら
MR=0を使い、MR=MCと混同しません。
自然独占と規制の確認手順
P=MCは効率性を重視する限界費用価格形成原理です。P=ACは独立採算を重視する平均費用価格形成原理です。- 自然独占では、
MC価格だと赤字、AC価格だと効率性の一部を犠牲にしやすいです。 - 図では、需要曲線と
MCの交点、需要曲線とACの交点を分けて読みます。
寡占と協調行動の確認手順
- カルテルは、全体では利益を高めても、各企業には破る誘因があります。
- クールノーは数量競争、ベルトランは価格競争です。
- 屈折需要曲線では、限界収入曲線の不連続部分により価格が硬直しやすくなります。
- 価格差別では、弾力性が低い市場ほど高価格になりやすいです。
- HHI は全企業のシェアの2乗和、累積生産集中度は上位企業のシェア合計です。
このトピックは、図の読み取りと用語の区別が混ざって出ます。選択肢を読む前に、「独占図か」「自然独占か」「寡占モデルか」「市場集中度か」を分類すると、ひっかけを減らせます。
一次試験過去問での出方
2025年 第16問: 独占市場図で、利潤最大化価格と総収入最大化価格を読む問題。
MR=MCとMR=0を分け、価格は需要曲線上で読む。
2024年 第17問、2023年第2回 第19問、2021年 第19問、2018年 第13問、2014年 第19問: 独占企業の標準図。利潤最大化数量、価格、消費者余剰、生産者余剰、死荷重、利潤面積が問われた。
2023年第1回 第19問、2013年 第17問: 自然独占の価格形成。平均費用価格形成原理と限界費用価格形成原理、赤字面積、独立採算を読む問題。
2016年 第23問、2012年 第20問: 寡占モデル。屈折需要曲線、クールノー競争、ベルトラン競争、自然独占の基本用語を区別する問題。
2015年 第19問、2019年 第13問: 価格差別。需要の価格弾力性が低い市場ほど高価格になりやすいことが問われた。
2010年 第7問: マークアップ価格形成。平均生産物、単位労働費用、需要の価格弾力性とマークアップ率の関係を読む問題。
2015年 第23問、2009年 第16問: 市場集中度。累積生産集中度と HHI の定義、独占に近づくほど HHI が大きくなることが問われた。
2009年 第12問: ヤードスティック競争。規制産業で同業他社を基準に効率化を促す考え方が問われた。
2008年 第12問 設問2: 略奪的価格設定。競争相手を排除して独占的地位を得ようとする低価格戦略を選ぶ問題。