経済学・経済政策
補助製品差別化と独占的競争
差別化、独占的競争、需要曲線の傾きを補助的に扱う。
この章で覚えておきたいこと
独占的競争は、完全競争、独占、寡占の中間に見えるため、選択肢で混同しやすい論点です。まず、次の組み合わせで押さえます。
- 独占的競争では、多数の企業が存在します。
- 各企業は、ブランド、品質、立地、サービスなどで製品差別化を行います。
- 差別化された財を売るため、各企業は右下がりの個別需要曲線に直面し、一定の価格支配力を持ちます。
- 短期には、
MR=MCで数量を決め、価格が平均費用を上回れば正の利潤が生じます。 - 長期には、黒字を見込んだ新規参入により各企業の需要が減り、利潤はゼロに近づきます。
試験では、「多数企業なのに価格支配力がある」「差別化があるのに長期利潤は残りにくい」という2つの組み合わせがよく問われます。完全競争のプライス・テイカー、寡占の少数企業、独占の参入障壁と混ぜないことが重要です。
基本知識
独占的競争の市場構造
独占的競争は、売り手が多数存在し、それぞれが少しずつ異なる財・サービスを供給する市場です。居酒屋、美容室、飲食店、アパレル、地域の小売店などをイメージすると理解しやすくなります。
完全競争では財が同質で、各企業は市場価格を受け入れるだけです。一方、独占的競争では、メニュー、味、立地、接客、雰囲気、ブランドなどで差別化できるため、企業ごとに自社商品への需要を持ちます。
ただし、独占的競争は「少数企業」ではありません。少数の企業が相互依存しながら行動する市場は寡占です。独占的競争は、多数企業と製品差別化を同時に満たす市場として整理します。
製品差別化と右下がりの需要曲線
製品差別化があると、各企業の商品は完全な同質財ではなくなります。そのため、少し価格を上げても顧客が全員いなくなるわけではありません。この点で、独占的競争の企業は完全競争企業と違い、一定の価格支配力を持ちます。
しかし、価格支配力は独占ほど強くありません。似た商品や代替サービスが多いため、価格を上げすぎれば需要は減ります。つまり、各企業は右下がりの需要曲線に直面します。
2020年度第20問では、居酒屋を例に「周囲の居酒屋が価格を下げても需要が減らない」という選択肢が誤りとして問われました。差別化があっても、競合の値下げや新規参入の影響は受けます。
短期均衡の読み方
独占的競争の短期均衡は、図の読み方としては独占企業に近いです。企業は、限界収入 MR と限界費用 MC が等しくなる数量を選びます。
数量を決めたら、その数量から需要曲線へ上がって価格を読みます。MR=MC の交点の縦座標を価格として読まない点は、独占の図と同じです。
短期利潤は、価格と平均費用の関係で判断します。
| 条件 | 利潤の状態 |
|---|---|
P > AC | 黒字 |
P = AC | 利潤ゼロ |
P < AC | 赤字 |
2010年度第12問では、独占的競争下の短期均衡図で MR=MC、P>AC、新規参入による需要曲線の左方シフトが問われました。短期には黒字が残っていてよい、という点を押さえます。
長期均衡と自由参入
独占的競争では、参入障壁が低いことが前提です。短期に正の利潤があると、新規企業が参入します。新しい企業が似た商品やサービスを供給すると、既存企業1社当たりの需要は減り、各企業の需要曲線は左へ動きます。
この参入が続くと、既存企業の黒字は縮小し、長期には利潤がゼロに近づきます。ここでいう利潤ゼロは、会計上の利益が完全に消えるというより、経済学でいう超過利潤が消えるという意味です。
試験では、短期と長期の時点を分けます。短期均衡で黒字があることは誤りではありません。誤りになるのは、「短期均衡の利潤が参入によってすぐゼロになる」といった時点の混同です。
完全競争・寡占・独占との比較
独占的競争は、不完全競争に含まれます。ただし、不完全競争という語は独占、寡占、独占的競争をまとめる広い言葉なので、個別の特徴まで分けて判断する必要があります。
| 市場構造 | 売り手の数 | 財の性質 | 価格支配力 | 長期利潤 |
|---|---|---|---|---|
| 完全競争 | 多数 | 同質財 | ほぼない | ゼロ |
| 独占的競争 | 多数 | 差別化財 | ある程度ある | ゼロに近づく |
| 寡占 | 少数 | 同質または差別化 | 相互依存が強い | 残ることがある |
| 独占 | 1社 | 代替が少ない | 強い | 残ることがある |
2022年度第17問では、独占的競争を「売り手が少数」とする記述が誤りとして問われました。少数企業は寡占の特徴です。独占的競争は、多数の売り手がいるにもかかわらず、財が差別化されているため価格支配力が生じる市場です。
この章のまとめ
製品差別化と独占的競争は、頻出度は高くありませんが、市場構造の比較問題で落としやすい論点です。解くときは、次の順番で確認します。
- 売り手が多数か少数かを確認します。多数なら、完全競争か独占的競争を疑います。
- 財が同質か差別化されているかを確認します。差別化があれば、独占的競争の可能性が高くなります。
- 差別化がある場合、各企業は右下がりの個別需要曲線に直面し、プライス・テイカーではありません。
- 短期均衡の図では、まず
MR=MCで数量を決め、価格は需要曲線上で読みます。 P>ACなら短期には黒字です。黒字があると新規参入が起こり、各企業の需要曲線は左へ動きます。- 長期には自由参入により超過利潤が消え、利潤はゼロに近づきます。
ひっかけは、ほぼ決まっています。独占的競争は少数企業ではない、差別化があっても需要は減りうる、価格支配力があっても長期利潤は残りにくい、この3点を最後に確認します。
一次試験過去問での出方
2010年度第12問では、独占的競争下の短期均衡図が出題されました。
MR=MCで数量を決め、P>ACなら短期には黒字であり、黒字は新規参入と需要曲線の左方シフトにつながります。
2020年度第20問では、居酒屋を例に、製品差別化による価格支配力と、自由参入による長期利潤ゼロが問われました。差別化があっても、競合の値下げで需要が減らないわけではありません。
2022年度第17問では、完全競争と不完全競争の特徴比較が問われました。独占的競争は不完全競争に含まれますが、売り手は少数ではなく多数です。