財務・会計
重要キャッシュ・フロー計算書
営業・投資・財務活動の分類、間接法、利益と資金の違いを扱う。
この章で覚えておきたいこと
- キャッシュ・フロー計算書は、一定期間の 現金及び現金同等物 の増減を、営業活動、投資活動、財務活動に分けて示す財務諸表です。
- 利益が出ていても現金が増えるとは限りません。損益計算書と資金繰りのずれを読み解くための表です。
- 営業活動は本業からの資金創出、投資活動は設備投資や有価証券投資、財務活動は借入や株式発行、返済や配当を表します。
- 間接法では、当期純利益に非資金費用を加算し、運転資本の増減を調整 して営業キャッシュ・フローを求めます。
- 売掛金の減少は資金増加、棚卸資産の増加は資金減少、買掛金の増加は資金増加です。符号を逆にしないことが最重要です。
- 減価償却費や貸倒引当金繰入額は費用ですが現金支出を伴わないため、営業キャッシュ・フローでは加算されます。
- 現金同等物は、単に3か月以内というだけでなく、換金容易で価格変動リスクが僅少 であることが必要です。
- 受取利息や受取配当金、支払利息の表示区分には選択の余地があるため、「必ずこの区分」と決めつけないことが大切です。
基本知識
キャッシュ・フロー計算書の目的
キャッシュ・フロー計算書は、企業が実際にどれだけ現金を生み出し、どこへ使ったかを示します。損益計算書は発生主義で利益を示しますが、そこでは現金がまだ入っていない売上や、現金支出を伴わない費用も含まれます。そのため、黒字でも資金不足になることがあります。
試験では、この「利益」と「資金」の違いを問う問題が繰り返し出ます。2021年の過去問では、売掛金の減少がキャッシュフロー増加要因になることが問われました。掛売上の回収が進めば、利益ではなく現金が増えるからです。
現金及び現金同等物の範囲
キャッシュ・フロー計算書が対象にする資金は、現金だけではありません。現金及び現金同等物 が対象です。現金同等物とは、容易に換金可能で、価格変動リスクが僅少で、取得日から満期日までの期間が3か月以内の短期投資をいいます。
2013年の過去問では、コマーシャル・ペーパーと短期定期預金が現金同等物に含まれる一方で、株式や株式投資信託は含まれないことが問われました。単に「短期である」だけでは足りず、価格変動リスクの小ささまで必要です。
また、2020年の過去問では、キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物期末残高と、貸借対照表の現金及び預金残高は一致するとは限らないことが問われています。定期預金など、貸借対照表には含まれていても現金同等物に入るかどうかの判定があるからです。
営業活動、投資活動、財務活動の区分
キャッシュ・フロー計算書では、現金の増減を3つの活動区分に分けます。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー: 本業から生じる現金の流れ
- 投資活動によるキャッシュ・フロー: 固定資産や有価証券の取得・売却、貸付け・回収など
- 財務活動によるキャッシュ・フロー: 借入れ、社債発行、株式発行、返済、配当支払いなど
2018年の過去問では、有価証券の取得や売却、貸付けに関する収支は財務活動ではなく投資活動であることが問われました。財務活動はあくまで資金調達と返済です。設備投資や資産運用を混同しないようにします。
2023年度第1回の過去問では、有形固定資産売却収入は投資活動であり、財務活動ではないことも確認されています。現金が増えるからといって営業活動や財務活動に入るわけではなく、何の活動による増減か で分類します。
間接法による営業キャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローは、直接法と間接法のどちらでも表示できますが、診断士試験では間接法が頻出です。間接法では、当期純利益から出発し、現金主義へ組み替えるための調整を行います。
基本構造は次のとおりです。
- 当期純利益を出発点にする。
- 減価償却費や貸倒引当金繰入額など、非資金費用を加算する。
- 固定資産売却益のように投資活動へ振り替える損益を調整する。
- 売掛金、棚卸資産、買掛金など運転資本の増減を反映する。
- 利息や法人税等の支払いを表示方法に応じて調整する。
2017年の過去問では、貸倒引当金の増加が営業キャッシュ・フローの増加要因になることが問われました。これは費用計上で利益は減っているものの、当期の現金支出がないためです。減価償却費も同じ考え方です。
運転資本の増減と符号
営業キャッシュ・フローの計算で最も失点しやすいのは、運転資本項目の符号です。2024年の過去問でも、売掛金、棚卸資産、買掛金の増減をどう調整するかがそのまま出題されました。
考え方は次のとおりです。
- 売掛金の増加: 売上は立っているが未回収なので、現金は減る方向です。
- 売掛金の減少: 回収が進んでいるので、現金は増える方向です。
- 棚卸資産の増加: 在庫に資金が寝ているので、現金は減る方向です。
- 棚卸資産の減少: 在庫の拘束が解けるので、現金は増える方向です。
- 買掛金の増加: 支払いを繰り延べているので、現金は増える方向です。
- 買掛金の減少: 支払いが進んでいるので、現金は減る方向です。
2021年の過去問では「売掛金の減少」が正答でした。2015年の過去問では「棚卸資産の増加」がキャッシュフロー減少要因とされており、同じルールを別方向から確認しています。
利息、配当金、法人税等の表示区分
利息や配当金の表示区分は、必ず一つに固定されるわけではありません。2020年、2018年、2023年度第1回の過去問では、この点が繰り返し問われています。
日本基準では、受取利息及び受取配当金 は営業活動で表示する方法と投資活動で表示する方法のいずれも認められます。支払利息 も営業活動で表示する方法と財務活動で表示する方法のいずれも認められます。したがって、「必ず営業活動」「必ず財務活動」と断定する選択肢は危険です。
法人税等の支払額は、原則として営業活動によるキャッシュ・フローに表示します。ただし、特定の投資活動や財務活動に直接対応していて区分計算できる場合は例外があります。通常問題では「原則営業活動」と押さえておけば十分です。
2012年の過去問では、支払利息勘定を使って、費用計上額と実際の支払額が一致しないことを問う問題が出ました。ここでも発生主義と現金主義の違いが土台になっています。
直接法と間接法の違い
2020年の過去問では、営業活動によるキャッシュ・フローは必ず主要取引ごとの総額表示をしなければならない、という断定が誤りとされています。これは直接法と間接法の両方が認められているからです。
違いは次のとおりです。
- 直接法: 現金売上収入や仕入支出など、主要な収入と支出を総額で示します。
- 間接法: 当期純利益から調整して営業キャッシュ・フローを示します。
試験では間接法の計算が中心ですが、直接法も認められているという制度面の理解は必要です。
この章のまとめ
- キャッシュ・フロー計算書は、現金及び現金同等物の増減を営業、投資、財務の3区分で示します。
- 現金同等物は、3か月以内 に加えて 換金容易 と 価格変動リスク僅少 が必要です。
- 営業活動は本業、投資活動は資産取得・売却、財務活動は資金調達・返済と整理します。
- 間接法では、当期純利益に非資金費用を加算し、運転資本の増減を調整して営業キャッシュ・フローを求めます。
- 売掛金減少はプラス、棚卸資産増加はマイナス、買掛金増加はプラスです。符号は必ず理由とセットで覚えます。
- 減価償却費や貸倒引当金繰入額は、費用でも現金支出を伴わないため営業キャッシュ・フローでは加算します。
- 受取利息、受取配当金、支払利息は表示区分に選択の余地があります。断定型の選択肢に注意が必要です。
- 法人税等の支払額は、通常は営業活動に表示すると整理しておくと実戦的です。
一次試験過去問での出方
2007年、2008年、2009年、2010年、2012年、2013年、2015年、2016年、2017年、2018年、2020年、2021年、2023年度第1回、2024年に出題があります。営業キャッシュ・フローの間接法計算、現金同等物の範囲、利息や配当金の表示区分、営業・投資・財務の分類が頻出です。
2024年は、当期純利益から減価償却費、売掛金、棚卸資産、買掛金を調整して営業キャッシュ・フローを求める基本計算が出ました。2023年度第1回、2020年、2018年は、受取利息や支払利息、有形固定資産売却収入の表示区分が問われています。2021年や2015年は、売掛金や棚卸資産の増減が資金にどう効くかという基礎判断がそのまま問われています。