財務・会計
重要先物取引(先物為替予約、通貨先物取引)
先物取引、先物為替予約、通貨先物、ヘッジ効果を扱う。
先物取引
この章で覚えておきたいこと
- 先物取引は、将来の一定時点に、あらかじめ決めた価格で売買する取引です。診断士試験では、先物そのものの制度と、為替ヘッジへの使い方の両方が問われます。
- 先物取引は取引所取引で、契約条件が標準化されています。したがって、証拠金、日々の値洗い、反対売買、差金決済、限月という語が出てきたら、まず先物取引を疑います。
- 先渡取引は相対取引です。数量、受渡日、条件を当事者間で柔軟に決められますが、先物取引のような標準化や日々の値洗いを前提にしません。
- 外貨を受け取る取引は、円高になると円換算額が減ります。したがって、外貨建債権や輸出代金のヘッジは外貨売りで行います。
- 外貨を支払う取引は、円安になると円換算額が増えます。したがって、外貨建債務や輸入代金のヘッジは外貨買いで行います。
- 為替予約や通貨先物は、必ず得をするための手段ではありません。円貨額を固定して変動リスクを抑える手段なので、有利な相場変動による利益機会は放棄します。
- 計算問題では、本体取引の為替差損益とヘッジ取引の損益を分けて計算し、最後に合算します。ここを省くと正答しにくくなります。
基本知識
先物取引と先渡取引の違い
先物取引も先渡取引も、将来の価格を今決めて価格変動リスクを抑える取引です。ただし、制度はかなり異なります。
- 先物取引は取引所で売買され、契約条件が標準化されています。
- 先物取引では、参加者が証拠金を差し入れ、建玉は清算値段で日々値洗いされます。
- 先物取引では、満期まで持たずに反対売買で手仕舞いし、差金決済で損益を確定できます。
- 先渡取引は店頭で行う相対取引で、原資産、数量、受渡日、決済条件を当事者間で決めます。
- 先渡取引もヘッジ目的に使えますが、先物のような標準化や高い流動性はありません。
試験では、次のように切り分けると安定します。
- 取引所、標準化、証拠金、限月、日々値洗いなら先物取引です。
- 相対取引、個別条件、柔軟に設計なら先渡取引です。
2012年や2022年、2025年の過去問では、この切り分け自体がそのまま問われています。
先物取引の制度で狙われる語句
先物取引の制度問題では、用語の意味を正しく結び付けられるかが重要です。
- 証拠金は取引金額全額の前払いではありません。履行リスクを管理するための担保です。
- 日々の値洗いは、建玉を毎日評価し、その日の損益を証拠金に反映する仕組みです。
- 反対売買は、売建てなら買戻し、買建てなら転売でポジションを閉じることです。
- 差金決済は、現物を受け渡さず、価格差だけで損益を精算する考え方です。
- 限月は先物取引で使う用語で、受渡しや最終決済の対象月を表します。
よくある誤りも押さえてください。
- 先物取引は、損益を最終日だけでまとめて決済する取引ではありません。
- 先物取引で必要なのは、通常、取引金額を上回る額の証拠金ではありません。
- 先渡取引はヘッジに使えない、という理解は誤りです。
為替ヘッジの方向
為替予約でも通貨先物でも、最初に確認するのは「将来どちらの通貨を必要とするか」です。
- 将来外貨を受け取るなら、外貨を円に換える必要があるので、外貨売りでヘッジします。
- 将来外貨を支払うなら、外貨を調達する必要があるので、外貨買いでヘッジします。
典型例は次のとおりです。
- 輸出代金や外貨建売掛金は、将来ドルを受け取るのでドル売りです。
- 輸入代金や外貨建買掛金は、将来ドルを支払うのでドル買いです。
2013年の過去問は、この方向をそのまま問う問題でした。輸入企業なのにドル売り予約を選ぶ選択肢は、毎年のように出る典型的なひっかけです。
為替予約の損得比較
為替予約をしたときの有利不利は、現在の直物レートではなく、予約レートと将来の直物レートで比べます。
外貨建債権をヘッジしている場合は、次の順で考えます。
- 予約した場合の円貨受取額を求めます。
- 予約しなかった場合の円貨受取額を、将来の直物レートで求めます。
- その差を比べます。
外貨建債務をヘッジしている場合も同じで、比較対象は常に「予約あり」と「予約なしの将来直物決済」です。
覚え方は単純です。
- 将来の直物レートが予約レートより高くなれば、外貨受取側の予約は不利になりやすいです。
- 将来の直物レートが予約レートより高くなれば、外貨支払側の予約は有利になりやすいです。
2008年の過去問では、1ドル104円でドル売り予約した債権について、将来直物が108円なら予約しない方が有利、103円なら予約した方が有利、という比較が問われました。2023年度第1回の過去問では、これを支払側に置き換えて、1ドル131円のドル買い予約が円安局面では支払額を減らし、円高局面では支払額を増やすことが問われました。
通貨先物とネット損益の考え方
通貨先物は、通貨を原資産とする先物取引です。取引所取引なので、証拠金、日々の値洗い、反対売買が前提になります。
損益計算では、まず方向を確認します。
- 売建ては、価格が下がれば利益、上がれば損失です。
- 買建ては、価格が上がれば利益、下がれば損失です。
代表的な式は次のとおりです。
- 売建て先物の損益 = (売建価格 - 買戻価格)× 通貨数量
- 買建て先物の損益 = (転売価格 - 買建価格)× 通貨数量
ただし、試験ではデリバティブ単体では終わりません。本体取引と合わせたネット損益を問うことが多いです。
外貨建売掛金なら、まず本体取引の為替差損益を求めます。
- 売掛金の為替差損益 = (回収時直物レート - 取引時直物レート)× 外貨額
そのうえで、為替予約または通貨先物の損益を足し合わせます。
2010年の過去問では、この合算がそのまま問われました。
- F社は売掛金自体では円安で利益が出ていますが、ドル売り予約では損失が出るため、ネットでは損失になります。
- G社は通貨先物を途中で反対売買して損失を確定していますが、売掛金本体の円安メリットが上回るため、ネットでは利益になります。
ここで重要なのは、途中で反対売買したら、その時点で先物の損益は確定することです。その後の相場変動は本体取引だけに残ります。2010年の設問2は、まさにこの点を狙っています。
先物価格と現物価格、直先差額
2022年の過去問では、先物価格と現物価格の差は満期までの長さと無関係ではないことも問われました。満期が近づくにつれて、先物価格と現物価格は一般に近づいていきます。
また、2018年の過去問では直先差額が狙われています。外貨建取引のあとで為替予約を付した場合は、取引発生日のレートと予約締結日のレートを混同しやすいです。
直先差額は次で求めます。
- 直先差額 = (予約締結日の先物レート - 予約締結日の直物レート)× 外貨額
ここで使うのは、予約締結日の直物レートです。取引発生日の直物レートではありません。2018年の問題では、100円と106円を直接比べて6万円とする誤答を避けられるかがポイントでした。
この章のまとめ
- 先物取引は、取引所取引、標準化、証拠金、日々の値洗い、反対売買、限月で押さえます。
- 先渡取引は、相対取引で条件を個別に決められる点が特徴です。先物の制度と混同しないことが重要です。
- 外貨建債権や輸出代金は外貨売り、外貨建債務や輸入代金は外貨買いでヘッジします。
- 為替予約の損得比較では、予約レートと将来直物レートを比べます。現在の直物レートを基準にしないでください。
- 計算問題では、本体取引の為替差損益とヘッジ取引の損益を別々に出し、最後に合算します。
- 通貨先物を途中で反対売買した場合、先物損益はその時点で確定し、その後の為替変動は本体取引側に残ります。
- 直先差額は、予約締結日の先物レートと直物レートの差で計算します。
一次試験過去問での出方
2008年 第21問では、外貨建債権にドル売り為替予約を付したときの有利不利が問われました。予約レートと将来直物レートを比較する基本問題です。
2010年 第18問では、本体取引の為替差損益と、為替予約または通貨先物の損益を合算するネット損益計算が問われました。途中の反対売買でヘッジが切れる点も重要です。
2012年 第22問、2017年 第21問、2022年 第20問、2025年 第23問では、先物取引と先渡取引の制度差が繰り返し出題されています。取引所、標準化、証拠金、日々の値洗い、限月の語で整理できるようにしておくべきです。
2013年 第22問では、輸入代金の支払に対してドル買い予約を選べるかが問われました。支払側は外貨買い、受取側は外貨売りという基本方向の確認です。
2018年 第19問では、取引発生後に為替予約を付した場合の直先差額が問われました。予約締結日の直物レートを基準にする点が頻出のひっかけです。
2023年度 第1回 第23問では、外貨建支払に対する為替予約の損得比較が出題されました。円安なら予約が有利、円高なら予約が不利になる支払側の計算を押さえておく必要があります。