財務・会計
重要株主価値の算定(配当割引モデル、株価収益率、株価純資産倍率、株価キャッシュフロー倍率)
配当割引モデル、PER、PBR、PCFR、株主価値を頻出計算として扱う。
株主価値の算定
この章で覚えておきたいこと
- 配当割引モデルは株主価値を直接求める式です。配当が一定なら
株主価値 = 配当 ÷ 株主の要求収益率、一定成長なら株主価値 = 翌期配当 ÷ (株主の要求収益率 - 成長率)で求めます。 - 一定成長モデルの分子は 当期配当ではなく翌期配当 です。前期末配当や当期配当が与えられたら、まず 1 期成長させます。
- サステナブル成長率 = ROE × 内部留保率 = ROE × (1 - 配当性向) です。配当性向そのものを掛けない点が頻出です。
- PER = 株価 ÷ EPS = 時価総額 ÷ 当期純利益 です。EPS は 1 株当たり利益です。
- PBR = 株価 ÷ BPS = 時価総額 ÷ 純資産 です。BPS は 1 株当たり純資産です。
- PCFR = 株価 ÷ 1株当たりキャッシュフロー です。試験ではキャッシュフローを
当期純利益 + 減価償却費と簡便計算することがあります。 - PBR = PER × ROE、配当利回り = 配当性向 ÷ PER は計算を速くする関係式として重要です。
- PER・PBR・PCFR は株式価値ベース、EV/EBITDA は企業価値ベース です。ここを混同すると 2025 年のような比較問題で失点します。
基本知識
株主価値と企業価値の違い
株主価値とは、企業が生み出す価値のうち 株主に帰属する部分 です。株価や時価総額、PER、PBR、PCFRは、この株主価値を基準に考える指標です。
一方、企業価値は事業全体の価値です。試験では簡便的に、次の関係で整理することが多いです。
- 企業価値 = 株式価値 + 有利子負債 - 現金・預金
- 有利子負債と現金・預金が同じなら、企業価値の大小は株式価値の大小と同じ方向に動きます
したがって、株主価値を問う問題と企業価値を問う問題では、使う倍率が違います。このトピックでは 株主価値を直接求める指標 が中心であり、DCF や残余利益モデルの詳しい中身は企業価値評価モデル、M&A の評価手法は企業合併・買収における企業評価の範囲です。
配当割引モデルの基本
配当割引モデルは、株式の価値を 将来配当の現在価値 として求める考え方です。財務・会計の一次試験では、まず次の 3 パターンを使い分けます。
- 配当一定
- 株主価値 = 配当 ÷ 株主の要求収益率
- 一定成長
- 株主価値 = 翌期配当 ÷ (株主の要求収益率 - 成長率)
- 二段階成長
- 高成長期間の配当を個別に計算する
- 安定成長に入る時点の株価を一定成長モデルで求める
- それらを評価時点まで割り引く
この分野のひっかけは共通しています。
- 分子に 翌期配当 を置くべきところで当期配当を置いてしまう
- 分母を 要求収益率 - 成長率 にすべきところで、成長率を引き忘れる
- 成長率が変わる問題で、途中時点の株価をまとめて求めずに全期間を 1 本の式で処理しようとする
2016 年や 2017 年は一定成長、2021 年は二段階成長がそのまま問われています。まず「何年後の配当が与えられているか」「どの時点の株価を求めるか」を確認してから式を書きます。
株主の要求収益率と CAPM のつながり
配当割引モデルを使うには、割引率である 株主の要求収益率 が必要です。これを CAPM で求めさせる問題が繰り返し出ています。
- 株主の要求収益率 = 安全利子率 + β × (市場ポートフォリオの期待収益率 - 安全利子率)
2011 年と 2014 年は、この要求収益率を先に計算してから配当割引モデルへ入る形でした。市場ポートフォリオの期待収益率そのものを割引率に使ったり、市場リスクプレミアムだけを使ったりする誤りが多いので注意します。
サステナブル成長率と配当政策
サステナブル成長率は、外部から新たに資金調達せず、内部留保だけで維持できる成長率 です。式は次のとおりです。
- 内部留保率 = 1 - 配当性向
- サステナブル成長率 = ROE × 内部留保率
この式から分かることは明確です。
- ROE が高いほど成長率は高くなりやすいです
- 配当性向が高いほど内部留保率は下がるため、成長率は低くなりやすいです
- 配当性向が 100% なら内部留保率は 0% なので、サステナブル成長率も 0% です
2023 年第1回では、サステナブル成長率を 配当割引モデルの成長率として使える ことが問われました。2024 年はさらに一歩進んで、ROE と配当性向から成長率を求め、その成長率を用いて当期末の株主価値を計算させています。
PER と PBR の定義と関係式
PER と PBR は、株主価値ベースの代表的な倍率です。
- PER
- PER = 株価 ÷ EPS
- 総額ベースでは PER = 時価総額 ÷ 当期純利益
- PBR
- PBR = 株価 ÷ BPS
- 総額ベースでは PBR = 時価総額 ÷ 純資産
一次試験では、次の 2 つの関係式が特によく効きます。
- PBR = PER × ROE
株価 ÷ BPS = (株価 ÷ EPS) × (EPS ÷ BPS)から導けます
- 配当利回り = 配当性向 ÷ PER
1株当たり配当 ÷ 株価 = (1株当たり配当 ÷ EPS) ÷ (株価 ÷ EPS)から導けます
このため、与件が不足して見えても次のように解けることがあります。
- PBR と ROE が分かれば PER を逆算できます
- 配当性向と配当利回りが分かれば PER を逆算できます
- 配当性向と ROE が分かれば DOE も求められます
2008 年は PER と PBR の定義そのもの、2009 年は資料からの計算、2013 年と 2019 年は関係式の使い方が問われました。
PCFR と簡便キャッシュフロー
PCFR は、株価または株式価値をキャッシュフローで割った倍率です。試験では厳密なフリー・キャッシュフローではなく、次の簡便式を使うことがあります。
- キャッシュフロー = 当期純利益 + 減価償却費
減価償却費は費用ですが現金支出を伴わないため、利益に足し戻します。PCFR は利益だけでは見えにくい資金創出力をみる指標として扱われますが、一次試験ではまず 分母の定義を問題文どおりに使えるか が重要です。
EV/EBITDA との境界整理
2025 年は、EV/EBITDA と PCFR を横断して比較させる問題が出ました。ここでは次の切り分けが必要です。
- EV/EBITDA
- 分子は企業価値です
- 分母は EBITDA です
- PCFR
- 分子は株式価値です
- 分母は株主価値ベースのキャッシュフローです
この問題では、B社とC社で EBITDA、有利子負債、現金・預金、当期純利益、減価償却費がすべて同じでした。そのため、次の順で考えれば解けます。
- EV/EBITDA が高い会社は、EBITDA が同じなので企業価値が高いです。
- 有利子負債と現金・預金が同じなので、企業価値が高い会社は株式価値も高いです。
- 当期純利益と減価償却費が同じなので、キャッシュフローも同じです。
- 分母が同じなら、株式価値が高い会社の PCFR が高くなります。
つまり、企業価値ベースの倍率から株式価値ベースの倍率へ橋渡しするときは、純有利子負債の条件を見る ことが大切です。
この章のまとめ
- 配当割引モデルは 株主価値を直接求めるモデル です。一定配当か、一定成長か、二段階成長かを最初に判定します。
- 一定成長モデルでは 翌期配当 を使います。当期配当をそのまま置かないようにします。
- サステナブル成長率は ROE × (1 - 配当性向) です。配当性向が高いほど成長率は下がります。
- PER は 株価 ÷ EPS、PBR は 株価 ÷ BPS、PCFR は 株価 ÷ 1株当たりキャッシュフロー です。分母の違いを取り違えないことが最優先です。
- PBR = PER × ROE、配当利回り = 配当性向 ÷ PER、DOE = 配当性向 × ROE は頻出の連結公式です。
- CAPM が出たら、まず株主の要求収益率を求めてから配当割引モデルへ進みます。
- PER・PBR・PCFR は 株式価値ベース、EV/EBITDA は 企業価値ベース です。企業価値と株式価値の境目は、有利子負債と現金・預金でつなぎます。
- このトピックで求めるのは主に 株主価値の算定 です。DCF や残余利益モデルの詳しい説明は企業価値評価モデル、M&A の評価手法は企業合併・買収における企業評価で整理します。
一次試験過去問での出方
2008年 第13問では、PER と PBR の定義そのものが問われました。PBR が 1 未満なら株価は 1 株当たり純資産より低い、PER は株価 ÷ EPS である、という基本を外さないことが重要です。
2009年 第20問では、資料から PER と PBR を計算させました。EPS と BPS を 1 株当たりで作っても、時価総額ベースで計算しても同じ値になることを押さえておくと検算できます。
2011年 第20問では、インカム・アプローチとマーケット・アプローチの分類、CAPM を使った要求収益率、ゼロ成長の配当割引モデル、PBR の計算がまとめて出ました。株主価値評価の基本セットです。
2012年 第20問 設問2では、ROE を企業価値評価へそのまま使う限界が問われました。ROE は有用ですが、資本コストを反映しない点や会計方針・財務レバレッジの影響を受ける点に注意が必要です。
2013年 第20問では、DOE、PER、PBR、ROE、配当利回りの関係が問われました。関係式をばらばらに暗記するのではなく、相互に変形できるようにしておくと強いです。
2014年 第19問では、CAPM で求めた要求収益率を使い、一定配当の配当割引モデルで理論株価を計算させました。第20問 設問2では PBR の定義も再確認されています。
2016年 第16問と 2017年 第18問では、一定成長のゴードン成長モデルが出ました。特に 2017 年は前期末配当から翌期配当を作る処理がポイントでした。
2019年 第19問では、ROE を益回りと PBR の積としてみる分解式が問われました。PER の逆数である益回り、PBR、ROE の対応を理解しているかが試されています。
2021年 第21問では、二段階の配当成長モデルが出ました。高成長期間と安定成長期間を分け、途中時点の株価を先に求める段取りが必要です。
2023年 第1回 第21問では、サステナブル成長率の定義と、これを配当割引モデルの成長率として使えることが問われました。
2024年 第21問では、ROE と配当性向からサステナブル成長率を求め、当期末の配当支払後の株主価値まで計算させました。翌期配当を使うかどうかが得点差になります。
2025年 第22問では、EV/EBITDA と PCFR をまたいで比較させました。企業価値ベースと株式価値ベースの違いを区別し、純有利子負債の条件から株式価値へつなげる判断が問われています。