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財務・会計

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不確実性下の投資決定

期待値、リスク、感応度分析、投資案比較を整理する。

この章で覚えておきたいこと

不確実性下の投資決定で覚える期待値、リスク、調整法、分析手法の全体像
  • 期待値 は「各結果×確率」の合計で求めます。収益率でもキャッシュフローでも考え方は同じです。
  • 期待NPV は「各シナリオのNPV×そのシナリオ確率」の合計で求めます。条件付き確率がある問題では、まず終端シナリオの確率を枝ごとに掛け合わせます。
  • 標準偏差 はリスクの大きさを表します。分散と標準偏差は別物であり、標準偏差を問われたら最後に平方根を取ります。
  • リスク中立 のときは、期待キャッシュフローを無リスク利子率で割り引いて現在価値を求めます。
  • リスク調整の代表例は 確実性等価法リスク調整割引率法 です。前者はキャッシュフロー側、後者は割引率側でリスクを調整します。
  • 不確実性を扱う手法は、シナリオ分析ディシジョン・ツリー分析モンテカルロ・シミュレーション を区別できるようにします。
  • 相互排他的投資案では、期待NPVだけでなく、割引率が変わったときの優劣の逆転や、NPVのばらつきも見ます。

基本知識

期待値と期待NPV

期待値と期待NPVをシナリオ別の確率で重みづけして求める図解

不確実性下の投資決定では、将来の結果が1つに決まらないため、まず確率を使って平均的な見込みを求めます。これが期待値です。収益率、キャッシュフロー、NPVのどれが与えられていても、基本式は同じです。

  • 期待値 = Σ(各結果 × その確率)
  • 期待NPV = Σ(各シナリオのNPV × そのシナリオ確率)

試験では、各期のキャッシュフローを先に期待値化してからNPVを求めてもよい場面と、各シナリオのNPVを先に計算した方が安全な場面があります。分岐が少ない問題ではどちらでも解けますが、条件付き確率がある問題では、各シナリオのNPVを出してから期待NPVを求める 方がミスを減らせます。

また、問題文に「各期のキャッシュフローの現在価値」と書かれている場合は、すでに割引済みです。その場合は追加で割り引かず、現在価値の合計から初期投資を差し引けばNPVになります。

条件付き確率とディシジョン・ツリー

条件付き確率を枝ごとに掛けて終端確率へ直す図解

第1年度の結果によって第2年度の確率が変わる問題では、条件付き確率をそのまま使わず、経路全体の確率に直します。つまり、枝をたどって確率を掛け合わせます。

たとえば、第1年度に好結果となる確率が0.5で、その場合に第2年度も好結果となる確率が0.5なら、その終端シナリオの確率は 0.5 × 0.5 = 0.25 です。こうして全ての終端シナリオを並べると、期待NPVや損失発生確率を正しく求められます。

この整理に向いているのが ディシジョン・ツリー分析 です。時間の流れに沿って分岐を描けるため、次のような問題で特に有効です。

  • 第1年度の実績で第2年度の見通しが変わる問題
  • 途中で追加投資や撤退判断が入る問題
  • 条件付き確率を読み違えやすい問題

試験では、ディシジョン・ツリー分析そのものの定義を問うだけでなく、条件付き確率を含む期待NPV計算の実質的な解法としても出題されます。

標準偏差とリスクの見方

標準偏差で期待値からの散らばりとリスクの大きさを見る図解

期待値が同じでも、結果の散らばり方が違えば投資の危険度は変わります。この散らばりを測る代表指標が分散と標準偏差です。

  • 分散 = Σ(確率 × (各結果 − 期待値)^2)
  • 標準偏差 = √分散

標準偏差が大きいほど、期待値からの振れが大きく、リスクが高いと考えます。2015年の過去問では、気候ごとの収益率とその確率から、期待収益率と標準偏差を計算させています。ここでは、期待値を求めたあとに偏差を二乗し、最後に平方根を取る手順が重要でした。

2007年の過去問では、NPVの期待値NPVの標準偏差 は別に考えることが問われました。期待値は各期の期待キャッシュフローから決まり、標準偏差は各期のばらつき、相関、割引係数から決まります。したがって、期待キャッシュフローの時間配列が違っても、標準偏差が同じ条件ならNPVの標準偏差も同じと判断できます。

リスク中立と2つのリスク調整法

リスク中立、確実性等価法、リスク調整割引率法の調整位置を比べる図解

リスク中立 とは、不確実性そのものを嫌わず、期待値だけで評価する立場です。リスク中立的な意思決定者は、期待キャッシュフローをそのまま用い、無リスク利子率 で割り引きます。

  • 現在価値 = 期待キャッシュフロー ÷ (1 + 無リスク利子率)

一方、通常はリスクを何らかの形で調整する必要があります。その代表が次の2つです。

確実性等価法

  • 不確実なキャッシュフローを、同じ価値を持つ確実なキャッシュフローへ引き下げます。
  • その後、無リスク利子率 で割り引きます。
  • 不確実性が大きいほど、確実性等価額は小さくなります。

リスク調整割引率法

  • 期待キャッシュフローはそのまま使います。
  • 無リスク利子率に リスク・プレミアム を上乗せした割引率で割り引きます。
  • 不確実性が大きいほど、リスク・プレミアムは大きくなります。

両者の違いは、どこでリスク調整するか です。確実性等価法はキャッシュフロー側、リスク調整割引率法は割引率側です。試験では、確実性等価法で資本コストを使う、リスク調整割引率法でリスク・プレミアムを差し引く、といった逆向きの選択肢が典型的な誤答です。

シナリオ分析とモンテカルロ・シミュレーション

シナリオ分析、ディシジョン・ツリー分析、モンテカルロ・シミュレーションを見分ける図解

不確実性への対処法は、細かく見るといくつもありますが、一次試験では次の3つを整理しておけば十分です。

シナリオ分析

  • 悲観、標準、楽観のように、将来状態をストーリーとして置きます。
  • それぞれのケースでキャッシュフローやNPVがどう変わるかを比較します。
  • 「将来環境の状態を記述するストーリー」という表現が出たら、この手法を疑います。

ディシジョン・ツリー分析

  • 分岐と確率を使って、段階的な意思決定を整理します。
  • 条件付き確率がある問題と相性がよいです。
  • 「枝分かれ」「樹形図」「逐次的な意思決定」がキーワードです。

モンテカルロ・シミュレーション

  • 不確実な要因を確率変数として扱い、確率分布を設定します。
  • コンピュータで多数回の反復計算を行い、結果の分布を求めます。
  • 「反復計算」「多数回試行」「予測を繰り返す」が見分ける手掛かりです。

2023年度第2回の過去問では、この3つの特徴を空欄補充でそのまま問われました。用語だけ暗記するのではなく、ストーリー型か、分岐型か、反復計算型か で区別できるようにします。

相互排他的投資案の比較

相互排他的投資案をNPVプロファイルと交点割引率で比較する図解

相互排他的投資案では、両方採用するのではなく、どちらか1つを選びます。このときは、単独のIRRだけで判断せず、その割引率でどちらのNPVが大きいか を見ます。

後半に大きなキャッシュフローが来る投資案は、割引率が低いと有利になりやすいです。逆に、前半に大きなキャッシュフローが来る投資案は、割引率が高いと有利になりやすいです。したがって、割引率が変わると優劣が逆転することがあります。

この逆転点を示す考え方が NPVプロファイル です。2007年の過去問では、リスク調整割引率法で割引率を高くしたとき、どちらの案が有利になるかを判断させています。ここでは次の2点を分けて考えることが重要です。

  • ある投資案単独のNPVが0になる割引率は IRR
  • 2つの投資案のNPVが等しくなる割引率は 交点割引率

IRRと交点割引率を混同すると、相互排他的投資案の比較を誤ります。

この章のまとめ

不確実性下の投資決定で確率、NPV、ばらつき、調整位置、投資案比較を確認するまとめ図
  • 期待値は「各結果×確率」の合計、期待NPVは「各シナリオのNPV×確率」の合計で求めます。
  • 条件付き確率が出たら、終端シナリオの確率を枝ごとに掛け合わせます。ディシジョン・ツリーで整理すると安全です。
  • 現在価値が与えられている問題は追加で割り引きません。割引率がゼロなら、キャッシュフロー合計から初期投資を引くだけです。
  • 標準偏差はリスクの指標です。分散を求めたあと、標準偏差なら平方根まで取ります。
  • リスク中立なら期待キャッシュフローを無リスク利子率で割り引きます。
  • 確実性等価法はキャッシュフロー側で調整し、無リスク利子率で割り引きます。リスク調整割引率法は割引率側で調整し、リスク・プレミアムを上乗せします。
  • シナリオ分析はストーリー比較、ディシジョン・ツリー分析は分岐整理、モンテカルロ・シミュレーションは反復計算で見分けます。
  • 相互排他的投資案では、期待NPV、NPVの標準偏差、割引率変化による優劣の逆転を合わせて見ます。

一次試験過去問での出方

2007年第16問設問1では、A案とB案の NPVの標準偏差 を比較させ、期待値とリスク指標を分けて考える力が問われました。設問2では リスク調整割引率法 を使い、リスク・プレミアムの上乗せで有利な投資案がどう変わるかを判定させています。

2008年第25問と2023年度第2回第18問では、2期間の分岐を持つ投資案から 期待NPV を求めさせています。どちらも、条件付き確率を終端シナリオへ掛け直し、各シナリオのNPVを並べて整理するのが得点手順です。

2010年第15問では、リスク中立 の意思決定者が不確実な1年後キャッシュフローを現在いくらで評価するかが問われました。期待キャッシュフローを無リスク利子率で割り引く基本形をそのまま使います。

2015年第17問設問1では、気候シナリオごとの収益率から 期待値標準偏差 を求めさせています。分散と標準偏差の取り違えが典型的な失点ポイントです。

2022年第22問では、確実性等価法リスク調整割引率法 の違いがそのまま出題されました。調整する場所がキャッシュフロー側か割引率側かを正確に答えられるかが問われています。

2023年度第2回第17問では、シナリオ分析ディシジョン・ツリー分析モンテカルロ・シミュレーション の特徴を空欄補充で判定させています。ストーリー、分岐、反復計算というキーワードの対応を押さえておくと解きやすいです。