財務・会計
重要貨幣の時間価値と割引キャッシュフロー(DCF)
現在価値、将来価値、割引率、DCFを投資評価の前提として扱う。
貨幣の時間価値と割引キャッシュフロー
この章で覚えておきたいこと
- 貨幣の時間価値とは、将来のお金を現在の価値へ引き直して比べる考え方です。
- 一括で受け取る元本や償還額には複利現価係数を使い、毎期同額で続く利息や営業キャッシュフローには年金現価係数を使います。
- DCFは、将来キャッシュフローを割引率で現在価値に直して合計する考え方です。社債価格、貸付金評価、設備投資評価の共通土台になります。
- 社債や貸付金は、利息部分と元本部分を分けて現在価値を求めるのが基本です。
- 設備投資の税引後営業キャッシュフローでは、減価償却費そのものは現金流出ではないが、節税効果を生むことを押さえます。
- 投資判断では、支払利息のような資金調達条件ではなく、投資をすることで追加的に増減する増分キャッシュフローだけを拾います。
基本知識
貨幣の時間価値と現在価値・将来価値
同じ100万円でも、今日の100万円と1年後の100万円は同じ価値ではありません。今日の100万円は運用できるため、将来受け取る100万円より価値が高いと考えます。これが貨幣の時間価値です。
基本式は次のとおりです。
- 将来価値:
FV = PV × (1 + r)^n - 現在価値:
PV = FV ÷ (1 + r)^n
ここで、PV は現在価値、FV は将来価値、r は割引率または利回り、n は期間です。一次試験では単利と複利の違いが直接問われることもありますが、実務的な評価問題では複利が基本です。2008年第14問では、同じ現在価値と将来価値を結ぶとき、単利より複利のほうが必要年率が低くなる関係が問われました。
複利現価係数と年金現価係数の使い分け
複利現価係数は、将来のある1時点で1回だけ発生する金額を現在価値に直す係数です。満期元本、割引債の償還額、数年後の売却価値などに使います。
- 5年後に受け取る元本
- 満期日に一括返済される貸付金元本
- 割引債の額面金額
一方、年金現価係数は、毎期末に同額で繰り返し発生するキャッシュフローの合計現在価値を求める係数です。利息、家賃、保険料、毎年一定の税引後営業キャッシュフローなどに使います。
- 毎年受け取る社債利息
- 毎年受け取る貸付金利息
- 毎年同額で得られる設備投資の営業キャッシュフロー
この2つを混同しないことが最重要です。2022年第14問では、貸付金の現在価値を求める際に、利息10万円は年金現価係数、元本200万円は複利現価係数で別々に計算させています。2011年第15問と2018年第13問の社債価格問題もまったく同じ考え方です。
なお、年金現価係数は通常、1年後から最終年まで毎期末に同額発生する普通年金を前提にしています。2019年第16問のように、契約時点に最初の支払いがある場合は、その分を年金現価係数に含めず、現在時点の支払いとして別立てで処理します。
DCFの考え方
DCFは Discounted Cash Flow の略で、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて合計する方法です。将来の受取額や支払額をそのまま足すのではなく、すべて同じ時点へそろえてから比べる点が本質です。
基本形は次のように整理できます。
- 1年後のキャッシュフローの現在価値 = 1年後の金額 × 1年の複利現価係数
- 2年後のキャッシュフローの現在価値 = 2年後の金額 × 2年の複利現価係数
- 毎年同額のキャッシュフローの現在価値 = 毎年の金額 × 年金現価係数
毎年の金額が同じなら年金現価係数でまとめてよく、金額が年ごとに違うなら各年ごとに複利現価係数で割り引きます。2020年第17問では、年金現価係数の差を取れば特定年の複利現価係数を取り出せることが問われました。年金現価係数は各年の複利現価係数の合計なので、2期の年金現価係数から1期の年金現価係数を引けば2期末の複利現価係数になるという発想です。
社債・貸付金の現在価値
社債や貸付金の現在価値は、利息部分と元本部分に分けて考えます。
- 利息部分の現在価値 = 毎年の利息額 × 年金現価係数
- 元本部分の現在価値 = 満期元本 × 複利現価係数
- 現在価値 = 利息部分の現在価値 + 元本部分の現在価値
たとえば額面100万円、クーポン・レート3%、3年満期の社債なら、毎年の利息は3万円です。この3万円を市場利回りで年金現価係数により割り引き、3年後に返る100万円を市場利回りで複利現価係数により割り引きます。2018年第13問では、市場利回り2%がクーポン・レート3%より低いので、価格は額面を上回ります。逆に2011年第15問では、目標資本コスト6%がクーポン・レート4%より高いため、価格は額面を下回ります。
貸付金でも考え方は同じです。2015年第15問と2022年第14問では、毎年の利息を年金現価係数で、満期元本を複利現価係数で割り引いています。さらに2015年第15問では、貸付利率と割引率が一致すれば現在価値は額面と一致することも確認できます。
また、2020年第20問の割引債のようにクーポンがない場合は、現在価格と償還額だけを複利でつなぎます。式は 現在価格 = 償還額 ÷ (1 + r)^n であり、総利回りを年数で単純に割らないことが重要です。
税引後営業キャッシュフローと減価償却の節税効果
設備投資では、会計上の利益ではなく、投資によって追加的に得られる税引後営業キャッシュフローを使います。ここで混乱しやすいのが減価償却費です。
減価償却費は費用ですが、現金支出ではありません。そのため、キャッシュフロー計算では直接の流出ではない一方、課税所得を減らすことで税金を軽くします。この税金の減少分が減価償却の節税効果です。
頻出の式は次の2つです。
税引後営業CF = 税引後営業利益 + 減価償却費税引後営業CF = 税引前営業CF × (1 - 税率) + 減価償却費 × 税率
2012年第13問、2020年第23問、2021年第18問では、この式を使えるかがそのまま問われました。たとえば2021年第18問では、税引前キャッシュフロー2,000万円、減価償却費900万円、税率30%なので、
- 税引前利益 = 2,000 - 900 = 1,100万円
- 税額 = 1,100 × 30% = 330万円
- 税引後キャッシュフロー = 2,000 - 330 = 1,670万円
となります。別解として、2,000 × 0.7 + 900 × 0.3 = 1,670 と一気に計算しても同じです。
この論点では、税引後利益と税引後キャッシュフローを混同しないことが大切です。減価償却費を引いたままで止めると、非資金費用をそのまま現金流出と誤認してしまいます。
増分キャッシュフローと割引率の見方
DCFで使うのは、投資をした場合に追加で増減する増分キャッシュフローです。2008年第22問では、この基本が正面から問われました。
含めるものは次のとおりです。
- 新規投資によって増える売上や減る現金支出
- 新規投資のせいで既存製品の売上が減る分
- 遊休地や賃貸中の土地を使うことで失われる地代などの機会費用
原則として含めないものは次のとおりです。
- 投資のための借入金利息など、資金調達の条件
- すでに支出済みで回収不能な埋没費用
借入金利息を営業キャッシュフローへ入れないのは、資金調達コストは通常、割引率側で反映するからです。投資案そのものの採算性と、どう調達するかは切り分けて考えます。
また、割引率と現在価値は逆方向に動きます。2015年第15問の設問2では、信用リスクが高まれば要求収益率が上がり、同じ将来キャッシュフローでも現在価値は下がると問われました。したがって、割引率が高いほど現在価値は小さくなるという方向感を常に持っておく必要があります。
この章のまとめ
- 現在価値問題では、まずキャッシュフローを時点ごとに並べます。契約時、期首、貸付日の金額は現在時点なので割り引きません。
- 一括で発生する金額は複利現価係数、毎期同額で続く金額は年金現価係数と整理します。
- 社債と貸付金は、利息部分と元本部分を必ず分けます。クーポン・レートや貸付利率は利息額を決める率であり、現在価値へ直す割引率とは別です。
- DCFは、すべての将来キャッシュフローを現在価値へ直してから合計する考え方です。金額が同じなら年金現価係数、年ごとに違うなら各年を個別に割り引きます。
- 税引後営業キャッシュフローでは、減価償却費を現金流出と誤解してはいけません。
減価償却費 × 税率の節税効果を必ず反映します。 - 投資判断では、既存売上の減少や機会費用は含め、支払利息のような資金調達条件は通常含めません。
- 総額比較ではなく現在価値比較で判断すること、割引率が上がれば現在価値が下がることを最後に確認してください。
一次試験過去問での出方
- 2008年第14問では、単利と複利の計算式と、同じ将来価値なら複利のほうが必要年率が低くなる関係が問われました。
- 2008年第22問では、増分キャッシュフローの考え方として、既存製品売上の減少や機会費用は含め、支払利息は含めない点が問われました。
- 2011年第15問と2018年第13問では、社債価格を利息部分と元本部分に分け、年金現価係数と複利現価係数を使い分ける典型問題が出ています。
- 2012年第13問、2020年第23問、2021年第18問では、税引後営業キャッシュフローと減価償却の節税効果が繰り返し出題されています。
- 2015年第15問と2022年第14問では、貸付金の現在価値を利息と元本に分けて求める問題が出ています。貸付利率と割引率の大小関係まで見られるようにしておくと強いです。
- 2019年第16問では、契約時点の支払いを割り引かず、その後の年末払いだけを年金現価係数で処理できるかが問われました。
- 2020年第17問では、年金現価係数の差から複利現価係数を取り出す問題が出ています。
- 2020年第20問では、割引債の利回りを現在価格と償還額から複利で求めています。