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企業経営理論

重要

リレーションシップ・マーケティング(リレーションシップ・マーケティングの概念、顧客関係性管理(CRM))

リレーションシップ・マーケティングとCRMを扱う。

リレーションシップ・マーケティング

この章で覚えておきたいこと

リレーションシップ・マーケティングは、顧客を一回限りの取引相手としてではなく、長期的に価値を生む関係相手として捉える考え方です。試験では、単に「顧客を大事にする」という精神論ではなく、誰と関係を深めるかどのデータで見分けるかどこまで個別対応するかが問われます。

  • 新規顧客獲得よりも、既存顧客の維持のほうが低コストになりやすいです。
  • 顧客生涯価値は、過去の購入総額ではなく、将来にわたり顧客がもたらす価値を含めて考えます。
  • CRMは、顧客識別、購買履歴、個別対応、関係維持を結び付ける仕組みです。
  • RFM分析は、Recency、Frequency、Monetaryで顧客を見分けます。
  • 顧客ロイヤルティは、再購買などの行動面と、愛着・推奨意向などの心理面を分けて考えます。
  • 関係性の構築は万能ではありません。低収益顧客や関係性を望まない顧客に一律で資源を投じると、かえって収益性を悪化させます。

基本知識

単発取引から継続関係への転換

リレーションシップ・マーケティングは、1回ごとの売上だけでなく、顧客との継続的な関係から得られる価値を重視します。市場が成長している段階では、新規顧客を次々に獲得する発想でも売上を伸ばしやすいですが、市場が成熟すると、新規獲得の難易度と費用が上がります。そのため、既存顧客を維持し、再購買や追加購買につなげることが重要になります。

ここで押さえるべき対比は次のとおりです。

  • 取引志向は、個々の販売機会で売上を得ることを重視します。
  • 関係志向は、顧客との信頼、満足、ロイヤルティを高め、長期的な収益を重視します。

試験では「既存顧客の維持より新規顧客獲得のほうが一般に低コストである」といった逆の記述が出ます。基本は、既存顧客維持のほうが低コストになりやすい、と覚えます。

顧客価値と顧客満足

顧客価値は、顧客が受け取る便益から、金銭・時間・労力・心理的負担などのコストを差し引いて認識する価値です。企業から見た利益貢献度ではありません。

顧客満足は、事前期待と実際のパフォーマンスの比較で決まります。期待を上回れば満足が高まり、期待を下回れば不満が生じます。ただし、一度高い満足を与えると、次回以降の期待水準も上がりやすくなります。関係性を維持するには、同じ対応を続けるだけでなく、期待の更新に合わせて価値を高め続ける必要があります。

選択肢では、顧客価値を「企業にとって優良顧客であること」と説明する誤りが出やすいです。顧客価値は顧客側の認識、顧客生涯価値は企業側から見た将来収益、と分けてください。

顧客生涯価値と顧客資産

顧客生涯価値は、ある顧客が将来にわたって企業にもたらす収益から、その顧客の獲得・維持にかかる費用を考慮して捉える考え方です。過去に買った金額の合計そのものではありません。

顧客獲得に投資するかどうかは、見込み顧客から得られる将来価値が獲得コストを上回るかで判断します。優良顧客になりそうな層には獲得投資を厚くできますが、対象セグメントを広げるほど反応率は下がりやすくなります。

顧客資産を考えるときは、次の3つを分けます。

  • 新規顧客を獲得することです。
  • 既存顧客を維持することです。
  • クロスセルやアップセルで追加販売を行うことです。

クロスセルは関連商品を買ってもらうこと、アップセルはより上位の商品やサービスへ移ってもらうことです。優良顧客の識別では、購入金額だけでなく、こうした取引拡大の可能性も重要になります。

CRMと顧客データ

CRMは、顧客関係性管理と訳されます。顧客ごとの情報を収集・分析し、関係の構築、維持、強化に使う仕組みです。ポイントカード、会員ID、アプリ、問い合わせ履歴、購買履歴などを通じて、顧客を識別できるデータを蓄積します。

CRMで重要なのは、データを持つこと自体ではありません。データを使って、顧客ごとに価値のある提案を行い、離脱を防ぎ、継続購買や推奨につなげることです。

ただし、CRMは常に低コストで導入できるわけではありません。特にBtoCで多数の最終消費者を対象にする場合、システム費用、データ管理、個別対応の負荷が大きくなります。試験では「消費者向けCRMは一般に低コストでできる」といった言い切りに注意します。

ID-POSと購買履歴

ID-POSは、通常のPOSデータに顧客IDを結び付け、誰が、いつ、何を、どれだけ買ったかを把握する仕組みです。売れた商品だけでなく、顧客ごとの購買パターンを追える点が重要です。

ID-POSを使うと、次のような施策につなげられます。

  • 最近来店していない顧客にクーポンを送る。
  • 頻繁に買う商品に合わせて関連商品を提案する。
  • 優良顧客には特別な案内や優先サービスを提供する。
  • 特売品ばかり買う顧客と、利益貢献の高い顧客を分けて見る。

特売品ばかりを狙う顧客は、一般にチェリーピッカーと呼ばれます。用語の取り違えが問われるため、顧客データの活用とあわせて押さえます。

RFM分析と顧客ランク

RFM分析は、顧客をランク付けする代表的な方法です。

  • Recencyは、最近いつ購入したかです。最近買った顧客ほど再購買の可能性が高いと見ます。
  • Frequencyは、どのくらい頻繁に購入しているかです。
  • Monetaryは、どのくらいの金額を購入しているかです。

試験では、RをRegularやRegularityとして「値引きなしで買う程度」と説明する誤りが繰り返し出ています。Rは必ずRecencyです。

RFM分析は便利ですが、顧客の心理的愛着までは直接分かりません。購入頻度が高くても、単に近いから、乗り換えが面倒だから、特典があるから買っているだけの場合があります。RFMは顧客行動を読む道具であり、ロイヤルティの中身まで自動的に判定するものではありません。

顧客ロイヤルティの行動面と心理面

顧客ロイヤルティは、行動面と心理面を分けて捉えます。

  • 行動的ロイヤルティは、再購買、購入頻度、利用継続などに表れます。
  • 心理的ロイヤルティは、愛着、信頼、推奨意向、ブランド・コミットメントなどに表れます。

行動的ロイヤルティが高くても、心理的ロイヤルティが高いとは限りません。近くに競合店がない、乗り換えが面倒、解約手続きが難しい、ポイントが残っている、といった理由で継続している場合があります。これは見せかけのロイヤルティです。

一方で、心理的には好意があるのに、購入手段や価格、利用機会の制約で行動に表れていない場合は、潜在的ロイヤルティとして捉えられます。試験では、行動と心理を2軸で見て、真のロイヤルティ、見せかけのロイヤルティ、潜在的ロイヤルティを区別します。

ロイヤルティ・プログラムとポイント制度

ポイント制度やフリークエント・ショッパーズ・プログラムは、再来店や再購買を促す代表的な施策です。値引きと違い、次回の来店動機を作りやすく、購買履歴を取得する接点にもなります。

ただし、ポイント制度そのものは模倣されやすいです。制度だけで長期の競争優位を維持できるとはいえません。競争優位につなげるには、ポイント付与ではなく、蓄積したデータを使った顧客理解、個別提案、体験価値の向上まで進める必要があります。

共通ポイントは新規顧客の獲得に役立つ一方、自店のポイントが他店で消費されるなど、自店売上に直結しない面もあります。試験では、ポイント制度のメリットだけでなく限界も問われます。

パーミッションと個別対応

顧客データを活用するには、顧客から許可を得て情報を受け取り、顧客にとって意味のある情報を返すことが重要です。これがパーミッションを前提とした個別対応です。

顧客の同意なしに過度な接触を行うと、関係性を深めるどころか不快感や不信につながります。個別対応では、顧客の購買履歴、嗜好、利用状況を見ながら、必要なタイミングで必要な提案をすることが求められます。

個別対応で注意する点は次のとおりです。

  • 顧客の要望をすべて実現する必要はありません。
  • 顧客ごとの収益性や戦略との整合を見ます。
  • 顧客が望まない接触は関係悪化につながります。
  • データ管理とプライバシー配慮が欠かせません。

関係性が向かない場面

リレーションシップ・マーケティングは万能ではありません。すべての顧客と深い関係を築くべき、という考え方は試験では危険です。

関係性が向かない場面には、次のようなものがあります。

  • 低価格・低関与の商品で、顧客が深い関係を望んでいない場合です。
  • 顧客単価や継続可能性が低く、個別対応コストを回収しにくい場合です。
  • 見せかけのロイヤルティは高いが、赤字を生む顧客である場合です。
  • 特売品だけを狙う顧客に、過度な優遇をしてしまう場合です。

低収益の見せかけロイヤルティ顧客には、サービス提供範囲の見直し、手数料の設定、値上げなどによって最低限の収益を確保することがあります。場合によっては退出を促すことも合理的です。関係性を深める相手を選ぶことまで含めて、CRMの考え方です。

この章のまとめ

リレーションシップ・マーケティングでは、顧客との長期関係を通じて収益を高めます。中心になる判断軸は、顧客価値、顧客満足、ロイヤルティ、顧客生涯価値です。

まず、顧客価値は顧客側が感じる便益とコストの差、顧客生涯価値は企業側から見た将来収益です。この2つを混同しないでください。次に、顧客満足は期待と実績の比較で決まり、満足が高まると次回期待も高まりやすくなります。さらに、ロイヤルティは行動面と心理面に分けます。継続利用だけでは真のロイヤルティとは限りません。

CRM、ID-POS、RFM分析、ポイント制度は、いずれも顧客を識別し、関係を維持・強化するための道具です。ただし、道具を導入すれば自動的に競争優位が生まれるわけではありません。データを使って、どの顧客に、どの程度の資源を配分するかを判断することが重要です。

最後に、関係性は選択的に築きます。優良顧客には価値提供を厚くし、低収益顧客には提供範囲や価格を見直すこともあります。「すべての顧客を一律に大切にする」が正解ではなく、顧客ポートフォリオを見て資源配分するのが試験で問われる発想です。

一次試験過去問での出方

2007年、2008年、2016年、2018年、2019年、2021年、2022年に出題があります。RFMのRをRecencyと判断する問題、ポイント制度の模倣容易性、ID-POSと購買履歴、顧客価値と顧客生涯価値の混同、真のロイヤルティと見せかけのロイヤルティの区別が頻出です。