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NARITAI

企業経営理論

重要

ブランド・マネジメント(ブランド構築、ブランドの維持管理と基本戦略、ブランド経験とカスタマージャーニー)

ブランド構築、維持管理、ブランド経験を扱う。

ブランド・マネジメント

この章で覚えておきたいこと

ブランド・マネジメントは、ブランドを作って終わりにする活動ではありません。顧客の頭の中でどのように認知され、どのような価値として思い出され、どの接点で選ばれるかを継続的に管理する活動です。

一次試験では、抽象的な理論説明よりも、事例文の行動をブランド戦略の用語に対応づける問題が多く出ます。特に次を先に押さえてください。

  • ライン拡張は、既存ブランドを使って同一カテゴリー内の形、色、サイズ、味などを増やすことです。
  • ブランド拡張は、既存ブランドを使って異なるカテゴリーの新製品へ広げることです。
  • マルチ・ブランド戦略は、同一カテゴリー内で新しいブランドを追加することです。
  • コ・ブランディングは、複数のブランド名を同一製品に組み合わせることです。
  • リポジショニングは、既存ブランドの市場内での知覚上の位置づけを変えることです。新事業に既存ブランドを使うことそのものではありません。
  • ブランド変更は、既存市場で新しいブランド名を付して再出発することです。
  • カスタマージャーニーは、ニーズ認識、カテゴリー関心、具体的検討、購入、使用、推奨という流れを時系列で読むことが大切です。
  • ライセンス供与、第三者評価、著名人推奨、コ・ブランディングは、効果だけでなく、ブランド希薄化や想起低下のリスクまでセットで判断します。

基本知識

ブランド・マネジメントの目的

ブランド・マネジメントの目的は、顧客にとって意味のあるブランド価値を作り、維持し、強化することです。ブランド名やロゴを付けるだけではなく、顧客が「このブランドならこういう価値が得られる」と期待できる状態を作ります。

そのためには、次の要素を一貫させる必要があります。

  1. 誰に選ばれたいのかというターゲット
  2. 競合と比べてどのような位置を取りたいのかというポジショニング
  3. ブランド名、ロゴ、パッケージなどのブランド要素
  4. 製品品質、価格、流通、広告、販売員、店舗、アプリ、サポートなどの顧客接点
  5. 購入後の使用体験、口コミ、再購入につながる関係づくり

試験では、「ブランドは製品名だけ」「広告だけで作る」といった狭い理解は危険です。ブランドは顧客の記憶と接点の積み重ねで形成されます。

ブランド構築の基本手順

ブランド構築では、最初に顧客と競合を見ます。誰のどの課題を解決するのか、競合ブランドと比べて何が違うのかを決めずに、ブランド名や広告表現だけを作っても強いブランドにはなりません。

基本手順は次の順で考えると整理しやすくなります。

  1. 顧客セグメントと使用場面を明確にする。
  2. 顧客ニーズ、競合、代替品、流通条件を分析する。
  3. ブランドのポジショニングを決める。
  4. ブランド要素を設計する。
  5. 製品、価格、流通、コミュニケーションを一貫させる。
  6. 認知、連想、知覚品質、ロイヤルティを測定する。
  7. 市場変化に合わせて、維持、強化、変更、再構築を行う。

ブランド構築で重要なのは一貫性です。ただし、一貫性とは何も変えないことではありません。ブランドの中核的な意味を保ちながら、顧客接点や表現を市場に合わせて更新することが必要です。

脱コモディティ化とブランド構築

価格競争に巻き込まれた製品は、顧客から見ると違いが分かりにくくなっています。ここから抜け出すには、低価格受託や安売りを増やすだけではなく、自社製品が選ばれる理由を作る必要があります。これが脱コモディティ化におけるブランド構築の役割です。

脱コモディティ化では、製品そのものの差別化だけでは不十分なことがあります。販売チャネル、店舗体験、営業方法、説明の仕方、利用後のフォローまで含めて、顧客が違いを実感できるように設計します。

注意したいのは、棚の好位置を得るために低価格のプライベート・ブランド受託へ過度に資源を振り向けるような施策です。短期的な取引拡大には見えても、自社ブランドの構築や脱コモディティ化とは逆方向になる場合があります。

ブランド開発戦略の4つの型

ブランド開発戦略は、「既存ブランドか新ブランドか」と「既存カテゴリーか新カテゴリーか」で判断します。名称だけを暗記するより、事例文で何をどこへ広げているかを読む方が確実です。

ライン拡張

既存ブランドを使い、同じカテゴリー内でサイズ、形、色、味、仕様などのバリエーションを増やします。店頭の棚を広く取れる、バラエティを求める顧客に対応できる、といった利点があります。

ただし、リスクがないわけではありません。品ぞろえが増えすぎると、既存品とのカニバリゼーションやブランドイメージの希薄化が起こることがあります。

ブランド拡張

既存ブランドを使い、異なるカテゴリーの新製品へ広げます。既存ブランドの認知、信頼、好意的な連想を新製品に移転できるため、認知獲得コストを下げやすい利点があります。

一方で、元のカテゴリーとの結びつきが強すぎると、新カテゴリーへの展開が難しくなることがあります。既存ブランドの意味と新製品の適合が低い場合、顧客に違和感を与えます。

マルチ・ブランド戦略

同一カテゴリー内で新しいブランドを追加します。顧客セグメントごとの細かなニーズに対応し、異なる価格帯やイメージを打ち出しやすくなります。ブランド間の知覚差異が大きく、低関与で多様性追求が起きやすいカテゴリーでは、顧客のブランドスイッチを自社内にとどめる狙いがあります。

ただし、新ブランドの開発にはコストがかかります。ブランドを増やせば必ず経営資源を効率的に使える、とはいえません。

新ブランド

新しいカテゴリーに新しいブランドで参入します。既存ブランドへの悪影響を切り離せる一方、認知や信頼をゼロから作る必要があります。既存ブランドと新製品の適合が低いときや、既存ブランドのイメージを守りたいときに検討されます。

ブランド拡張の利点とリスク

ブランド拡張は、過去問で何度も問われる重要論点です。既存ブランドを別の製品ラインや新カテゴリーへ広げるため、成功すれば既存ブランドの資産を活用できます。

主な利点は次のとおりです。

  • 既存ブランドの認知や信頼を新製品に移転できる。
  • 新製品の広告・認知獲得コストを抑えやすい。
  • 流通業者や顧客に受け入れられやすくなることがある。
  • 既存ブランドの世界観を広げ、ブランド全体を強化できることがある。

主なリスクは次のとおりです。

  • 元のブランド連想と新製品が合わないと違和感が生じる。
  • 低価格品や品質の低い製品へ広げると、既存ブランドのイメージが下がる。
  • 新製品が失敗すると、既存ブランドにも悪影響が及ぶ。
  • 広げすぎると、ブランドが何を意味するのか分かりにくくなる。

試験では、「既存ブランドを使えば別顧客層にも必ず訴求できる」「メーカー側にメリットは特にない」のような断定が誤りになりやすいです。ブランド拡張は、利点とリスクを両方持つ戦略です。

リポジショニングとブランド変更

リポジショニングは、既存ブランドの市場内での位置づけを再定義することです。たとえば、若年層向けだったブランドを大人向けの高品質ブランドとして知覚されるように変える場合などが該当します。

ここで混同しやすいのが、ブランド拡張とブランド変更です。

ブランド拡張

既存ブランドを、異なるカテゴリーや新製品に広げることです。新事業領域で既存ブランドを使う場合は、まずブランド拡張を疑います。

リポジショニング

既存ブランドの知覚上の立ち位置を変えることです。名前を変えること自体でも、新カテゴリーに広げること自体でもありません。

ブランド変更

既存市場で新しいブランド名を付し、再出発を図ることです。ブランド名を変える点が中心であり、リポジショニングとは分けて考えます。

一次試験では、用語の取り違えがそのまま誤答になります。「新事業に既存ブランドを使うからリポジショニング」「名前を変えるからリポジショニング」という読み方は避けてください。

企業ブランドと製品ブランドの組み合わせ

ブランドには、企業全体を示すコーポレート・ブランドと、個別製品を示すプロダクト・ブランドがあります。企業の創業者の物語、専門性、理念、社会的信頼などをコーポレート・ブランドで示し、その下に複数の製品ブランドを置くことがあります。

このとき、企業ブランドと製品ブランドを組み合わせる戦略は存在します。ただし、過去問では用語の誤用が問われます。コーポレート・ブランドとプロダクト・ブランドを同時に冠することを、安易に「ダブルチョップ戦略」と呼ぶ選択肢は不適切でした。

試験では、次のように整理します。

  • 企業名の信用や理念を前面に出すなら、コーポレート・ブランドを活用している。
  • 製品ごとの個性を強く出すなら、プロダクト・ブランドや個別ブランドの役割が大きい。
  • 両者を組み合わせる場合でも、設問で使われている用語が正確かを確認する。

想起集合とブランド認知

消費者は、世の中にあるすべてのブランドを比較して購買するわけではありません。多くの場合、頭に思い浮かぶ比較的少数のブランド、つまり想起集合の中から選びます。

そのため、ブランド・マネジメントでは、まず自社ブランドが顧客に認知され、想起集合に入ることが重要です。もちろん差別化も重要ですが、「競合と比べて際立った異質性を持たせることが最初に必要」とだけ考えるのは行き過ぎです。想起されなければ、比較対象にも入りません。

想起に関する調査では、次の違いも押さえておきます。

  • 純粋想起は、ブランド名の候補を示さず、製品カテゴリーだけを提示して思いつくブランドを書いてもらう方法です。
  • 助成想起は、ブランド名の候補を示し、その中で知っているものを選んでもらう方法です。

純粋想起は、顧客の頭の中に自然に浮かぶブランドを確認するために重要です。ただし、助成想起が常に信頼性の低い調査というわけではありません。調査目的に応じて使い分けます。

ブランド経験とカスタマージャーニー

ブランド経験は、広告を見た瞬間だけで作られるものではありません。検索、口コミ、店舗、比較サイト、営業担当、購入、使用、問い合わせ、修理、再購入、推奨まで、顧客がブランドと接触するあらゆる場面で形成されます。

カスタマージャーニーは、その接点を時系列で整理する考え方です。一次試験では、段階の前後関係を読めるかが問われます。

基本的な流れは次のように整理できます。

  1. ニーズ認識
    例として、掃除機の買い替えを検討する段階です。まだ個別ブランドを知っているとは限りません。

  2. カテゴリー関心
    スティック型掃除機など、特定カテゴリーに関心を持つ段階です。

  3. 具体的検討
    複数ブランドや製品を比較し、候補を絞る段階です。

  4. 購入
    特定ブランドや製品を購入する段階です。

  5. 使用・評価・推奨
    使用後に満足、不満、口コミ、再購入、推奨へ進む段階です。

ひっかけになりやすいのは、推奨やリピート購入を購入前に置く選択肢です。また、ニーズ認識をいきなり個別ブランドの認知と同一視するのも誤りです。顧客は、特定ブランドを知らなくても、先に課題や買い替え必要性を感じることがあります。

外部ソースを使ったブランド施策

ブランド施策では、自社だけでなく外部ソースを使って信頼や認知を高めることがあります。代表的なものに、第三者評価、著名人推奨、コ・ブランディング、ライセンス供与、カントリー・オブ・オリジン・イメージがあります。

第三者評価

専門誌、専門機関、評論家、ステータスのあるユーザーなどの高評価は、ブランドへの信頼を高め、消費者の態度を改善することがあります。SNS上でも口コミや共有を通じて影響を持ちえます。「ソーシャルネットワーク上での影響は極めて小さい」といった断定は疑います。

著名人推奨

著名人のイメージをブランドに移転し、注意や好意を高める施策です。一方で、著名人だけが記憶され、ブランドが思い出されにくくなるリスクがあります。ただし、ファン以外の注意を引けないとまではいえません。

コ・ブランディング

複数ブランドを同一製品に組み合わせ、相互の認知や信頼を活用します。新製品にも使われることがあります。ただし、ブランド間の適合が低い場合や露出の仕方を誤る場合、ブランド・エクイティが希薄化するリスクがあります。

ライセンス供与

ブランド使用権を他社に与えることで、自社が製造費用や在庫費用を負担せずにブランド認知を広げられます。一方で、過剰露出、品質管理不足、消費者の飽きによってブランド価値を下げる危険があります。

カントリー・オブ・オリジン・イメージ

原産国や国のイメージが、製品評価や選好に影響することがあります。ただし、そのイメージは時間がたっても不変というわけではありません。国、産業、製品カテゴリー、消費者経験によって変化します。

ブランド維持管理で見るべき指標

ブランドは一度構築しても、市場環境や顧客の記憶の中で変化します。そのため、維持管理では定期的にブランドの状態を確認します。

確認すべき視点は次のとおりです。

  • 認知されているか。
  • 想起集合に入っているか。
  • 好ましく、強く、独自性のある連想が形成されているか。
  • 知覚品質が維持されているか。
  • 価格プレミアムや指名買いにつながっているか。
  • ロイヤルティや再購入が生まれているか。
  • ブランド拡張やライセンス供与によって意味が薄まっていないか。

ブランド・エクイティは、単に連想の数が多ければ高いわけではありません。連想の質、好ましさ、強さ、独自性が重要です。強いブランドは、同等の製品でも高値で取引されたり、売上数量が増えたりするなど、顧客の知覚を変える力を持ちます。

この章のまとめ

ブランド・マネジメントの問題では、まず事例文の行動を読み、どのブランド戦略に当たるかを判断します。

  1. 同一ブランドで同一カテゴリー内のバリエーションを増やすなら、ライン拡張です。
  2. 既存ブランドを異なるカテゴリーへ広げるなら、ブランド拡張です。
  3. 同一カテゴリー内で新ブランドを追加するなら、マルチ・ブランド戦略です。
  4. 2つ以上のブランドを同一製品に使うなら、コ・ブランディングです。
  5. 既存ブランドの知覚上の位置づけを変えるなら、リポジショニングです。
  6. 既存市場で新しいブランド名に切り替えるなら、ブランド変更です。

ひっかけを避けるには、効果だけでなくリスクを必ず見ます。ブランド拡張には認知移転の利点がありますが、適合性が低いと希薄化や毀損が起こります。ライン拡張も、棚の確保やバラエティ対応に有効ですが、リスクがないわけではありません。ライセンス供与やコ・ブランディングも、低コストで認知を広げやすい一方、管理を誤るとブランド価値を下げます。

カスタマージャーニーは、細かな用語暗記よりも順序が重要です。ニーズ認識、カテゴリー関心、具体的検討、購入、使用・推奨という流れを崩さず、推奨やリピートを購入前に置く選択肢を疑ってください。

最後に、ブランドは想起されて初めて比較対象になります。差別化は重要ですが、まず認知され、想起集合に入ることがブランド選択の前提です。

一次試験過去問での出方

2008年度第28問では、既存ブランドを別製品ラインへ広げるブランド拡張の利点とリスクが問われました。既存ブランドのハロー効果は万能ではなく、新市場ではマーケティング戦略の再構築が必要です。

2010年度第30問では、脱コモディティ化とブランド構築、チャネル設計の整合が問われました。低価格PBへの過度な資源投入は、自社ブランド構築と逆方向になりえます。

2016年度第31問では、ライン拡張、ブランド拡張、マルチ・ブランド、コ・ブランディングの組み合わせと、ブランド開発戦略のメリット・リスクが問われました。

2020年度第34問設問1では、既存市場で新しいブランド名を付して再出発する戦略として、ブランド変更が問われました。リポジショニングとの混同に注意します。

2024年度第28問では、ブランド拡張、マルチ・ブランド戦略、企業ブランドと製品ブランド、想起集合が問われました。用語の取り違えを見抜く問題です。

2024年度第30問では、カスタマージャーニーの時系列が問われました。ニーズ認識、カテゴリー関心、具体的検討、購入の順序で判断します。

2025年度第37問では、COOイメージ、第三者評価、著名人推奨、コ・ブランディング、ライセンス供与が問われました。強すぎる断定を避け、効果とリスクをセットで読みます。