企業経営理論
重要消費者行動への影響要因(文化的要因、社会的要因、個人的要因)
文化的、社会的、個人的要因を扱う。
消費者行動への影響要因
この章で覚えておきたいこと
消費者行動は、消費者本人の好みだけで決まるわけではありません。文化、社会、家族、年齢、所得、価値観、ライフスタイル、他者の目などが重なって、何を買うか、どのブランドを選ぶか、どのように使うかが変わります。
このトピックでは、まず影響要因を大きく整理します。
- 文化的要因は、文化、サブカルチャー、社会階層など、価値観や生活様式の土台になる要因です。
- 社会的要因は、準拠集団、家族、役割、地位など、他者や集団から受ける影響です。
- 個人的要因は、年齢、職業、所得、家族ライフサイクル、ライフコース、ライフスタイル、パーソナリティなどです。
- 心理的要因は、動機、知覚、学習、記憶、態度、信念などです。ただし、このページでは心理的要因そのものよりも、社会的・個人的要因との接点を中心に扱います。
一次試験では、準拠集団を「所属している集団だけ」と限定する選択肢、バンドワゴン効果とスノッブ効果を逆にする選択肢、ライフサイクルとライフコースを混同する選択肢がよく出ます。用語を暗記するだけでなく、誰の影響か、何の属性か、欲求が増えるのか減るのかを判断軸にしてください。
基本知識
文化的要因は価値観と生活様式の土台になる
文化的要因は、消費者が当たり前だと感じる価値観や生活様式を形づくります。食べ物、衣服、住まい、贈答、余暇、ブランドへの感じ方などは、文化や社会階層の影響を受けます。
代表的な文化的要因は次のとおりです。
- 文化: 社会全体で共有される価値観、習慣、行動様式です。
- サブカルチャー: 地域、世代、民族、宗教、趣味集団など、より小さな集団に共有される文化です。
- 社会階層: 所得、職業、教育、地位などにより形成される階層で、消費財、購買場所、ブランド選好に影響します。
社会階層は、日本では意味がないと切り捨てるものではありません。所得や職業だけでなく、価値観や生活様式の違いとして消費行動に表れるため、セグメンテーション変数として使われます。
準拠集団は所属集団だけではない
準拠集団とは、消費者が態度や行動を決めるときに基準にする個人や集団です。実際に所属している集団だけでなく、憧れる集団、距離を置きたい集団、専門家、有名人、SNS上の発信者も参照点になりえます。
準拠集団は、次のように整理します。
- 所属集団: 家族、学校、職場、サークルなど、実際に所属している集団です。
- 願望集団: 憧れの有名人、理想のライフスタイルを示す集団など、自分も近づきたい集団です。
- 拒否集団: 自分は同じだと思われたくない、距離を置きたい集団です。
- 特定の個人: 専門家、オピニオンリーダー、インフルエンサー、友人など、集団ではなく個人が参照点になる場合です。
試験では、「準拠集団とは、個人が直接・間接に所属している集団である」というように、準拠集団を所属集団へ狭く限定する記述が誤りになりやすいです。
準拠集団の影響は見える商品ほど強い
準拠集団の影響は、商品やブランドが他人から見えやすいほど強くなります。服、時計、車、バッグ、SNSに投稿する料理や旅行などは、自己表現や他者評価に関わるため、集団の影響を受けやすいです。
一方で、他人の目に触れにくい私的な商品では、準拠集団の影響は相対的に弱くなります。もちろんゼロではありませんが、公共的に使う商品ほど強い、と押さえてください。
判断するときは、次の順に見ます。
- その商品は他人から見えるか。
- ブランドや所有が自己表現になるか。
- 周囲からの賞賛や批判を受けやすいか。
この3つがそろうほど、準拠集団の影響は強くなります。
情報的・功利的・価値表出的影響を分ける
準拠集団の影響は、何に効いているかで分けると理解しやすくなります。
- 情報的影響: 詳しい人、専門家、経験者の情報を参考にする影響です。専門知識が必要な商品では、属性が似た人よりも専門性の高い人の意見が重視されやすくなります。
- 功利的影響: 周囲から褒められたい、批判されたくない、浮きたくないという理由で行動を変える影響です。パーティー販売で「自分だけ買わないと気まずい」と感じる場面が典型です。
- 価値表出的影響: 自分の価値観や理想の自己像を表すために、集団と似た行動やブランド選択をする影響です。憧れの集団に近づきたい場合や、拒否集団から離れたい場合に働きます。
功利的影響は報酬や罰、価値表出的影響は自己表現、と短く覚えると混同しにくいです。
弱いつながりと情報発信者を区別する
消費者間ネットワークでは、家族や親友のような強いつながりだけでなく、知人程度の弱いつながりも重要です。弱いつながりは、異なる集団を橋渡しし、新しい情報を広く伝えやすいからです。
また、情報発信者にも種類があります。
- オピニオンリーダー: 特定の製品分野に詳しく、他者の購買に影響を与える人です。普及理論では、アーリーアダプターに多いとされます。
- イノベーター: 新製品を最も早く採用する層です。新しさを好みますが、必ずしも周囲から追随されるとは限りません。
- マーケットメイブン: 特定分野だけでなく、製品カテゴリー横断で幅広い知識を持ち、情報を広く伝える人です。
- インフルエンサー: SNSなどで多くの人に情報を届ける発信者です。普及理論上の「後期多数採用者」と同じ意味ではありません。
「オピニオンリーダー=イノベーター」と単純に置き換える選択肢や、「インフルエンサー=後期多数採用者」とする選択肢は慎重に読んでください。
家族と家計は分析単位が違う
消費行動の分析では、個人だけでなく、家族や家計が基本単位になります。家族人数や世帯構成によって、食費、住居費、教育費、耐久消費財、余暇支出の比重が変わるからです。
家族と家計は、次のように分けます。
- 家族: 役割、関係、意思決定を含む社会単位です。
- 家計: 収入と支出を管理する経済単位です。
- 消費様式の選択: どのような生活をするかという選択です。
- 支出の配分: 限られた所得をどの費目へ振り分けるかという問題です。
家族の問題では、誰が買うかだけでなく、誰が使うか、誰が支払うか、誰が意思決定に影響するかを分けると読みやすくなります。
ライフサイクルとライフコースを混同しない
家族ライフサイクルは、独身、新婚、子育て、子どもの独立、老年期といった家族の発達段階に沿って消費の変化を見る考え方です。子どもがいるフルネスト段階では、食料、住居、教育、子ども関連支出などが高まりやすいと考えます。
ライフコースは、個人や家族がたどる人生経路の多様化に注目します。晩婚、未婚、DINKS、再就学、転職、再婚、介護、婚活、社会人教育など、選択の分岐が増えるほど新しい消費機会が生まれます。
違いは次のように押さえます。
- ライフサイクル: 共通しやすい家族の段階を見る。
- ライフコース: 個別の人生経路や選択の多様化を見る。
- ライフスタイル: 価値観、活動、関心、意見などの生活様式を見る。
個別家族に固有な出来事や人生選択の多様化を重視する記述は、ライフサイクルよりもライフコースに近いです。
デモグラフィックとサイコグラフィックを分ける
市場を分ける変数には、人口統計的な属性と心理・生活面の属性があります。
デモグラフィック変数は、客観的に把握しやすい人口統計的属性です。性別、年齢、年収、職業、家族構成、社会的地位、ライフステージなどが含まれます。
サイコグラフィック変数は、心理や生活様式に関わる属性です。趣味、価値観、関与、パーソナリティ、ライフスタイル、活動、関心、意見などが含まれます。
試験では、年齢や年収をサイコグラフィックに入れたり、価値観やライフスタイルをデモグラフィックに入れたりする選択肢が出ます。客観属性か、心理・生活様式かで切り分けてください。
バンドワゴン・スノッブ・ヴェブレン効果の向きを押さえる
他者の消費行動や価格そのものが、消費者の欲求を変えることがあります。ここでは、効果の向きが最重要です。
- バンドワゴン効果: 多くの人が持っている、流行しているという理由で欲しくなる効果です。同調や流行追随の効果です。
- スノッブ効果: 多くの人が持つようになると、かえって欲しくなくなる効果です。希少性や差別化を求める効果です。
- ヴェブレン効果: 価格が高いこと自体が、地位や威信のシグナルになり、欲求を高める効果です。
バンドワゴンは「みんなが持つから欲しい」、スノッブは「みんなが持つならいらない」、ヴェブレンは「高いからこそ欲しい」と整理します。バンドワゴン効果とスノッブ効果は、欲求の向きが逆です。
アサエルの購買行動分類は関与とブランド差で見る
アサエルの購買行動分類は、関与水準とブランド間の知覚差異の2軸で購買行動を整理します。
4つの型は次のとおりです。
- 複雑な購買行動: 高関与で、ブランド間の知覚差異が大きい場合です。高額品や失敗リスクの大きい商品で、情報探索と比較が多くなります。
- 不協和低減型購買行動: 高関与だが、ブランド間の知覚差異が小さい場合です。購入後に「この選択でよかったのか」という不協和が起こりやすくなります。
- バラエティ・シーキング型購買行動: 低関与で、ブランド間の知覚差異が大きい場合です。深く考え込まず、気分転換や多様性を求めて別ブランドを試します。
- 習慣的購買行動: 低関与で、ブランド間の知覚差異が小さい場合です。いつもの商品を反復して買いやすくなります。
一次試験では、特にバラエティ・シーキングが問われます。低関与かつブランド差が大きいときに起こりやすい、と押さえてください。
近年の消費スタイルは所有から利用・経験へ向かう
近年のデジタル社会では、所有よりも利用、経験、共有、発信を重視する消費スタイルが問われています。
代表概念は次のとおりです。
- 顕示的消費: 他者に見せることで、地位、豊かさ、趣味のよさ、センスを示す消費です。SNS映えする料理の投稿や、高級品を身に着ける行為が含まれます。
- 脱物質主義: モノを所有することより、経験、サービス、利用価値を重視する傾向です。
- リキッド消費: 所有ベースで永続的な消費ではなく、一時的、アクセス重視、非物質的、流動的な消費です。サブスクやシェアリングと相性がよい考え方です。
- 快楽消費: 感覚的満足、空想、美的楽しみ、感情的反応などを重視する消費です。合理性や実用性を中心に評価する功利的消費とは区別します。
- 消費文化理論: 消費の文化的意味や経験の動態を明らかにする研究領域です。参与観察やデプス・インタビューなどの定性的アプローチが中心ですが、定量的手法を全く使わないと断定するのは不適切です。
リキッド消費を「永続的、所有ベース、物質主義的」と説明する選択肢は逆です。快楽消費に合理的判断や実用性を中心に含める選択肢も、功利的価値との混同として疑ってください。
社会的アイデンティティと自己高揚を読む
消費者は、自分をどう見せたいか、どの集団に属していると思われたいかによってブランドを選びます。これが社会的アイデンティティや自己概念に関わる論点です。
自己高揚は、自分に対する否定的評価を避け、肯定的評価を得たい欲求です。自己高揚が強い消費者は、現在の所属集団よりも、理想とする願望集団で使われているブランドとの結びつきを強めることがあります。
拒否集団をイメージさせるブランドは避けられやすく、その傾向は他者の目がある公的場面で強くなりやすいです。見られていない場面でより強くなる、とする記述は不自然です。
また、単にその場にいるだけの他者でも、消費者の行動に影響を与える場合があります。他者が明確に説得しようとしているときだけ影響がある、とは限りません。
この章のまとめ
このトピックは、選択肢の用語を分類し、効果の向きを確認する問題が中心です。最後に次の点を確認してください。
- 準拠集団は、所属集団だけではありません。願望集団、拒否集団、特定の個人も含みえます。
- 準拠集団の影響は、他人から見える商品、自己表現に関わる商品で強くなりやすいです。
- 情報的影響、功利的影響、価値表出的影響は、情報、評価、自己表現で分けます。
- 弱いつながりは、新しい情報を広く伝える役割を持ちます。
- 家族は社会単位、家計は経済単位です。
- ライフサイクルは家族段階、ライフコースは人生経路の多様化、ライフスタイルは価値観や生活様式です。
- デモグラフィックは人口統計的属性、サイコグラフィックは心理・生活様式の属性です。
- バンドワゴン効果は同調、スノッブ効果は差別化、ヴェブレン効果は高価格による威信です。
- アサエル分類では、低関与かつブランド差が大きいとバラエティ・シーキングが起こりやすいです。
- リキッド消費は所有ではなく利用やアクセスを重視します。快楽消費は感覚的・感情的満足を重視します。
解くときは、まず選択肢が文化的要因、社会的要因、個人的要因、心理的要因のどれを扱っているかを決めます。次に、用語の範囲が狭められていないか、効果の向きが逆になっていないかを確認します。特に準拠集団、バンドワゴン/スノッブ、ライフサイクル/ライフコース、デモグラフィック/サイコグラフィックは、ひっかけが作られやすい組み合わせです。
一次試験過去問での出方
2007年度第32問、2012年度第27問、2017年度第35問、2020年度第33問、2022年度第27問では、準拠集団、公共的消費、弱いつながり、自己高揚、情報的・功利的・価値表出的影響が問われました。
2013年度第25問設問1では、準拠集団、イノベーター、キャズム、マーケットメイブンの用語対応が問われました。
2014年度第30問設問1から3では、家族と家計、ライフサイクル、ライフスタイル、ライフコースの違いが問われました。
2024年度第38問設問1・2では、デモグラフィック/サイコグラフィック、バンドワゴン/スノッブ/ヴェブレン、アサエル分類が問われました。
2022年度第35問、2025年度第35問では、脱物質主義、顕示的消費、リキッド消費、快楽消費など、近年の消費スタイルが問われました。