企業経営理論
標準その他
近年出題された周辺事項を過去問ベースで扱う。
ファミリービジネスの分析枠組み
この章で覚えておきたいこと
ファミリービジネスの周辺論点では、細かな用語暗記よりも、どのモデルが何を整理するかを見分ける力が問われます。近年は、スリー・サークル・モデル、4Cモデル、スリー・ディメンション・モデル、PPPモデルを入れ替えた選択肢が出ています。
まず、スリー・サークル・モデルは、家族、所有、事業の3つの立場を整理する枠組みです。PPPモデルのように、家族側の目標と企業側の計画を並行して作るモデルではありません。
次に、4Cモデルは、ファミリービジネスの特徴を Continuity、Community、Connection、Command の4要素から見る枠組みです。4つのうち強みを1つ選ぶモデルではなく、各要素にプラス面とマイナス面があることを押さえます。
人物事例では、家族関係だけで判断しないことが大切です。株式を持っているか、役職を持って経営に関与しているか、家族の一員かを分けて読むと、発言の立場を判定しやすくなります。
基本知識
ファミリービジネスの利害は3つに分けて読む
ファミリービジネスでは、同じ人物が「家族の一員」「株主」「経営者」という複数の立場を同時にもつことがあります。一方で、家族だが株式を持たない人、株式は持つが経営に関与しない人、経営者だが株式を持たない人もいます。
このように立場が重なるため、発言の意図も1つに決まりません。株主としては配当や所有権を重視し、経営者としては業績や執行責任を重視し、家族としては関係維持や一族の納得を重視することがあります。
一次試験では、人物の肩書きだけでなく、株式保有、役職、家族関係を切り分けて読む必要があります。特に「前社長」「後継社長」「兄弟」「配偶者」などが出てきたら、感覚で読まず、誰がどの立場にいるかを整理します。
スリー・サークル・モデル
スリー・サークル・モデルは、ファミリービジネスの関係者を、家族、所有、事業の3つの円の重なりで整理するモデルです。人によって、家族だけ、所有だけ、事業だけ、または複数の領域にまたがる立場をとります。
このモデルで見るべきことは、関係者の利害や役割がどこから生じているかです。たとえば、創業者一族であっても株式を持たず経営にも関与していなければ、所有者や経営者としての立場ではありません。逆に、経営から退いた前社長でも、多数の株式を持っていれば所有者として強い影響力を持ちます。
注意点は、スリー・サークル・モデルをPPPモデルと混同しないことです。スリー・サークル・モデルは、家族、所有、事業の立場整理に使う枠組みです。家族固有のビジョンや目標と、企業の戦略計画を並行して計画する説明が出たら、PPPモデルに近い内容だと判断します。
4Cモデル
4Cモデルは、高い永続性をもつファミリービジネスの特徴を4つのCで整理する枠組みです。
- Continuity: 継続性です。世代を超えた存続や長期視点につながりますが、過去の成功や伝統に縛られると硬直化の原因にもなります。
- Community: 同族集団や共同体としての結束です。信頼や一体感を生みますが、閉鎖性や外部人材の活用不足につながることがあります。
- Connection: 地域、取引先、従業員などとのつながりです。良き隣人としての関係や信用を生みますが、しがらみによって合理的な意思決定が遅れることがあります。
- Command: 自由度の高い意思決定や統制です。迅速な判断や環境適応を可能にしますが、権限集中や属人的判断の弱みも併せ持ちます。
試験では、4Cモデルを「4つの中から自社の強みを1つ選んで伸ばすモデル」と読むと誤ります。4Cモデルは、各要素が競争優位の源泉にもなり、制約にもなりうるという両面性を見る枠組みです。
また、要素名の取り違えにも注意します。4Cの3つ目は Connection です。Commitment など似た語が選択肢に入っていても、4Cモデルの構成要素としては不正確です。
スリー・ディメンション・モデル
スリー・ディメンション・モデルは、ファミリー、ビジネス、オーナーシップの各軸について、発展段階や時間的変化を捉える枠組みです。スリー・サークル・モデルが関係者の立場を整理する静態的な見方であるのに対し、スリー・ディメンション・モデルは、世代交代、所有構造、事業の成長などの変化を考えます。
選択肢で「現在の状況を3つの領域で見る」だけの説明になっている場合は、スリー・サークル・モデルに近い説明です。スリー・ディメンション・モデルは、単に3領域を並べるのではなく、時間的な発展段階を扱う点で区別します。
PPPモデル
PPPモデルは、パラレル・プランニング・プロセス・モデルのことです。ファミリーの目標や価値観と、企業の経済的目標や戦略計画を並行して考え、両者の適合を図る枠組みです。
ファミリービジネスでは、家名、家訓、地域との信頼、次世代への承継などの非経済的側面が重要になる一方で、企業としては収益性、成長、競争力も必要です。PPPモデルは、この非経済的側面と経済的側面を両立させる考え方として押さえます。
スリー・サークル・モデルとの違いは明確です。スリー・サークル・モデルは関係者の立場を分類するモデルであり、PPPモデルはファミリー面とビジネス面の計画を並行させるモデルです。
人物事例の判定手順
人物事例では、まず各人物について、株式保有、役職、家族関係を分けてメモします。次に、その人物の発言が株主としての発言か、経営者としての発言か、家族としての発言かを判断します。
判断の順序は次の通りです。
- 株式を持っているかを確認し、所有者としての利害を読む。
- 代表取締役、専務、従業員などの役職を確認し、事業への関与を読む。
- 親子、兄弟、配偶者などの家族関係を確認し、ファミリーとしての立場を読む。
- 発言内容が、配当、業績、経営責任、家族の納得のどれに近いかを対応させる。
この手順を使うと、「家族だから同じ立場」「社長だから株主でもある」といった読み違いを避けられます。ファミリービジネスの問題では、家族関係、所有、経営が重なりやすいからこそ、あえて分けて読むことが得点につながります。
この章のまとめ
スリー・サークル・モデルは、家族、所有、事業の3つの立場を整理する枠組みです。PPPモデルのように、ファミリー目標と企業戦略を並行して計画するモデルではありません。
4Cモデルは、Continuity、Community、Connection、Command の4要素でファミリービジネスの特徴を見ます。各要素にはプラス面とマイナス面があり、強みを1つ選ぶモデルではありません。
スリー・ディメンション・モデルは、ファミリー、ビジネス、オーナーシップの発展段階を時間的に捉える枠組みです。現在の立場整理だけで終わる説明とは区別します。
PPPモデルは、ファミリーの非経済的目標と企業の経済的目標を並行して計画し、両立を図る枠組みです。モデル名が複数出たら、名称の印象ではなく「何を整理する枠組みか」で判断します。
人物事例では、株式保有、役職、家族関係を分けて読みます。株主としての発言、経営者としての発言、家族としての発言を混同しないことが重要です。
一次試験過去問での出方
2018年第11問では、スリー・サークル・モデルの説明にPPPモデルに近い内容を混ぜ、不適切肢として問われました。スリー・サークル・モデルは、家族、所有、事業の立場整理です。
2021年第9問では、株式保有、役職、家族関係から、人物ごとの発言がどの立場に合うかを判定させました。家族であること、所有者であること、経営者であることを分ける問題です。
2022年第7問では、4Cモデルが問われました。Continuity、Community、Connection、Command の各要素にはプラス面とマイナス面があり、1つの強みを選ぶモデルではない点が軸です。
2023年第2回第6問では、4Cモデル、スリー・サークル・モデル、スリー・ディメンション・モデル、PPPモデルの違いが横断的に問われました。4Cの Connection と Commitment の取り違え、スリー・ディメンションの時間的発展、PPPモデルの非経済的側面と経済的側面の両立を確認します。