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NARITAI

企業経営理論

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個人行動の周辺論点を扱う。

この章で覚えておきたいこと

このトピックでは、意思決定、モチベーション、組織コミットメントに入りきらない「組織における個人」の周辺知識を扱います。深追いよりも、過去問で問われた定義、具体例、ひっかけの切り分けを優先します。

  • 心理的契約は、従業員と組織の間にある明文化されない相互期待です。
  • 組織的公正は、処遇や意思決定が公正だと受け止められるかを扱います。
  • ビッグファイブでは、職務成果全般は誠実性、対人職の成果は外向性、職務満足低下は神経症傾向と結びつきやすいです。
  • 組織市民行動は、公式報酬が明確に約束されていなくても、組織運営に役立つ自発的行動です。
  • 組織社会化は、新しいメンバーが組織の価値観、規範、役割期待、行動様式を学び、適応するプロセスです。

基本知識

心理的契約は暗黙の相互期待です

心理的契約とは、組織と個人の間で明文化されていないが、本人が「相手はこうしてくれるはずだ」と認知している相互義務です。給与、職務内容、昇進、育成機会、裁量、信頼関係などをめぐる期待が含まれます。

心理的契約が良好に保たれると、従業員は書面上の義務を超えて協力しやすくなります。逆に、期待が裏切られたと感じると、不満、信頼低下、離職意向、消極的行動につながりやすくなります。

誤答になりやすい表現は次のとおりです。

  • 法的な雇用契約そのものとして説明する。
  • 組織との関係ではなく、個人間の約束として説明する。
  • 正規社員だけに成立すると限定する。
  • 外部環境、人事施策、リーダーシップから独立しているとする。

組織的公正は分配と手続きの公正さを見る

組織的公正は、組織内の意思決定や処遇が公正だと受け止められるかを扱います。試験では、分配の考え方が特に問われます。

  • 衡平性: 貢献、投入、成果、努力などに応じて分配します。
  • 平等性: 成果や属性にかかわらず、同じように分配します。
  • 必要性: 個人が置かれた境遇や必要の大きさに応じて分配します。

企業の報酬や評価では、全員を一律に扱う平等性よりも、貢献差を反映する衡平性が中心になりやすいです。ただし、福利厚生や最低限の処遇では平等性や必要性が使われることもあります。

手続き的公正では、決定過程が一貫していること、偏りがないこと、正確な情報に基づくこと、修正や不服申し立ての機会があることが重要です。

ビッグファイブは職務満足と成果の対応で覚える

ビッグファイブは、個人のパーソナリティを外向性、神経症傾向、開放性、調和性、誠実性の5特性で説明するモデルです。

  • 外向性: 社交的、話好き、積極的です。営業職や管理職など対人関係が重要な職務で成果に結びつきやすいです。
  • 神経症傾向: 心配性、傷つきやすい、情緒が不安定です。強いほど職務満足が低くなりやすいです。
  • 開放性: 想像力、好奇心、新しい経験への関心です。創造性とは関係しうる一方、過去問では職務満足との有意な関係から外れる特性として問われました。
  • 調和性: 協力的、温和、思いやりがあることです。対人関係には関係しますが、対人職の成果を問う空欄では外向性と入れ替えられやすいです。
  • 誠実性: 計画的、責任感が強い、勤勉です。多くの職務で成果と安定して正に結びつきやすいです。

組織市民行動は自発的に組織を助ける行動です

組織市民行動は、職務記述書に明記された義務や公式報酬とは直接結びつかないが、組織全体の有効性を高める自発的行動です。

代表的な5次元は、次のように整理します。

  • 市民道徳: 任意の会議参加、組織の方針への関心、改善提案など、組織全体への主体的関与です。
  • スポーツマン精神: ささいな不満を過度に言わず、前向きに協力する姿勢です。
  • 誠実さ: 監視がなくても規律を守り、時間やルールを守って勤勉に働く行動です。
  • 丁重さ: 関係者に事前に報告・相談し、迷惑やトラブルを予防する配慮です。
  • 利他主義: 困っている同僚や新メンバーを自発的に助ける行動です。

特に、丁重さは事前配慮、利他主義は同僚支援、市民道徳は組織参加として短く覚えると、具体例問題で迷いにくくなります。

組織社会化は新メンバーの適応プロセスです

組織社会化とは、新しいメンバーが組織や集団の価値観、規範、必要とされる行動パターンを学び、それらに適応していくプロセスです。新人だけでなく、中途入社者や異動者にも関係します。

時間軸で見ると、次のように整理できます。

  • 予期的社会化: 組織に入る前に、職業や組織について情報を得て期待を形成する段階です。
  • 入社後の社会化: 実際に組織へ参加した後、役割期待、ルール、職場の暗黙知を学ぶ段階です。
  • 組織再社会化: 転職や組織間移動を契機として、移動先の組織に改めて適応する過程です。

上司、メンター、人事担当者だけでなく、同僚も社会化エージェントです。本人がフィードバックを求める、情報を探索する、人間関係を築くといった行動は、社会化を阻害するのではなく促進します。

この章のまとめ

このトピックを解くときは、まず設問が何を聞いているかを分類します。

  1. 個人と組織の暗黙の相互期待なら、心理的契約です。
  2. 処遇や意思決定の公正さなら、組織的公正です。
  3. パーソナリティと職務成果なら、ビッグファイブです。
  4. 自発的な協力行動なら、組織市民行動です。
  5. 新メンバーの適応なら、組織社会化です。

組織的公正では、貢献・努力・成果に応じるなら衡平性、同一配分なら平等性、境遇や必要に応じるなら必要性です。ビッグファイブでは、職務成果全般は誠実性、対人職は外向性、職務満足低下は神経症傾向と対応させます。

一次試験過去問での出方

2015年問15では、心理的契約が問われました。明文化された雇用契約以上の業績を期待できるという理解が正答であり、個人間の約束、正規社員限定、外部環境や人事施策から独立した心理状態とする説明が誤りとして使われました。

2015年問16では、組織的公正が問われました。衡平性、平等性、必要性を見分ける問題であり、企業の成果配分では一律平等よりも貢献に応じた衡平性が中心になる点が問われました。

2019年問18では、ビッグファイブが空欄補充で出題されました。職務満足との有意な関係から外れるものは開放性、職務成果全般と正の相関を持つものは誠実性、対人職で成果に結びつくものは外向性でした。

2025年問17では、組織市民行動が問われました。D.オーガンの5次元のうち、丁重さが「関係者へ事前に報告や相談をし、問題が起こらないよう配慮する行動」として正答になりました。

2025年問19では、組織社会化が問われました。転職などの組織間移動を契機に移動先組織へ適応する過程は組織再社会化です。フィードバック要求は社会化を促進し、同僚も社会化エージェントになります。