企業経営理論
標準マーケティングの定義
マーケティングの定義を扱う。
この章で覚えておきたいこと
マーケティングは、広告や販売促進だけを指す言葉ではありません。顧客や社会にとって価値のあるものをつくり、伝え、届け、交換するための活動、組織、制度、プロセスを含む広い概念です。
一次試験では、アメリカ・マーケティング協会(AMA)の定義がそのまま問われます。特に、2004年定義と2007年定義の違い、2007年定義に出てくる英語表現、exchange と offerings の意味を押さえることが重要です。
2004年定義では、マーケティングは顧客価値を創造・伝達・提供し、組織とステークホルダーの双方を利する形で顧客との関係性を管理するための組織機能と一連のプロセスとされました。ここでは、顧客関係管理とステークホルダーが中心です。
2007年定義では、マーケティングは顧客、クライアント、パートナー、社会一般にとって価値のある offerings を創造・伝達・提供・交換するための活動、一連の institutions、プロセスとされました。ここでは、一部門の機能ではなく、より広い活動・制度・プロセスとして捉える点が中心です。
基本知識
マーケティングは販売より広い
マーケティングを「販売すること」「広告すること」とだけ覚えると、定義問題で誤答しやすくなります。販売や広告はマーケティング活動の一部ですが、マーケティング全体ではありません。
マーケティングは、顧客や市場のニーズを理解し、価値ある提供物を設計し、その価値を伝え、届け、交換につなげる一連の活動です。したがって、商品が完成した後に売り込む活動だけでなく、何を誰に提供するかを決める段階からマーケティングに含まれます。
この理解は、後続で学ぶ STP と 4P の土台になります。STP では市場を分け、狙う顧客を決め、自社の価値の位置づけを明確にします。4P では、その価値を Product、Price、Place、Promotion の組み合わせとして具体化します。
2004年定義はステークホルダーと関係管理
AMA の2004年定義では、マーケティングは顧客価値を創造・伝達・提供し、顧客との関係性を管理するための組織機能と一連のプロセスとして説明されます。
この定義で必ず押さえる語句は、ステークホルダーです。2004年定義は、組織とそのステークホルダーの双方を利する形で顧客との関係性を管理するとしています。
ステークホルダーには、株主だけでなく、従業員、取引先、地域社会などの利害関係者も含まれます。試験では、空欄に「従業員」「カスタマー・リレーションシップ」「販売代理店」などを入れたくなる選択肢が出ますが、2004年定義の空欄はステークホルダーです。
2007年定義は社会一般まで広げる
AMA の2007年定義では、価値の対象が顧客、クライアント、パートナーに加えて、社会一般まで広がります。日本語問題では「社会一般」、英語問題では society at large が狙われます。
2007年定義は、マーケティングを一部門の機能だけではなく、活動、一連の制度、プロセスとして位置づけます。英語では、Marketing is the activity, set of institutions, and processes... という形で出題されます。
ここでの institutions は、単に営利企業だけを指す語ではありません。組織や制度を含む広い表現です。そのため、commercial institutions や commercial organizations のように営利性へ狭めた選択肢は、AMA定義の語句とずれます。
offerings は製品・サービスより広い
2007年定義で使われる offerings は、製品やサービスだけを指す語ではありません。製品、サービス、経験、情報、ブランド、関係性などを含む、提供物全体を表します。
試験では、products and services という選択肢がもっともらしく見えます。しかし、AMA定義の語句としては offerings が正しいです。products and services は意味として近く見えても、定義の表現を狭くしているため切る必要があります。
offerings を理解すると、マーケティングが「物を売る活動」ではなく、顧客や社会にとって価値あるものを設計し、届ける活動であることが分かります。
exchange は単発売買ではない
2007年定義には exchanging という語が出てきます。ここでいう exchange は、単発の売買で組織が収益を上げることだけを意味しません。
exchange は、複数の主体の間で価値をやり取りする広い概念です。顧客は代金だけでなく、時間、情報、信頼、継続取引、口コミなどを差し出すことがあります。企業や組織は、製品・サービスだけでなく、体験、情報、安心、社会的価値などを提供します。
したがって、「交換とは単発取引を通じて組織が収益を得ること」とする説明は不適切です。2010年の過去問では、この狭すぎる説明を切れるかが問われました。
英語定義は4語をセットで覚える
2016年の過去問では、AMA定義の英語文に空欄が置かれました。ここでは、次の4語をセットで覚える必要があります。
- institutions: 活動を支える組織や制度を含む広い語です。
- offerings: 製品・サービスに限定されない提供物全体です。
- customers: consumers より広い顧客を表す語です。
- society at large: 社会一般、社会全体を表す語です。
近い語句に見える products and services、consumers、shareholders、employees などは、AMA定義の語句ではありません。空欄補充では、意味が似ているかどうかだけでなく、定義の原文に沿っているかを確認します。
この章のまとめ
マーケティングの定義問題では、まず説明が狭すぎないかを確認します。広告、販売促進、営業、製品販売だけに限定する選択肢は、マーケティング全体を表していません。
2004年定義は、顧客価値、顧客関係管理、組織とステークホルダーの双方の利益を押さえます。空欄で問われる中心語はステークホルダーです。
2007年定義は、activity、institutions、processes、offerings、customers、society at large を押さえます。特に、社会一般まで価値の対象を広げ、一部門の機能ではなく広い活動・制度・プロセスとしてマーケティングを捉える点が重要です。
exchange は単発売買や収益獲得だけではありません。価値のやり取り全般を指します。offerings も製品・サービスだけではなく、経験、情報、ブランド、関係性などを含む広い提供物です。
最後に、英語の空欄補充では、institutions、offerings、customers、society at large の4語を崩さずに確認します。products and services、consumers、shareholders のような近そうな語句ほど、定義の原文と違うものとして切ります。
一次試験過去問での出方
2010年第28問の設問1から設問3では、AMAの2004年定義と2007年定義が示され、ステークホルダー、社会一般、exchange の意味、2007年定義の広がりが問われました。2007年定義の exchange を「単発的な取引で収益を上げること」とする説明は不適切です。
2016年第30問設問1では、AMA定義の英語文について、institutions、offerings、customers、society at large の組み合わせを選ばせる問題が出ました。products and services、consumers、shareholders など、近そうでも定義の語句から外れる選択肢を切る力が必要です。