企業経営理論
標準コミュニケーションの基礎概念(コミュニケーションの定義、コミュニケーションの分類)
コミュニケーションの定義と分類を扱う。
コミュニケーションの基礎概念
この章で覚えておきたいこと
マーケティング・コミュニケーションは、企業が顧客や社会に情報を流すだけの活動ではありません。製品やサービスの価値を伝え、顧客の認知、理解、好意、比較、購買、継続利用、推奨へつなげるために、複数の接点を設計し、管理する活動です。
このトピックでは、細かな媒体分類や広告効果測定に入る前に、次の判断軸を固めます。
- マーケティング・コミュニケーションは、顧客との接点を通じて価値を伝え、関係をつくる活動です。
- 広告、販売促進、人的販売、PR、パブリシティ、コンテンツ・マーケティングは、目的、費用負担、内容統制、信頼性、即効性が異なります。
- IMCでは、広告、販促、PR、パッケージ、店舗、Webサイトなどをばらばらに扱わず、顧客視点で一貫したメッセージに統合します。
- 購買プロセスの前半では認知や興味の形成、後半では比較、説得、購入の後押し、購入後では関係維持や推奨が重要になります。
- BtoBでも広告、ブランド、口コミ、導入事例、ホワイトペーパーなどは意味を持ちます。
- コンテンツ・マーケティングは、いきなり制作するのではなく、目標、対象、計画、制作、配信、評価改善の順で管理します。
詳細なマスメディアやSPメディアの分類は「コミュニケーションの種類」、広告計画や効果測定は「広告計画と効果測定」、SNSやデジタル広告の詳細は「デジタル時代のコミュニケーション」で扱います。ここでは、各手段を選択肢で見分けるための土台を作ります。
基本知識
マーケティング・コミュニケーションの定義
マーケティング・コミュニケーションとは、企業が市場に向けて価値を伝え、顧客や関係者との関係を形成・維持するための活動です。製品、価格、流通が整っていても、顧客がその価値を知らなければ購買には結びつきません。
試験では、コミュニケーションを「企業から消費者への一方通行の伝達」とだけ考えると失点しやすくなります。現代のコミュニケーションでは、顧客が検索し、比較し、口コミを発信し、企業がそれに応答するため、双方向性と接点管理が重要です。
特にIMCでは、広告、販売促進、PR、人的販売、パッケージ、店舗、Webサイト、SNSなどを、顧客から見て一貫したブランド経験になるように統合します。ポイントは、企業側の部署単位ではなく、顧客がどの接点で何を受け取るかを基準に考えることです。
購買プロセス上の役割
コミュニケーション手段は、購買プロセスのどの段階に働きかけるかで役割が変わります。
代表的には、次の流れで考えると整理しやすいです。
- 問題認識
- 顧客がニーズや課題に気づく段階です。
- 広告、SNS投稿、口コミ、展示会、記事などがきっかけになります。
- 情報探索
- 顧客が解決策や候補製品を探す段階です。
- 企業サイト、販売員、商品パッケージ、店頭展示、レビュー、比較記事、ホワイトペーパーなどが情報源になります。
- 代替案の評価
- 複数の候補を比較する段階です。
- 導入事例、詳細資料、営業担当者の説明、第三者評価、口コミが効きやすくなります。
- 選択・購買
- 最終的な購入を後押しする段階です。
- 販売促進、人的販売、店頭施策、価格条件、保証説明などが重要です。
- 購入後評価
- 満足、不満、継続利用、推奨につながる段階です。
- サポート、コミュニティ、メール、会員施策、口コミ対応が効きます。
2017年の過去問では、消費者が製品やブランドに関する情報を多様な接点から得ること、そしてIMCがその接点を統合的に管理する考え方であることが問われました。広告だけを見るのではなく、パッケージ、店舗、口コミ、Webサイトなども顧客接点として読む必要があります。
広告と販売促進
広告は、企業などの広告主が媒体費を負担し、比較的広い対象へメッセージを届ける活動です。テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、屋外広告、Web広告、SNS広告などが含まれます。基本的には、広告主がメッセージ内容や掲載時期を一定程度コントロールできます。
広告の主な役割は、認知形成、理解促進、ブランドイメージ形成、想起促進です。購買直前だけでなく、顧客がまだ課題を明確にしていない段階や、候補を思い浮かべる段階でも意味があります。
販売促進は、クーポン、サンプル、ポイント、キャンペーン、店頭実演、景品などによって、短期的な購買行動を刺激する活動です。広告が「知ってもらう」「好きになってもらう」働きを持ちやすいのに対して、販売促進は「試してもらう」「今買ってもらう」働きが強いです。
両者の違いは、次のように押さえます。
- 広告
- 認知、理解、態度形成、ブランド想起に向きます。
- 比較的広い対象にメッセージを届けます。
- 効果は中長期的に現れることもあります。
- 販売促進
- 試用、来店、購買、短期的な反応の獲得に向きます。
- 値引き、特典、体験などで行動を後押しします。
- 即効性はありますが、過度に使うとブランド価値を下げる場合があります。
人的販売とPR・パブリシティ
人的販売は、営業担当者や販売員が顧客と直接やり取りし、説明、提案、交渉、疑問解消を行う活動です。高関与商品、複雑なサービス、BtoB商材では特に重要です。
人的販売の強みは、顧客ごとに説明を変えられることです。相手の課題を聞き、条件を調整し、不安を解消できるため、購買プロセスの後半で効きやすくなります。一方で、広い対象へ一度に届けることは苦手で、人的コストもかかります。
PRは、企業が社会、顧客、メディア、行政、地域、従業員などのステークホルダーと良好な関係を形成する活動です。広告のように直接購入を促すだけでなく、企業への信頼、評判、理解を高める役割を持ちます。
パブリシティは、企業や製品の情報が新聞、テレビ、Webメディアなどでニュースや記事として取り上げられることです。広告と比べると、媒体側の判断が入るため第三者性があり、信頼形成に役立つ場合があります。ただし、企業が内容や掲載タイミングを完全に統制できるわけではありません。
広告、PR、パブリシティは、次の違いで見分けます。
- 広告
- 媒体費を支払い、広告主が内容をコントロールしやすい活動です。
- PR
- ステークホルダーとの関係形成や信頼形成を重視する活動です。
- パブリシティ
- メディアにニュースや記事として取り上げられることです。
2024年の広告類型の問題では、公共広告、おとり広告、パブリシティなどが問われています。このトピックでは、まず「誰が費用を負担するか」「誰が内容を統制するか」「何を目的とするか」で区別できれば十分です。
コンテンツ・マーケティング
コンテンツ・マーケティングは、顧客にとって役立つ情報や体験を継続的に提供し、信頼や関係性を育てる活動です。単に広告文を作ることではなく、顧客が知りたい情報、比較に必要な情報、課題解決に役立つ情報を設計して届けます。
典型的なコンテンツには、次のようなものがあります。
- 課題解決記事
- 導入事例
- ホワイトペーパー
- セミナー資料
- 動画
- メールマガジン
- FAQ
- 比較ガイド
2024年の過去問では、コンテンツのマネジメント・プロセスが問われました。順序は、次のように押さえます。
- 目標設定
- ターゲットの設定
- コンテンツの計画立案
- コンテンツの制作
- コンテンツの配信と拡散
- コンテンツの評価と改善
ひっかけは、STPの一般的な順序をそのまま当てはめる選択肢や、制作と配信の順序を逆にする選択肢です。コンテンツ運用では、誰に何を届けるかを決めてから制作し、配信後に成果を評価して改善します。
口コミとBtoBでのコミュニケーション
口コミは、消費者や利用者が他者に製品・サービスの情報や評価を伝えることです。企業発信の広告よりも心理的抵抗が小さく、未知の商品やサービスを知るきっかけになりやすい場合があります。
ただし、口コミは常に正確で信頼できるわけではありません。誤情報、偏り、広告的な投稿、ネガティブ情報の拡散もあります。試験では「消費者発信だから常に信頼性が高い」といった断定を疑います。
BtoBでも、広告、ブランド、口コミ、コンテンツは不要ではありません。購買主体は企業でも、情報を集め、比較し、社内で説明し、最終判断するのは人です。BtoBでは次のような接点が重要になります。
- 業界紙や専門メディアでの広告
- 展示会やセミナー
- Web広告や検索結果
- ホワイトペーパー
- 導入事例
- 既存顧客からの紹介
- 業界内の評判
- ブランドが与える安心感
2024年のBtoBマーケティング問題では、BtoBでもブランドイメージに頼る購買が存在し、広告や口コミも意味を持つことが問われました。「BtoBだから広告不要」「企業購買だから口コミは発生しない」という選択肢は誤りです。
この章のまとめ
このトピックでは、コミュニケーション手段を細かく暗記するより、目的と接点で見分けることが重要です。
- 広告は、広告主が媒体費を負担し、認知形成やブランド想起に役立つ活動です。
- 販売促進は、クーポン、サンプル、キャンペーンなどで短期的な購買行動を刺激します。
- 人的販売は、個別説明、提案、交渉、不安解消に強く、BtoBや高関与商材で重要です。
- PRは、ステークホルダーとの良好な関係形成を重視します。
- パブリシティは、メディアにニュースや記事として取り上げられることで、第三者性があります。
- コンテンツ・マーケティングは、役立つ情報を継続提供し、信頼や関係性を育てます。
- IMCは、顧客接点を統合し、一貫したブランド経験をつくる考え方です。
- BtoBでも、広告、ブランド、口コミ、コンテンツは意思決定に影響します。
選択肢を読むときは、次の順で確認します。
- 何を狙う活動か
- 認知、短期購買、個別説得、信頼形成、関係維持のどれかを見ます。
- 誰が費用を負担し、誰が内容を統制するか
- 広告とパブリシティの区別で特に重要です。
- 購買プロセスのどの段階に効くか
- 前半は認知や興味、後半は比較や購買、購入後は関係維持を見ます。
- 断定表現がないか
- 「不要」「常に」「原則ない」「一方通行に変わりはない」などは慎重に読みます。
一次試験過去問での出方
2009年 第27問では、IMCが一方通行ではなく、顧客起点で複数接点を統合する考え方であることが問われました。2010年 第26問では、AIDMA/AISAS、IMC、プロモーション・ミックス、プッシュとプルの切り分けが問われました。2017年 第34問 設問2では、IMCが広告だけでなくパッケージや店舗などの接点も含めて管理する考え方として問われました。2021年 第34問では口コミとオンライン・コミュニティ、2024年 第32問ではコンテンツ管理の順序が問われています。