企業経営理論
標準その他
組織設計の周辺論点を扱う。
組織設計の周辺論点
この章で覚えておきたいこと
この章では、組織目標、階層、分業と調整、権限と責任、横断的関係に直接分類しにくい周辺論点を扱います。出題範囲は広く見えますが、一次試験で問われる軸は限られます。
- 組織均衡は、参加者が組織から受け取る誘因と、組織へ提供する貢献の交換関係で組織の存続を説明する考え方です。
- 組織スラックは、組織均衡の維持に必要な資源を超えて保有される余裕資源です。
- スラックは単なる無駄ではなく、環境変化へのバッファー、革新の原資、利害調整の余地になります。
- コントロールシステムは、活動をどの時点の情報で制御するかで、フィードフォワード、フィードバック、オープンループを区別します。
- 危機対応では、手順書や公式ルートだけでなく、情報の曖昧さを伝えられる豊かなコミュニケーション媒体を選ぶことが重要です。
基本知識
組織均衡は誘因と貢献の交換で見る
組織均衡は、組織を多くの参加者による協働体系として捉えます。参加者は、賃金、地位、承認、成長機会などの誘因を受け取り、その見返りとして労働、知識、協力、情報提供などの貢献を行います。
組織が存続するには、参加者に必要な誘因を提供し、その誘因によって組織に必要な貢献を引き出せる状態を保つ必要があります。ここでいう「支払い能力」は、単に金銭を払えるという意味ではなく、参加者の貢献を引き出すだけの誘因を組織が供給できることを指します。
組織均衡で押さえるべき中心は、次の関係です。
- 組織は、参加者の相互に関連した社会的行動の体系です。
- 参加者は、組織から誘因を受け、その見返りとして貢献します。
- 参加者の貢献は、組織が誘因を生み出す源泉になります。
- 組織は、貢献を引き出すのに十分な誘因を供給できる限り存続します。
- 参加継続条件は、誘因が貢献に見合うことです。誘因が貢献を大きく上回る場合だけに限定してはいけません。
試験では、参加者の継続条件を「誘因と貢献の差し引き超過分が正の場合だけ」と狭く書く選択肢が出ます。この表現は、均衡状態を除外してしまうため不適切になりやすいです。
組織スラックは余裕資源である
組織スラックは、組織均衡を維持するために最低限必要な資源を超えて、組織が実際に保有している余裕資源です。余裕資金、人員、時間、設備能力、情報処理能力などが該当します。
スラックは非効率に見えることがあります。しかし、一次試験では「余っているから悪い」と単純に判断してはいけません。組織スラックには、主に次の働きがあります。
- バッファーとして、環境変化や緊急事態の影響を吸収します。
- 革新資源として、新規行動案の探索や試行錯誤を支えます。
- 利害調整として、複数の参加者や部門の要求を調整する余地を作ります。
- 満足水準の調整として、好況時の過度な配分や、不況時の急激な不満をならす役割を持ちます。
スラックがあると、失敗しても組織全体がすぐに致命傷を負いにくくなります。そのため、新しい行動案の探索やイノベーションに取り組みやすくなります。反対に、スラックがない組織は失敗を吸収しにくいため、革新案の探索では保守的になりやすいです。
この方向を逆にした選択肢は頻出です。「スラックがないほどリスク志向的になる」「スラックは革新資源にはならない」「スラックがあると部門間コンフリクトが激化する」といった記述は疑って読みます。
景気変動とスラックの使い方
組織スラックは、景気の良し悪しと結びつけて問われることがあります。好況時には、余剰をすべて参加者へ配分せず、スラックとして蓄えることで、参加者の満足水準が急に上がりすぎることを抑えられます。満足水準が急上昇すると、後で業績が悪化したときに同じ水準を維持しにくくなるためです。
不況時には、蓄えていたスラックを使うことで、参加者への誘因を急に減らさずに済みます。つまり、不況期にスラックを放出することは、参加者の満足水準を低下させるためではなく、短期的な満足低下を抑えるために働きます。
景気変動とスラックの関係は、次のように整理します。
- 好況時は、スラックを増やして満足水準の急上昇を抑えます。
- 不況時は、スラックを放出して満足水準の急低下を抑えます。
- スラックは、景気変動の影響を組織内部へそのまま伝えない緩衝材です。
コントロールシステムは時間軸で区別する
コントロールシステムは、活動プロセスを望ましい状態に保つための仕組みです。試験では、名前よりも「いつの情報で何を制御するか」を見ると判断しやすくなります。
フィードフォワードは、投入やプロセスの上流で問題を予測し、事前に防ぐ管理です。原材料や設備を導入する前に性能やスペックを検査することが例です。ただし、事前に検査しても、プロセス途中の変動まですべて取り除けるわけではありません。最終アウトプットを完全に保証できるという表現は言いすぎです。
フィードバックは、アウトプットが出た後の結果情報を使い、次回以降の活動に反映する事後管理です。結果情報を使うため、すでに完了した上流活動をその場で制御することはできません。「上流活動の制御に有効」と書かれていたら、時間軸のずれを疑います。
オープンループは、結果情報を自動的に還流させて調整する仕組みを持たず、職務記述書や標準業務手続きなど、あらかじめ定めた手順やルールで活動を制御します。そのため、管理者は、その手順やルールが今も適切かを別途評価する必要があります。
危機対応では豊かな媒体を選ぶ
不測の事態が起きたときは、標準業務手続きや訓練が役に立つ場面もあります。しかし、予測できない危機では、手順書だけでは十分に対応できないことがあります。
危機時の情報は、原因、影響範囲、深刻さ、関係者の不安が混ざり、曖昧さが高くなります。このような情報を伝えるには、電話や書類のように伝達できる情報量が限られる媒体よりも、表情、声の調子、即時の質疑応答を含めて伝えられるフェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションが有効です。
危機対応で注意する選択肢は次のとおりです。
- 過去の成功事例だけに頼る説明は、未知の危機への対応力として弱いです。
- 過失を人事考課に直結させると、早期報告や失敗共有が抑制されやすくなります。
- 非公式ルートを一律に遮断すると、現場の実態が上がりにくくなります。
- 標準手続きや訓練は有効ですが、予測不能な事態を完全に処理できるわけではありません。
この章のまとめ
この章は、用語の暗記だけでなく、選択肢の方向を読むことが重要です。
- 組織均衡では、誘因と貢献の交換関係を基準にします。組織の存続は、貢献を引き出す誘因を継続して供給できるかで判断します。
- 組織スラックでは、余裕資源を「無駄」と決めつけません。バッファー、革新資源、利害調整、満足水準の調整という役割を押さえます。
- スラックがないと、探索行動はリスク志向的ではなく、むしろ保守的になりやすいです。
- コントロールシステムでは、事前管理がフィードフォワード、事後管理がフィードバック、結果情報の自動還流を持たない仕組みがオープンループです。
- 危機対応では、処罰、遮断、手順書だけに寄せた説明に注意します。曖昧さの高い情報には、対面のような豊かな媒体が適しています。
迷ったときは、「それは組織の均衡を保つのか」「余裕資源の働きを逆にしていないか」「制御の時間軸が合っているか」「危機時に情報共有を妨げていないか」を確認してください。
一次試験過去問での出方
2010年 第16問設問2では、不測の事態への組織能力が問われました。危機の深刻さを伝えるには、情報量の豊かなフェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションが適切でした。
2012年 第14問では、組織均衡の中心的公準が問われました。参加者は誘因を受けて貢献し、その貢献が組織の誘因供給の源泉になる、という交換関係を押さえる問題です。
2015年 第19問と2022年 第19問では、組織スラックが問われました。スラックは革新資源にもバッファーにもなり、好況時・不況時の満足水準調整にも関わります。
2017年 第15問では、コントロールシステムのデザインが問われました。フィードフォワード、フィードバック、オープンループは、制御するタイミングと結果情報の扱いで区別します。