企業経営理論
標準その他
組織形態の周辺論点を扱う。
この章で覚えておきたいこと
- この章では、事業部制、職能部門組織、マトリックス組織、機械的・有機的管理システムに入りきらない組織構造の周辺論点を扱います。
- ミンツバーグの組織形態では、プロフェッショナル官僚制、アドホクラシー、機械的官僚制などを、調整メカニズムと組織の中心部分で見分けます。
- プロフェッショナル官僚制は、専門職の自律性と技能の標準化で読みます。
- アドホクラシーは、不確実性の高い仕事に向き、相互調整と柔軟なプロジェクト編成で読みます。
- 部門間相互依存では、プールされた相互依存、連続的相互依存、相互補完的相互依存の順に、調整の難度が高まります。
- バーナードの無関心圏は、命令が疑問なく受容される範囲であり、命令を無視する範囲ではありません。
- ライン組織は、命令の一元化を徹底し、責任と権限を一本化する組織形態です。
「その他」は暗記項目の寄せ集めに見えますが、解くときの軸は一貫しています。どの組織形態も、何を中心に調整するか、権限がどこにあるか、どの環境に合うかで判断します。
基本知識
ミンツバーグの組織形態をどう読むか
ミンツバーグは、組織を構成する部分と調整メカニズムから、いくつかの典型的な組織形態を整理しました。一次試験で特に問われやすいのは、プロフェッショナル官僚制とアドホクラシーです。
調整メカニズムとは、組織内の仕事をどのようにそろえるかという考え方です。上司が直接命令するのか、作業手順を標準化するのか、専門職の技能を標準化するのか、メンバー同士が相互調整するのかで、組織形態の特徴が変わります。
ミンツバーグの問題では、名称を丸暗記するより、次の対応で見ます。
- 直接監督: 上位者が指示して調整します。単純構造と結びつきやすいです。
- 作業プロセスの標準化: 手順や規則を標準化します。機械的官僚制と結びつきやすいです。
- 技能の標準化: 専門教育や資格によって技能をそろえます。プロフェッショナル官僚制と結びつきやすいです。
- 相互調整: メンバー同士が直接やり取りして調整します。アドホクラシーと結びつきやすいです。
プロフェッショナル官僚制
プロフェッショナル官僚制は、専門職の知識と技能を基礎にした組織形態です。病院、会計事務所、大学のように、現場の専門家が高い自律性を持つ組織をイメージします。
特徴は次のとおりです。
- 専門職が中心です。現業部門にいる専門家の判断が重要になります。
- 技能の標準化によって調整します。専門教育、資格、訓練によって仕事の質をそろえます。
- 専門職の自律性が高いです。戦略的トップが細かく直接統制するわけではありません。
- テクノストラクチャは相対的に小さいです。専門職の仕事を細かく手順化しにくいためです。
- サポートスタッフは多くなりやすいです。専門職が本来業務に集中できるよう支援するためです。
2009年 第11問の設問1では、「テクノストラクチャは少なく、専門職を支援するサポートスタッフは多い」という方向が正解でした。プロフェッショナル官僚制を、上位者の直接統制や定型業務の効率処理と結びつけないことが重要です。
アドホクラシー
アドホクラシーは、研究開発、新規事業、技術開発のように、不確実性が高く、事前に正解が決まっていない仕事に向く組織形態です。
特徴は次のとおりです。
- 相互調整が中心です。専門家同士が直接やり取りしながら問題を解きます。
- 権限が分散します。上位者に判断を集中させるより、現場の専門知識を使います。
- 柔軟なプロジェクト編成をとります。課題に応じてチームを組み替えます。
- 標準化や公式化は弱いです。厳密な規則で管理するより、状況対応を重視します。
- 仲間によるコントロールが働きます。専門家同士の評価や協働が管理の役割を持ちます。
2009年 第11問の設問2では、アドホクラシーは「組織内の仲間によるコントロールと相互調整によって管理される傾向が強い」という方向が正解でした。アドホクラシーを、戦略的トップによる直接統制やテクノストラクチャの強さで説明する選択肢は疑います。
機械的官僚制との違い
機械的官僚制は、規則、手続き、作業プロセスの標準化によって効率的に仕事を処理する形態です。大量処理、定型業務、安定的な環境と相性がよいです。
プロフェッショナル官僚制と混同しやすいので、次のように分けます。
- 機械的官僚制
- 作業プロセスの標準化が中心です。
- テクノストラクチャの役割が大きくなりやすいです。
- 定型業務を効率的に処理する場面に向きます。
- プロフェッショナル官僚制
- 技能の標準化が中心です。
- 専門職の自律性が高いです。
- テクノストラクチャは相対的に小さく、サポートスタッフが多くなりやすいです。
- アドホクラシー
- 相互調整が中心です。
- 権限が分散し、柔軟なプロジェクトで動きます。
- 不確実性が高く、革新的な仕事に向きます。
部門間相互依存と調整方法
部門間相互依存は、部門同士の仕事がどの程度つながっているかを表します。相互依存が強いほど、調整の難度は高くなります。
代表的な3類型は次のとおりです。
- プールされた相互依存
- 各部門が比較的独立して仕事をし、成果を全体で合算します。
- 例として、複数店舗や複数支店がそれぞれ売上を上げ、会社全体の成果になる関係を考えると分かりやすいです。
- 調整必要性は比較的低く、標準化や共通ルールで処理しやすいです。
- 連続的相互依存
- ある部門のアウトプットが、次の部門のインプットになります。
- 生産工程の前工程と後工程のような関係です。
- 順序、納期、品質の調整が重要になります。
- 相互補完的相互依存
- 部門同士が相互にやり取りしながら仕事を進めます。
- 開発、営業、製造、サービスが何度も情報を戻し合うような関係です。
- 調整必要性が最も高く、直接コミュニケーション、チーム、会議体、相互調整が重要になります。
2022年 第13問は組織形態の問題でしたが、周辺論点としてこの相互依存関係も同じ章で押さえる価値があります。相互補完的相互依存を「規則だけで十分に調整できる」とする記述は誤りになりやすいです。
バーナードの無関心圏
バーナードの無関心圏とは、部下が命令をいちいち疑問視せず、受け入れる範囲のことです。言葉だけを見ると「関心がない」「無視する」と誤解しやすいですが、意味は逆です。
無関心圏では、命令が次のような条件を満たしやすいため、部下に受容されます。
- 命令の意味を理解できる。
- 組織目的と矛盾しないと感じられる。
- 自分の個人的利害と大きく衝突しない。
- 自分に実行可能だと判断できる。
組織は、誘因と貢献のバランスを保ち、命令が受け入れられる範囲を維持することで協働を成り立たせます。
2023年度 第1回 第14問では、無関心圏が「命令が疑問なく受容される範囲」であることが問われました。無関心圏を「命令を無視する範囲」「組織に悪影響だけを与える範囲」と説明する選択肢は誤りです。
ライン組織と命令の一元化
ライン組織は、命令の一元化の原則を重視する組織形態です。上司と部下の関係が一本の指揮命令系統で結ばれ、責任と権限が包括的に行使されます。
ライン組織の特徴は次のとおりです。
- 命令系統が明確です。
- 責任と権限の所在が分かりやすいです。
- 迅速な命令伝達に向きます。
- 一方で、専門的な助言や部門横断の調整は弱くなりやすいです。
2022年 第13問では、ライン組織が命令の一元化の原則を貫徹し、責任と権限が包括的に行使される組織形態であることが正解方向として問われました。
主要組織形態との接続
この章の「その他」は、主要組織形態と切り離して覚えるより、比較軸に戻して理解すると安定します。
- 職能部門別組織
- 専門分化と規模の経済に向きます。
- 各職能部門は通常、プロフィットセンターではなくコストセンターとして管理されます。
- 部門間調整は難しくなりやすいです。
- 事業部制組織
- 製品や地域などの単位で成果責任を持たせます。
- トップは業務的意思決定から解放され、戦略的意思決定に集中しやすくなります。
- 重複投資や事業横断シナジーの弱さが問題になりやすいです。
- マトリックス組織
- 機能軸と製品・プロジェクト軸など、複数の軸を同時に持ちます。
- 変化が速く、部門間相互依存が高い環境で有効です。
- 二重指揮命令に伴うコンフリクトや曖昧さを許容し、調整する文化が必要です。
2016年 第12問では、マトリックス組織が、変化の速い環境で部門間相互依存が高い場合に有効だが、コンフリクトや曖昧さを許容する組織文化がないと機能しにくい、という方向が問われました。
この章のまとめ
組織構造の周辺論点は、用語だけで覚えると混乱しやすいです。解くときは、次の順で整理します。
- 問題が扱う対象を分けます。ミンツバーグの組織形態、部門間相互依存、権威の受容、ライン組織、主要組織形態のどれを聞いているかを確認します。
- 組織形態なら、調整メカニズムを見ます。プロフェッショナル官僚制は技能の標準化、アドホクラシーは相互調整、機械的官僚制は作業プロセスの標準化です。
- 相互依存なら、独立度と調整必要性を見ます。プールされた相互依存から相互補完的相互依存へ進むほど、直接的な調整が必要です。
- 無関心圏なら、「命令を無視する範囲」ではなく「命令が受容されやすい範囲」と読みます。
- ライン組織なら、命令の一元化と責任・権限の一本化を確認します。
ひっかけは、調整メカニズムの入れ替えです。プロフェッショナル官僚制をトップの直接統制で説明する、アドホクラシーを規則や手続きで厳密に管理する、相互補完的相互依存を標準化だけで十分とする、といった記述は疑ってください。
一次試験過去問での出方
2009年 第11問の設問1では、ミンツバーグのプロフェッショナル官僚制が問われました。専門職の自律性、技能の標準化、テクノストラクチャの小ささ、サポートスタッフの多さが判断軸でした。
2009年 第11問の設問2では、アドホクラシーが問われました。研究開発組織のような不確実性の高い仕事では、相互調整と分散した権限が中心になります。
2016年 第12問では、機能別組織、事業部制組織、マトリックス組織の特徴が問われました。マトリックス組織は、変化の速い環境と高い相互依存に向く一方、コンフリクトを処理できる文化が必要です。
2022年 第13問では、事業部制、職能部門別組織、マトリックス組織、ライン組織の見分けが問われました。ライン組織は命令の一元化と責任・権限の一本化で判断します。
2023年度 第1回 第14問では、バーナードの無関心圏が問われました。無関心圏は命令が疑問なく受容される範囲であり、命令を無視する範囲ではありません。