企業経営理論
標準価格決定の手法(多様な決定方法)
価格決定の方法を整理する。
価格決定の手法
この章で覚えておきたいこと
- 価格決定は、何を基準にするかでコスト志向、需要志向、競争志向、価値ベースに分けて整理します。
- コスト志向では、原価、損益分岐点、目標利益をもとに、最低限回収すべき価格水準を考えます。
- 需要志向では、需要の価格弾力性、交差弾力性、セグメントごとの支払意思額を見ます。
- 競争志向では、競合価格、業界平均価格、市場の実勢価格を基準にします。
- 価値ベースでは、企業側の原価ではなく、顧客が知覚する便益や価値から価格を決めます。
- PSMは、消費者が感じる「安すぎる」「安い」「高い」「高すぎる」の境界から、受容価格帯を読む方法です。
基本知識
価格決定手法の全体像
価格決定では、まず価格の根拠を確認します。試験では、選択肢の文章がどの根拠で価格を決めているかを見分けることが重要です。
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コスト志向
原価に一定の利益を加える、または目標利益を達成する販売価格を逆算する考え方です。コスト・プラス法、マークアップ法、損益分岐点分析、目標利益価格設定が含まれます。 -
需要志向
顧客の需要量、価格感度、支払意思額、需要の価格弾力性を基準にする考え方です。価格差別、PSM、セグメント別価格、知覚価値にもつながります。 -
競争志向
競合他社の価格、業界平均価格、市場の実勢価格を参考にする考え方です。自社の原価や顧客価値だけでなく、市場で比較されたときの位置づけを重視します。 -
価値ベース
顧客が得る便益や解決される課題の大きさから価格を決める考え方です。高機能であっても顧客が価値を感じなければ高価格は通りにくく、反対に強い便益が伝われば原価より高い価格も受け入れられます。
2008年 第33問では、競争志向型、顧客が知覚する価値に基づく価格設定、需要の価格弾力性を利用した価格設定、バンドリングが選択肢で問われました。価格設定法の名称を暗記するだけでなく、「何を基準にしているか」を読む必要があります。
コスト志向とコスト・プラス法
コスト志向の代表は、原価に一定の利益を上乗せするコスト・プラス法です。計算しやすく、費用回収の見通しを立てやすい反面、顧客がその価格を受け入れるか、競合と比べて高すぎないかは別問題です。
コスト・プラス法で注意する点は次のとおりです。
- 原価を基準にするため、企業側から見た価格設定です。
- 需要や競争を直接反映しにくいです。
- 原価計算が安定している製品では使いやすいです。
- 価格感度が高い市場では、原価に利益を足した価格がそのまま通るとは限りません。
試験では、「コスト・プラス法は顧客の価格感度や競争状況を十分に反映する」という説明は不適切になりやすいです。
損益分岐点と目標利益から価格を決める
損益分岐点分析は、売上高と総費用が等しくなり、利益がゼロになる販売数量や売上高を求める考え方です。価格決定では、固定費、変動費、販売数量の見込みから、最低限必要な価格を考えるために使います。
基本式は次のように整理します。
- 売上高 = 価格 × 販売数量
- 総費用 = 固定費 + 変動費 × 販売数量
- 利益 = 売上高 - 総費用
- 損益分岐点では、利益 = 0 です。
目標利益を入れる場合は、固定費に目標利益を加えて考えます。
- 必要売上高 = 固定費 + 変動費総額 + 目標利益
- 目標価格 = (固定費 + 変動費総額 + 目標利益) ÷ 販売数量
ただし、計算で出した価格はあくまで採算上の目安です。その価格で需要が十分にあるか、競合と比べて妥当か、顧客が価値を感じるかを別に確認する必要があります。
需要志向と価格弾力性
需要志向では、価格を変えたときに需要量がどの程度変わるかを見ます。中心になるのが需要の価格弾力性です。
需要の価格弾力性は、価格の変化率に対して需要量の変化率がどれだけ反応するかを表します。
- 価格を下げると需要が大きく増える場合は、価格弾力性が高いです。
- 価格を下げても需要があまり増えない場合は、価格弾力性が低いです。
- 浸透価格のように低価格で市場拡大を狙う戦略は、需要が価格に反応しやすい場合に整合します。
2019年 第31問では、価格を下げても需要拡大につながらないケースを前提に、需要の価格弾力性と交差弾力性が問われました。値下げの効果は、常に販売数量の増加として現れるわけではありません。
交差弾力性と財の関係
交差弾力性は、ある財の価格変化が別の財の需要量に与える影響を示します。式の向きと符号を間違えないことが重要です。
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代替財
片方の価格が上がると、もう片方の需要が増えます。交差弾力性は正になります。牛肉と豚肉、コーヒーと紅茶のような関係です。 -
補完財
片方の価格が上がると、もう片方の需要も減ります。交差弾力性は負になります。プリンターとインク、車とガソリンのような関係です。 -
独立財
片方の価格が変わっても、もう片方の需要がほとんど変わりません。交差弾力性はゼロに近くなります。利用者層や用途が大きく異なる財が該当します。
2019年 第31問では、交差弾力性の分子と分母を逆にした選択肢、代替財を負とする選択肢、威光価格が働く条件を取り違えた選択肢が出ています。価格弾力性は、式よりもまず「どちらの価格が動き、どちらの需要が変わるか」を言葉で確認すると安定します。
競争志向と市場価格
競争志向では、自社だけで価格を決めるのではなく、競合他社の価格や業界の平均的な価格を参照します。市場で比較されやすい製品、差別化が弱い製品、顧客が複数社を簡単に比較できる製品では特に重要です。
競争志向の価格設定では、次の点を確認します。
- 業界平均価格に合わせるのか、意図的に上回るのか、下回るのかを決めます。
- 価格を下げる場合は、競合の追随や価格競争を考える必要があります。
- 価格を上げる場合は、ブランド、品質、サービスなどの差別化が必要です。
- 実勢価格に合わせるだけでは、利益目標や顧客価値が十分に反映されないことがあります。
試験では、「業界の平均的価格に合わせる方法」は競争志向型として適切です。一方で、競争志向だけで価格を決めると、自社の採算や顧客価値を見落とすことがあります。
価値ベース価格と支払意思額
価値ベース価格は、顧客が知覚する価値や便益を基準に価格を設定する方法です。原価が低いから低価格にする、競合が安いから合わせる、という発想だけではありません。
価値ベースで見るポイントは次のとおりです。
- 顧客がどの便益に価値を感じているかを調査します。
- 便益が大きい顧客セグメントほど、支払意思額が高くなりやすいです。
- 品質、時間短縮、安心、ブランド、サポートなども価値になります。
- 価値が伝わらない場合、原価や機能が高くても高価格は受け入れられません。
2008年 第33問では、市場調査によって顧客が知覚する価値を推定し、それに基づいて価格を決める方法が適切な選択肢として出ています。これは価値ベース価格の基本です。
PSMによる受容価格帯
PSMは、Price Sensitivity Measurementの略で、消費者に4つの価格感覚を尋ねる方法です。
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安すぎる
品質に不安を感じ始める価格です。 -
安い
品質不安はないが、安いと感じる価格です。 -
高い
買う価値はあるが、高いと感じ始める価格です。 -
高すぎる
品質が良くても、買う価値がないと感じる価格です。
2011年 第26問では、PSMの4本の曲線と受容価格帯の読み取りが問われました。曲線は、まず「高価格側の評価か、低価格側の評価か」で分け、次に「緩い評価か、極端な評価か」で対応づけると整理しやすいです。
受容価格帯は、一般に次の2点で読みます。
- 下限は、「安すぎる」と「高い」の交点です。
- 上限は、「安い」と「高すぎる」の交点です。
中央の交点だけを見ると、受容価格帯の上下限を取り違えやすいです。PSMでは、品質不安を感じるほど安くもなく、買う価値がないほど高くもない範囲を読む、と理解します。
この章のまとめ
価格決定の問題では、最初に価格設定の根拠を読みます。原価を基準にしていればコスト志向、需要や価格感度を基準にしていれば需要志向、競合価格を基準にしていれば競争志向、顧客が感じる便益を基準にしていれば価値ベースです。
計算論点では、損益分岐点や目標利益から価格を逆算できます。ただし、計算上の採算価格と、市場で受け入れられる価格は同じではありません。採算、需要、競争、価値の4つを分けて確認することが重要です。
弾力性では、値下げすれば必ず売上が増えると考えないようにします。需要の価格弾力性が低ければ、価格を下げても数量が伸びにくいです。交差弾力性では、代替財は正、補完財は負、独立財はゼロに近いと押さえます。
PSMでは、「安すぎる」「安い」「高い」「高すぎる」の4質問と曲線の向きを対応させます。受容価格帯を問われたら、下限と上限になる交点を落ち着いて読むことが得点につながります。
一次試験過去問での出方
2008年 第33問では、価格ライン、競争志向型、知覚価値価格、価格弾力性を利用した価格設定、バンドリングが問われました。価格設定法を根拠別に分類する力が必要です。
2011年 第26問では、PSMの4質問と曲線対応、受容価格帯の読み取りが問われました。図を見て、曲線の向きと交点の意味を判断する問題です。
2019年 第31問設問1では、需要の価格弾力性、交差弾力性、代替財・補完財・独立財、威光価格が問われました。交差弾力性の符号と式の向きが典型的なひっかけです。