企業経営理論
標準人的販売(役割、販売員の種類、進め方、販売員管理)
人的販売の役割、販売員管理を整理する。
人的販売
この章で覚えておきたいこと
人的販売は、販売員や営業担当者が顧客と直接やり取りし、購買意思決定を後押しするプロモーション手段です。広告のように多数へ一方向に知らせる手段ではなく、相手の状況や反応を見ながら説明、質問対応、反論処理、提案を調整できる点に強みがあります。
一次試験では、次の軸で判断します。
- 人的販売は、双方向、個別対応、情報収集機能を持ちます。
- 高額品、複雑な製品、知覚リスクが高いサービス、BtoBのように個別提案が必要な場面に向きます。
- 大量の認知を低コストで獲得する手段ではありません。対応できる顧客数が限られ、人件費や教育費もかかります。
- 営業は単なる売り込みではなく、顧客ニーズ、ユーザーイノベーション、競争動向などを企業へ持ち帰る役割も持ちます。
- 顧客からの評価は、担当者個人への人格信頼と、企業そのものへの企業信頼の両方に支えられます。
- ダイレクト・マーケティングは非人的チャネルだけに限定されず、仲介業者を介さず顧客へ直接働きかける活動として、人的販売を含む場合があります。
基本知識
人的販売の役割
人的販売の中心は、顧客と直接接触して購買を促すことです。ただし、試験では「売ること」だけに限定せず、顧客接点としての広い機能まで押さえます。
- 情報提供: 製品・サービスの特徴、導入効果、使い方、保証などを説明します。
- 説得と反論処理: 顧客の疑問や不安に応答し、納得感を高めます。
- ニーズ把握: 顧客の課題、利用状況、購買条件を聞き取ります。
- 提案: 顧客ごとの課題に合わせて解決策を提示します。
- 関係構築: 継続取引や紹介につながる信頼を形成します。
- 情報収集: 顧客の新たな欲求、ユーザーイノベーション、競合の動きなどを企業へ持ち帰ります。
広告は広く認知を作るのに向きますが、相手ごとの疑問には対応しにくいです。人的販売は到達範囲こそ狭いものの、個別対応と説得に強い手段です。
人的販売が向く場面
人的販売が有効なのは、顧客が自分だけで判断しにくい場面です。キーワードは、高関与、高額、複雑、知覚リスク、個別提案です。
BtoBでは、産業財や生産財のように顧客企業の業務課題へ合わせた提案が必要になります。購買関与者が複数いることも多く、営業担当者は課題把握、提案、合意形成、導入後のフォローを担います。経営トップの判断が重要な取引でも、現場接点を担う営業人材の役割は小さくありません。
BtoCでも、人的販売が有効な場面があります。たとえば、耐久消費財、金融・保険、教育、医療関連サービス、新しい技術製品のように、消費者だけでは評価しにくく、購入失敗への不安が大きい商材です。販売員が相談に応じることで、知覚リスクを下げ、納得感を高められます。
一方で、低関与商品を広く知らせる目的では、広告や販売促進の方が効率的な場合が多いです。人的販売は「広く知らせる手段」ではなく、狭く深く納得させる手段として理解します。
販売員の種類
販売員の分類は、名称暗記よりも役割の違いを事例で判断することが重要です。
- 受注獲得型: 新規顧客を開拓し、商談を作り、受注を獲得します。新規市場開拓やBtoB提案営業で重要です。
- 受注処理型: 既存顧客からの注文対応、補充、問い合わせ対応を担います。ルートセールスや店頭での定型的な販売に近い役割です。
- 支援型: 技術説明、導入支援、販売店支援など、直接受注だけでなく販売活動を支えます。技術営業やメーカーの販売支援担当が該当します。
- 店頭販売員: 店舗で顧客の相談に応じ、比較検討や購入決定を支援します。BtoCの高関与商品で重要になります。
- インサイドセールス: 電話、メール、オンライン商談などを使い、見込顧客の育成や商談化を担います。訪問営業と組み合わせて使われます。
選択肢では、「新規開拓か、既存対応か、支援か」「BtoBか、BtoCか」「複雑な説明が必要か」を見ます。
提案型営業の進め方
人的販売は、一般に次の流れで進みます。
- 見込顧客の発見
- 事前調査と準備
- アプローチ
- ニーズ把握
- 提案・プレゼンテーション
- 反論処理
- クロージング
- フォローアップ
BtoBの提案型営業では、いきなり発注を求めるのではなく、相手の課題、購買関与者、予算、導入条件を把握することが重要です。既存顧客から潜在顧客を紹介してもらうことも、見込顧客開拓の有効な方法です。
購買プロセスとの関係では、広告や販売促進は前半の認知形成や興味喚起に強く、人的販売は比較検討、疑問解消、購入決定に近い後半で効きやすいです。「購買プロセス前半こそ人的販売、後半こそ広告でリマインド」といった逆転した説明には注意します。
企業信頼と人格信頼
営業担当者への顧客評価は、担当者個人への信頼だけで決まるわけではありません。
人格信頼は、営業担当者の誠実さ、専門性、対応の丁寧さ、約束を守る姿勢などから生まれる信頼です。担当者が顧客の状況を理解し、適切に提案し、フォローを行うことで高まります。
企業信頼は、企業のブランド、品質、保証、供給能力、実績、コンプライアンスなどに対する信頼です。担当者が優秀でも、企業の品質や支援体制に不安があれば、顧客は購入をためらいます。
試験では、「人格信頼が重要だから企業信頼の効果は限定的である」という選択肢が誤りになりやすいです。人的販売では、担当者個人への信頼と企業への信頼の両方が購買判断を支えます。
販売員管理
販売員管理は、販売員に成果を出させるための採用、配置、教育、目標設定、報酬、評価、統制の仕組みです。売上結果だけを追うのではなく、営業対象や市場の性質に合わせて管理方法を設計します。
主な管理項目は次の通りです。
- 採用・配置: 製品特性、顧客特性、地域、チャネルに合う人材を置きます。
- 教育・訓練: 商品知識、顧客理解、商談技法、反論処理、コンプライアンスを身につけさせます。
- 担当設計: 地域別、製品別、顧客別、業種別などで販売区域や担当顧客を決めます。
- 目標設定: 売上、利益、訪問件数、商談件数、新規開拓数、顧客満足などを管理します。
- 報酬制度: 固定給、歩合給、インセンティブを組み合わせます。
- 評価・統制: 結果だけでなく、プロセスや顧客関係の質も見ます。
新規市場や新規事業では、既存部門の熟練者をそのまま移せば成果が出るとは限りません。産業財営業と消費財営業では、顧客、購買行動、チャネル、提案内容が異なるため、人材の適性と報酬制度をセットで考える必要があります。完全歩合制だけに依存する管理も、短期売上へ偏り、組織的な営業管理として不安定になりやすいです。
ダイレクト・マーケティングとの関係
ダイレクト・マーケティングは、仲介業者を介さず、企業が顧客へ直接働きかけ、反応や購買につなげる考え方です。通信販売、ダイレクトメール、電話、EC、メール、アプリ通知などの非人的チャネルを使うことが多いですが、非人的チャネルだけに限定されるわけではありません。
たとえば、企業が顧客へ直接訪問して説明し、注文を受ける直接販売では、人的販売がダイレクト・マーケティングの中に含まれる場合があります。したがって、「ダイレクト・マーケティングは非人的チャネルだけなので人的販売を含まない」とする記述は疑います。
この章のまとめ
人的販売の問題では、まず比較対象を確認します。広告、販売促進、PR、ダイレクト・マーケティングなどと比べられている場合は、人的販売のキーワードである双方向、個別対応、説得、情報収集を思い出します。
次に、商材と購買状況を見ます。高額、複雑、高関与、知覚リスクが高い、BtoB、産業財なら人的販売が向きやすいです。低関与で大量認知が目的なら、人的販売だけでは効率が悪くなります。
営業の役割を狭く限定する選択肢にも注意します。「新規顧客獲得だけ」「売り込みだけ」「一方向伝達だけ」と書かれていれば疑います。営業は、信頼形成、提案、情報収集、フォローアップまで含む活動です。
販売員管理では、状況を無視した極端な記述を避けます。「完全歩合制に徹する」「結果だけで管理する」「熟練者を別分野へ移せばよい」といった単純化は誤りになりやすいです。採用、配置、教育、目標、報酬、評価を、顧客と市場の性質に合わせて設計します。
最後に、断定表現を点検します。「常に低コスト」「企業信頼は限定的」「BtoBでは営業人材の役割は極めて小さい」「早い段階で発注を求めるべき」といった言い切りは、人的販売の本質とずれていないか確認します。
一次試験過去問での出方
2007年第37問では、産業需要家向けの人的販売が問われました。顧客ニーズを把握して解決策を提案すること、反論に適切に対応すること、既存顧客から紹介を得ることは妥当です。一方で、交渉の早い段階で発注を求めることは、提案型営業として不適切とされました。
2013年第30問設問1では、営業を新規顧客獲得だけ、またはプロモーション内の人的販売だけに限定しないことが問われました。顧客評価は、企業信頼と人格信頼の両方に支えられます。
2015年第27問では、人的販売の情報収集機能が問われました。営業や売場での顧客接点を通じて、顧客の新たな欲求、ユーザーイノベーション、競争動向を把握できる点が正しい記述でした。
2024年第35問では、BtoCマーケティングにおける人的販売が問われました。人的販売は、消費者だけでは購買意思決定が困難な製品・サービスや、高い知覚リスクを感じる製品・サービスに向きます。また、ダイレクト・マーケティングを非人的チャネルだけに限定しない点も問われました。