企業経営理論
標準販売促進(目的、種類、消費者向け、流通業者向け、社内向け、関係法規、デジタル化による販売促進)
販売促進の目的、種類、関係法規を整理する。
販売促進
この章で覚えておきたいこと
販売促進は、消費者、流通業者、販売員に対して、購買や取扱い、販売行動を直接促すプロモーション手段です。広告やPRが認知、理解、態度形成に働きかけるのに対し、販売促進は「今買う」「試す」「もう一度来店する」「店頭で扱う」「営業担当者が重点的に売る」といった行動に近いところを動かします。セールス・プロモーション、SPとも呼ばれます。
一次試験では、販売促進の細かな制度名よりも、誰に向けた施策か、何を促す施策かを見分ける力が問われます。特に、ポイント制度、社内向け販売促進、クロス・マーチャンダイジング、景品やポイントに関わる法規制は、選択肢の正誤判断で使います。
最初に押さえることは次のとおりです。
- 販売促進の中心目的は、短期的な購買刺激、試用促進、再購買促進、店頭での購買決定の後押しです。
- 消費者向け販促には、クーポン、値引き、サンプル、プレミアム、ポイント、スタンプ、マイレージ、店頭POP、実演販売、アプリクーポンなどがあります。
- 流通業者向け販促には、リベート、販売奨励金、協賛金、陳列支援、POP提供、棚割提案、クロス・マーチャンダイジング提案などがあります。
- 社内向け販促には、セールスコンテスト、販売員教育、研修、セールスマニュアル、販売目標達成時の報奨などがあります。
- ポイント制度は、将来の値引きや便益を与えて再来店・再購買を促す仕組みです。購入頻度が高い商品ほど効果を感じやすいです。
- クロス・マーチャンダイジングは、関連商品を組み合わせて売場提案し、併買を促す手法です。効果を見る指標としてリフト値が使われることがあります。
- 景品表示法は景品類や不当表示、資金決済法は前払いで価値を購入して後で使う仕組みとの関係で確認します。
- デジタル販促では、アプリ、購買履歴、位置情報、ID連携、レビュー、ポイント連携を使いますが、表示の透明性やデータ取扱いも重要です。
基本知識
販売促進の目的
販売促進は、購買行動や販売行動を直接刺激するための施策です。広告が広く認知やイメージ形成を担うのに対し、販売促進は「試してもらう」「今買ってもらう」「もう一度来てもらう」「流通業者に扱ってもらう」「販売員に動いてもらう」という実行面に近い役割を持ちます。
主な目的は次のとおりです。
- 新製品の試用を促す。
- 需要の低い時期に販売を刺激する。
- 店頭での非計画購買を促す。
- 既存顧客の再購買や再来店を促す。
- 流通業者に陳列、推奨、棚の確保を促す。
- 販売員の訪問回数、提案力、販売意欲を高める。
試験では、長期的なブランド構築だけを販売促進の主目的とする選択肢に注意します。販売促進にも顧客維持や再来店への効果はありますが、広告やブランド・マネジメントと比べると、短期的・行動刺激的な性格が強いです。
消費者向け販売促進
消費者向け販売促進は、最終消費者の購買を直接促す施策です。代表例は、クーポン、値引き、サンプル、試食、景品、プレミアム、ポイント、スタンプ、マイレージ、店頭POP、実演販売、アプリ通知などです。
ポイント制度は、購買金額や来店回数に応じてポイントを付与し、次回以降の値引きや特典として使わせる仕組みです。顧客は「次も同じ店で買えば得になる」と感じるため、再来店や再購買を促しやすくなります。単なるその場の値引きではなく、将来値引き型のSPとして理解することが重要です。
ポイント制度は、どの商品でも同じように効くわけではありません。購入頻度が高く、利用機会が多い商品やサービスほど、ポイントが貯まる実感が早く、再来店の動機になりやすいです。反対に、購入頻度が低い商品では、ポイントの存在を忘れたり、便益を実感しにくかったりします。
また、ポイントカードやアプリが増えると、顧客が常に携帯・利用するには十分な魅力が必要になります。共通ポイントや相互利用は利便性を高めますが、提携企業間で利用顧客数、送客効果、費用負担、利益配分が偏ると、提携関係が続かない場合があります。ポイント制度そのものは模倣されやすいため、購買データの活用や個別提案まで結びつけることが重要です。
流通業者向け販売促進
流通業者向け販売促進は、卸売業者や小売業者に対して、自社製品を取り扱い、陳列し、推奨してもらうための施策です。リベート、販売奨励金、協賛金、陳列支援、POP提供、棚割提案、販売員向け説明会などが該当します。
メーカーが販売促進を行う相手は、消費者だけではありません。小売店頭で売れるかどうかは、棚の位置、陳列量、POP、店員の推奨、関連商品の配置に大きく左右されます。そのため、メーカーは流通業者の売場づくりを支援し、小売全体の売上増に役立つ提案を行います。
選択肢で「メーカーによるインセンティブは消費者だけを対象にする」と出たら疑います。販売促進には、消費者向けだけでなく、流通業者向け、社内向けも含まれます。
クロス・マーチャンダイジングとリフト値
クロス・マーチャンダイジングは、関連商品を同じ売場や近い売場で提案する手法です。たとえば、パスタ売場にソースを置く、鍋つゆの近くに具材をまとめる、家電売場で本体と消耗品を一緒に提案する、といった施策です。クロスMDとも呼ばれます。
クロスMDの効果は、消費者が「何を組み合わせればよいか」を考える負担を減らし、購買点数や客単価を増やす点にあります。消費者の情報処理負荷を下げ、関連購買や非計画購買を促す施策として整理します。
有効性を見るときは、ある商品を買った人が別の商品も買う確率が、通常よりどれだけ高いかを見ます。この併買の起こりやすさを測る指標としてリフト値が使われます。一次試験では、計算の細部よりも「組み合わせ購買の強さを見る指標」と押さえることが重要です。
ただし、クロスMDには小売業者の内部調整が必要です。部門をまたぐ売場づくりになるため、売場スペース、売上配分、陳列責任、発注責任をめぐって調整が増えやすいです。したがって、「クロスMDは部門間コンフリクトを低下させる」と断定する選択肢は疑います。
社内向け販売促進
社内向け販売促進は、自社の営業担当者や販売員の行動を促す施策です。顧客への訪問回数を増やす、重点商品の提案を促す、シーズンオフ期の販売を刺激する、新製品の知識を共有する、といった目的で行われます。
代表例は次のとおりです。
- セールスコンテスト
- 販売目標達成時の報奨
- 研修、セミナー
- セールスマニュアル
- 新製品説明会
- 営業ツール、提案資料の整備
新製品発売時には、販売員が製品コンセプト、特徴、ターゲット、競合との差を理解できるようにセールスマニュアルを用意します。研修やセミナーは、販売員のスキル向上を通じて販売力を高めます。
セールスコンテストは、一定期間に販売目標を設定し、競争や表彰によって販売意欲を高める施策です。通常は期間を区切って実施する短期集中施策であり、通年で常に行えばよいものではありません。通年化すると、特別感や緊張感が薄れやすいです。
関係法規
販売促進では、景品、値引き、ポイント、広告表示を扱うため、法規制との関係が問われることがあります。一次試験では細かい条文暗記ではなく、「どの施策にどの規制が関係するか」を押さえます。
景品表示法は、過大な景品類や不当表示により消費者の合理的な選択がゆがむことを防ぐ法律です。懸賞、総付景品、プレミアム、キャンペーン景品を設計する場合は、景品類の上限や表示内容に注意します。広告やキャンペーン表示では、実際より著しく優良・有利に見せる表示も問題になります。
ポイント制度は、試験では販売促進策として出題されることが多いです。通常の購買に伴って無償で付与されるポイントは、販売促進費や広告宣伝費として企業が負担する性格が強いです。一方、利用者が代金を前払いしてポイントを購入し、そのポイントで商品やサービスを受ける仕組みでは、資金決済法上の前払式支払手段に該当する可能性があります。古い過去問に出る「プリペイドカード法」という表現は、現在の制度理解では資金決済法の論点として読み替えると整理しやすいです。
デジタル販促では、ステルス・マーケティングやレビュー表示にも注意します。広告なのに広告であることを隠す、実際の評価より有利に見せる、根拠なくランキングや口コミを表示する、といった行為は不当表示の問題につながります。
デジタル化による販売促進
デジタル化により、販売促進は紙のクーポンや店頭POPだけでなく、アプリ、EC、SNS、メール、位置情報、購買履歴、ID連携を使って実施されるようになりました。
代表的な施策は次のとおりです。
- アプリクーポンを配信し、来店や購入を促す。
- 購買履歴に基づき、再購入タイミングでクーポンやレコメンドを出す。
- 店舗付近にいる顧客へ位置情報連動の通知を送る。
- ECでお気に入り登録した商品について、店頭在庫や売場位置を通知する。
- ポイントアプリで会員証、クーポン、決済、レビューを連携させる。
- SNSキャンペーンや紹介キャンペーンで新規顧客獲得を促す。
デジタル販促の強みは、顧客ごとに接点を設計しやすく、効果測定もしやすい点です。ただし、過度な通知は不快感を招きます。個人情報や行動データの扱い、広告表示の透明性、キャンペーン条件の明確化も重要です。
この章のまとめ
販売促進の問題は、まず対象と目的で切り分けます。対象が消費者なら、クーポン、値引き、ポイント、サンプル、店頭施策などを考えます。対象が流通業者なら、リベート、販売奨励金、陳列支援、棚割提案、クロスMDなどを考えます。対象が社内なら、営業担当者や販売員の動機づけ、教育、訪問回数増加、セールスコンテストを考えます。
ポイント制度が出たら、次の順に確認します。
- その場の値引きではなく、次回以降の値引きや便益を与える仕組みか。
- 再来店・再購買を促す施策として説明できるか。
- 購入頻度が高い商品ほど、ポイントが貯まる実感が出やすいか。
- 共通ポイントや相互利用では、利便性だけでなく費用負担や送客効果の偏りも見ているか。
- 前払いでポイントを購入する仕組みなら、資金決済法との関係を確認しているか。
クロス・マーチャンダイジングが出たら、関連商品の併買、情報処理負荷の軽減、購買点数や客単価の増加を思い出します。リフト値は、組み合わせ購買が通常よりどれだけ起こりやすいかを見る指標です。一方で、部門横断の売場づくりなので、小売業者の内部調整は増えやすいです。
社内向け販売促進では、販売員の行動を変える施策かを確認します。シーズンオフ期の販売刺激、顧客訪問回数の増加、新製品発売時のセールスマニュアル、研修やセミナーは適切です。セールスコンテストは短期集中で実施するのが基本であり、通常通年で行うという説明は疑います。
ひっかけやすい表現は次のとおりです。
- 「販売促進は消費者だけを対象にする」は誤りです。流通業者向け、社内向けもあります。
- 「ポイント制度は購入頻度が低い商品ほど効果が大きい」は誤りです。購入頻度が高いほど効果を実感しやすいです。
- 「ポイントは単なるその場の値引きである」は不十分です。将来便益による再来店促進が重要です。
- 「セールスコンテストは通常通年で行う」は誤りです。期間を区切る短期集中施策です。
- 「クロスMDは部門間コンフリクトを低下させる」は言い過ぎです。むしろ調整負担が増えやすいです。
- 「デジタル販促ならレビューやランキングを自由に使える」は誤りです。表示の透明性と法規制を確認します。
最後に、景品表示法は景品類と不当表示、資金決済法は前払いで購入して後で使う支払手段、という大枠で分けます。細かな条文よりも、販売促進の設計が消費者の合理的選択や資金保全に関わる場面を見分けることが重要です。
一次試験過去問での出方
2008年度第31問では、ポイント制度、スタンプ制度、マイレージ制度が問われました。ポイント制度は、頻繁に購入する商品ほど効果が出やすく、購入頻度が低い商品ほど効果が大きいわけではありません。紹介者へのポイント付与は新規顧客獲得にも使えます。
2008年度第37問では、社内向け販売促進が問われました。シーズンオフ期の販売刺激、訪問回数の増加、新製品発売時のセールスマニュアル、研修やセミナーは適切です。一方、セールスコンテストを通常通年で行うとする記述が誤りでした。
2011年度第31問設問2では、クロス・マーチャンダイジングが問われました。関連商品を組み合わせて売場提案することで、消費者の情報処理負荷を軽減し、購買点数を増やせます。リフト値で有効性を見ることもありますが、小売業者の部門間コンフリクトを低下させるとは限りません。
2013年度第27問設問3では、ポイントサービスがSPとして問われました。購買金額の一定割合が付与されるポイントは、主として将来の値引きを約束するSPであり、顧客の再来店を促す役割を持ちます。メーカーによるインセンティブを消費者向けだけに限定する選択肢は誤りです。