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NARITAI

企業経営理論

標準

外部環境分析

PEST、5フォースなど外部環境の見方を扱う。

この章で覚えておきたいこと

外部環境分析は、自社の外側にある変化から、事業機会と脅威を読み取るための分析です。企業経営理論では、フレームワーク名を覚えるだけでなく、「何を見ている分析か」を選択肢の文脈で判定できることが重要です。

  • 外部環境分析は、機会と脅威を把握するために行います。
  • PEST分析は、政治、経済、社会、技術というマクロ環境を整理します。
  • 5フォース分析は、業界の収益性を左右する競争圧力を見ます。
  • SWOT分析では、OとTが外部環境、SとWが内部環境です。
  • 産業内競争は、固定費、撤退障壁、成長率、差別化の弱さなどで激しくなりやすいです。
  • HHIは市場集中度を表し、小さいほど競争的な市場に近づきます。
  • CAGRは、期間全体の増加率ではなく、年平均成長率として計算します。

試験では、PEST、5フォース、SWOT、HHI、CAGRが別々に問われるだけでなく、長い事例文の中で「外部の変化をどう読むか」として問われます。分析対象が自社の経営資源なら内部環境、制度・市場・競合・顧客・技術変化なら外部環境、とまず切り分けます。

基本知識

外部環境分析の位置づけ

外部環境分析は、自社だけでは直接コントロールしにくい要因を整理する分析です。市場の成長性、競合の動き、顧客ニーズ、制度変更、技術革新、社会価値観の変化などを見ます。

外部環境分析で見る主な対象は、次のように整理できます。

  • 市場・顧客: 市場規模、成長率、顧客ニーズ、購買行動、価格感度です。
  • 競合・業界構造: 競合企業数、企業規模の分布、参入障壁、代替品、取引先の交渉力です。
  • 制度・社会変化: 法規制、政策、人口動態、環境意識、ライフスタイルです。
  • 技術変化: 新技術、デジタル化、代替技術、標準化です。

内部環境分析は、自社の経営資源、能力、組織、ノウハウ、ブランド、財務、人材を見ます。SWOTでいえば、外部環境はOとT、内部環境はSとWです。この対応は頻出です。

PEST分析

PEST分析は、企業を取り巻く広いマクロ環境を、4つの観点から整理する枠組みです。個別企業の資源ではなく、事業全体に影響する大きな環境変化を見ます。

  • Political: 政治、法律、規制、政策、税制、行政方針です。
  • Economic: 景気、金利、為替、所得、物価、消費支出です。
  • Social: 人口動態、価値観、ライフスタイル、環境意識、社会課題です。
  • Technological: 技術革新、デジタル化、代替技術、生産技術です。

2025年度の過去問では、PESTのPをPeopleとする選択肢が出ています。人口動態は重要な論点ですが、PESTのPはPoliticalです。人口動態や価値観は通常、Socialに含めます。

PESTは「何が起きているか」を広く洗い出すための分析です。PESTだけで競争優位が決まるわけではありません。PESTで見つけた変化を、自社の強みや業界構造と結びつけて戦略へ落とし込む必要があります。

5フォース分析

5フォース分析は、業界の収益性を左右する競争圧力を分析する枠組みです。単に競合企業を見るだけでなく、参入、代替品、買い手、売り手から利益率が圧迫されるかを見ます。

5つの力は、次のように押さえます。

  • 既存企業間の競争: 競合数、規模の均等性、成長率、固定費、差別化、撤退障壁を見ます。
  • 新規参入の脅威: 参入障壁、規模の経済、ブランド、規制、流通チャネルへのアクセスを見ます。
  • 代替品の脅威: 顧客が別の方法で同じニーズを満たせるかを見ます。
  • 買い手の交渉力: 顧客が集中しているか、購入量が大きいか、価格交渉力が強いかを見ます。
  • 売り手の交渉力: 供給業者が集中しているか、代替供給先が少ないか、重要原材料を握っているかを見ます。

2021年度第6問では、参入候補の業界を比較し、競争相手が少なく、供給業者も買い手も多数に分散している業界が高収益になりやすいことが問われています。5フォースでは、「競合が何社か」だけでなく、上下流の力関係も合わせて読みます。

産業内競争を激しくする要因

産業内競争は、既存企業どうしの競争です。試験では、競争を激しくする要因を「緩和しやすい」と逆に書いた選択肢がよく出ます。

競争が激しくなりやすい条件は、次のとおりです。

  • 同程度の規模の企業が多く、シェア争いが起こりやすい場合です。
  • 市場成長率が低く、需要拡大で全社が伸びる余地が小さい場合です。
  • 固定費や在庫費が高く、操業度や販売量を維持したい圧力が強い場合です。
  • 製品差別化が弱く、価格で比較されやすい場合です。
  • 撤退障壁が高く、不採算企業が市場に残りやすい場合です。
  • 生産能力を小刻みに増やせず、大規模増設で供給過剰が起きやすい場合です。

2014年度第2問では、企業数と企業規模の分布が競争と利益に影響することが正答でした。固定費が高い、撤退障壁が高い、大規模な能力増設しかできない、といった条件は、競争を緩和するのではなく激化させやすい方向で読みます。

SWOT分析と外部・内部の切り分け

SWOT分析は、外部環境と内部環境を合わせて戦略課題を整理する枠組みです。外部環境分析そのものと混同せず、4つの視点の対応を押さえます。

  • S: Strengths は、自社の強みです。内部環境です。
  • W: Weaknesses は、自社の弱みです。内部環境です。
  • O: Opportunities は、外部の機会です。外部環境です。
  • T: Threats は、外部の脅威です。外部環境です。

「外部環境分析に該当するのはSとWである」という選択肢は誤りです。SとWは自社の中を見る視点であり、OとTが外部を見る視点です。

SWOTは、外部の変化を見つけるだけでは終わりません。外部の機会を自社の強みで取りにいけるか、外部の脅威を自社の弱みが拡大させていないか、という組み合わせで使います。

HHIによる市場集中度

HHI、つまりハーフィンダール・ハーシュマン指数は、市場集中度を表す指標です。各企業の市場シェアを二乗して合計します。大きなシェアを持つ企業ほど、二乗によって強く反映されます。

計算手順は次のとおりです。

  1. 各社の市場シェアを小数または百分率でそろえます。
  2. 各社のシェアを二乗します。
  3. 二乗した値をすべて合計します。
  4. 「その他」をまとめたままにせず、条件があれば個別企業に分解して足します。

たとえば、30社がそれぞれ1%ずつ持つなら、0.01^2 を30社分足します。30%を1社として 0.30^2 としてしまうと、集中度を過大に読んでしまいます。

HHIは、大きいほど市場集中度が高いと読みます。逆に、値が小さいほど市場は分散しており、完全競争に近づきます。2025年度第32問では、この読み方が直接問われました。

CAGRと業界成長率

CAGRは、年平均成長率です。期間全体でどれだけ伸びたかを、その期間の1年あたりの成長率に直します。

基本式は次のとおりです。

CAGR = (終了時点の値 ÷ 開始時点の値)^(1 ÷ 年数) - 1

2021年度第5問では、2018年度の販売金額が1,000億円、2020年度の販売金額が1,440億円という条件で問われました。2年間で1.44倍なので、年平均成長率は次のように求めます。

  1. 1,440 ÷ 1,000 = 1.44
  2. 2年間なので平方根をとり、√1.44 = 1.2
  3. 1.2 - 1 = 0.2
  4. CAGRは20.0%です。

単純な増加率なら44.0%ですが、CAGRではありません。試験では「2年間で増えた割合」なのか「年平均成長率」なのかを必ず確認します。

環境変化を機会と脅威で読む

外部環境分析では、同じ環境変化が脅威にも機会にもなります。規制強化や環境意識の高まりは、既存事業に追加コストをもたらす一方で、新しい市場や差別化機会を生むことがあります。

2010年度第11問設問3では、環境技術やリサイクル事業をめぐる中小・中堅企業の取り組みが問われました。ここでは、リサイクル法や環境意識の高まりは新規参入機会になりますが、再生資源が天然資源より常に安いとは限らない点が重要でした。

静脈産業やリサイクル事業では、次のコストも読みます。

  • 回収コストです。
  • 選別コストです。
  • 異物除去や品質ばらつきへの対応コストです。
  • 市況悪化時の逆有償リスクです。

外部環境分析では、「環境によいから必ず採算がよい」「規制があるから必ず不利」と単純に読まないことが大切です。制度、技術、顧客意識、コスト構造を合わせて、機会と脅威の両面から判断します。

この章のまとめ

外部環境分析の問題では、まず分析対象を切り分けます。政治、経済、社会、技術のようなマクロ環境ならPEST、業界の競争圧力なら5フォース、自社の経営資源なら内部環境分析です。

選択肢では、次の点を確認します。

  1. PESTのPをPoliticalとして読めているか。
  2. SWOTでOとTが外部環境、SとWが内部環境だと判断できているか。
  3. 5フォースを、業界構造と競争圧力を見る枠組みとして読めているか。
  4. 固定費、撤退障壁、低成長、大規模能力増設を競争激化要因として読めているか。
  5. HHIを二乗和で計算し、小さいほど競争的と読めているか。
  6. CAGRを単純増加率ではなく年率換算で計算できているか。
  7. 規制や環境意識の変化を、機会と脅威の両面から読めているか。

ひっかけは、因果の向きと分析対象の入れ替えです。「固定費が高いから競争が緩和する」「撤退障壁が高いから競争が緩和する」「PESTは内部資源を分析する」「SWOTのSとWが外部環境である」といった表現は、落ち着いて分析対象を戻せば切れます。

一次試験過去問での出方

2025年度第32問設問1では、PEST、SWOT、知覚マップ、HHI、5フォースの違いが問われました。外部環境分析では、OとTが外部、HHIは小さいほど競争的という点が重要でした。

2021年度第5問では、業界のCAGRが計算問題として出ました。2年間で1,000億円から1,440億円へ増えた場合、年平均成長率は20.0%です。

2014年度第2問では、産業内競争を激しくする要因が問われました。固定費、撤退障壁、生産能力拡張の単位は、競争緩和ではなく競争激化の方向で読みます。

2013年度第26問設問2では、HHIの計算が問われました。「その他30社がそれぞれ1%」のような条件は、まとめずに各社ごとに二乗して足します。

2010年度第11問設問3では、環境技術や静脈産業が問われました。環境変化は新市場の機会になりますが、回収・選別・処理コストまで含めて採算を判断します。