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企業経営理論

標準

戦略的意思決定

戦略的意思決定の特徴と長期的・全社的な判断を扱う。

この章で覚えておきたいこと

戦略的意思決定では、「どの市場で、どの事業を、どの方向へ進めるか」を決めます。日々の業務改善や組織づくりと混同しやすいので、まず意思決定の階層を分けて押さえます。

  • 戦略的意思決定は、企業と外部環境との関係、将来の事業方向、製品・市場分野、資源配分の大枠を決める意思決定です。
  • 管理的意思決定は、戦略を実行できるように、組織構造、権限、制度、経営資源の組織化を整える意思決定です。
  • 業務的意思決定は、価格設定、生産、販売、業務監視など、既存業務の効率や収益性を高める意思決定です。
  • アンゾフのいう部分的無知は、問題や評価基準が最初から明確でない高度に不確実な状況です。
  • オペレーション効率は必要ですが、他社と同じ活動をよりうまく行うだけでは、長期的な差別化になりにくいです。
  • 内部成長、ライセンシング、買収は、成長手段を選ぶ戦略的意思決定として、速さ、資源の取得、統合の必要性で判断します。

試験では、選択肢の中に「市場・事業方向」「組織・資源の組織化」「日常業務の効率化」が混ぜられます。まず何を決めている文章かを確認すると、正誤を切り分けやすくなります。

基本知識

戦略的意思決定は企業と環境の関係を決める

戦略的意思決定は、企業が将来どの方向へ進むかを決める意思決定です。中心になるのは、企業内部の細かな運営ではなく、外部環境との適合です。

代表的には、次のような判断が戦略的意思決定に当たります。

  • どの製品・市場分野で事業を行うか。
  • どの業種や事業領域へ進出するか。
  • 多角化、撤退、M&Aなどで企業の成長方向をどう変えるか。
  • 企業目的に適合する資源配分パターンをどう作るか。

2023年第2回第1問では、「環境に合わせて自社の目的を設定し、それに適合した資源配分パターンを作り出すこと」が戦略的意思決定として問われました。ここでいう資源配分は、単なる設備投資の可否ではなく、企業全体がどこへ向かうかという大枠の判断です。

管理的意思決定は資源を組織化する

管理的意思決定は、戦略を実行できるように企業内部を整える意思決定です。戦略的意思決定が「どこへ向かうか」を決めるのに対し、管理的意思決定は「そのために組織や資源をどう束ねるか」を決めます。

管理的意思決定に当たるものは、次のような判断です。

  • 最大の成果を引き出すために経営資源を組織化する。
  • 組織構造、権限配分、管理制度を整える。
  • 人材、設備、情報などを戦略実行に使いやすい形に配置する。

2020年第2問では、管理的意思決定を「最大の成果を引き出すための経営資源の組織化」とする記述が正解でした。多角化を管理的意思決定にする選択肢は誤りです。多角化は、将来の製品・市場分野を決めるため、戦略的意思決定です。

業務的意思決定は日々の運営効率を高める

業務的意思決定は、既存業務を効率的に運営し、収益性や生産性を高める意思決定です。戦略の方向を決めるのではなく、すでにある資源転換プロセスをどう効率よく回すかが中心です。

業務的意思決定に当たるものは、次のような判断です。

  • 価格設定やアウトプット水準を決める。
  • 生産、販売、在庫、日程などを管理する。
  • パフォーマンスを監視し、現行業務の収益性を高める。

2023年第2回第1問では、価格設定、アウトプット水準、パフォーマンス監視を管理的意思決定とする選択肢が誤りでした。これらは、通常は日常業務的、つまり業務的意思決定に属します。

部分的無知では問題設定そのものが課題になる

アンゾフは、環境変化が激しく、選択肢や評価基準があらかじめ与えられていない状況を部分的無知として捉えました。

部分的無知では、単に情報量が足りないだけではありません。そもそも企業が何を問題として設定すべきか、どの基準で選ぶべきかが不明確です。そのため、経営戦略論の課題は、問題を確定させ、問題解決の方向性を探索することになります。

ここで混同しやすいのが、非対称情報です。非対称情報は、取引相手など一方が他方より多くの情報を持っている状態です。一方、部分的無知は、意思決定者自身にとって問題や評価基準が定まっていない状態です。

2019年第3問では、空欄Aに「部分的無知」、その後に「業務的」「管理的」「戦略的」を入れる組み合わせが問われました。非対称情報を選ぶ選択肢は、この論点では誤りです。

オペレーション効率と戦略を区別する

戦略的意思決定を理解するうえでは、ポーターのいうオペレーション効率と戦略の違いも重要です。

オペレーション効率は、同じ活動を他社よりうまく行うことです。投入した資源を有効に使い、生産性、品質、スピード、コストを改善する活動が含まれます。

一方、戦略は、他社と異なる活動の組み合わせを選び、独自のポジションを作ることです。改善そのものは必要ですが、ベンチマーキングを続けるほど企業の活動は似通いやすくなります。オペレーション効率だけで長期的に高い収益性を維持できる、とする選択肢には注意します。

2013年第3問では、オペレーション効率を「企業が投入した資源を有効に活用できるような活動のすべて」とする記述が正解でした。「ライバル企業と異なる活動を行うこと」は、オペレーション効率ではなく戦略の説明です。

成長手段は内部成長・ライセンシング・買収で選ぶ

戦略的意思決定では、企業が成長する手段の選択も問われます。内部成長、ライセンシング、買収は、似たように見えて使う場面が違います。

内部成長は、自社で人材、技術、販路、設備を育てて成長する方法です。自社らしさを保ちやすい一方、時間がかかります。

ライセンシングは、他社が持つ技術やブランドなどを使う権利を得る方法です。権利利用には向きますが、相手企業の能力や人材を自社に深く取り込む方法ではありません。

買収は、他社の経営資源をまとめて取得する方法です。時間短縮、販路獲得、競合吸収、希少資源の安定確保に向きます。ただし、統合コストや組織文化の違いも問題になります。

2016年第3問では、衰退期の業界で市場支配力を高める手段として、内部投資より競合企業の買収が適切とされました。新興国で短期間に販路を得たい場合や、希少資源を安定確保したい場合も、内部成長やライセンシングより買収が有力になることがあります。

経営計画技法は何を管理する道具かで分ける

戦略的意思決定の周辺では、経営計画技法や管理技法も出題されます。用語を丸暗記するより、何を管理する道具かで分けると判断しやすくなります。

代表的な見分け方は次のとおりです。

  • DCF法は、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて投資案を比較します。
  • 線形計画法は、資源制約の下で利益最大化などの最適配分を求めます。
  • ガントチャートは、作業予定と進捗を横棒で可視化します。
  • PERT/CPMは、作業の依存関係からクリティカル・パスを把握します。
  • 待ち行列理論は、到着間隔やサービス時間のばらつきから、混雑や待ち時間を扱います。
  • ABMは、活動を基準にコストや業務改善を管理します。

2008年第1問では、ガントチャートを「クリティカル・パスを明らかにする技法」とする記述が誤りでした。クリティカル・パスを扱うのはPERTやCPMであり、ガントチャートは進捗の見える化に使います。

この章のまとめ

戦略的意思決定の問題は、選択肢に出てくる言葉だけで判断せず、「何を決めているか」を確認します。

意思決定の階層を確認する

  • 市場、製品分野、事業方向、多角化、資源配分の大枠を決めているなら、戦略的意思決定です。
  • 組織構造、権限配分、制度、資源の組織化を整えているなら、管理的意思決定です。
  • 価格設定、生産、販売、業務監視、現行業務の収益性を扱っているなら、業務的意思決定です。

ひっかけを避ける

  • 多角化を管理的意思決定にしないことが重要です。多角化は製品・市場分野の選択なので、戦略的意思決定です。
  • 組織づくりを業務的意思決定にしないことが重要です。組織や資源の構造づくりは、管理的意思決定です。
  • 部分的無知を非対称情報と混同しないことが重要です。部分的無知は、問題や評価基準そのものが定まらない状態です。
  • オペレーション効率を戦略そのものとしないことが重要です。同じ活動をよりうまく行うことと、異なる活動の組み合わせを選ぶことは別です。
  • 成長手段は、速く資源を得たいのか、自社で育てたいのか、権利利用で足りるのかで判断します。

最後に見る順番

  1. 選択肢が扱っている対象を確認します。
  2. 市場・事業方向なら戦略的、組織・資源なら管理的、日常運営なら業務的に分類します。
  3. 不確実性の説明では、部分的無知か非対称情報かを分けます。
  4. オペレーション効率、ライセンシング、買収、管理技法は、何を目的に使う概念かを確認します。

一次試験過去問での出方

  • 2008年 第1問: 経営計画技法と管理技法の役割。ガントチャートとPERT/CPM、DCF法、線形計画法、待ち行列理論の違いが問われました。
  • 2013年 第3問: オペレーション効率と戦略の違い。同じ活動をよりうまく行うことと、他社と異なる活動を行うことの区別が問われました。
  • 2016年 第3問: 内部成長、ライセンシング、買収の使い分け。衰退業界での市場支配力、短期間での販路獲得、希少資源の確保が判断軸になりました。
  • 2019年 第3問: アンゾフの部分的無知と、業務的・管理的・戦略的意思決定の空欄補充。非対称情報との混同が狙われました。
  • 2020年 第2問: アンゾフの3分類。管理的意思決定は経営資源の組織化であり、多角化は戦略的意思決定であることが問われました。
  • 2023年第2回 第1問: 戦略的・管理的・日常業務的意思決定の切り分け。資源配分パターンは戦略的意思決定、組織づくりは管理的意思決定、価格設定や業務監視は業務的意思決定として出題されました。