経営法務
標準知的財産権に関する契約等(ライセンス契約、譲渡契約、トレードシークレット)
ライセンス、譲渡、秘密保持、営業秘密の管理要件を整理する。
知的財産権に関する契約等
この章で覚えておきたいこと
- 知的財産権の契約では、権利を移す譲渡と権利を使わせるライセンスをまず分けて考えます。
- 特許のライセンスは、専用実施権、通常実施権、独占的通常実施権で法的な強さが異なります。
- 専用実施権は設定登録で効力が生じるのに対し、通常実施権は契約で効力が生じる点が重要です。
- 2012年改正後の特許法では、通常実施権は登録がなくても譲受人などの第三者に対抗できるという理解が基本です。
- 譲渡では、特許権や商標権は移転登録が効力発生要件である一方、著作権の登録は対抗要件にとどまります。
- 営業秘密は、不正競争防止法上の 秘密管理性・有用性・非公知性 を満たして初めて保護されます。
- ライセンス契約では、許諾範囲、独占の有無、再許諾、保証、侵害対応、終了後の扱いまで確認することが実務上の基本です。
基本知識
ライセンス契約と譲渡契約の違い
ライセンス契約は、知的財産権者が相手方に一定の範囲で利用を認める契約です。権利者は原則として権利そのものを失いません。これに対して譲渡契約は、権利そのものを相手方へ移転する契約です。試験では、この2つを混同しないことが最初の分岐点になります。
- ライセンス契約
- 権利者はそのまま残ります。
- 相手方は、契約で許された範囲だけ実施・使用・利用できます。
- 許諾範囲は、地域、期間、用途、製品分野、数量などで限定できます。
- 譲渡契約
- 権利者の地位そのものが移転します。
- 譲受人が新しい権利者として権利行使します。
- 権利の移転手続や登録の要否が重要になります。
過去問では、「権利を移す話なのか」「使わせる話なのか」を曖昧にした選択肢がよく出ます。まずこの切り分けをすると、誤答をかなり減らせます。
専用実施権、通常実施権、独占的通常実施権
特許ライセンスで最重要なのは、どの種類の実施権かを区別することです。名称が似ていても、成立要件や権限の強さが異なります。
- 専用実施権
- 特許権者とライセンシーの契約に加え、特許庁での設定登録によって効力が生じます。
- 設定行為で定めた範囲では、特許権者自身も専用実施権者の許諾なく実施できません。
- 専用実施権者は、その範囲内で侵害者に対し差止請求や損害賠償請求を行えます。
- 通常実施権
- 契約だけで効力が生じる実施権です。
- 原則として排他性はなく、特許権者は自ら実施することも、他人に重ねて許諾することもできます。
- 2012年改正後は、通常実施権者は登録がなくても、譲受人などに対抗できるという整理が重要です。
- 独占的通常実施権
- 法律上の独立した物権ではなく、通常実施権に独占特約を付けた契約上の地位です。
- 特許権者が他の第三者へライセンスしない約束をする形です。
- ただし、専用実施権と同じ強さになるわけではなく、固有の差止請求権は認められないと整理するのが試験対策上の基本です。
2021年の過去問では、専用実施権は登録が必要で、設定範囲内では特許権者自身も自由に実施できないことが問われました。また、独占的通常実施権は契約だけで成立する一方、専用実施権と同じ差止権までは当然に持たない点も狙われました。
通常実施権の対抗要件と第三者対抗
特許法改正後の通常実施権は、このトピックの頻出論点です。2012年の過去問では、改正前後の違いと、M&Aや破産時にどのような影響が出るかが会話形式で問われました。
押さえるべきポイントは次のとおりです。
- 改正前は、通常実施権を第三者に対抗するために登録が問題になっていました。
- 改正後は、通常実施権者は登録がなくても特許権の譲受人などに対抗できるように整理されています。
- そのため、特許権を買い取る側から見ると、登録簿だけでは見えないライセンス負担が残ることがあります。
- 実務では、この見えない負担を補うために、M&A契約で表明・保証や開示資料の確認が重要になります。
ここでの対抗要件とは、「自分の権利を第三者に主張できるか」という問題です。効力発生要件とは別です。試験では、この2つを入れ替えた選択肢が定番なので、言葉の意味を正確に押さえてください。
譲渡と移転登録の考え方
知的財産権の譲渡では、何を移すのかに加えて、登録が権利移転の成立に必要か、それとも第三者対抗のためだけに必要かを整理する必要があります。
- 特許権
- 譲渡は可能です。
- 移転登録が効力発生要件です。
- 商標権
- 譲渡は可能です。
- 移転登録が効力発生要件です。
- 指定商品・指定役務ごとの分割移転ができます。
- 著作権
- 譲渡は可能です。
- 当事者間では合意で譲渡できます。
- 登録は対抗要件であり、効力発生要件ではありません。
- 特許を受ける権利
- 出願前か出願後かで手続の扱いが異なります。
- 試験では、特許権そのものと混同させる形で問われやすいです。
2017年の過去問では、特許権は請求項ごとに分割移転できない一方、商標権は指定商品・指定役務ごとに分割移転できることが問われました。また、特許権・商標権は移転登録が効力発生要件であるのに対し、著作権は対抗要件にとどまる点も頻出です。
ライセンス契約で確認するべき条項
2011年の過去問では、英文ライセンス契約の条項読解が出題されました。単語の意味だけではなく、「どのリスクを誰が負う条項か」を読めることが重要です。
ライセンス契約では、少なくとも次の点を確認します。
- 許諾対象
- どの特許、ノウハウ、著作物、商標を対象にするのか。
- 許諾範囲
- 地域、期間、用途、製品、数量、顧客層をどう限定するのか。
- 独占の有無
- 専用実施権なのか、通常実施権なのか、独占特約付きなのか。
- 再許諾の可否
- ライセンシーがさらに第三者へ使わせてよいか。
- 対価
- 一時金、ランニングロイヤルティ、最低保証、監査条項をどうするか。
- 保証と免責
- 非侵害保証、権原保証、特定目的適合性、無保証条項をどう置くか。
- 侵害対応
- 第三者が侵害した場合に、誰が差止めや損害賠償請求を行うか。
- 第三者から侵害主張を受けた場合に、誰が防御し、誰が補償するか。
- 終了後の扱い
- 使用停止、在庫処理、秘密情報返還、改良成果の扱いをどうするか。
2011年の問題は、non-infringement に関する保証否認条項を見抜く内容でした。2012年の問題では、M&Aで隠れライセンシーのリスクを抑えるための表明・保証が問われています。試験では、知財法そのものだけでなく、契約実務の言い回しも確認されます。
営業秘密とトレードシークレット
営業秘密は、不正競争防止法で保護される技術上または営業上の情報です。2024年の過去問では、特許出願による公開と、営業秘密による秘匿保護の違いが正面から問われました。
営業秘密として保護されるには、次の3要件が必要です。
- 秘密管理性
- 秘密情報であることが、アクセス制限、秘密表示、持出し制限、管理ルールなどで明確にされていることです。
- 単に社内にあるだけでは足りません。
- 有用性
- 事業活動に役立つ技術情報や営業情報であることです。
- 役に立たない情報や、違法な目的だけに使う情報は含まれません。
- 非公知性
- 公然と知られていないことです。
- インターネット、論文、製品解析などで一般に把握できる状態なら保護が弱くなります。
試験では、営業秘密の要件と特許の要件を混同させる選択肢がよく出ます。特に注意すべきなのは次の点です。
- 営業秘密に必要なのは進歩性ではありません。
- 営業秘密に必要なのは新規性ではなく、非公知性です。
- 特許は公開を前提に独占権を得る制度ですが、営業秘密は公開しないことが保護の前提です。
食品のレシピ、製造ノウハウ、顧客名簿、原価情報などは、営業秘密として守るか、特許出願して公開型で守るかの選択が必要になります。製品から容易に解析できる技術は、営業秘密だけでは守りにくい点も併せて理解してください。
秘密保持契約と知財契約の実務上の留意点
営業秘密を守るには、法律の条文だけでなく、契約と社内運用が必要です。秘密保持契約や共同開発契約、ライセンス契約の中で、秘密情報の扱いを明確にします。
確認すべき主な項目は次のとおりです。
- 秘密情報の範囲をどう定義するか。
- 使用目的をどこまでに限定するか。
- 閲覧できる者をどこまでに絞るか。
- 複製、保存、クラウド利用、再委託をどう管理するか。
- 契約終了後に返還・廃棄を求めるか。
- 改良技術や派生情報の帰属をどうするか。
- 漏えい時の報告義務、差止め、損害賠償をどう定めるか。
知財契約の問題では、条文知識だけではなく、誰の立場でどのリスクを抑える条項かを考えると判断しやすくなります。ライセンサーなら利用範囲の逸脱を防ぐことが重要であり、ライセンシーなら安定利用、独占性、侵害対応、破産時の保護が重要です。
この章のまとめ
- ライセンス契約は権利を使わせる契約であり、譲渡契約は権利そのものを移す契約です。
- 特許の専用実施権は設定登録で効力が生じ、設定範囲内では特許権者自身も自由に実施できません。
- 通常実施権は契約で成立し、2012年改正後は登録がなくても第三者に対抗できることが重要です。
- 独占的通常実施権は契約上の独占特約であり、専用実施権と同じではありません。
- 特許権と商標権の譲渡では、移転登録が効力発生要件です。著作権登録は対抗要件にとどまります。
- ライセンス契約では、許諾範囲、独占の有無、再許諾、保証、侵害対応、終了後の処理まで確認します。
- 営業秘密の保護には、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件が必要です。
- 特許で守るか、営業秘密で守るかは、公開して独占権を取るか、秘匿して管理するかという戦略の違いです。
一次試験過去問での出方
2011年は英文ライセンス条項の読解として非侵害保証の否認が問われました。2012年と2021年は通常実施権・専用実施権・独占的通常実施権、対抗要件、表明保証が中心でした。2017年は譲渡と移転登録の法的効果、2024年は営業秘密の3要件と特許公開との違いが問われています。