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経営法務

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知的財産権に関する国際条約(パリ条約、PCT、マドリッド協定議定書、ベルヌ条約等)

優先権、国際出願、国際登録、著作権保護の条約ごとの対象を扱う。

知的財産権に関する国際条約

この章で覚えておきたいこと

  • 最初に、何の権利の国際制度かを見分けます。特許なら PCT、商標の国際登録ならマドリッド協定議定書、著作権ならベルヌ条約、産業財産権全般の基本原則ならパリ条約です。
  • パリ条約は、産業財産権についての基本条約です。内国民待遇、優先権、各国特許独立の原則が頻出です。
  • パリ条約の優先期間は、特許・実用新案が12か月、意匠・商標が6か月です。年度をまたいで何度も問われています。
  • PCTは、特許の国際出願手続を一本化する制度です。世界共通の特許権がそのまま成立する制度ではありません。
  • マドリッド協定議定書は、商標の国際登録制度です。日本の商標登録出願または商標登録を基礎に、多数国を指定して出願できます。
  • ベルヌ条約は、著作権の国際保護に関する基本条約です。無方式主義、内国民待遇、属地主義の理解が重要です。
  • 属地主義とは、知的財産権の成立や効力が各国ごとに判断される考え方です。国際出願や国際登録があっても、各国法による審査や保護判断は残ります。

基本知識

国際条約は「対象の権利」と「役割」で見分けます

国際条約の問題は、条約名を丸暗記するよりも、何の権利を対象にし、どのような役割を持つ制度かで整理すると解きやすくなります。

  • パリ条約
    産業財産権全般について、各国で共通に守る基本原則を定める条約です。
  • PCT
    特許について、複数国への出願手続をまとめやすくする条約です。
  • マドリッド協定議定書
    商標について、複数国で保護を求める国際登録制度です。
  • ベルヌ条約
    著作権について、国際的な保護原則を定める条約です。

2015年度第6問、2023年度第2回第16問では、パリ条約とPCTの役割の違いそのものが問われました。条約名だけでなく、優先権の条約なのか、国際出願制度の条約なのかを分けて読めることが重要です。

パリ条約は産業財産権の基本条約です

パリ条約は、特許、実用新案、意匠、商標などの産業財産権についての基本条約です。試験では、細かい条文知識よりも、どの原則がパリ条約の中核かを問う問題が多く出ます。

特に重要なのは、次の3点です。

  • 内国民待遇
    同盟国の国民は、他の同盟国でも、その国の国民と同じ保護と救済を受けられます。
  • 優先権
    ある同盟国で先に出願した者が、一定期間内に他国へ出願するとき、最初の出願日を基準日にできます。
  • 各国特許独立の原則
    ある国での特許の成立や消滅が、当然に他国の特許へ影響するわけではありません。

2024年度第16問では、パリ条約の保護対象が特許や商標だけでなく、原産地表示や商号、不正競争の防止まで含むことが問われました。2025年度第13問でも、商号が保護対象に入ることや、各種の特許を含むという条約の広い捉え方が問われています。

パリ条約の優先権は期間の組み合わせで覚えます

優先権は、最初の出願国で確保した出願日を、後から出願する国でも一定範囲で使える制度です。国際展開の準備期間を確保するための制度だと理解すると覚えやすいです。

期間は次の2分類で整理します。

  • 特許・実用新案
    12か月です。
  • 意匠・商標
    6か月です。

2020年度第10問、2022年度第13問、2023年度第2回第16問、2024年度第16問で、この期間の組み合わせが繰り返し問われました。特許と商標をどちらも12か月だと思い込む誤りが典型です。

また、2025年度第13問では、実用新案登録出願に基づいて意匠登録出願の優先権を主張できることも問われました。優先権は単純な暗記だけでなく、どの権利類型の間で使えるかまで意識しておくと、選択肢を切りやすくなります。

PCTは特許の国際出願手続を一本化する制度です

PCTは特許協力条約です。1件の国際出願をすることで、多数国に同時に出願したのと同様の効果を得られます。ここで大事なのは、PCTは手続を簡素化する制度であって、世界共通の特許権を一気に与える制度ではないという点です。

PCTの流れは次のように整理できます。

  1. 自国の特許庁などを通じて国際出願をします。
  2. 国際調査などを受けます。
  3. 権利化したい国ごとに国内移行手続をします。
  4. 各国特許庁が、それぞれの特許法に基づいて特許付与の可否を審査します。

2012年度第9問では、「1通の出願書類で多数国へ出願したのと同様の効果」がPCTの特徴として問われました。2021年度第14問でも、各国で審査を受けるには翻訳文提出などの国内移行手続が必要であり、各国特許庁は自国法に基づいて判断することが確認されています。国際調査結果に各国が拘束されるわけではありません。

マドリッド協定議定書は商標の国際登録制度です

マドリッド協定議定書は、商標について複数国で保護を求めるための国際登録制度です。日本では、いわゆるマドプロ出願として出題されることがあります。

この制度のポイントは次のとおりです。

  • 対象は商標です。特許や著作権の制度ではありません。
  • 日本の商標登録出願または商標登録を基礎にできます。
  • 日本の特許庁を通じてWIPO国際事務局へ国際出願します。
  • 指定国ごとに拒絶の有無が判断されます。

2011年度第8問では、マドリッド協定の使いにくさを改善するために1989年に採択された条約であり、WIPOを通じた商標の国際登録制度であることが問われました。2018年度第14問、2022年度第13問でも、日本で商標登録出願を済ませていれば、それを基礎にマドプロ出願ができることが問われています。登録完了まで待たなければならないわけではありません。

また、2018年度第14問では、出願後に商標そのものを変更することはできない点も問われました。基礎出願の内容がその後の国際出願の範囲に影響するため、国内出願の時点で商標と指定商品・役務を慎重に設計する必要があります。

ベルヌ条約は著作権の国際保護を支える条約です

ベルヌ条約は、著作権に関する国際保護の基本条約です。経営法務の一次試験では、パリ条約やPCTほど細かくは出なくても、著作権の国際保護の考え方を整理するうえで重要です。

ベルヌ条約で特に押さえるべきなのは、無方式主義です。これは、著作権の享有や行使のために登録などの方式を要求しないという考え方です。著作物は創作と同時に保護される、という著作権法の基本とつながっています。

さらに、ベルヌ条約でも内国民待遇が採られています。加盟国の著作者は、他の加盟国でも原則として自国民と同じ保護を受けます。ただし、保護の具体的な内容は各国法によって実現されるため、ここでも属地主義の発想を外してはいけません。

属地主義、内国民待遇、無方式主義を横断して整理します

この章では、似た言葉を別々に覚えるより、どの条約で何を意味するかを横断して整理したほうが得点しやすいです。

  • 属地主義
    知的財産権は各国ごとに成立し、効力や審査も各国法によります。PCTでもマドプロでも、各国の判断が残る理由はここにあります。
  • 内国民待遇
    外国人だから不利に扱うのではなく、加盟国の国民を自国民と同じように保護する考え方です。パリ条約でもベルヌ条約でも重要です。
  • 無方式主義
    著作権の保護に登録などを要しないという考え方です。ベルヌ条約の重要語句です。

過去問では、属地主義から「各国別に審査や保護判断が必要である」ことを読み取り、内国民待遇から「加盟国国民に自国民と同じ保護が及ぶ」ことを読み取り、無方式主義から「著作権は登録なしで保護される」ことを読み取れるかが差になります。

過去問で混同しやすいポイント

国際条約の問題では、次の誤りが繰り返し出ます。

  • PCTを、世界共通の特許権が成立する制度だと考える。
  • パリ条約を、特許の国際出願制度だと考える。
  • マドリッド協定議定書を、特許制度や著作権制度と混同する。
  • 商標の優先期間を12か月だと考える。
  • 著作権の国際保護でも登録が必要だと考える。
  • 国際出願や国際登録をすれば、各国で当然に権利が成立すると考える。

問題文に「多数国へ一括出願」「優先権」「商標の国際登録」「著作権の無方式主義」といった語が出たら、まず条約名の候補を絞るようにします。年号や加盟時期まで覚えていなくても、制度の骨格が分かっていれば正答に届きます。

この章のまとめ

  • パリ条約は、産業財産権についての基本条約であり、内国民待遇、優先権、各国特許独立の原則が中核です。
  • パリ条約の優先期間は、特許・実用新案が12か月、意匠・商標が6か月です。
  • PCTは特許の国際出願手続を一本化する制度であり、各国での国内移行と各国法による審査が必要です。
  • マドリッド協定議定書は商標の国際登録制度であり、日本の商標登録出願または商標登録を基礎に利用できます。
  • ベルヌ条約は著作権の国際保護に関する基本条約であり、無方式主義と内国民待遇が重要です。
  • 属地主義を前提にすると、国際制度があっても最終的な権利化や保護判断は各国ごとに行われることが整理しやすくなります。

一次試験過去問での出方

2011年度第8問、2018年度第14問、2022年度第13問ではマドリッド協定議定書と商標の国際登録が問われました。2012年度第9問、2021年度第14問、2023年度第2回第16問ではPCTと国内移行・各国審査の理解が問われました。2015年度第6問、2020年度第10問、2024年度第16問、2025年度第13問ではパリ条約の内国民待遇、優先権期間、保護対象が繰り返し問われています。