経営法務
重要契約に関する基礎知識(契約の成立・有効要件、外国企業との取引、英文契約)
契約成立、有効要件、英文契約、準拠法、裁判管轄、仲裁条項を扱う。
契約に関する基礎知識
この章で覚えておきたいこと
- 契約は、申込み と 承諾 の内容が一致すると成立します。押印や書面は、法律や当事者の特約がない限り、成立そのものの必須条件ではありません。
- 契約が有効かどうかは、意思能力・行為能力、意思表示の瑕疵、内容の適法性、公序良俗違反の有無 を順に見ます。
- 外国企業との契約では、準拠法、裁判管轄、仲裁 は別の論点です。ひとつ決まっても、他の二つが自動的に決まるわけではありません。
- 英文契約は、英語を逐語訳するよりも、条項名や定型表現の機能 で読むほうが得点しやすいです。
- 国際売買では、費用負担、危険移転、所有権移転、代金回収方法 を分けて整理します。ここを混同すると失点しやすいです。
- 近年は、条項の意味を日本語で言い換えさせるだけでなく、どちらの当事者に不利か、どのリスクを誰が負うか を判断させる出題が続いています。
基本知識
契約成立は申込みと承諾の合致で考える
契約は、当事者の意思表示が合致すると成立します。基本形は、申込みと承諾です。
- 申込み は、契約内容を示して相手に締結を求める意思表示です。
- 承諾 は、その申込みどおりに受け入れる意思表示です。
- 承諾の内容が申込みとずれると、承諾ではなく新たな申込みとして扱う方向で考えます。
試験では、次の順で追うと整理しやすいです。
- 申込みがあるか。
- 承諾があるか。
- 内容が一致しているか。
- その意思表示がいつ効力を生じるか。
- 撤回や失効の問題がないか。
2016年の出題では、契約成立時期、申込みの撤回、電子メールによる承諾などが問われました。したがって、この論点では細かな暗記よりも、契約成立までの時系列を追えるか が重要です。
契約の有効要件は能力、意思表示、内容で確認する
契約が成立しても、直ちに有効とは限りません。有効性は、次の観点で確認します。
- 当事者の能力
- 意思能力があるか。
- 行為能力に制限がないか。
- 意思表示の問題
- 錯誤、詐欺、強迫などがないか。
- 代理人が契約するなら、代理権があるか。
- 契約内容の問題
- 強行法規に反していないか。
- 公序良俗 に反していないか。
- 法律上、書面などの方式が必要な契約では、その方式を満たしているか。
この章では民法総論を深追いするより、実務的に 後で無効や取消しが問題にならないか を判定できることが大切です。契約レビュー問題では、価格や納期より前に、契約自体が有効に立っているかを確認する意識を持ちます。
準拠法、裁判管轄、仲裁は必ず別々に読む
国際契約で最も混同しやすいのが、この三つです。
- 準拠法
- 契約の成立、解釈、履行、債務不履行の効果を、どの国や地域の法律で判断するかを定めます。
governed by、construed in accordance withが典型表現です。
- 裁判管轄
- どの国、どの裁判所で訴訟を行うかを定めます。
jurisdiction、courtが典型表現です。
- 仲裁
- 裁判所ではなく、仲裁人や仲裁機関によって紛争を解決する合意です。
arbitration、arbitralが目印です。
2020年は This Agreement shall be governed by and construed in accordance with ... という表現から、準拠法条項を読ませました。2023年度第1回は、ニューヨーク州法を準拠法としつつ、米国仲裁協会による仲裁を定める条項を読ませています。
ここでのひっかけは次の二つです。
- 準拠法が決まっても裁判管轄は自動で決まらない。
- 裁判管轄が決まっても準拠法は自動で決まらない。
また、仲裁は調停とは異なります。仲裁は、当事者の話合いで妥協点を探す手続ではなく、仲裁人が判断を下す手続です。2023年度第1回では、裁判と仲裁の違いとして、仲裁は非公開になりやすいこと、通常の上訴が予定されないこと、ニューヨーク条約により国際執行力が高いこと が問われました。
英文契約は定型条項の機能で読む
英文契約では、条項名と機能をセットで覚えると読みやすくなります。
- Entire Agreement
- 契約書が当事者間の完全な合意であり、従前の交渉や口頭合意に優先する条項です。
- Severability
- 一部条項が
invalid、illegal、unenforceableでも、残りの条項の効力を維持する条項です。
- 一部条項が
- No Waiver
- 権利をすぐに行使しなくても、その後の権利まで放棄したことにはならないとする条項です。
- Force Majeure
- 天災、戦争、政府規制など、当事者の支配外の事情による履行不能や遅延を扱います。
- Confidentiality
- 秘密情報の範囲、除外事由、開示例外、返還や廃棄を定めます。
- Warranty
- 品質、性能、権利関係などについての保証を定めます。
- Indemnity
- 第三者からの請求や損害をどちらが負担するかを定めます。
- Non-competition
- 競業避止を定める条項です。
2010年は Entire Agreement、書面変更、英語版優先の条項を読ませ、条項に書いていない効果を勝手に足さないこと を問いました。2024年は invalid, illegal or unenforceable と remaining provisions から Severability を選ばせています。
この分野では、英語力そのものよりも、その条項が何を守る条項か を機能で判定することが得点の近道です。
責任制限、保証、補償は誰に不利かで判断する
近年の英文契約問題は、条項名だけでなく、どの条項がどちらの当事者に不利かまで読ませています。
2020年は、売主の契約違反に対する提訴期間が短いことが 買主に不利 であるかを判断させました。2022年は、商品に特許侵害があった場合に買主が責任を負う条項と、解除後に売主が決めた価格で原材料を買い取る条項を読ませました。
この種の問題では、次を確認します。
- 主語は誰か。
Seller、Buyer、Licensor、Licenseeを先に押さえます。 - 義務を負うのは誰か。
shallの主語を見ます。 - 救済が制限されるのは誰か。責任上限や短い提訴期間で不利になる当事者を考えます。
- Warranty と Indemnity を混同していないかを確認します。
特に、品質保証 と 第三者の知的財産権侵害補償 は別論点です。品質に問題がない商品でも、第三者特許を侵害していれば、販売差止めや損害賠償の問題が出ます。
国際売買では所有権、危険移転、費用負担を分ける
国際売買では、似た言葉が並ぶため、何を定めているかを分けて考える必要があります。
- 所有権移転
- 商品の法的な持ち主がいつ変わるかです。
- 危険移転
- 商品が滅失・損傷したリスクをいつから誰が負うかです。
- 費用負担
- 運賃、保険料、船積費用などをどちらが負担するかです。
2019年は title と risk of loss を分けて読ませました。所有権移転と危険移転は一致するとは限りません。たとえば、危険は引渡時に買主へ移るが、所有権は代金完済時まで売主に留保する という条項は十分にありえます。
ここでの判断軸は次のとおりです。
titleは 所有権 を意味します。risk of lossは 危険負担 を意味します。- インコタームズは主に費用負担と危険移転を整理するルールであり、所有権移転を当然に決めるものではありません。
インコタームズと国際決済は売買条件と回収条件を分けて覚える
インコタームズでは、次の二つが特に頻出です。
- FOB
- 本船渡しです。
- 売主が買主指定の本船に貨物を積み込むところが中心になります。
- CIF
- 運賃保険料込みです。
- 売主が運賃と保険を手配します。
2013年は FOB、2019年は CIF が出題されました。CIF だからといって、危険も目的港で移ると短絡しないことが大切です。費用負担の終点 と 危険移転時点 は別に確認します。
国際決済では、2021年に送金と信用状の基本構造が問われました。
- 送金
- 最も単純な支払方法です。
- 代金支払と商品の引渡しを厳密に同時履行しにくく、売主側に未回収リスクが残りやすいです。
- 信用状
- 買主が発行銀行に信用状発行を依頼します。
- 売主は信用状条件に従って書類を整え、通知銀行などを通じて代金回収を図ります。
- 条件どおりの書類が提示されれば、発行銀行が支払義務を負うため、売主は買主の信用だけに依存しなくて済みます。
2021年の判断軸は、送金は同時履行を実現しにくいこと、買主・売主・通知銀行・発行銀行の役割を区別できること でした。国際決済の問題は、金融論ではなく契約実務の一部として出るので、登場人物の役割を図のように頭に入れておくと解きやすいです。
この章のまとめ
- 契約成立は 申込みと承諾の一致 から考えます。成立時期、撤回、失効を時系列で追うと整理しやすいです。
- 契約の有効性は、能力、意思表示、内容の適法性 の順に確認します。
- 準拠法 は適用法、裁判管轄 は訴訟をする裁判所、仲裁 は私的な紛争解決手続です。三者を混同しないことが最重要です。
- 英文契約は、
Entire Agreement、Severability、Warranty、Indemnityなどの 条項名と機能 を対応させて読みます。 - 近年は、条項名を知っているだけでなく、どの当事者に不利か、どのリスクを誰が負うか を判断させる出題が増えています。
- 国際売買では、所有権移転、危険移転、費用負担 を分けて考えます。
titleとrisk of lossを混同しないようにします。 - インコタームズでは FOB と CIF、国際決済では 送金 と 信用状 の違いを押さえます。
- 問題を解くときは、まず条項の種類を見抜き、次に主語、義務、例外、どちらが不利かを確認する流れで読むと安定します。
一次試験過去問での出方
2010年は Entire Agreement、書面変更、英語版優先条項から、条項に書かれていない効果を読み込まないことが問われました。
2016年は契約成立の時期と申込み・承諾の基本、さらに
withholdやtax havenなど国際契約で見かける用語が問われました。2019年は
titleとrisk of lossの区別、CIF の意味が出題され、売買条件を分解して読む力が問われました。2020年は責任制限条項と準拠法条項が出題され、どちらの当事者に不利か、準拠法と裁判管轄を区別できるかが判断軸になりました。
2021年は送金と信用状の比較、買主・売主・通知銀行・発行銀行の役割が問われ、代金回収リスクの読み方が重視されました。
2022年は Warranty と Indemnity の違い、特許侵害リスク、解除後の原材料買取義務が問われました。
2023年度第1回はニューヨーク州法を準拠法とする条項と仲裁条項が出題され、準拠法、裁判、仲裁の切り分けが中心でした。
2024年は
invalid, illegal or unenforceableという表現から Severability を選ばせ、英文契約の定型条項の機能理解が問われました。