経営法務
重要事業承継・国際法務(経営承継円滑化法、国際売買条約、贈賄防止条約等)
事業承継、遺留分、国際売買、外国公務員贈賄防止を扱う。
事業承継・国際法務
この章で覚えておきたいこと
- 事業承継では、後継者に自社株を集中させたい要請 と 他の相続人の遺留分保護 が衝突しやすいです。
- 遺留分は、配偶者、子、直系尊属など一定の相続人に保障される最低限の利益であり、兄弟姉妹には遺留分がありません。
- 経営承継円滑化法の民法特例では、後継者が取得した自社株式等について、除外合意 と 固定合意 を使い分けます。
- 除外合意は 遺留分算定財産から外す合意、固定合意は 価額を合意時点で固定する合意 です。両者を逆にしないことが重要です。
- 民法特例は私的な約束だけで完結せず、推定相続人全員の合意 に加えて 経済産業大臣の確認 と 家庭裁判所の許可 が必要です。
- 国際売買では、契約書を読むときに 準拠法、紛争解決方法、引渡条件、危険移転 を先に確認します。
- インコタームズでは、費用負担 と 危険負担 を別々に考えます。CIFでも、売主が運賃と保険料を負担するからといって、危険まで仕向港まで負うわけではありません。
基本知識
事業承継で遺留分が問題になる理由
オーナー企業では、後継者に自社株や事業用資産を集中させないと、経営権が分散してしまうおそれがあります。ところが、生前贈与や遺言で特定の相続人に財産を偏らせると、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。
現在の遺留分の調整は、原則として金銭請求で行います。そのため、後継者が株式そのものを返すとは限りませんが、代償資金を用意できなければ、結局は株式や事業用資産を手放す圧力になります。事業承継で遺留分対策が重要なのは、この資金負担が経営の継続に直結するからです。
遺留分の民法原則
遺留分を考えるときは、まず「誰に権利があるか」を確定します。試験では割合計算より前に、この人的範囲で誤らせる問題が多いです。
- 遺留分がある人: 配偶者、子、直系尊属
- 遺留分がない人: 兄弟姉妹
また、生前贈与が遺留分算定の対象に入るかどうかも頻出です。特に相続人に対する生前贈与は、一定期間内のものが算定対象になります。事業承継の問題では、「後継者への株式贈与が遺留分の対象になるため、他の相続人との調整が必要になる」という流れで理解すると整理しやすいです。
経営承継円滑化法の民法特例
経営承継円滑化法は、中小企業の事業承継を進めやすくするための制度です。この章で重要なのは税制や金融支援の全体像ではなく、遺留分に関する民法特例です。
この特例は、先代経営者から後継者に贈与等された自社株式等について、遺留分の問題で承継が崩れないように事前調整を可能にします。制度の趣旨は、後継者保護だけではなく、他の推定相続人も含めて早い段階で合意形成を行い、相続開始後の紛争を防ぐことにあります。
除外合意と固定合意の違い
ここは名称と効果を逆にしやすいので、言葉どおりに覚えます。
- 除外合意: 後継者が取得した自社株式等を、遺留分算定の基礎財産から除外する合意です。
- 固定合意: 後継者が取得した自社株式等について、遺留分計算に用いる価額を合意時点の価額に固定する合意です。
除外合意は、自社株そのものを計算対象から外すことで、株式集中を強く守る方向の仕組みです。固定合意は、会社の成長で株価が上がっても、その上昇分まで遺留分計算に反映させないための仕組みです。後継者の努力で企業価値が上がった場合に、後から遺留分負担が膨らむのを抑える役割があります。
民法特例の成立要件
民法特例は、後継者と先代経営者だけで決めればよい制度ではありません。試験では、必要な主体や公的関与を問う問題が出やすいです。
押さえるべき要件は次のとおりです。
- 推定相続人全員の合意が必要です。
- 経済産業大臣の確認が必要です。
- 家庭裁判所の許可が必要です。
したがって、「過半数の同意で足りる」「行政庁の関与は不要」「家庭裁判所の許可だけでよい」といった記述は誤りになりやすいです。また、家族構成の変化や代襲相続の発生が合意の効力に影響する場面もあるため、制度は見た目より厳格です。
自社株承継で見る実務上の判断軸
実務での核心は、後継者に株式を集めるだけでは足りず、遺留分請求が起きても経営が揺らがない状態を作ることです。そのため、試験でも次の順に考えると解きやすくなります。
- 後継者に集中させたい財産が、自社株なのか事業用資産なのかを確認する。
- 他の相続人に遺留分権利者がいるかを確認する。
- 遺言だけで足りるのか、民法特例まで必要なのかを考える。
- 株価上昇リスクを抑えたいのか、計算対象から外したいのかで、固定合意と除外合意を区別する。
この順で整理すると、民法総論の細部に入り込まずに、事業承継問題の骨格をつかめます。
国際売買で最初に確認する項目
国際取引では、相手が外国企業であるというだけで、国内取引にはない論点が増えます。特に初学者は、契約書の細かな英文表現より先に、どの法律とどの手続で紛争を処理するかを押さえることが重要です。
最初に確認する項目は次の4つです。
- 準拠法: どの国の法律で契約を解釈するか
- 紛争解決方法: 裁判にするのか、仲裁にするのか
- 引渡条件: どこで物品を引き渡したとみるか
- 危険移転: 滅失や損傷のリスクがどの時点で売主から買主へ移るか
国際売買条約や各国法の知識は大切ですが、診断士試験では「契約に書いておくべき実務項目を見落とさないこと」がまず求められます。
インコタームズの見方
インコタームズは、所有権移転そのものではなく、売主と買主の費用負担、危険負担、手配義務を整理するルールです。ここではCIFとFOBの基本だけを押さえます。
- CIF: 売主が運賃と保険料を負担して主運送を手配します。ただし、危険は船積港で本船に積み込んだ時に買主へ移ります。
- FOB: 売主は本船積込みまでを担当し、その後の主運送の費用や危険は、原則として買主が負担します。危険移転の時点は、やはり船積港で本船に積み込んだ時です。
つまり、CIFとFOBは費用負担の範囲が異なりますが、危険移転の時点はどちらも船積港本船積込み時です。ここを「仕向港に着いた時」と読んでしまう誤りが非常に多いです。
国際法務の実務入口
中小企業が国際取引を始める場面では、制度の暗記だけでなく、契約書でどこを確認するかが重要です。試験でも、次のような実務感覚を持っていると判断しやすくなります。
- 契約書の言語が日本語でも、自動的に日本法や日本の裁判所が選ばれるわけではありません。
- 相手方の日本支店と交渉していても、契約当事者が本国法人なのか支店なのか を区別して読む必要があります。
- インコタームズの条件は、版と条件名まで契約で明記する ことが重要です。
- 紛争時に備えて、準拠法、管轄、仲裁条項、通知先を契約段階で確認しておく必要があります。
この章では国際私法や訴訟実務の細部までは追いませんが、国際売買では「誰が何をどこまで負担し、どこで争うのか」を先に決めるという発想を持つことが大切です。
この章のまとめ
- 事業承継では、後継者への自社株集中と他の相続人の遺留分保護が衝突しやすいです。
- 遺留分は一定の相続人に保障される最低限の利益であり、兄弟姉妹には認められません。
- 経営承継円滑化法の民法特例では、除外合意 と 固定合意 の違いを正確に区別します。
- 民法特例には、推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可 が必要です。
- 国際売買では、準拠法、紛争解決、引渡条件、危険移転を先に確認します。
- インコタームズでは、費用負担と危険移転は別論点です。CIFでも危険移転は船積港本船積込み時です。
一次試験過去問での出方
2017年第5問では、経営承継円滑化法の遺留分特例について、除外合意・固定合意の当事者、全員合意の要否、代襲者への効力が問われました。制度名だけでなく、誰の合意が必要かまで確認する必要があります。
2023年度第1回第17問では、遺留分の基本概念と、経営承継円滑化法の民法特例の要件が2段階で出題されました。遺留分の民法原則と、事業承継特例による修正を切り分けて理解しているかが問われています。
2023年度第2回第6問では、兄弟姉妹に遺留分がないこと、生前贈与の扱い、除外合意と固定合意の違いが問われました。名称と効果の取り違えが典型的な誤答です。
2023年度第2回第19問では、CIFとFOBの危険移転と費用負担が問われました。国際取引では、売主が運賃や保険料を負担することと、危険をいつまで負うかは同じではないと整理する必要があります。