経営法務
標準資金調達手続(社債発行の手続、株式公開手続)
社債発行、株式公開、募集手続を会社法・金融商品取引法と接続して扱う。
資金調達手続
この章で覚えておきたいこと
- 社債は借入れ型の資金調達であり、株式は出資型の資金調達です。まず法的性質の違いを区別します。
- 社債は株式会社だけでなく、会社法上の会社が発行できます。株式会社に限定する選択肢は要注意です。
- 取締役会設置会社では、募集社債の重要事項は取締役会が決定します。公開会社かどうかで決める話ではありません。
- 社債では、社債管理者や社債権者集会が社債権者保護の仕組みとして置かれています。
- 社債券は必ず発行されるわけではなく、社債券不発行や振替社債も認められます。券面の有無と有価証券性は別問題です。
- 少人数私募は、50名未満、勧誘人数、6か月通算で判断します。少額公募と混同しないことが重要です。
- 株式公開では、価格決定の手続としてブック・ビルディングが問われます。
- 上場準備中の株式移動では、特別利害関係人、売却制限、例外を上場審査の論点として整理します。
基本知識
資金調達手段としての社債と株式
資金調達手続を学ぶときは、最初に社債と株式の違いを押さえます。社債は会社が投資家から資金を借り入れるための手段であり、社債権者は会社に対する債権者です。これに対して株式は出資であり、株主は会社の構成員として議決権や配当請求権などを持ちます。
この違いは、出題でも基本になります。社債権者は原則として経営参加権を持たず、会社に対して利息や償還を請求する立場です。株主は会社の所有に関わる立場であり、残余財産の分配も債権者への弁済後になります。
したがって、問題文で社債が出てきたら、まず「借入れ型の資金調達」であると捉えます。株式発行の手続や株主総会の論点をそのまま持ち込むと混乱しやすいため、最初に資金調達手段を切り分けることが重要です。
社債を発行できる会社
社債は、株式会社だけの制度ではありません。会社法上の会社が発行できるため、合名会社、合資会社、合同会社も社債を発行できます。
試験では、「社債を発行できるのは株式会社に限られる」とする選択肢が典型的な誤りです。会社法の条文で「会社」と書かれている場合に、当然に株式会社だけを意味すると早合点しないようにします。
この論点は、社債の法的性質とあわせて問われやすいです。社債は資本参加ではなく債務負担による資金調達なので、株式会社特有の株式制度とは別の枠組みで理解します。
募集社債の決定機関と会社法上の内部手続
ここからは、会社法上の内部手続の話です。募集社債を発行する場合、取締役会設置会社では、募集社債に関する重要事項は取締役会が決定します。
この点で重要なのは、株式発行の論点と混同しないことです。募集株式では公開会社か非公開会社か、有利発行かどうかなどで株主総会決議の有無が問題になります。しかし、募集社債では、取締役会設置会社であるかどうかが基本的な分かれ目です。
また、取締役会が決めるべきなのは重要事項です。このため、「代表取締役に一切委任できない」と断定する選択肢は行き過ぎです。他方で、重要事項まで全面的に委任できるわけでもありません。試験では、取締役会の決定事項と実務上委任し得る事項を区別できるかが問われます。
この論点では、会社法上の社内決定手続を見ているのであって、投資者向けの開示制度を見ているのではありません。誰が社内で決めるか、という視点で整理します。
社債管理者と社債権者集会
社債は多数の投資家に引き受けられることがあるため、社債権者を保護する仕組みが置かれています。その代表が社債管理者と社債権者集会です。
社債管理者は、社債権者のために弁済の受領や債権保全などを行う者です。誰でもなれるわけではなく、法令上その資格は限定されています。試験では、「証券会社なら当然に社債管理者になれる」と広く捉えさせる誤りが出やすいです。
社債権者集会は、同一種類の社債権者による集団的な意思決定の場です。社債権者が個別に行動するだけでは処理しにくい事項について、集団として決議します。ここでは、株主総会ではなく、あくまで社債権者のための制度である点を押さえます。
社債管理者も社債権者集会も、会社法上の社債権者保護制度です。ここでも、会社法上の内部手続の話であることを意識すると整理しやすくなります。
社債券不発行、振替社債、有価証券性
社債を発行する場合でも、必ず紙の社債券を発行するとは限りません。社債券不発行の形も認められており、さらに振替社債として券面を発行せずに管理することもあります。
ここで大切なのは、券面の有無と有価証券性を切り離して考えることです。社債券が発行されないからといって、直ちに金融商品取引法上の有価証券ではなくなるわけではありません。振替社債も、有価証券としての取扱いが問題になります。
したがって、「社債券がない社債は有価証券に当たらない」とする選択肢は誤りです。会社法上は権利の管理方法の問題であり、金融商品取引法上は投資者保護のための規制対象かどうかという別の視点で見ます。
この論点では、会社法の権利管理の話と、金融商品取引法の規制対象の話が連続して出ます。ただし、同じ「社債券不発行」という事実でも、何を問われているのかを分けて読むことが重要です。
少人数私募と開示規制
ここからは、金融商品取引法上の開示の話です。少人数私募は、公募ではなく限定された相手方に取得勧誘を行う場面で問題になります。
判断の中心は3つです。第1に、基準は実際の取得者数ではなく、取得勧誘の相手方の人数です。第2に、その人数は50名未満で判断します。50名ちょうどでは足りません。第3に、過去6か月以内に同一種類の有価証券について行った勧誘人数を通算します。
さらに、少人数私募として扱うには、多数の者に譲渡されるおそれが少ないことも必要です。したがって、単に勧誘相手が少なければ足りるわけではありません。
この論点では、少額公募との混同に注意します。少人数私募は人数基準による整理であり、少額公募は発行価額総額との関係で語られる別の概念です。過去問では、「1億円未満だから少人数私募である」といった混同を誘う選択肢が見られますが、判断軸が違います。
少人数私募は、会社法上の社内決定の話ではなく、金融商品取引法上の開示規制の話です。誰が決めたかではなく、どの範囲に勧誘し、どの開示が必要かという視点で理解します。
株式公開におけるブック・ビルディング
ここからは、株式公開に関する価格決定手続の話です。ブック・ビルディングとは、仮条件を示したうえで投資者の需要を把握し、その結果を踏まえて公開価格を決定する方式です。
試験では、「仮条件」「需要の把握」「公開価格」という語が並んだら、まずブック・ビルディングを思い出します。会社が一方的に価格を決める手続でもなく、単純な入札だけで価格が決まる手続でもありません。
この論点は、会社法上の内部手続ではありません。上場や公募・売出しの場面で、投資者の需要を反映して価格を決める市場実務の話です。問題文で問われている制度の位置づけを見失わないことが重要です。
上場準備中の株式移動等規制
最後に、上場準備中の株式移動に関する上場審査の論点を整理します。これは会社法上の機関決定の問題ではなく、取引所による審査や投資者保護の観点から問われる事項です。
出題で中心になるのは、特別利害関係人への株式移動、上場前後の売却制限、そしてその例外です。上場準備中に大株主や役員などの特別利害関係人へ株式が移動した場合、直ちに一律禁止というわけではありません。むしろ、取得経緯や価格の相当性などが開示や審査の対象になります。
また、上場直後には株式の売却に制限がかかる場面があります。これは一般投資家との公平を確保するためです。ただし、すべての株式が常に同じ扱いになるわけではなく、一定の場合には例外が認められます。たとえば、上場準備との関係で適切に付与された新株予約権の行使によって取得した株式などは、例外として問われることがあります。
この論点では、「一律に禁止」「常に売却できない」といった絶対表現を疑うことが大切です。会社法の有効・無効の問題ではなく、上場審査や売却制限の問題として読むと正誤判断しやすくなります。
この章のまとめ
資金調達手続では、まず社債と株式の違いを押さえ、そのうえで制度ごとに整理します。社債については、発行主体、取締役会設置会社における決定機関、社債管理者、社債権者集会、社債券不発行や振替社債を会社法の枠組みで理解します。
他方で、少人数私募は金融商品取引法上の開示規制の論点であり、50名未満、勧誘人数、6か月通算を中心に判断します。株式公開では、ブック・ビルディングによる価格決定と、上場準備中の株式移動に関する審査・売却制限を分けて整理することが重要です。
試験では、会社法上の内部手続と、金融商品取引法・上場規則上の開示や審査を混ぜたひっかけが多く見られます。制度の目的ごとに切り分けて読むことが、そのまま得点につながります。
一次試験過去問での出方
2011年の問題では、社債と株式の違い、社債を発行できる会社、取締役会設置会社の決定事項、社債管理者、社債券不発行と少人数私募の人数基準が問われました。
2015年の問題では、社債発行をめぐって、取締役会からの委任、振替社債の有価証券性、少人数私募と開示規制の関係が問われ、少額公募との混同回避が重要でした。
2016年の問題では、上場準備中の株式移動等規制が中心で、ブック・ビルディング、特別利害関係人への株式移動、売却制限とその例外を区別して判断できるかが試されました。