経済学・経済政策
標準所得再分配と税制・補助金
累進課税、補助金、所得再分配、余剰変化を扱う。
この章で覚えておきたいこと
所得再分配と税制・補助金では、「格差をどう測るか」と「税や給付を図・式でどう読むか」を分けて整理します。一次試験では、政策の賛否を論じるより、ジニ係数、平均税率、限界税率、可処分所得、税負担の帰着を正しく判定することが重要です。
- 所得再分配は、当初所得の格差を税・社会保障・給付で調整する政策です。
- ジニ係数は、小さいほど平等、大きいほど不平等です。
- 再分配が格差を縮小していれば、再分配所得ジニ係数は当初所得ジニ係数より小さくなります。
- 税制の式では、限界税率と平均税率を必ず分けます。
- 基礎控除や定額給付があると、比例税でも平均税率は所得水準で変わります。
- 負の所得税では、可処分所得は増えても、所得が増えるほど純給付額は減ります。
- 税負担の帰着は、法律上の納税者ではなく需要・供給の弾力性で決まります。
近年は、2024年の負の所得税、2025年の基礎控除付き所得税のように、図と式を合わせて読ませる出題が続いています。難しい計算よりも、傾き、平均、45度線との差、弾力性の向きを落ち着いて確認することが得点につながります。
基本知識
所得再分配と当初所得・再分配所得
所得再分配は、市場で決まった所得分配を、税、社会保険料、年金、生活保護、各種給付などで調整する政策です。市場で得た所得をそのまま見るのではなく、負担と給付を反映した後の所得分布を見ます。
当初所得は、税や社会保障による再分配前の所得です。再分配所得は、税・社会保険料を差し引き、年金や給付を加えた後の所得です。再分配政策が格差を縮小していれば、再分配所得の不平等度は当初所得より小さくなります。
2007年の過去問では、税や社会保障を反映した後のジニ係数が、再分配前より大きくなるという記述が不適切とされました。再分配の基本効果は、当初所得で大きく出た格差を可処分所得ベースで縮小することです。
ジニ係数と改善度
ジニ係数は、所得分配の不平等度を表す指標です。完全平等に近いほど0に近づき、所得が一部に偏るほど1に近づきます。試験では、高いほど平等と逆に読む選択肢に注意します。
所得再分配の図では、当初所得ジニ係数、再分配所得ジニ係数、改善度が同時に出ることがあります。当初所得ジニ係数は再分配前、再分配所得ジニ係数は再分配後、改善度は再分配によってジニ係数がどれだけ下がったかを表します。
2022年の過去問では、棒グラフで当初所得と再分配所得、折れ線で改善度を読む必要がありました。棒の高さだけでなく、折れ線が何を表しているかを確認します。再分配所得ジニ係数が当初所得ジニ係数を下回っていれば、再分配で格差は縮小しています。
平均税率と限界税率
税制の図では、最初に限界税率と平均税率を分けます。限界税率は、所得が1単位増えたときに税額がどれだけ増えるかです。線形の課税線では、課税線の傾きが限界税率に対応します。
平均税率は、税額全体を所得全体で割った値です。
平均税率 = T / Y
限界税率が一定でも、控除や給付があれば平均税率は一定とは限りません。ここが、2013年と2025年の過去問で繰り返し問われた点です。
たとえば、基礎控除付き比例税が次の式で表されるとします。
T = t(Y - A)
このとき、限界税率は t で一定です。一方、平均税率は次のようになります。
T / Y = t(Y - A) / Y = t(1 - A / Y)
所得 Y が大きくなるほど A / Y は小さくなるため、平均税率は上がります。つまり、限界税率は一定でも、平均税率で見ると高所得者ほど負担率が高くなります。
基礎控除の効果
基礎控除は、一定額まで課税対象から外す仕組みです。所得税の図では、所得が基礎控除額を超えたところから課税線が立ち上がります。
2025年の過去問では、T = t(Y - A) の図から、追加的な同額の所得にかかる税額、所得全体に占める税額の割合、基礎控除引上げ時の減税額を判断しました。
追加的な同額の所得に課される税額は、限界税率 t で決まるため、課税線上では同じです。平均税率は T / Y なので、基礎控除のある比例税では所得が大きいほど高くなります。
基礎控除を引き上げたときの減税額は、両方の所得者が新しい控除額を上回っていれば、所得水準ではなく控除の増加分で決まります。式では、控除が A から A' に増えたときの減税額は t(A' - A) です。したがって、高所得者の方が必ず大きく減税されるとは限りません。
定額給付付き定率課税
定率課税と定額給付を組み合わせると、納税額は次のように表せます。
T = aY - b
ここで a は比例税率、b は定額給付です。限界税率は a で一定です。一方、平均税率は次のようになります。
T / Y = a - b / Y
所得 Y が大きいほど b / Y は小さくなるため、平均税率は a に近づきます。低所得では T が負になり、実質的に給付超過になることもあります。
2013年の過去問では、定額給付額 b を変えても平均税率が変わらないという記述が不適切でした。平均税率は a - b / Y なので、b が変われば同じ所得者の平均税率も変わります。
負の所得税
負の所得税は、一定額の給付と比例税を組み合わせ、低所得者には純給付、高所得者には純課税が生じる仕組みとして理解します。図では、横軸に当初所得、縦軸に可処分所得を取り、45度線と可処分所得線を比べます。
可処分所得が次の式で表されるとします。
Y_d = Y(1 - t) + A
当初所得 Y が増えると、可処分所得 Y_d も増えます。ただし、傾きは 1 - t なので、所得が1増えても可処分所得は1未満しか増えません。追加所得の一部は税として吸収されます。
純給付額は、可処分所得から当初所得を引いたものです。
Y_d - Y = A - tY
所得 Y が増えるほど A - tY は小さくなります。2024年の過去問では、「所得が増えるほど純給付額が増える」という記述が誤りでした。可処分所得の増加と純給付額の減少を分けて読むことが大切です。
ラムゼイ・ルール
ラムゼイ・ルールは、税収を確保しながら超過負担を小さくするための効率的な課税の考え方です。基本は、弾力性が低い課税ベースほど高税率です。逆弾力性ルールと呼ばれます。
税をかけると、価格や手取りが変わり、取引量や供給量が動きます。弾力性が高い財・所得・生産要素に高い税率をかけると、数量が大きく変わり、死荷重が大きくなりやすいです。逆に、数量が動きにくいところに課税すれば、同じ税収でも余計なゆがみを抑えやすくなります。
2011年の過去問では、弾力性に逆比例するように税率を課すという説明が適切でした。宝石や高価なバッグのように需要の価格弾力性が高いものへ高税率をかける、代替財を持たない食料品のように弾力性が低いものへ低税率をかける、といった記述は逆に読みます。
インフレと所得分配
インフレは、名目額で固定された契約や制度に影響します。名目債務は物価上昇で実質価値が目減りするため、債務者に有利、債権者に不利になりやすいです。これは、債権者から債務者への実質所得移転として整理できます。
名目額で固定された賃金、年金、債権収入は、物価上昇に追いつかなければ実質購買力が低下します。名目で同じ金額を受け取っていても、買える財・サービスが減るためです。
税制でも、課税最低所得や税率区分が物価に連動しないと、名目所得の上昇だけで課税対象者が増えたり、より高い税率区分に入ったりします。これをブラケット・クリープといいます。
2013年の過去問では、累進課税のもとでインフレが名目所得税額を変化させないという記述が不適切でした。累進課税では、物価上昇に伴う名目所得の増加だけでも税負担が増える場合があります。
税負担の帰着
税負担の帰着とは、税を実際に誰が負担するかという問題です。法律上の納税義務者が生産者でも、税負担がすべて生産者に残るとは限りません。需要と供給の価格弾力性によって、消費者と生産者の負担配分が決まります。
需要が完全に非弾力的なら、価格が上がっても需要量が変わりません。この場合、生産者が納税義務者でも、税は価格に転嫁され、消費者が負担しやすくなります。2017年の過去問では、従量税の全額転嫁が、需要の価格弾力性がゼロであることと結びつけて問われました。
反対に、需要が弾力的なら、価格が上がると消費者は購入量を大きく減らします。そのため、消費者へ転嫁しにくく、生産者側に負担が残りやすくなります。税負担の問題では、納税義務者の名前ではなく、弾力性を先に見ます。
この章のまとめ
所得再分配と税制・補助金では、格差指標、税制の式、給付の図、弾力性を順番に確認します。最後に、次の判断軸を固定します。
再分配前後はジニ係数で読む
ジニ係数は小さいほど平等、大きいほど不平等です。当初所得は再分配前、再分配所得は再分配後です。再分配が格差を縮小していれば、再分配所得ジニ係数は当初所得ジニ係数より小さくなります。
改善度が出る図では、棒グラフと折れ線の意味を取り違えないようにします。再分配後に格差が拡大したかどうかは、当初所得ジニ係数と再分配所得ジニ係数の上下関係で確認します。
税制の式は平均と限界を分ける
限界税率は課税線の傾きです。平均税率は T / Y です。基礎控除や定額給付が入ると、限界税率が一定でも平均税率は所得水準で変わります。
T = t(Y - A) では、限界税率は t、平均税率は t(1 - A / Y) です。T = aY - b では、限界税率は a、平均税率は a - b / Y です。どちらも、所得が大きいほど平均税率が上がりやすい形です。
負の所得税は可処分所得と純給付を分ける
負の所得税では、Y_d = Y(1 - t) + A を使います。当初所得が増えれば可処分所得も増えますが、傾きは 1 - t なので、増加分の一部は税として吸収されます。
純給付額は Y_d - Y = A - tY です。所得が増えるほど純給付額は減ります。可処分所得の増加と純給付額の減少を混同しないことが、2024年型の図問題の中心です。
インフレと税負担は名目固定と弾力性で見る
インフレは、名目固定の債権者、名目固定所得者、物価連動しない税制に影響します。債務者には有利、債権者には不利になりやすく、累進課税ではブラケット・クリープが生じます。
税負担の帰着は、法律上の納税者ではなく弾力性で決まります。需要が非弾力的なら消費者負担、需要が弾力的なら生産者負担が大きくなりやすいです。ラムゼイ・ルールも、弾力性が低いところへ重く課税するという発想で整理します。
一次試験過去問での出方
2007年 第11問では、ジニ係数と再分配効果が問われました。税や社会保障による再分配は、通常、再分配後のジニ係数を再分配前より小さくします。
2011年 第13問では、ラムゼイ・ルールが問われました。弾力性が低い課税ベースに相対的に高い税率を置くことで、同じ税収を得るときの超過負担を抑えるという逆弾力性ルールです。
2013年 第9問 設問2では、インフレが所得分配に与える影響が問われました。名目固定の債権や所得はインフレに弱く、累進課税ではブラケット・クリープが生じます。
2013年 第18問では、定率課税と定額給付T = aY - bが問われました。限界税率はaで一定ですが、平均税率はa - b / Yであり、所得が大きいほど上がります。
2017年 第11問では、従量税の全額転嫁が問われました。税負担の帰着は納税義務者ではなく弾力性で決まり、需要が完全に非弾力的なら消費者へ転嫁されやすくなります。
2022年 第1問では、当初所得ジニ係数、再分配所得ジニ係数、改善度のグラフが問われました。棒と折れ線の意味を分け、再分配前後の上下関係を読む必要があります。
2024年 第21問では、負の所得税Y_d = Y(1 - t) + Aが問われました。所得が増えると可処分所得は増えますが、純給付額A - tYは減ります。
2025年 第19問では、基礎控除付き所得税T = t(Y - A)が問われました。限界税率は一定、平均税率は所得が大きいほど高くなること、控除引上げ時の減税額を式で読むことが必要です。