経営法務
重要契約の類型と内容(売買、秘密保持、共同開発、販売店、フランチャイズ、事業提携、M&A契約等)
契約類型ごとの目的、主要条項、リスク分担、解除・損害賠償を扱う。
契約の類型と内容
この章で覚えておきたいこと
- 契約類型の問題は、まず「何を移転し、何を使わせ、何を守る契約か」を見分けます。物の移転なら売買、秘密の保護なら秘密保持、研究成果の配分なら共同研究開発、ブランドとノウハウの提供ならフランチャイズ、出資と統治なら合弁、会社や株式の取得ならM&Aという切り分けが基本です。
- 売買では、契約不適合責任、追完請求、代替的追完、商人間売買の検査・通知義務が頻出です。特に商法第526条の 6か月 はそのまま問われます。
- 秘密保持契約では、秘密情報の定義 と 除外事由 が中心です。書面開示と口頭開示で要件が違うこと、開示前保有情報や第三者からの適法取得情報が除外されることを押さえます。
- 共同研究開発契約では、成果物や知的財産権の帰属、実施権、費用負担、秘密保持に加えて、契約終了後まで広く競合研究を禁じる条項が 独占禁止法上の問題 になり得る点が重要です。
- 販売店契約と代理店契約は、自己の名で仕入れて転売するか、本人のために契約を媒介・代理するかで分けます。フランチャイズ契約では、情報開示義務、ロイヤルティ、契約終了後の名称使用停止、競業避止の範囲が問われます。
- 合弁契約では、先買権、コール・オプション、プット・オプション、拒否権、デッドロック条項が基本です。誰が誰の株式を買う権利かを逆にしないことが得点の分かれ目です。
- M&A契約では、表明・保証、誓約、前提条件、クロージング、補償 を区別します。クロージング前は取引実行拒否や解除が問題になりやすく、クロージング後は補償請求が中心になります。
基本知識
売買契約と取引基本契約
売買契約は、売主が目的物を移転し、買主が代金を支払う契約です。企業間取引では、個別注文のたびにゼロから条件を定めるのではなく、継続取引の前提として取引基本契約を置くことが多くなります。試験では、個々の条項名と法的効果を結び付けられるかが問われます。
取引基本契約で押さえるべき条項は次のとおりです。
- 所有権留保: 代金完済まで所有権を売主に留保し、回収可能性を高める条項です。
- 期限の利益喪失: 支払遅延や信用不安が生じたときに、まだ弁済期が来ていない売掛金も直ちに請求できるようにする条項です。
- 解除条項: 重大な債務不履行や信用不安が生じた場合に、契約関係そのものを終了させる条項です。
- 出荷停止条項: 債権回収に不安があるときに、追加納入を止めたり数量を制限したりする条項です。
- 損害賠償条項: 契約違反が生じた場合の賠償範囲や上限、間接損害の扱いを定める条項です。
2012年の過去問では、期限の利益喪失 が問われました。所有権留保は「目的物を返してもらう」条項、解除条項は「取引を終わらせる」条項、出荷停止条項は「これ以上渡さない」条項です。これに対し期限の利益喪失は、未到来債権まで一括請求できる 点が核心です。
売買の契約不適合責任では、目的物が契約内容に適合しない場合に、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除を検討できます。追完の方法には修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しがあります。ただし、不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、買主は追完請求をできません。
また、買主が代替物の引渡しを求めても、売主は、買主に不相当な負担を課さない範囲 で別の方法による追完をすることができます。2021年の過去問では、買主が新品への交換を求めても、修理で足り、しかも買主に不相当な負担を課さないなら、売主は修理による追完を主張できることが問われました。
さらに、商人間売買では商法第526条の検査・通知義務が重要です。商人間の売買では、買主は受領後遅滞なく検査し、直ちに発見できる不適合があれば通知しなければなりません。直ちに発見できない不適合でも、引渡しから6か月以内 に通知しなければ、売主が悪意でない限り請求が困難になります。2021年の過去問では、この 6か月ルール と「商人間売買かどうか」がそのまま聞かれました。
秘密保持契約
秘密保持契約は、技術情報、営業情報、顧客情報、価格条件、研究計画などの秘密情報を守るための契約です。試験では、秘密情報に何が含まれるかよりも、契約上どのように秘密情報を定義しているか、そして 何が除外されるか を読めるかが重要です。
秘密情報の定義では、開示方法ごとに要件が違うことがあります。
- 書面や電子データで開示する場合は、資料上で秘密表示がされていることを要件にすることがあります。
- 口頭開示の場合は、開示時に秘密指定するだけでなく、一定期間内に書面で確認することまで要求する条項があります。
2018年の過去問では、書面開示と口頭開示で扱いが違うことが問われました。口頭情報は「その場で秘密だと言えば必ず秘密情報になる」わけではなく、後日の書面通知まで必要なことがあります。
秘密情報から除外される典型例も頻出です。
- 開示前から公知だった情報
- 開示後、受領者の責めによらず公知となった情報
- 正当な権限を持つ第三者から義務違反なく取得した情報
- 受領者が独自に開発した情報
- 受領者が開示前から保有していた情報
2018年の過去問では、提示条項に書かれていない除外事由を選ばせる問題が出ました。NDAの問題は一般論で解くのではなく、条文に書いてあるものと書いていないものを分ける のが安全です。
秘密保持契約では、定義と除外事由に加えて、目的外使用禁止、第三者開示禁止、複製制限、返還・廃棄、存続期間も主要条項です。共同研究やM&Aの初期段階では、まずNDAを結んで情報開示の土台を作ることが多いため、この論点は他の契約類型ともつながります。
共同研究開発契約とシステム開発契約
共同研究開発契約は、複数の企業や研究機関が共同で研究開発を行う契約です。ポイントは、研究そのものよりも、成果を誰に帰属させ、誰がどう使えるか を明確にしておくことです。
主要条項は次のとおりです。
- 研究範囲と役割分担
- 費用負担
- 成果物と知的財産権の帰属
- 出願手続と持分
- 成果の実施権と第三者許諾の可否
- 秘密保持
- 契約終了時の資料返還や研究継続の可否
この契約で特に重要なのが競業避止です。研究成果やノウハウを守るために一定の制限を置くこと自体はありますが、契約終了後まで広く競合研究を禁止する条項 は、共同研究の必要範囲を超えると 独占禁止法上の問題 になり得ます。2015年の過去問では、この終了後存続型の競業避止条項の根拠法として独占禁止法を選ばせました。
共同研究開発は、協力関係を作る契約である一方、競争事業者同士の結び付きでもあります。そのため、次のような条項は試験でリスクを意識します。
- 契約終了後まで広く研究活動を禁止する条項
- 市場分割や販売制限に近い内容を含む条項
- 特定分野での技術利用を一方的に封じる条項
2016年の過去問では、情報システム開発契約における 請負 と 準委任 の違いも問われました。これは共同研究開発契約とは別類型ですが、「成果物の完成義務があるか」という契約類型の見分け方を確認する重要論点です。
- 請負: 受託者が仕事の完成義務を負います。成果物が契約内容に適合しないときは契約不適合責任が問題になります。
- 準委任: 受託者は仕事完成義務を負わず、善管注意義務を尽くして事務処理を行う契約です。責任は債務不履行の形で問題になります。
要件定義やシステム化計画のように、発注者自身も成果物を具体化できていない段階は、一般に請負になじみにくく、準委任が選ばれやすくなります。逆に、仕様が固まっていて完成物を明確に定められる段階では請負が選ばれやすくなります。
販売店契約・代理店契約・フランチャイズ契約
販売店契約と代理店契約は似て見えますが、法律関係が異なります。
- 販売店契約: 販売店が自ら商品を仕入れ、自己の名と計算で顧客に転売します。在庫リスクや代金回収リスクを負うのは販売店です。
- 代理店契約: 代理店は本人のために顧客を紹介したり、本人を代理して契約締結を行ったりします。通常は自ら商品を買い取って転売しません。
この違いは、報酬の性質にも表れます。販売店は転売差益を得るのに対し、代理店は手数料を受け取るのが基本です。試験で迷ったときは、誰が顧客との契約当事者になるか を確認します。
販売店契約では、販売地域、販売目標、商標使用、返品、契約解除、競合商品の取扱いなどが主要条項です。このうち、再販売価格の拘束や過度な取引先制限は、独占禁止法上の問題と結びつくことがあります。診断士試験では細かな公取委ガイドラインまで深追いするより、販売政策の名目でも競争制限になり得る という感覚を持つことが大切です。
フランチャイズ契約では、本部が加盟店に対して商標、商号、ノウハウ、営業方式を使わせ、加盟店が加盟金やロイヤルティを支払います。主要条項は次のとおりです。
- 商標・チェーン名称の使用条件
- ノウハウやマニュアルの提供
- 加盟金、ロイヤルティ、仕入条件
- 営業地域や近接出店のルール
- 契約期間、更新、解除
- 契約終了後の名称使用停止、看板撤去、秘密保持、競業避止
2012年の過去問では、フランチャイズ契約について次の点が問われました。
- 特定連鎖化事業 に該当する場合、本部には契約概要等を書面で交付し説明する義務があること
- 契約終了後も旧加盟店がチェーン名称を使い続けると、差止めが問題になること
- 契約終了後の競業避止義務は、必要範囲を超えると優越的地位の濫用など 独占禁止法上の問題 になり得ること
- 加盟希望者が事業者なら、通常は消費者契約法上の「消費者」ではないこと
フランチャイズ契約は、ブランド維持のために本部の統制が必要な契約ですが、その統制が広すぎると競争制限や優越的地位濫用の問題に近づきます。したがって、「本部の指示なら何でも有効」と考えないことが大切です。
事業提携契約と合弁契約
事業提携契約は、販売、生産、物流、海外展開などで複数企業が協力する契約です。その中でも、共同出資会社を作って事業を行う形が合弁契約です。合弁契約では、出資比率だけでなく、統治と退出の仕組みをどう作るかが重要になります。
合弁契約の主要条項は次のとおりです。
- 出資比率
- 役員派遣や取締役指名権
- 重要事項に対する拒否権
- 株式譲渡制限
- 先買権
- コール・オプション
- プット・オプション
- デッドロック条項
2014年の過去問では、合弁契約の条項名がそのまま問われました。
- 先買権 は、一方当事者が株式を第三者に譲渡しようとするとき、他方当事者に優先的に買い取る機会を与える条項です。
- プット・オプション は、自分が保有する株式を相手方に買い取るよう請求できる権利です。
- コール・オプション は、相手方が保有する株式を自分が買い取るよう請求できる権利です。
この分野のひっかけは、条項名そのものではなく、誰が誰の株式を買うのか を逆に読ませる点にあります。問題文で「自分の株式を相手に買い取らせる」ならプット・オプション、「相手の株式を自分が買い取る」ならコール・オプションです。
また、合弁では意見対立によって経営が止まる デッドロック が起こり得ます。そのため、一定期間協議しても解決しない場合の買取り、第三者売却、解散などを契約で定めておくことがあります。これは出資比率の論点ではなく、事業を止めないための退出ルール だと理解します。
M&A契約
M&A契約、特に株式譲渡契約は、物の売買とは違って、対象会社の財務、法務、労務、税務、契約関係、許認可などに関するリスクを契約条項で細かく分担します。そのため、英米法系の契約実務で発達した概念が多く登場します。
2013年の過去問では、M&A契約で頻出の基本用語がまとめて問われました。重要語は次のとおりです。
- 表明・保証: 一定時点で一定の事実が真実かつ正確であることを相手方に述べ、保証するものです。未払残業代がない、重大訴訟がない、許認可が有効であるといった事実に使われます。
- 誓約: 一定の行為をする、またはしないという行為義務です。クロージングまで通常どおり事業を運営する、重要な資産を処分しない、といった内容が典型です。
- 前提条件: クロージングを実行するために満たされなければならない条件です。必要な許認可取得や、表明・保証が重要な点で正確であることなどが入ります。
- クロージング: 取引の実行段階です。株式の移転と代金支払がここで行われます。契約締結日と同日とは限りません。
- 補償: 表明・保証違反などによって生じた損害を填補する条項です。
ここで最重要なのが、クロージング前とクロージング後で救済が変わる ことです。
- クロージング前に表明・保証違反や誓約違反が見つかった場合
- 取引実行の拒否
- 契約解除
- 条件成就の欠如を理由とするクロージング見送り
- クロージング後に違反が判明した場合
- すでに取引自体は完了しているため、補償請求が中心
- 必要に応じて損害賠償や価格調整が問題になる
この違いを理解すると、問題文に「契約締結後」「クロージング前」「クロージング後」という時間軸が出たときに正答しやすくなります。M&A契約の論点は、単語暗記だけでは足りず、時間軸に沿ったリスク配分 として理解することが大切です。
この章のまとめ
- 契約類型の識別は、何を移転し、何を保護し、何を共同で行う契約かを見ると整理しやすいです。
- 売買では、契約不適合責任、売主による代替的追完、商人間売買の検査・通知義務が中心です。特に 6か月 の通知期間は最優先で確認します。
- 秘密保持契約では、秘密情報の定義と除外事由を条文ベースで読み取ります。書面と口頭の違い、開示前保有情報の扱いは定番です。
- 共同研究開発契約では、成果帰属と実施権に加え、終了後まで広い競業避止を置くと独占禁止法上の問題が出る点を押さえます。
- 販売店、代理店、フランチャイズは、契約当事者、報酬構造、統制の範囲で区別します。フランチャイズでは情報開示義務と契約終了後の競業避止が頻出です。
- 合弁契約では、先買権、コール・オプション、プット・オプションを「誰が誰の株式を買う権利か」で判定します。
- M&A契約では、表明・保証は事実、誓約は行為義務と整理します。さらに、クロージング前は実行拒否や解除、クロージング後は補償請求が中心になるという時間軸を必ず結び付けます。
一次試験過去問での出方
2012年 第15問ではフランチャイズ契約の情報開示義務、契約終了後の名称使用、競業避止、消費者契約法の適用関係が問われました。
2012年 第19問 設問2では取引基本契約の期限の利益喪失条項の効果が問われ、未到来債権の一括請求が論点になりました。
2013年 第2問 設問1・2ではM&A契約の表明・保証、誓約、クロージング、補償、英米法系契約実務の発想が問われました。
2014年 第2問 設問1では合弁契約の先買権とプット・オプションが条項文から問われました。
2015年 第16問 設問2では共同研究開発契約終了後の競業避止条項と独占禁止法の関係が問われました。
2016年 第16問ではシステム開発契約における請負と準委任の違い、契約不適合責任と債務不履行責任の切り分けが問われました。
2018年 第15問 設問1・2では秘密保持契約の秘密情報の定義と除外事由が英文条項から問われました。
2021年 第20問 設問1・2では売買の契約不適合責任、売主による代替的追完、商人間売買の検査・通知義務が問われました。