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NARITAI

経済学・経済政策

重要

情報の不完全性

逆選択、モラルハザード、シグナリング、スクリーニングを整理する。

この章で覚えておきたいこと

情報の不完全性を契約前と契約後で見分ける判断軸の手書き風図解

情報の不完全性では、用語を先に暗記するより、契約前か契約後かを最初に判定します。時点を決めるだけで、逆選択とモラルハザードをかなり安定して区別できます。

  • 契約前に相手の質やリスクが分からない問題は、逆選択です。
  • 契約後に相手の努力や注意が見えにくくなる問題は、モラルハザードです。
  • レモン市場では、買い手が品質を見抜けないため高品質財が退出し、平均品質が低下しやすくなります。
  • シグナリングは、情報を持つ側が自分の質を示す行動です。
  • スクリーニングは、情報を持たない側が相手を選別する仕組みです。
  • リスクは確率を置ける不確実さ、不確実性は確率自体を置きにくい状態です。
  • サーチコストが高い市場では、消費者が十分に探索できず、価格差が残りやすくなります。

試験では、保険、雇用、融資、中古車、品質保証などの事例で問われます。選択肢に知らない制度名が出ても、「契約前の選別問題か」「契約後の行動問題か」に戻ると判断しやすくなります。

基本知識

情報の非対称性

中古車市場を例に情報の非対称性を説明する手書き風図解

情報の非対称性とは、取引する主体の一方が、他方より多くの情報を持っている状態です。中古車市場、保険市場、労働市場、融資市場などで典型的に現れます。

市場では、価格が情報を伝える役割を持ちます。しかし、品質、リスク、能力、努力水準のように外から見えにくい情報があると、価格や契約だけでは相手のタイプや行動を完全に反映できません。その結果、よい商品やよい努力が市場に残りにくくなります。

逆選択は契約前の選別問題

契約前の情報不足で逆選択が起こる流れの手書き風図解

逆選択は、契約前に相手の質やリスクが分からないため、本来選びたい相手を選べない問題です。

典型例は中古車のレモン市場です。売り手は車の品質を知っていますが、買い手は品質を見抜きにくいです。買い手は平均的な品質を前提に低めの価格しか払わないため、高品質車の売り手は市場から退出し、低品質車が相対的に残ります。結果として、市場全体の平均品質が低下します。

保険でも同じ考え方を使います。高リスクの人ほど加入したがる一方、低リスクの人は保険料が割高に見えて退出しやすくなります。任意加入だけだと高リスク者に偏る可能性があるため、強制保険は逆選択を抑える仕組みとして理解できます。

モラルハザードは契約後の行動問題

契約後の行動問題としてモラルハザードと対策を示す手書き風図解

モラルハザードは、契約後に相手の行動が見えにくいため、注意や努力が弱まる問題です。

保険に加入した後に事故防止への注意が弱まる、融資後に返済努力や事業努力が弱まる、雇用後に努力水準が下がる、といった場面で使います。焦点は、契約後の行動です。

対策には、自己負担、免責、監視、成果連動報酬、連帯責任、定期返済などがあります。いずれも、契約後に手抜きや過度なリスク行動をしにくくするための仕組みです。

シグナリングとスクリーニング

シグナリングとスクリーニングを行動主体で区別する手書き風図解

シグナリングは、情報を持つ側が自分の質を相手に伝える行動です。企業の格付け取得、保証、学歴、資格、品質認証などが例になります。

スクリーニングは、情報を持たない側が相手のタイプを選別する仕組みです。保険会社が告知や健康診断を求める、企業が推薦状や試用期間を設ける、金融機関が審査を行う、といった形で現れます。

見分け方は、行動の主体です。情報を多く持つ側が「自分は良質です」と示すならシグナリング、情報を持たない側が「相手を見分ける仕組み」を作るならスクリーニングです。

リスク、不確実性、情報更新

リスクと不確実性と情報更新を対応づける手書き風図解

リスクは、将来起こる事象の確率をある程度見積もれる状態です。不確実性は、どの事象がどの確率で起こるかも見積もりにくい状態です。

ベイズの定理は、新しい情報を得たときに事前確率を事後確率へ更新する考え方です。試験では細かな計算よりも、「経験やデータを反映して見込みを修正する」という意味で問われやすいです。

リアルオプションは、不確実性がある投資で、すぐ実行せず情報が増えるまで待てる価値を指します。悪ければ投資を控え、良ければ投資できるため、待つ権利に価値があります。

サーチコストと価格分散

サーチコストと価格分散の関係を買い物場面で示す手書き風図解

サーチコストは、価格や品質の情報を探すために必要な費用や手間です。サーチコストが高いと消費者は十分に比較できず、同じような商品でも価格差が残りやすくなります。

一方、価格分散が大きいほど、安い店を見つける便益が大きくなるため、追加で探す誘因も強くなります。サーチコストの問題では、「探す費用」と「探して得られる便益」を分けて読みます。

この章のまとめ

情報の不完全性の事例問題を整理する手順の手書き風図解

情報の不完全性は、事例問題で時点を見失うと誤答しやすい論点です。次の手順で整理します。

  1. 契約前の問題か、契約後の問題かを確認します。
  2. 契約前に質、リスク、能力が見えないなら逆選択を疑います。
  3. 契約後に努力、注意、返済、行動が見えないならモラルハザードを疑います。
  4. 情報を持つ側が自分の質を示すならシグナリングです。
  5. 情報を持たない側が相手を選別するならスクリーニングです。
  6. リスクと不確実性では、確率を置けるかどうかを基準にします。
  7. サーチコストでは、探索費用が高いほど価格差が残りやすい点を確認します。

ひっかけとして、免責事項や自己負担を逆選択対策とする選択肢に注意します。これらは保険契約後の注意を保つ仕組みなので、基本的にはモラルハザード対策です。強制保険や推薦状は、契約前の情報不足を減らす仕組みとして読みます。

一次試験過去問での出方

2008年度第15問では、アカロフのレモン市場が問われました。品質を買い手が見抜けないと逆選択が起こり、高品質財が退出して平均品質が低下する流れを押さえます。
2022年度第21問では、保険と雇用を題材に逆選択の対策が問われました。強制保険や推薦状は契約前の情報不足を減らす一方、免責事項は契約後の行動を抑えるため、逆選択ではなくモラルハザード対策です。
2023年度第1回第18問では、モラルハザードを軽減する事例が問われました。一定額を超える損害だけ補償する仕組みは、自己負担を残し、事故防止の注意を保ちます。
2008年度第13問・第14問では、リスクと不確実性、ベイズの定理が問われました。確率を置けるかどうか、新しい情報で見込みを更新するかを確認します。
2009年度第14問・第19問では、サーチコストとリアルオプションが問われました。価格分散が大きいほど探索の便益があり、不確実性が高い投資では待つ権利に価値があります。