経済学・経済政策
重要経済余剰の概念
余剰、死荷重、課税、補助金、貿易政策と接続して扱う。
この章で覚えておきたいこと
経済余剰は、需要曲線と供給曲線の図を「面積」として読む論点です。用語を暗記するだけではなく、価格、数量、需要曲線、供給曲線のどこに囲まれた面積なのかを言えるようにします。
- 消費者余剰は、支払意思額と実際の支払額の差です。
- 生産者余剰は、実際の受取額と供給に必要な最低受取額の差です。
- 総余剰は、消費者余剰、生産者余剰、必要に応じて政府収入を含めた社会全体の余剰です。
- 死荷重は、政策や市場のゆがみによって実現しなくなった取引から生じる純損失です。
- 課税では、買い手価格、売り手受取価格、税収、死荷重を分けて読みます。
- 補助金では、消費者・生産者の得と、政府支出、死荷重を分けて読みます。
- 価格規制では、まず実際の取引量を確定し、配分条件があるかを確認します。
- 短期企業の図では、生産者余剰を売上から可変費用を引いた面積として読みます。
試験では、余剰の「水準」と「変化分」を混同させる選択肢がよく出ます。まず政策前後の価格と数量を置き、次に誰の面積かを確認し、最後に移転なのか純損失なのかを分ける、という順序で解きます。
基本知識
需要曲線は支払意思額を表す
需要曲線は、各数量について、消費者がその追加的な1単位に最大いくらまで支払ってよいと考えるかを表します。この金額を支払意思額といいます。
消費者が実際に支払う価格よりも、支払ってよいと考えていた金額が高ければ、その差が買い手側の得になります。したがって、消費者余剰は需要曲線の下、価格線の上、実際の取引量までの面積です。
消費者余剰を読むときは、需要曲線の下全体をそのまま余剰にしません。需要曲線の下全体は支払意思額の合計であり、そこから実際の支払額を差し引いた部分だけが消費者余剰です。
消費者余剰は価格線の上で読む
消費者余剰は、次の関係で整理します。
消費者余剰 = 支払意思額の合計 - 実際の支払額
価格が下がると、消費者余剰は増えます。すでに買っていた消費者はより安く買えるようになり、さらに、以前は価格が高くて買わなかった消費者も購入できるようになるためです。
図では、価格線が下がると、価格線の上にある消費者余剰の面積が広がります。選択肢で「価格低下によって消費者余剰が減少する」といった表現が出たら、需要曲線が特殊な場合を除き、まず疑います。
供給曲線は限界費用を表す
供給曲線は、各数量について、生産者がその追加的な1単位を供給するために最低限受け取りたい金額を表します。完全競争市場では、供給曲線を限界費用曲線として読むことができます。
生産者が実際に受け取る価格が、供給に必要な最低受取額を上回れば、その差が売り手側の得になります。したがって、生産者余剰は価格線の下、供給曲線の上、実際の取引量までの面積です。
生産者余剰は売上高そのものではありません。売上高は価格と数量の長方形ですが、生産者余剰はそこから供給に必要な費用に相当する部分を差し引いた面積です。
生産者余剰は短期企業の図でも出る
市場全体の供給曲線だけでなく、企業の短期費用曲線でも生産者余剰が問われます。短期の完全競争企業では、価格が与えられると、基本的には P = MC となる数量で生産します。
このとき、短期の生産者余剰は、売上から可変費用を引いたものです。
生産者余剰 = TR - TVC
図では、価格線と AVC の間の面積で読みます。平均費用 AC との差で読むと、固定費用まで含めた利潤の話になり、生産者余剰とはずれます。2024年度の短期完全競争企業の問題では、この区別が直接問われました。
総余剰は社会全体の得を表す
課税も補助金も価格規制もない完全競争市場では、均衡取引量で総余剰が最大になります。総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の合計です。
総余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰
需要曲線は買い手の限界的な評価、供給曲線は売り手の限界的な費用を表します。需要曲線が供給曲線を上回っている取引では、買い手の評価が売り手の費用を上回るため、取引を行うと社会全体の得が増えます。均衡数量を超えると、供給に必要な費用が買い手の評価を上回るため、追加取引は社会全体の得を減らします。
このため、総余剰を読む問題では、均衡数量からずれた部分に「まだ取引すべきだった取引」または「行うべきでなかった取引」がないかを確認します。
課税では買い手価格と売り手受取価格を分ける
財1単位あたりの税や従価税が課されると、買い手が支払う価格と売り手が受け取る価格の間に税のくさびが生じます。課税後は取引量が減り、消費者余剰と生産者余剰は減少します。
課税問題では、次の4つを必ず分けます。
- 買い手価格の上側に残る消費者余剰
- 売り手受取価格の下側に残る生産者余剰
- 買い手価格と売り手受取価格の差に、課税後取引量を掛けた税収
- 取引量が減ったことで失われる死荷重
税収は政府への移転です。消費者余剰や生産者余剰からは失われますが、社会全体で見れば政府収入として残ります。一方、死荷重は誰の収入にもならない純損失です。税収と死荷重を同じ面積として扱わないことが重要です。
従量税と従価税の図を読み分ける
従量税は、財1単位あたり何円という税です。需要曲線と供給曲線の間に、税額分の一定の縦幅が生じます。税収は 税額 × 課税後取引量 の長方形です。
従価税は、価格に対して何%という税です。税額は価格に応じて変わるため、図では課税後の供給曲線や需要曲線が単純な平行移動に見えない場合があります。それでも、考え方は同じです。買い手価格と売り手受取価格の差を税額として読み、課税後取引量までの長方形を税収として考えます。
2012年度、2020年度、2023年度第2回の問題では、税収、超過負担、課税後の総余剰を図形として選ばせています。図の形が変わっても、見る順序は変えません。
死荷重は失われた取引から生じる
死荷重は、政策によって取引量が減り、本来なら社会全体の得を生んだはずの取引が行われなくなることで生じます。
課税では、課税前数量と課税後数量の間にある三角形として表れることが多いです。この範囲では、需要曲線が供給曲線を上回っており、買い手の評価が売り手の費用を上回っています。それにもかかわらず税によって取引が成立しないため、社会的な余剰が失われます。
死荷重は、消費者余剰の減少分全体でも、生産者余剰の減少分全体でもありません。減少分のうち、税収や補助金の受け取りなど誰かへの移転として残る部分を除いた、純粋に失われた部分です。
補助金では政府支出を忘れない
補助金があると、生産者が受け取る価格と消費者が支払う価格の間に補助金のくさびが生じます。消費者余剰や生産者余剰は増えることがありますが、その背後で政府が補助金を支出しています。
社会全体で見ると、補助金による総余剰は、消費者余剰と生産者余剰から政府支出を差し引いて考えます。
社会的余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰 - 政府支出
補助金では、取引量が均衡数量を超えて増えすぎることがあります。その範囲では、供給に必要な費用が買い手の評価を上回るため、追加取引によって社会的な損失が生じます。2020年度の補助金問題では、余剰の増加だけでなく、政府支出と死荷重をあわせて読む力が必要でした。
価格規制では実際の取引量を先に決める
価格上限制や価格下限制では、均衡価格から価格がずれるため、需要量と供給量が一致しなくなります。余剰を読む前に、まず実際の取引量を決めます。
価格上限制は、均衡価格より低い価格を上限として設定する政策です。家賃規制のようなケースでは、需要量が供給量を上回り、実際の取引量は供給量側で制約されます。
価格下限制は、均衡価格より高い価格を下限として設定する政策です。最低賃金や価格支持政策のようなケースでは、供給量が需要量を上回り、実際の取引量は需要量側で制約されます。
価格規制では、誰に財が配分されるかが明示されないと、消費者余剰や死荷重を一意に決められない場合があります。2023年度第1回の家賃規制問題では、この点がひっかけになりました。生産者収入のように 価格 × 実際の取引量 で読めるものと、配分条件が必要な余剰を分けて考えます。
弾力性は税負担と余剰変化に効く
課税後に誰が実質的に税を負担するかは、需要と供給の価格弾力性に左右されます。一般に、弾力性が小さい側ほど価格を変えにくく、税負担を多く負います。
供給の価格弾力性が無限大で水平な供給曲線の場合、課税によって供給曲線が上方にシフトすると、価格上昇分として消費者側に負担が移りやすくなります。2018年度の消費税の問題では、このような特殊な供給曲線のもとで、税負担と余剰の変化を読む必要がありました。
余剰問題は、弾力性の概念と分離して出るとは限りません。価格がどちらにどれだけ動くか、取引量がどれだけ減るかが、税収や死荷重の大きさにつながります。
2部料金制では消費者余剰を回収できる
2部料金制は、入場料のような固定料金と、利用1回ごとの料金を組み合わせる価格設定です。遊園地の入場料とアトラクション料金のような例で考えます。
利用1回ごとの料金を限界費用に等しく設定すると、利用量は効率的な水準になります。そのうえで、入場料によって消費者余剰を回収できれば、企業は余剰を利潤として取り込めます。
2021年度の問題では、限界費用、需要曲線、乗車回数、入場料の関係から、消費者余剰をどこまで回収できるかが問われました。図の面積を読む基本は同じですが、固定料金があるため、通常の単一価格の問題より一段深く考えます。
この章のまとめ
経済余剰の問題は、次の順序で処理します。
- 需要曲線、供給曲線、価格、数量を確認します。
- 政策がなければ、均衡数量で総余剰が最大になると考えます。
- 消費者余剰は、需要曲線の下、価格線の上、取引量までの面積です。
- 生産者余剰は、価格線の下、供給曲線の上、取引量までの面積です。
- 課税では、買い手価格、売り手受取価格、税収、死荷重を分けます。
- 補助金では、消費者余剰・生産者余剰の増加と政府支出を分けます。
- 価格規制では、実際の取引量と配分条件を先に確認します。
- 短期企業の生産者余剰は、
TR - TVC、つまり価格線とAVCの間で読みます。
ひっかけとして多いのは、需要曲線の下全体を消費者余剰にする、売上高を生産者余剰にする、税収を課税前取引量で計算する、死荷重を余剰減少分全体とする、課税後の総余剰に税収を含め忘れる、価格規制で配分条件がないのに消費者余剰を断定する、といったものです。
最後に、面積が「誰かに移っただけ」なのか、「社会全体から失われた」のかを確認します。税収や補助金の受け取りは移転ですが、死荷重は純損失です。この区別ができると、余剰、課税、補助金、価格規制の問題を同じ型で処理できます。
一次試験過去問での出方
2010年度第10問では価格下限制、2012年度第13問・第14問では課税、2018年度第15問では税負担の帰着、2020年度第17問では補助金、2020年度第19問と2023年度第2回第15問では従価税の税収・超過負担、2023年度第1回第13問では家賃規制、2024年度第16問設問1では短期企業の生産者余剰が問われました。いずれも、価格と数量を先に置き、消費者余剰・生産者余剰・政府収支・死荷重を図の面積として分ける問題です。