財務・会計
重要資本市場理論(効率的市場仮説、資本資産評価モデル(CAPM)の理論、市場モデル)
CAPM、ベータ、証券市場線、効率的市場仮説を扱う。
資本市場理論
この章で覚えておきたいこと
- CAPMの基本式 は
期待収益率 = 無リスク利子率 + ベータ × 市場リスクプレミアムです。 - 市場リスクプレミアム は
市場ポートフォリオの期待収益率 - 無リスク利子率です。市場収益率そのものではありません。 - ベータ は総リスクではなく、市場全体の変動に対する感応度 を表します。したがって、ベータが捉えるのは システマティックリスク です。
- 市場ポートフォリオのベータは1、無リスク資産のベータは0 と整理します。
- 証券市場線 は横軸がベータ、縦軸が期待収益率です。資本市場線 は横軸が標準偏差なので、図を見た瞬間に区別できるようにします。
- 資本市場線 は無リスク資産と市場ポートフォリオを組み合わせた効率的ポートフォリオだけを対象にします。個別証券まで含めた期待収益率とリスクの関係を示すのが 証券市場線 です。
- 市場モデル は
Ri = α + βRm + eのような回帰式で、個別証券収益率を市場収益率で説明する実証モデルです。均衡理論としてのCAPMと混同しないことが重要です。 - 効率的市場仮説 は「情報が価格に反映される」という仮説であり、「価格が変動しない」「将来価格を完全に予測できる」という意味ではありません。
- 効率的市場仮説の形式区分は、弱形式は過去データ、セミストロング型は公開情報、強形式は非公開情報を含む全情報 と覚えます。
基本知識
CAPMの基本式と市場リスクプレミアム
CAPMは、ある証券やポートフォリオの期待収益率が、無リスク利子率と市場リスクに対する見返りで決まると考える理論です。基本式は次のとおりです。
E(Ri) = Rf + βi {E(Rm) - Rf}
ここで、E(Ri) は証券iの期待収益率、Rf は無リスク利子率、βi はベータ、E(Rm) は市場ポートフォリオの期待収益率です。E(Rm) - Rf が 市場リスクプレミアム です。
この式で重要なのは、ベータを掛ける相手が 市場ポートフォリオの期待収益率そのものではなく、市場リスクプレミアム であることです。2016年や2017年の計算問題では、この引き算を飛ばして誤答に誘う形が典型です。
たとえば、無リスク利子率が3%、市場ポートフォリオの期待収益率が8%、ベータが1.4なら、期待収益率は 3% + 1.4 × (8% - 3%) = 10% です。与件に税率が混ざっていても、CAPMで株主資本コストや期待収益率を求めるだけなら通常は使いません。
逆算問題も頻出です。期待収益率が10%、市場ポートフォリオの期待収益率が6%、無リスク利子率が1%であれば、市場リスクプレミアムは5%なので、β = (10% - 1%) / 5% = 1.8 と求めます。式を一度書いてから数値を入れると、2017年問20型の逆算でも崩れにくくなります。
ベータとシステマティックリスク
ベータは、個別証券の収益率が市場全体の変動に対してどの程度反応するかを示す係数です。したがって、ベータが測っているのは システマティックリスク、つまり 分散投資しても消えない市場全体に共通するリスク です。
ここでいうシステマティックリスクは、企業固有の事故や不祥事のような個別要因ではありません。市場全体の景気変動、金利変動、投資家心理の変化などに連動する部分です。2014年問21や2013年問21では、この意味をアンシステマティックリスクや流動性リスク、信用リスクと区別できるかが問われました。
ベータの読み方は次のように整理できます。
- β = 1: 市場ポートフォリオ並みに動きます。
- β > 1: 市場より大きく動きやすい資産です。
- 0 < β < 1: 市場より小さく動きやすい資産です。
- β = 0: 市場変動と無関係で、CAPM上の期待収益率は無リスク利子率に一致します。
- β < 0: 市場と逆方向に動きやすい資産で、理論上は存在しえます。
重要なのは、ベータが大きいほど総リスクが必ず大きいとまでは言えないことです。ベータは市場要因への感応度であって、個別要因まで含めた全変動の大きさそのものではありません。2016年問12では、この混同を避けられるかが問われています。
ベータの計算方法
ベータは定義上、次の式で表せます。
βi = Cov(Ri, Rm) / Var(Rm)
つまり、個別証券と市場ポートフォリオの 共分散 を、市場ポートフォリオの 分散 で割ったものです。2009年問18のように共分散データが与えられた問題では、この定義をそのまま使います。
また、相関係数と標準偏差が与えられる場合は、次の式に変形できます。
βi = 相関係数 × (個別証券の標準偏差 / 市場ポートフォリオの標準偏差)
2014年問18はこの形の典型で、相関係数だけを見て0.4と答えると誤ります。相関係数に加えて、個別証券と市場の標準偏差の比を掛ける必要があります。
試験では、次の誤りが非常に多いです。
- 共分散をそのままベータだと思い込む。
- 相関係数をそのままベータだと思い込む。
- 市場ポートフォリオの分散ではなく標準偏差で割ってしまう。
- ベータを総リスクや分散そのものと読み替えてしまう。
証券市場線と資本市場線の違い
CAPMの頻出論点は、証券市場線 と 資本市場線 の違いです。2020年問22、2024年問19では、この違いを図や空欄補充で正確に読めるかが問われました。
まず、証券市場線は、CAPMの式をグラフにしたものです。横軸に ベータ、縦軸に 期待収益率 をとります。切片は無リスク利子率、傾きは市場リスクプレミアムです。個別証券もポートフォリオも、ベータで測れる限りこの線上で評価します。
これに対して資本市場線は、無リスク資産と市場ポートフォリオを組み合わせた 効率的ポートフォリオ について、横軸に 標準偏差、縦軸に 期待収益率 をとった関係です。したがって、資本市場線の対象は「効率的ポートフォリオに限定される」という点が本質です。
両者の違いを一気に整理すると次のとおりです。
- 証券市場線: 個別証券を含むすべての資産の期待収益率とベータの関係を示します。
- 資本市場線: 無リスク資産と市場ポートフォリオの組み合わせからなる効率的ポートフォリオの期待収益率と標準偏差の関係を示します。
- 証券市場線の横軸: ベータです。
- 資本市場線の横軸: 標準偏差です。
- 証券市場線が表すリスク: システマティックリスクです。
- 資本市場線が表すリスク: ポートフォリオ全体の総リスクです。
2024年問19では、図の中で無リスク利子率の点、投資家の最適保有ポートフォリオの点、市場ポートフォリオの点を読み分けたうえで、保有ポートフォリオのリスクプレミアムが「無リスク利子率からその保有ポートフォリオまでの期待収益率の差」であることを判断させています。図問題では、まず横軸が標準偏差かベータかを確認することが最優先です。
市場モデルとCAPMの関係
市場モデルは、個別証券の収益率を市場指数の収益率で説明する実証モデルです。代表的な形は次のとおりです。
Ri = α + βRm + e
ここで、α は市場要因だけでは説明できない平均的なずれ、β は市場に対する感応度、e は個別要因による誤差項です。2010年問17(2)では、TOPIXの変化率と自社株式収益率の回帰式から、このモデルが インデックス・モデル であることを判定させました。
市場モデルとCAPMは似た記号を使いますが、役割が異なります。
- CAPM: 均衡状態で期待収益率がどう決まるかを示す理論です。
- 市場モデル: 過去データを用いて、個別証券収益率と市場収益率の関係を回帰的に捉える実証モデルです。
CAPMでもベータ推計のために回帰分析を使うことがありますが、α + βRm + e という形の式そのものは市場モデルの文脈です。この違いを曖昧にすると、2010年問17(2)のような識別問題で落としやすくなります。
また、市場モデルの e は個別要因による変動なので、分散投資で小さくしやすい アンシステマティックリスク に対応します。一方、βRm の部分は市場全体に連動するため、分散投資しても消えにくい システマティックリスク に対応します。この切り分けは、ベータの意味理解にも直結します。
効率的市場仮説の形式区分
効率的市場仮説は、利用可能な情報がすばやく市場価格へ反映されるという考え方です。2014年問14、2018年問20、2020年問18、2023年問19では、定義そのものと、そこから導かれる価格反応の形が問われています。
形式区分は次のように整理します。
- 弱形式: 過去の株価や出来高などの過去データがすでに価格へ反映されています。
- セミストロング型: 財務諸表、決算発表、新聞報道などの 公開情報 まで価格へ反映されています。
- 強形式: 公開情報だけでなく、非公開情報 まで含めて価格へ反映されていると考えます。
したがって、2023年問19の正解は「市場価格は公に入手可能な情報を反映する」です。インサイダー情報まで織り込むのは強形式であり、セミストロング型ではありません。
効率的市場仮説で誤りやすい点も整理しておきます。
- 効率的市場は、価格が変動しない市場 ではありません。
- 効率的市場は、将来価格を確実に予測できる市場 でもありません。
- 効率的市場では、新しい情報が出れば その時点で価格が調整される と考えます。
- 投資家間の競争が激しいほど、情報が素早く価格に反映されやすくなります。
2020年問18では、業績改善の新情報が t = 0 で市場に流れたとき、合理的な投資家が行動するなら 超過収益率はその時点で一度だけ反応し、その後に規則的な超過収益が続くわけではない という読み方が必要でした。ここは「情報が出た後もしばらく勝ち続けられる」と誤解しやすい論点です。
この章のまとめ
- CAPMでは、まず 市場リスクプレミアム = 市場ポートフォリオの期待収益率 - 無リスク利子率 を求め、そのうえでベータを掛けます。
- ベータは 市場全体に対する感応度 を表し、測っているのは システマティックリスク です。総リスクや企業固有リスクではありません。
- 市場ポートフォリオのベータは1、無リスク資産のベータは0です。
0 < β < 1でも期待収益率は無リスク利子率より上になります。 - ベータの計算は、
共分散 / 市場分散か、相関係数 × 個別標準偏差 / 市場標準偏差のどちらかで処理します。 - 証券市場線 は「ベータと期待収益率」の関係、資本市場線 は「標準偏差と期待収益率」の関係です。横軸と対象範囲を必ずセットで覚えます。
- 資本市場線は無リスク資産と市場ポートフォリオからなる効率的ポートフォリオだけを扱い、証券市場線は個別証券を含む資産全般を扱います。
- 市場モデルは
Ri = α + βRm + eの回帰式で、CAPMは期待収益率の均衡理論です。式の見た目が近くても役割は違います。 - 効率的市場仮説の形式区分は、弱形式が過去データ、セミストロング型が公開情報、強形式が非公開情報を含む全情報です。
- 効率的市場は「情報が価格に反映される市場」であり、「価格不変の市場」「完全予測できる市場」ではありません。
一次試験過去問での出方
2024年問19では、資本市場線の図から無リスク利子率、投資家の最適保有ポートフォリオ、市場ポートフォリオを読み分けて、保有ポートフォリオのリスクプレミアムを判定させました。資本市場線は横軸が標準偏差で、対象が効率的ポートフォリオに限られる点が核心です。
2023年問19、2018年問20、2014年問14、2020年問18では、効率的市場仮説の形式区分と意味が繰り返し問われています。特にセミストロング型は公開情報を反映する形であり、価格不変や完全予測を意味しません。新情報が出たときの超過収益率は、その時点で一度反応するという理解も重要です。
2020年問22では、資本市場線と証券市場線の違いを空欄補充で問いました。資本市場線は無リスク資産と市場ポートフォリオの組み合わせによる効率的ポートフォリオの関係、証券市場線は個別証券を含む資産一般の期待収益率とベータの関係です。
2017年問20、2016年問12(2)、2007年問14では、CAPMの計算が出題されています。市場リスクプレミアムを先に計算してから期待収益率やベータを求めるのが基本で、税率などの不要情報に引きずられないことが大切です。
2015年問18、2016年問12(1)では、β=1の資産の期待収益率は市場ポートフォリオの期待収益率に一致すること、市場ポートフォリオはすべての投資家が危険資産部分として保有する均衡ポートフォリオであることなど、CAPMの概念整理が問われました。
2014年問18、2009年問18ではベータの計算が、2014年問21、2013年問21ではベータとシステマティックリスクの意味が問われました。ベータは市場全体との連動度であり、分散投資で消えないリスクを表す点が頻出です。
2010年問17(2)では、TOPIXと個別株式収益率の回帰式から市場モデルを識別させました。
α + βRm + eの形は市場モデルであり、CAPMそのものではないと切り分ける必要があります。