企業経営理論
標準集団(グループシンク、グループシフト、心理的安全性、小集団活動)
集団浅慮、グループシフト、心理的安全性、小集団活動を扱う。
この章で覚えておきたいこと
集団論では、集団が個人に与えるよい影響と悪い影響を分けて読みます。集団は、多様な知識を統合し、協力して成果を出す力を持ちます。一方で、同調圧力、社会的手抜き、誤った意思決定も生みます。
- 集団凝集性は、メンバーが集団に引きつけられ、一体感をもつ強さです。ただし、凝集性が高いだけで生産性が上がるとは限りません。
- 集団圧力は、メンバーに同調行動を促す力です。正しい答えが明白な課題でも、多数派に合わせて誤ることがあります。
- グループシンクは、合意や和を重視しすぎて、異論や批判的検討が抑えられる現象です。
- グループシフトは、集団で討議した結果、個人で考えていた意見よりも極端な方向へ判断が動く現象です。
- 社会的手抜きは、集団で働くときに個人の貢献が見えにくくなり、単独作業より努力が低下する現象です。
- 心理的安全性は、意見、疑問、失敗、弱点を表明しても対人関係上の不利益を受けにくいと感じられる状態です。
基本知識
集団凝集性と集団規範
集団凝集性とは、メンバーが集団に魅力を感じ、集団にとどまりたい、一体化したいと考える程度です。外部からの脅威、共通の成功体験、長い相互作用、集団の威信などは凝集性を高めやすいです。一方、集団規模が大きくなると、一般に一体感は弱まりやすくなります。
凝集性は、それだけで生産性を決めるものではありません。高い凝集性をもつ集団の規範が「高い成果を出す」方向なら生産性は高まりやすいですが、規範が「ほどほどに働く」「変化に反対する」方向なら生産性は下がりえます。
集団規範とは、集団内で共有される行動基準です。規範はメンバーの行動を安定させますが、同時に集団圧力を通じて同調を促します。組織全体の目標と集団規範がずれていると、非公式集団の結束が公式組織の成果を妨げることもあります。
集団圧力と同調
集団圧力は、メンバーが多数派や集団規範に合わせるように働く力です。明らかに正しい答えがある課題でも、周囲が違う答えを選ぶと、個人が同調して誤ることがあります。
集団圧力は、集団が個人にとって重要な報酬、承認、安心感、情報を握っているほど強まりやすいです。逆に、メンバーが集団から離れても不利益が小さい場合は、圧力は弱まりやすくなります。
グループシンクとグループシフト
グループシンクは、凝集性の高い集団などで、合意を守ることが優先され、批判的検討が弱まる現象です。集団浅慮、集団思考とも呼ばれます。
起こりやすい条件は次のとおりです。
- 集団の凝集性が高い。
- 外部から強い圧力を受けている。
- 集団が外部情報から孤立している。
- リーダーの意向が強く、異論を出しにくい。
- 意思決定の手続きが十分に整っていない。
兆候としては、自集団の過大評価、リスクの過小評価、都合の悪い情報の軽視、外部集団への紋切り型の見方、自己検閲、一致しているかのような幻想、反対意見への圧力などがあります。
グループシフトは、集団で討議した後に、メンバーの判断が討議前よりも極端な方向へ動く現象です。リスクを取る方向に動く場合も、慎重すぎる方向に動く場合もあります。中立化や平均化ではなく、討議による極端化がポイントです。
社会的手抜きとフリーライド
社会的手抜きは、集団で作業するときに、個人が単独で作業するときほど努力しなくなる現象です。特に次の場合に生じやすくなります。
- 個人の貢献度が見えにくい。
- 個人の努力と集団成果の対応が曖昧である。
- 集団規模が大きい。
- 他のメンバーがやってくれると考えやすい。
- 個人責任や評価基準が不明確である。
対策は、個人の役割と責任を明確にすること、個人別の貢献を見えるようにすること、チーム成果と個人成果の両方を評価することです。チーム責任だけを強調しても、個人責任が曖昧ならフリーライドは防ぎにくいです。
小集団コミュニケーションネットワーク
小集団のコミュニケーションネットワークは、情報の流れ方によって集団の機能が変わります。図が出たら、中心人物がいるか、直線的につながっているか、全員が相互にやり取りできるかを見ます。
- チェーン型: メンバーが直線状につながり、情報が順に伝わります。統制はしやすいですが、伝達に段階があり、満足度は高くなりにくいです。
- ホイール型: 中心人物に情報が集まります。情報集約と統制に強く、リーダーが出現しやすい一方、周辺メンバーの満足度は低くなりやすいです。
- 全チャネル型: 全員が相互にやり取りできます。合意形成や満足度に強く、中心リーダーは出現しにくいです。
2012年の過去問では、全チャネル型について、合意への到達速度が速く、リーダー出現の可能性が低く、メンバー満足度が高いという整理が問われました。
心理的安全性
心理的安全性とは、チーム内で率直に発言しても、無知、無能、邪魔者、否定的な人物だと見なされにくいと感じられる状態です。わからないことを聞く、ミスを報告する、反対意見を出す、新しい試みを提案する、といった行動を支えます。
心理的安全性が高いと、メンバーは他者に利用される不安を感じにくくなり、弱点や疑問を出しやすくなります。そのため、学習、改善、挑戦、リスクテイクが促されやすくなります。
ただし、心理的安全性は「仲良しで厳しさがない状態」ではありません。目標や責任が曖昧なまま安心感だけがある状態では、成果にはつながりにくいです。高い基準と率直な対話が両立している状態として理解します。
小集団活動とチーム活動
チーム活動は、複数のメンバーが共通目標に向かい、相互依存しながら成果を出す活動です。複雑で不確実性が高く、多様な知識や技能の統合が必要な課題では、個人よりチームが有効になりやすいです。
一方で、チームは万能ではありません。調整、合意形成、役割分担、コンフリクト処理に時間と資源がかかります。単純で個人だけで処理できる課題なら、チームにすることでかえって効率が下がることもあります。
チーム型作業組織では、多能工化したメンバーが自律的に調整しながら仕事を進めます。メンバー間のコミュニケーションや助け合いが活発になり、QWLの向上や柔軟な対応が期待できます。ただし、すべての労働者が自律性や多能工化を好むとは限りません。
タスクフォースは、特定課題の解決のために臨時的に編成されるチームです。恒常的な機能横断型チームと書かれていたら不適切です。
この章のまとめ
集団論の問題では、まず選択肢が扱っている現象を特定します。凝集性、集団圧力、グループシンク、グループシフト、社会的手抜き、心理的安全性、チーム活動のどれかに分けます。
次に、因果関係の向きを確認します。凝集性が高いから必ず生産性が上がる、心理的安全性が高いから挑戦しなくなる、といった単純化は誤りになりやすいです。
「必ず」「ない」「常に」「最も」などの強い表現にも注意します。集団論では、条件次第で効果が変わるため、断定表現はひっかけになりやすいです。
グループシンクとグループシフトは必ず分けます。グループシンクは異論抑制、グループシフトは討議後の極端化です。社会的手抜きは、個人の貢献が見えるかどうかで判断します。集団規模が大きい、責任が曖昧、成果への貢献が測れないなら起こりやすいです。
小集団ネットワークは図を読みます。中心人物がいればホイール型、直線的ならチェーン型、全員がつながれば全チャネル型です。チーム活動は、メリットとコストを両方見ます。多様性や相互依存が必要なら有効ですが、調整コストやコンフリクトは増えやすくなります。
一次試験過去問での出方
2007年第13問設問1では、外部からの脅威が集団凝集性を高め、個人が集団の価値と一体化する可能性を高めることが問われました。集団規模が大きいほど一体化が強まる、という選択肢は不適切でした。
2007年第13問設問2では、グループシンク、グループシフト、社会的手抜きが並べて問われました。合意を重視しすぎるとグループシンクに陥る、という判断が中心でした。
2012年第13問では、小集団コミュニケーションネットワークのチェーン型、ホイール型、全チャネル型が問われました。全チャネル型は合意形成の速さ、リーダー出現の低さ、満足度の高さがポイントでした。
2013年第12問では、チーム活動とフリーライド防止が問われました。チームレベルの責任だけでなく、個人レベルの責任を明確にする必要があります。
2016年第15問では、チーム型作業組織が問われました。多能工化、自律的調整、メンバー間コミュニケーション、助け合い、QWL向上が正しい方向でした。
2018年第14問では、チームの効果と限界が問われました。チーム活動は時間と資源を必要とし、コンフリクトが顕在化しやすい点が正答になりました。心理的安全性が高いと挑戦しやすくなる点も問われました。
2021年第18問では、ジャニスの集団思考の先行条件と兆候が問われました。集団思考では自集団を過小評価するのではなく、過大評価し、リスクを過小評価しやすい点を押さえます。
2023年度第1次試験第19問では、凝集性、グループシフト、集団圧力、グループシンク、社会的手抜きの区別が問われました。社会的手抜きは、個人の貢献と集団成果の関係が曖昧な場合に生じやすい、という選択肢が正しい判断でした。