企業経営理論
標準パワーとコンフリクト(パワーの源泉、政治的行動、コンフリクトマネジメント)
パワーの源泉、政治的行動、コンフリクトを整理する。
この章で覚えておきたいこと
このトピックでは、組織の中で人や部門が他者に影響を与える力と、利害や認識の不一致から生じる対立を扱います。試験では、用語の名前だけでなく、主語と依存の向きを読むことが重要です。
- パワーは、相手に影響を与え、相手の行動を変えさせる力です。
- フレンチとレイヴンのパワー源泉は、報酬力、強制力、正当権力、専門力、同一化による力で整理します。
- 部門パワーは、重要な不確実性に対処し、代替困難な資源を握る部門に集まりやすいです。
- 政治的行動は、公式の役割そのものではないが、利益や不利益の配分に影響しようとする行動です。
- コンフリクトは、共同意思決定、資源依存、目標差、認識差、役割曖昧性で発生しやすいです。
- コンフリクト対処は、自己主張の強さと協力性の高さで、回避、競争、協調、妥協、適応に分けます。
基本知識
パワーは相手の依存によって成立する
パワーを考えるときは、「力を持つ側」だけでなく、「力を受ける側が何に依存しているか」を見ます。相手が報酬を欲しがる、罰を避けたい、権限を正当だと認める、専門知識に頼る、相手に憧れる。このような認知や依存があるから、パワーが働きます。
上司と部下だけでなく、部門間、専門職と管理者、現場と本部、企業と取引先の間にもパワー関係は生じます。
フレンチとレイヴンの5つのパワー源泉
5つの源泉は、選択肢中の手がかりから判定します。
- 報酬力: 相手が望む報酬や利益を与えられる力です。昇給、昇進、好条件、魅力的な仕事が手がかりです。価値を認める主体はリーダーではなく、メンバーです。
- 強制力: 相手が避けたい罰や不利益を与えられる力です。解雇、降格、停職、叱責、不利益が手がかりです。
- 正当権力: 公式な地位や権限が正当だと相手に受け入れられることに基づく力です。役職や命令権限があるだけでなく、相手がその権限を受け入れている点が重要です。
- 専門力: 知識、技術、経験、専門性に基づく力です。相手がその知識や技術に依存していることが必要です。
- 同一化による力: 魅力、尊敬、憧れ、一体感に基づく力です。「その人のようになりたい」「認められたい」という認知が中心です。単に同じ性格や資質を持つことではありません。
部門パワーは重要性と代替困難性で決まる
部門パワーとは、ある部門が他部門よりも多くの予算、人員、発言権を獲得したり、他部門からの要求を退けたりできる力です。
部門パワーが大きくなりやすい条件は次のとおりです。
- 組織が直面する重要な不確実性に対処できる。
- 組織全体の目標達成に不可欠な課題を扱っている。
- 組織の最終的なアウトプットに大きな影響を与える。
- 他部門が必要とする資源を握っており、その資源の代替調達が難しい。
資源依存で最も重要なのは、依存の向きです。部門Aが部門Bからしか必要資源を得られないなら、強いのは部門Bです。部門Aは部門Bに依存しているため、部門Aの相対的パワーは弱くなります。
政治的行動は利益配分への影響行動である
政治的行動とは、公式の職務として明示的に求められているわけではないが、組織内の利益や不利益の配分に影響しようとする行動です。悪い行動だけを指すのではなく、意見が割れる場面で合意形成や資源配分に影響を与える行動も含みます。
政治的行動が生じやすい条件は次のとおりです。
- 資源、ポスト、予算、評価などが限られている。
- 昇進や報酬がゼロサムに近く、誰かが得ると誰かが得にくくなる。
- 組織変革により、既得権益や現在の立場が脅かされる。
- 役割、責任、評価基準、意思決定プロセスが曖昧である。
- 組織目標の優先順位について意見の不一致がある。
- 経営幹部層が政治的駆け引きを許容するような風土を作っている。
ゼロサムは「勝ち負けが曖昧」ではありません。むしろ、勝ち負けや配分差が明確になりやすいので、政治的行動を誘発しやすいです。
コンフリクトは標準的意思決定の機能不全として見る
マーチとサイモンは、コンフリクトを標準的意思決定メカニズムの機能不全として捉えました。個人間でも部門間でも、通常のルールや手続きだけでは処理しにくい対立が生じる状態です。
代表的な発生要因は次のとおりです。
- 共同意思決定の必要性が高い。
- 予算や人員など限られた資源への依存が大きい。
- 部門ごとの目標、評価基準、時間軸が異なる。
- 情報源が多様で、参加者の認識や解釈が異なる。
- 役割や責任の境界が曖昧である。
- 組織全体の目標が曖昧で、部門ごとの解釈に差が出る。
共同意思決定が必要で、しかも資源が限られているほど、コンフリクトは起きやすくなります。逆に、目標が明確で、役割分担がはっきりし、資源に余裕があれば、対立は弱まりやすいです。
組織スラックは資源争奪型コンフリクトを弱める
組織スラックとは、組織が余裕として持つ資源です。人員、予算、時間、設備、情報処理能力などに余裕がある状態をいいます。
スラックが多いと、部門間で限られた資源を奪い合う必要が弱まり、コンフリクトは発生しにくくなります。逆にスラックが少ないと、予算や人員をめぐる競争が強まり、部門間コンフリクトが起きやすくなります。
ただし、スラックがあればすべての対立が消えるわけではありません。目標や価値観、評価基準が大きく異なれば、資源に余裕があっても対立は起こりえます。試験ではまず、資源不足をめぐる対立はスラックが多いほど弱まる、と押さえます。
コンフリクト対処は自己主張と協力性で判定する
コンフリクトへの対処は、自己主張の強さと協力性の高さで整理します。
- 回避: 自己主張も協力性も低く、問題解決を延期し、対立から距離を置きます。
- 競争: 自己主張が高く協力性が低く、相手の利益より自己の利益を優先します。
- 協調: 自己主張も協力性も高く、双方の関心を掘り下げ、双方が満足する解決を探します。
- 妥協: 自己主張も協力性も中程度で、双方がある程度譲歩し、折り合いをつけます。
- 適応: 自己主張が低く協力性が高く、自己の利益を抑え、相手の利益を優先します。
協調は、対立点を曖昧にして自然に消えるのを待つことではありません。双方の利益を高い水準で満たす解決策を探ることです。妥協は、双方が少しずつ譲ることです。適応は、一方が相手に合わせることです。
この章のまとめ
パワー源泉の問題では、相手が何に依存しているかを読みます。報酬、罰、公式権限、専門性、憧れのどれに当たるかを分類し、主語が正しいかを確認します。報酬や罰の価値を判断するのは、力を受ける側です。
部門パワーの問題では、どの部門がどの資源を握っているかを確認します。強いのは、代替困難な資源を握り、相手から依存されている側です。「AがBからしか資源を得られない」とあれば、Aが強いのではなくBが強いです。
政治的行動の問題では、資源配分、昇進、報酬、組織変革など、利益と不利益の分配があるかを見ます。役割や評価基準が曖昧で、不確実性が高く、公式ルールだけでは決めにくい状況ほど政治的行動が生じやすくなります。政治的行動を、必ず悪いもの、必ず倫理的なもの、と決めつける選択肢は疑います。
コンフリクトの問題では、共同意思決定、限られた資源、目標差、認識差、役割曖昧性を確認します。組織スラックが多いと資源争奪は和らぎます。政治的交渉は対立を管理する方法にはなりえますが、必ずしも原因そのものを消すわけではありません。
5類型の問題では、自己の利益をどれだけ主張しているか、相手の利益をどれだけ許容しているかを見ます。双方が満足なら協調、双方が譲歩なら妥協、自分が譲るなら適応、自分を通すなら競争、先送り・距離を置くなら回避です。
一次試験過去問での出方
2012年第15問設問1では、フレンチとレイヴンのパワー源泉が問われました。同一化、専門力、強制力、正当権力、報酬力の定義を区別する問題です。
2012年第15問設問2では、政治的行動が、不確実性が高く目標の優先順位に不一致がある場合の合意形成メカニズムとして問われました。
2018年第17問と2023年度第2回第15問では、リーダーのパワー源泉が問われました。同一視力を単なる同じ資質と読む誤り、報酬力で報酬に価値を見いだす主体をリーダーにする誤りが典型です。
2019年第15問、2021年第19問、2021年第20問では、コンフリクトの発生条件、組織スラック、部門パワーの源泉が問われました。共同意思決定、限られた資源への依存、代替困難な資源を握る側のパワーが中心です。
2022年第17問では、政治的行動が生じやすい条件が問われました。役割の曖昧さ、組織変革、昇進機会の希少性、経営幹部層の行動、ゼロサム配分の読み方がポイントです。
2024年第20問では、コンフリクト対処の5類型が問われました。回避、競争、協調、妥協、適応を、自己主張と協力性の2軸で判定する問題です。