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NARITAI

企業経営理論

標準

雇用管理(採用、配置、人事異動、資格制度)

採用、配置、人事異動、資格制度を扱う。

この章で覚えておきたいこと

  • 雇用管理は、人材を「採る」「配置する」「動かす」「格付けする」仕組みです。採用、配置、人事異動、資格制度を一連の人材活用として押さえる。
  • 採用では、良い面だけを強調する広報と、現実をありのまま伝えるRJPを区別する。RJPは期待を過度に高める手法ではなく、ミスマッチを減らす手法です。
  • 配置転換や転勤は、職種・勤務地を限定する合意がない場合、企業の人事権として比較的広く認められやすい。ただし、不当な目的や労働者への著しい不利益があれば制限される。
  • 出向は、出向元との雇用関係を残したまま出向先で働く在籍出向が基本です。転籍は、元の雇用関係を終了し、別会社との雇用関係へ移るため、原則として労働者の同意が必要です。
  • 職能資格制度は、職務そのものではなく、従業員の職務遂行能力を基準に社内等級を決める制度です。上位ポストが空いていなくても、能力が認められれば昇格しうる点が重要です。

出題パターン

この論点は、用語の暗記よりも「選択肢の断定が強すぎないか」を判定する形で出る。

採用では、RJPの効果が問われる。RJPは、応募者に不利な情報も含めて現実を伝えることで、自己選抜、入社後の初期適応、早期離職の抑制を狙う。したがって、「応募者の期待や意欲を引き上げる」という選択肢は、RJPではなく売り込み型の採用広報に近い。

配置・異動では、配置転換、転勤、出向、転籍の違いが問われる。特に、転勤命令は「業務上の必要性があるか」「不当な動機がないか」「労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がないか」で判断する。余人をもって代え難いほどの必要性までは通常求められない。

非正社員の活用では、質的基幹化が問われる。質的基幹化とは、非正社員が定型的・補助的業務だけでなく、正社員に近い基幹的業務を担うようになることです。ただし、正社員と同じ包括的役割を完全に担えるようになった、とまで断定すると不適切になりやすい。

資格制度では、職能資格制度の特徴が問われる。職能資格制度は「人基準」であり、「職務基準」ではありません。社外資格体系に準拠する制度でも、空きポストだけで等級が決まる制度でもない。

基本知識

採用管理は、組織が必要とする人材を確保する活動です。採用活動では、募集、選抜、内定、入社後の定着までを一体で見る。試験上は、採用時に応募者へどのような情報を伝えるかが問われやすい。

RJPは、Realistic Job Previewの略で、仕事や職場の魅力だけでなく、厳しさ、負担、制約なども含めて現実的に伝える考え方です。効果は主に3つある。第一に、自分に合わないと判断した応募者が応募を辞退する自己選抜。第二に、入社後のギャップを小さくする初期適応。第三に、期待外れによる早期離職の抑制です。

配置管理は、従業員をどの職務・部署・勤務地に配置するかを決める活動です。適正配置、能力発揮、能力開発、組織運営の円滑化を目的とする。配置転換は、同一企業内で職務や勤務地を変更する人事異動です。職種限定や勤務地限定の合意がない場合、企業は一定範囲で配置転換を命じることができる。

人事異動には、配置転換、転勤、出向、転籍などがある。転勤は勤務地変更を伴う配置転換です。出向は、出向元に在籍したまま出向先で勤務する形が代表的であり、勤務に関する規律は出向先、解雇・退職など身分に関する事項は出向元が問題になりやすい。転籍は雇用主が変わるため、労働者の同意が必要とされる。

非正社員の質的基幹化は、契約社員、パートタイマー、派遣労働者などが、単純補助業務だけでなく、責任ある業務を担うようになる現象です。企業にとっては人材活用の幅が広がる一方、賃金格差への不満、職場の一体感低下、機密管理、正社員育成の難しさといった課題が生じやすい。

資格制度は、従業員を一定の基準で格付けし、評価・昇格・処遇と結びつける仕組みです。代表例です職能資格制度は、職務遂行能力を基準に等級を決める。職務そのものの価値で等級を決める職務等級制度とは区別する。日本企業では、職能資格制度がゼネラリスト育成や長期雇用と結びつきやすかった。

判断手順

  1. まず、論点が採用、配置・異動、非正社員活用、資格制度のどれかを判定する。

  2. 採用の問題なら、RJPかどうかを見る。RJPは「現実を伝える」「期待を調整する」「自己選抜を促す」「離職を減らす」がキーワードです。「好感度を上げる」「期待や意欲を引き上げる」と出たら疑う。

  3. 配置・異動の問題なら、配置転換、出向、転籍を分ける。配置転換は同一企業内の異動、出向は雇用関係を残したまま他社で勤務、転籍は雇用主が変わる異動です。

  4. 転勤命令の有効性は、企業側の必要性と労働者側の不利益を比べる。業務上の必要性は広く認められやすいが、嫌がらせ目的や著しい生活上の不利益があれば無効になりうる。

  5. 非正社員の問題なら、質的基幹化の「効果」と「課題」を分ける。基幹業務を担うようになること自体は進んでいるが、正社員と同じ役割を完全に担えるとまではいえない。

  6. 資格制度の問題なら、何を基準に格付けする制度かを見る。職能資格制度は人の能力基準であり、職務基準や社外資格基準ではありません。

誤答しやすいポイント

  • RJPを、応募者の期待や動機を高める採用宣伝と混同しない。RJPは、入社前の期待を現実的に調整するための情報提供です。
  • 「職種限定の合意がないのに、特殊技能職だから必ず配置転換できない」とする選択肢は強すぎる。職種限定合意の有無が重要です。
  • 転勤命令に「余人をもって代え難い高度な必要性」が必要だとする選択肢は疑う。通常は、そこまで高い必要性までは求められない。
  • 出向と転籍を混同しない。出向は元の会社との関係が残る。転籍は雇用主が変わるため、本人同意が重要になる。
  • 事業譲渡に伴う転籍でも、転籍拒否だけを理由に当然に解雇できるわけではありません。解雇には別途、合理性と相当性が問われる。
  • 職能資格制度を、社外資格制度や職務等級制度と混同しない。職能資格制度は社内で定義した職務遂行能力に基づく人基準の格付けです。
  • 職能資格制度は、年功と結びつきやすい運用になり得るが、制度原理として年数だけで自動昇格する制度ではありません。

この章のまとめ

  • RJPは期待を上げるためではなく、現実を伝えてミスマッチを減らすための採用手法です。
  • 配置転換・転勤は広く認められやすいが、職種・勤務地限定合意、不当目的、著しい不利益があれば制限される。
  • 出向は元の雇用関係が残り、転籍は雇用主が変わるため本人同意が重要です。
  • 非正社員の質的基幹化は、基幹業務の担当拡大と、その裏側にある雇用管理上の課題をセットで押さえる。
  • 職能資格制度は「職務」ではなく「人の能力」を基準にした社内等級制度です。

一次試験過去問での出方

2012年第22問では、配置転換、出向、転籍、転勤命令がまとめて問われた。正解判断の中心は、転勤命令の必要性を狭く見すぎていないかです。企業の適正配置、業務能率向上、能力開発などは業務上の必要性になり得るため、「企業の都合だけでは転勤命令を課せない」と一律に切る選択肢は不適切であった。

2016年第19問では、RJPの効果が問われた。自己選抜、初期適応、離職抑制はRJPの効果です。一方、入社前の期待ややる気を引き上げることは、RJPの中心効果ではありません。

2017年第23問では、非正社員の質的基幹化が問われた。質的基幹化により、機密管理、職場の一体感、賃金格差、正社員育成に課題が生じやすい。非正社員が正社員と同じ包括的役割を担えるようになった、と肯定的に断定する選択肢は不適切であった。

2019年第21問では、職能資格制度が問われた。職能資格制度は、人の職務遂行能力を基準に社内等級を決めるため、上位ポストがなくても能力向上が認められれば等級を上げられる。社外資格体系への準拠、職種をまたぐ異動に不向き、経験年数だけで能力が上がる、という選択肢は切る。