企業経営理論
標準意思決定(限定された合理性、認知バイアス、ストレス)
限定合理性、認知バイアス、ストレスを扱う。
この章で覚えておきたいこと
この章では、組織の中の個人がどのように意思決定し、どのような認知の偏りを受け、ストレスにどう反応するかを扱います。一次試験では、説明文と概念名の対応を問う問題が中心です。
- 限定された合理性は、情報、時間、認知能力の制約により、完全合理的な最適化ができないという考え方です。
- 満足化原理は、最適案を探し続けず、最低限の基準を満たす案で探索を終える意思決定です。
- ヒューリスティックは、複雑な判断を素早く行うための経験則です。便利ですが、認知バイアスを生みやすくなります。
- 代表性ヒューリスティックは「典型像」、利用可能性ヒューリスティックは「思い出しやすさ」、アンカリング・バイアスは「最初の情報への固着」で見分けます。
- ストレス論では、ストレッサー、ストレイン、モデレーター、コーピングを原因、反応、調整要因、対処に分けます。
基本知識
限定された合理性と満足化原理
完全合理性は、意思決定者がすべての代替案を知り、それぞれの結果を完全に予測し、一貫した効用関数で順位づけ、最適案を選べることを前提にします。しかし、現実の人間や組織は、情報も時間も認知能力も限られています。
サイモンは、この現実的な意思決定を限定された合理性で説明しました。これは「合理性がない」という意味ではありません。制約の中で、できる範囲の探索と判断を行うという意味です。
完全合理性では、すべての代替案と結果を把握し、最適化を目指します。限定された合理性では、限られた代替案だけを探索し、不完全な知識のもとで、最低限の満足基準を満たす案を選びます。この考え方が満足化原理です。
反復的な業務では、過去の経験から「この場合はこうする」という行動プログラムが蓄積されます。行動プログラムは、限定された合理性のもとで探索を節約する仕組みです。
ヒューリスティックと認知バイアス
ヒューリスティックは、複雑な判断を簡略化するための経験則です。判断は速くなりますが、特定方向に偏ることがあります。その偏りが認知バイアスです。
代表的な見分け方は次のとおりです。
- 代表性ヒューリスティック: 典型像やカテゴリーへの似方で判断します。ステレオタイプ、典型的なイメージ、カテゴリーらしさが手掛かりです。
- 利用可能性ヒューリスティック: 思い出しやすい事例を重く見ます。最近の報道や身近な出来事から発生可能性を高く見積もる場合です。
- アンカリング・バイアス: 第一印象や最初の数値に引きずられ、その後の情報で十分に修正できない偏りです。
- 確証バイアス: 自分の仮説を支持する情報を集め、矛盾する情報を軽視する偏りです。
- 後知恵バイアス: 結果を知った後で「最初から予測できていた」と思い込む偏りです。
- 感情ヒューリスティック: 好き嫌い、快・不快、気分に引きずられてリスクや価値を判断することです。
- 自己奉仕バイアス: 成功を自分の能力や努力に帰し、失敗を外部要因に帰しやすい偏りです。
名称対応問題では、説明文の中から「典型像」「思い出しやすさ」「最初の情報」「自説支持」「結果判明後」「感情」「自己正当化」のどれが中心かを探します。
組織ストレスの基本構造
組織ストレスは、原因、反応、関係を調整する要因、対処に分けると整理しやすくなります。
- ストレッサー: ストレスを発生させる原因です。役割曖昧性、役割葛藤、過重な仕事、対人葛藤などが該当します。
- ストレイン: ストレッサーの結果として生じる反応です。不安や疲労だけでなく、欠勤、遅刻、怠業、業績低下のような行動的反応も含みます。
- モデレーター: ストレッサーとストレインの関係を強めたり弱めたりする要因です。個人特性、ソーシャルサポート、過去経験などが該当します。
- コーピング: ストレスへの対処です。原因に働きかける場合と、感情や受け止め方に働きかける場合があります。
役割曖昧性は、周囲から何を期待されているかが不明確な状態です。自由度が高いからストレスが減る、と判断してはいけません。欠勤や遅刻も、行動面に現れるストレインとして扱える点に注意します。
コーピングとストレス介入
コーピングは、問題焦点型と情動焦点型を逆にしないことが重要です。
問題焦点型コーピングは、ストレッサーそのものを除去・軽減しようとする対処です。業務量を調整する、役割を明確にする、仕事の進め方を変える、といった行動が該当します。
情動焦点型コーピングは、感情や受け止め方を調整する対処です。気持ちを落ち着ける、相談する、捉え方を変える、といった行動が該当します。
組織ストレスへの介入では、従業員が介入を公正なものとして認識すること、介入案の策定や実施に参加できること、現場管理職が円滑なコミュニケーションを支えることが効果を高めます。上司や同僚のソーシャルサポートも、ストレスの影響を弱める要因です。
過去問で使う判断軸
意思決定問題では、「全代替案」「全結果」「一貫した効用関数」「最適化」が出たら完全合理性側の語として読みます。「限られた代替案」「不完全な知識」「満足基準」「行動プログラム」が出たら、限定された合理性に寄せて読みます。
バイアス問題では、説明文の手掛かりを一語で置き換えます。典型像なら代表性、記憶に浮かびやすいなら利用可能性、最初の情報ならアンカリング、自説支持なら確証、結果を知った後なら後知恵です。
ストレス問題では、まず原因か反応かを分けます。原因ならストレッサー、反応ならストレインです。関係を強めたり弱めたりする要因ならモデレーター、対処行動ならコーピングと判定します。
この章のまとめ
このトピックでは、概念名を丸暗記するよりも、選択肢の説明が何を手掛かりにしているかを読むことが重要です。
迷ったときは、次の順で確認します。
- 完全合理性と限定された合理性を分けます。
- 満足化原理を、最適化ではなく「基準を満たした案で探索終了」と判断します。
- 認知バイアスは、典型像、思い出しやすさ、最初の情報、自説支持、結果判明後、感情、自己正当化で見分けます。
- 組織ストレスは、原因、反応、調整要因、対処に分けます。
- コーピングは、原因に働きかけるなら問題焦点型、感情に働きかけるなら情動焦点型です。
ひっかけでは、限定された合理性を「合理性がない」と読む選択肢、満足化原理を最適化とする選択肢、代表性と利用可能性を入れ替える選択肢、問題焦点型と情動焦点型を逆にする選択肢に注意します。
一次試験過去問での出方
2012年度第16問では、組織ストレスへの介入が問われました。従業員の公正認知と、現場管理職による円滑なコミュニケーション支援が有効とされました。
2015年度第13問では、ヒューリスティックとバイアスの名称対応が問われました。代表性ヒューリスティックは、対象が典型的なイメージに合うかで判断する点が正解根拠でした。
2023年度第2回第14問では、アンカリング・バイアス、確証バイアス、後知恵バイアス、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティックの切り分けが問われました。
2023年度第2回第16問では、ストレッサー、ストレイン、モデレーター、コーピングの基本概念が問われました。問題焦点型と情動焦点型の逆転、役割曖昧性の扱いに注意が必要です。
2024年度第16問では、制約された合理性の下での意思決定が問われました。限られた代替案の探索、不完全な結果知識、満足化原理、行動プログラムの利用を押さえます。