N
NARITAI

企業経営理論

補助

事業部制組織

事業部制の利益責任と重複コストを整理する。

この章で覚えておきたいこと

  • 事業部制組織は、製品、地域、顧客、事業領域などを基準に組織を分け、各事業部に事業運営上の権限と利益責任を持たせる組織形態です。
  • 各事業部は独立採算のプロフィットセンターとして管理されやすく、事業ごとの市場変化に素早く対応しやすくなります。
  • トップマネジメントは日常的な業務的意思決定から離れ、全社戦略、資源配分、事業部間調整へ重点を置きやすくなります。
  • 弱点は、事業部ごとに営業、製造、開発などの機能が重複し、規模の経済や専門性の集中を得にくくなることです。
  • 事業部の自律性が強いほど、事業部間の連携不足、セクショナリズム、部分最適が起こりやすくなります。
  • 試験では、事業部制を「全社最適が自然に達成される」「事業横断シナジーが容易に生まれる」とする選択肢を疑います。

基本知識

事業部制組織の基本構造

事業部制組織は、企業が複数の製品、市場、地域、顧客層を持つようになったときに採用されやすい組織形態です。職能ごとに全社をまとめるのではなく、事業ごとに必要な機能を持たせ、事業部長が担当事業の売上、費用、利益に責任を負います。

たとえば、食品事業部、化粧品事業部、海外事業部のように分けると、それぞれの市場に近いところで意思決定できます。トップがすべての製品や地域の細かな判断を抱え込むより、事業部に権限を委譲した方が、環境変化へ対応しやすくなります。

このため、事業部長は単なる部門管理者ではなく、担当事業の経営者に近い役割を担います。事業部制は、次世代経営者の育成にもつながりやすい組織形態です。

プロフィットセンターと利益責任

事業部制の中心は、各事業部をプロフィットセンターとして扱う点です。売上だけでなく費用や利益も事業部単位で把握するため、業績責任が明確になります。

利益責任が明確になると、事業部は自分の市場、顧客、競争相手を見ながら、自律的に製品開発、販売政策、コスト管理を進めやすくなります。2008年 第11問 設問2でも、事業部が独立採算で管理される点が正答判断の中心でした。

ただし、利益責任が明確になることと、全社最適が自然に実現することは別です。事業部が自部門の利益を優先しすぎると、複数事業部にまたがる製品開発、技術共有、顧客情報共有が後回しになることがあります。

事業部制の長所

事業部制組織の長所は、事業単位での自律性と責任の明確さです。

  • 迅速な意思決定: 市場や顧客に近い事業部が判断できるため、トップへの確認待ちを減らしやすいです。
  • 利益責任の明確化: どの事業が利益を生み、どの事業が課題を抱えているかを把握しやすくなります。
  • 多角化への対応: 複数の製品・市場分野を持つ企業では、事業ごとに戦略を変えやすくなります。
  • 経営人材の育成: 事業部長が売上、費用、利益を見ながら判断するため、全体管理の経験を積みやすくなります。
  • トップの負担軽減: 業務的意思決定を事業部に委譲し、トップは全社戦略や資源配分へ集中しやすくなります。

2016年 第12問では、事業部制によりトップが日常の業務的意思決定から解放される方向性が問われました。ただし、事業部制の説明としては、戦略的意思決定、管理的意思決定、業務的意思決定の切り分けを正確に読む必要があります。

事業部制の短所

事業部制の短所は、各事業部が自律的に動くことの裏返しです。

  • 機能の重複: 事業部ごとに営業、製造、開発、人事などを持つため、全社で見ると重複が増えます。
  • 規模の経済の低下: 同じ機能を全社で集約しにくく、生産や営業の規模の経済を追求しにくくなります。
  • 専門性の分散: 職能別組織に比べると、同一機能の人材やノウハウを一か所に集めにくくなります。
  • 事業部間連携の弱さ: 各事業部が自部門の利益を優先し、横断的な製品開発や顧客対応が遅れやすくなります。
  • 部分最適: 全社戦略よりも事業部単位の業績を優先する判断が起こりやすくなります。

2023年第2回 第11問では、事業部制は利益責任により効率化しやすい一方で、機能の重複により規模の経済性を追求しにくいことが問われました。事業部制の長所と短所を片方だけで覚えると、選択肢のひっかけに弱くなります。

職能部門組織との比較

事業部制組織と職能部門組織は、一次試験で最もよく対比されます。

事業部制組織

  • 製品、地域、顧客、事業などを基準に分けます。
  • 事業部へ権限を委譲しやすいです。
  • 事業ごとの迅速な意思決定、利益責任、経営人材の育成に向きます。
  • 機能重複、部分最適、事業部間連携の弱さが課題になります。

職能部門組織

  • 製造、営業、研究開発、人事、経理などの機能を基準に分けます。
  • 全社的な調整がトップへ集中しやすいです。
  • 専門性、ノウハウ蓄積、規模の経済に向きます。
  • 部門間調整、部門間コンフリクト、トップの情報処理負担が課題になります。

事業部制に「機能部門の技術的専門性を高めやすい」「生産や営業の規模の経済性を追求しやすい」と書かれていたら注意します。これらは職能部門組織に寄せて判断する内容です。

本社の役割と事業部間調整

事業部制では、事業運営を事業部へ任せますが、本社が不要になるわけではありません。本社は、全社戦略、資源配分、事業ポートフォリオの見直し、事業部間の調整、共通機能の設計を担います。

特に重要なのは、事業部間の壁を放置しないことです。各事業部が独立採算を追求すると、横断的な研究開発、共通顧客への提案、ブランド活用、技術共有が弱くなることがあります。本社は、事業部の自律性を尊重しながら、全社として必要なシナジーを設計します。

過去問では、「本社と事業部の間に擬似的な資本市場が存在する」といった表現が出ることがあります。この見方自体はあり得ますが、予算配分が一般に限界利益率だけで決まるわけではありません。戦略的重要性、将来性、リスク、全社方針も関係します。

この章のまとめ

事業部制組織は、事業単位で分け、各事業部に利益責任を持たせる組織です。長所は、迅速な意思決定、環境適応、利益責任の明確化、経営人材の育成です。

一方で、事業部制は全社最適を自動的に実現する仕組みではありません。機能重複、規模の経済の低下、専門性の分散、事業部間連携の弱さ、セクショナリズムが起こりやすくなります。

問題を解くときは、次の順に確認します。

  1. 「事業部ごとの利益責任」「独立採算」「分権化」は事業部制の長所として読む。
  2. 「機能重複」「規模の経済を得にくい」「部分最適」は事業部制の短所として読む。
  3. 「専門性」「規模の経済」は職能部門組織に寄せて判断する。
  4. 「全社最適が容易」「事業横断シナジーが自然に生まれる」という強い表現は疑う。
  5. 本社は、事業部を放任するのではなく、資源配分と事業部間調整を担うと考える。

一次試験過去問での出方

2008年 第11問 設問2では、事業部制組織について、独立採算のプロフィットセンターとして管理される結果、複数事業部にまたがる統合的な製品開発などが遅れがちになる、という記述が正解になりました。

2023年第2回 第11問では、事業部制組織と機能別組織の比較が問われました。事業部制は事業ごとの自律的運営に向く一方で、機能の重複や部分最適化が起こりやすい、という対比が中心です。

2016年 第12問では、機能別組織、事業部制組織、マトリックス組織の横断比較が出題されました。事業部制はトップを業務的意思決定から解放しやすい一方、重複コストや全社的な規模の経済の弱さを抱える点を確認しておきます。