企業経営理論
補助職能部門組織
職能部門組織の専門性と部門間調整を扱う。
この章で覚えておきたいこと
- 職能部門組織は、製造、営業、研究開発、人事、経理など、職能ごとに部門を編成する組織形態です。
- 最大の長所は、同じ専門機能を一つにまとめることで、専門性、ノウハウ蓄積、規模の経済を得やすい点です。
- 弱点は、部門ごとの目標が強くなり、部門間調整や部門間コンフリクトが起こりやすい点です。
- 全社的な資源配分や部門間調整は、トップマネジメントに集中しやすくなります。
- 部門長は専門機能の管理者として育ちやすい一方で、全社を横断して見る経験を得にくく、次世代トップマネジメントの育成には不利になりやすいです。
- 試験では、職能部門組織を「高度に分権化している」「部門間コンフリクトが少ない」「規模の経済が犠牲になる」とする選択肢を疑います。
基本知識
職能部門組織の基本構造
職能部門組織は、仕事の種類を基準に部門を分ける組織です。代表例は、製造部、営業部、購買部、研究開発部、人事部、経理部です。同じ専門活動を一つの部門にまとめることで、専門性を高め、業務を効率化します。
単一製品や単一市場を中心に事業を行う企業では、職能ごとに活動をまとめた方が、重複を避けやすく、全社として効率的に動きやすくなります。企業規模が大きくても、事業の種類が比較的少なく、職能ごとの専門性を重視する場合には有効です。
専門化と規模の経済
職能部門組織の強みは、専門化の利益です。同じ職能を担当する人材を一つの部門に集めるため、知識、技能、ノウハウ、設備、情報が蓄積しやすくなります。
たとえば、製造部門であれば、生産技術、品質管理、設備運用の知識を集めやすくなります。営業部門であれば、販売ノウハウや顧客対応の経験を共有しやすくなります。
また、同じ機能を全社でまとめるため、重複が少なくなります。設備、人材、情報システムをまとめて利用できるので、規模の経済も発揮しやすくなります。2008年 第11問 設問1では、「専門化する分、規模の経済が犠牲になる」という選択肢が誤りとして出されました。
集権化とトップの負担
職能部門組織では、各部門が専門機能を担当しますが、事業全体の損益責任を持つわけではありません。そのため、製造、営業、研究開発、人事などをどう調整するかは、トップマネジメントに集まりやすくなります。
この点で、職能部門組織は集権的になりやすい組織です。部門ごとの専門判断は部門長が行いますが、全社的な優先順位、資源配分、部門間の対立処理はトップが担うことが多くなります。
2023年第2回 第11問では、機能別組織では事業部制組織に比べて経営者に意思決定の負担が集中しやすいことが問われました。部門横断的なプロジェクト・マネジャーを置くことで、部門間調整を補うこともあります。
部門間調整とコンフリクト
職能部門組織では、各部門の目標が異なります。製造部門は効率や品質を重視し、営業部門は売上や顧客対応を重視し、研究開発部門は新規性や技術的完成度を重視します。
この違いは、専門性の源泉である一方、部門間コンフリクトの原因にもなります。新製品開発、納期変更、品質改善、コスト削減のような横断的課題では、部門ごとの優先順位がぶつかりやすくなります。
したがって、職能部門組織は「部門が異なる機能を担当しているから対立が少ない」とは言えません。むしろ、機能が異なるからこそ、調整不足や対立が起こりやすいと考えます。
次世代トップマネジメント育成の弱さ
2008年 第11問 設問1の正解は、職能部門組織では、部門長が専門領域には強くなる一方、全社的なコントロールを担う次世代トップマネジメントを養成しにくい、という内容でした。
職能部門の部門長は、自部門の技術、営業、人事、経理などには詳しくなります。しかし、製品、市場、顧客、利益責任を統合して見る経験は得にくくなります。
この点は、事業部制組織と対比して押さえます。事業部長は担当事業の売上、費用、利益を見ながら判断するため、経営者に近い経験を積みやすいです。職能部門長は専門管理者としては育ちやすいものの、全社経営者としての経験は不足しやすくなります。
事業部制組織との比較
職能部門組織と事業部制組織は、長所と短所が入れ替わる関係で出題されます。
職能部門組織
- 職能を基準に部門を分けます。
- 専門性、ノウハウ蓄積、規模の経済に強いです。
- トップへの集権化が進みやすいです。
- 部門間調整や部門間コンフリクトが課題になります。
- 次世代トップマネジメントの育成には不利になりやすいです。
事業部制組織
- 製品、地域、顧客、事業を基準に部門を分けます。
- 事業ごとの迅速な意思決定、利益責任、経営人材育成に強いです。
- 権限が事業部へ分散しやすいです。
- 機能重複、規模の経済の低下、部分最適が課題になります。
機能別組織に「プロフィットセンター」「事業部ごとの利益責任」「高度な分権化」と書かれていたら注意します。これらは主に事業部制組織の特徴です。
マトリックス組織との違い
職能部門組織は、職能という一つの軸で組織を分けます。これに対して、マトリックス組織は、職能軸と製品・事業・プロジェクト軸など、複数の軸を同時に持ちます。
職能部門組織では命令系統が比較的単純ですが、横断的な調整は弱くなりやすいです。マトリックス組織では横断調整を組織の中に組み込みますが、二重命令系統によるコンフリクトやあいまいさが生じやすくなります。
選択肢に「二重命令系統」「機能マネジャーとプロダクトマネジャー」「職能軸と事業軸」が出た場合は、職能部門組織ではなくマトリックス組織の論点として切り分けます。
この章のまとめ
職能部門組織は、職能ごとの専門化で効率性を高める組織です。専門性、ノウハウ蓄積、規模の経済を得やすいことが長所です。
一方で、部門ごとの目標が強くなり、部門間調整や部門間コンフリクトが起こりやすくなります。全社的な調整はトップマネジメントに集中しやすく、部門長は専門管理者としては育っても、全社経営者としての経験を得にくくなります。
問題を解くときは、次の順に確認します。
- 「製造、営業、人事、経理」など職能ごとの編成かを確認する。
- 「専門性」「規模の経済」「ノウハウ蓄積」は職能部門組織の長所として読む。
- 「部門間調整の困難」「部門間コンフリクト」「トップへの調整集中」は短所として読む。
- 「分権化」「利益責任」「プロフィットセンター」は事業部制組織に寄せて判断する。
- 「二重命令系統」「職能軸と製品軸」はマトリックス組織に寄せて判断する。
一次試験過去問での出方
2008年 第11問 設問1では、機能別部門組織に関する最も適切な記述を選ぶ問題として出題されました。正解の軸は、職能ごとの専門化により部門長が専門領域には強くなる一方で、全社的なコントロールを担う次世代トップマネジメントを育成しにくい、という点です。
同じ問題では、職能部門組織を「高度に分権化している」「部門間コンフリクトが発生しにくい」「規模の経済が犠牲になる」とする記述が誤答として置かれていました。
2023年第2回 第11問では、機能別組織では意思決定や部門間調整が経営者に集中しやすい一方、部門横断的なプロジェクト・マネジャーを置くことで調整を補える、という形で出題されました。
2016年 第12問では、機能別組織は部門間で緊密な調整が必要な場合には向きにくい、という判断が必要でした。職能部門組織は専門化に強いが、横断調整には弱いと押さえます。